「え?アルくんに会ったの?」
庭園でアルガルドと別れた後、離宮でアニスフィアと合流したクルーガーが庭園での出来事を話したところ、アニスフィアは少なからず驚いていた。
「えぇ。とはいえ、他の貴族の干渉を考えて長い間は話しませんでしたが」
「あぁ、たしかにそうかもね。でも、そっかぁ・・・」
アルガルドのことを話されたアニスフィアは、複雑な表情を浮かべながら虚空を見上げた。
「・・・失礼ながら、アルガルド様とは仲がよろしくないので?」
「う~ん・・・まぁ、アルくんからは嫌われてるだろうね。私の方は・・・なんて言えばいいんだろ。嫌いじゃないけど、そもそも最近は関わることすらあまりないし」
「・・・他貴族の干渉、ですか」
「実際は、もう少し複雑な事情がありますが、大方その認識で間違いありません」
イリアがお茶を淹れながら捕捉を入れる。
つまり、単純にアニスフィアが魔法を使えない僻みによるものではない、ということだ。
クルーガーはどういうことか詳しく尋ねようとしたが、やめた。
アニスフィアの複雑そうな表情を見る限り、碌でもないことなのは間違いない。
そして、碌でもないことというのは、往々にしてどこまでも底辺が沈んでいくものでもある。
「・・・わかりました。これ以上のことは聞かないでおきましょう」
「ごめんね?」
「いえ、アニス様に謝っていただくようなことではありません。代わりと言ってはなんですが、他のことを聞いても?」
「うん、いいよ!」
話題転換が上手くいったのか、アニスフィアの表情に明るさが戻った。陰りを完全に取り除いたわけではないが、気分転換にはちょうどよかったようだ。
「では・・・アニス様は、魔学を用いて何を成したいのですか?」
「何を?」
「えぇ。私が見た限り、魔学を用いれば
「あー、そういえばあなたには言ったことがなかったね。うん、いいよ。隠してることでもないしね」
そう言って、アニスフィアは椅子の上に立ち上がった。
「私はね、魔法使いになりたいんだ!」
「魔法使い、ですか」
「そ!困ってる人を笑顔にする、そんな魔法使い!だって、魔法は人々を笑顔にすることができるって信じているからね!」
「なるほど・・・そうでございましたか」
この国における魔法と言えば、ほとんどが国防や軍事力に関わるものだ。パレッティア王国は立地の関係で魔物の被害が多くなりやすいため、当然と言える。
だからこそ、アニスフィアは魔法を“力”ではない別の形で使って、人々を笑顔にしたいと考えていた。
「それは、素晴らしいことですね」
「そう?」
「えぇ。普段の奇行に目をつむれば、ですが」
「そっ、それはそれだから!未来の成功のために必要なことだから!」
果たして、本当に成功につながった奇行は、いったいどれだけあるのだろうか。
それはさておき、
「わかりました。であれば、不肖クルーガー、アニスフィア様のためにこの身を捧げましょう」
そう言って、クルーガーは椅子から降りてアニスフィアの前に跪いた。
「ちょっ、別にいいってそんな畏まらなくても!」
「いえ、私自身がそうすべきと、そう判断したまでです」
「わかった、わかったから!これからも今までと変わらずに接してくれると嬉しいな」
「えぇ、そのようにいたしましょう」
笑みを浮かべ、クルーガーは再び椅子に腰かけ、アニスフィアも椅子から降りて座り直した。
「それで、何か他にも作ろうとしているものはあるのですか?」
「まぁ、作りたいものはいろいろあるし、これからも増えてくと思うけど、当面の目標は空を飛ぶことかな」
「空を、ですか。それは、単純な跳躍ということはないのですよね?」
「うん!鳥みたい、かどうかはともかく、自由に飛びたいなって」
「・・・まさかと思いますが、初めて会ったときのあれも?」
「うん。結局失敗しちゃったけどね」
たはは、と笑いながら話すアニスフィアに、クルーガーは心の底から愕然とした。
つまり、アニスフィアは割と高頻度で最低でも怪我、最悪死にかねない実験を繰り返しているらしい。
「・・・なんというか、改めて心からイリアさんの苦労が理解できた気がします」
「恐縮です」
「ちょっと!どういうこと!?」
「言葉通りの意味です」
「うぐっ・・・!」
にべもなくあしらわれるアニスフィアは思わず唸りながらも、少し大げさに顔をそむけた。
「ふんっ、いいもんね!そういうこと言うなら、クルーガーにはせっかく用意したプレゼントを渡さないから!」
「いえ、私だけでなく陛下の心労にも繋がっているので、出来る限り改善してください」
「うぐぐっ・・・いいもん、その辺りのことはクルーガーに任せるから!」
「えぇ、そのようにいたしましょう。それで、プレゼントというのは?」
苦笑を浮かべながら、クルーガーはアニスフィアが言及したプレゼントについて尋ねる。
「えーっとね。はい、どうぞ!」
そう言ってアニスフィアが渡したのは、言ってしまえば剣の柄だった。刃はついていないわけではないが、柄に対して極端に短いためナイフとして扱うのも難しいだろう。
「これは・・・?」
「マナ・ブレイドって言ってね、魔力で刀身を生み出すの。数少ない父上からも絶賛された発明品だね。私は魔剣とも呼んでる」
アニスフィア曰く、通常の剣と比べて重量は柄の部分のみで、刀身の形状や重みも使用者の好みで調節可能と、かなりの汎用性を誇っている。
鍔競り合いに向かないのと物理衝撃に弱いという欠点はあるものの、魔力でできた刀身という性質上、魔法を容易に斬り払えることもできるという。
余談だが、盾バージョンのマナ・シールドもあるらしい。
「もしかしたらクルーガーには必要なかったかもしれないけど、護身用に持っておいて損はないかなって」
「いえ、自分も嗜み程度なら剣は扱えるので、ありがたいです」
というより、クルーガー自身魔法使いの最大の弱点である発動までの隙を補うために、我流だがそれなり以上に剣を扱えるようにしている。
とはいえ、杖を持っている関係で用意するとしてもナイフか片手剣だったため、マナブレイドはかなり助かるプレゼントだった。
「さて、ではプレゼントもいただいたことですし、その分も働かなければなりませんね。それで、次は何を作られるのですか?」
「んーとねぇ、まだ決まってないけど、せっかくだし飛行用魔道具について話し合おっか!クルーガーは風魔法が得意だし、参考になる意見も出てくるはず!」
「わかりました。ではまず安全装置から考えましょうか。試験飛行のたびに死にかけられても困りますから」
「う˝っ・・・そうだよね、すぐに飛べるようになるはずないよね・・・」
あからさまに落ち込むアニスフィアを見て笑みを浮かべながら、クルーガーは頭の中でアイデアをまとめ始めた。
これは、とある旅人が魔法に焦がれる少女に出会い、時にその成長を見届け、時に巻き起こす事件の解決に協力する、そんな物語だ。
とりあえず今後の方針として、しばらくは息抜き程度に短くざっくりと書いていきます。
ガチガチに書いてもいいんですが、さすがに同じ原作がいない今の状況だと気合を入れすぎるほどでもないでしょうし。
それと、前回あと1,2話で時間軸を原作に寄せると言いましたが、もうしばらくは日常回みたいな感じで短めの話を書いていこうかなと思います。
そろそろ大学が忙しくなりそうで、さすがに2つ同時に気合を入れて書くのは難しいと思うので。