「ふぅ・・・思っていたよりも癖が強いな」
ある日の朝、クルーガーは離宮近くの庭でアニスフィアからプレゼントされたマナ・ブレイドを素振りしていた。
最初は便利な武器が手に入ったと喜んでいたが、実際に使ってみると思っていた以上に癖が強かった。
というのも、このマナ・ブレイドは使用者に技術によるが自由度がかなり高い。
刃の形状や強度はもちろん、リーチや重さまで自在に設定することができる。
ただの武器として使うのであれば問題ないが、戦闘中にリーチを変える場合、その場その場で適切な調整をしなければならない。
状況が目まぐるしく変わるような高速戦闘の中でそれを行うのは、クルーガーからしても難しかった。
とはいえ、ある程度感覚は掴めてきたため、あとはどれだけ動作を体に刻み込むかの問題だ。
「ひとまず、リーチと重心の操作に慣れるのを目標にするとして、的はどうしようか・・・訓練場のカカシを借りてもいいが、あまりこれを人前に晒すようなこともしたくない・・・いや、たしか騎士団とは仲は悪くないって話だったな。なら問題ない、か?いや、どうせ刃毀れの心配がいらない魔力刃だ。魔法で土くれや石の的を作った方が早いか」
「あ、クルーガーじゃん。おはよー」
クルーガーがこれからのことを考えていると、後ろからアニスフィアに声をかけられた。
アニスフィアは、動きやすい服装に着替えており、腰にマナ・ブレイドをぶら下げていた。
「おはようございます、アニス様」
「クルーガーも剣の練習?」
「えぇ。ということは、アニス様も・・・?」
「うん。私、これでも冒険者だし」
「・・・あぁ、魔物の素材目当てですか」
「そうだね」
王族が冒険者をやっているという事実に眩暈が起こりそうになったが、無理やり「アニス様だから」で自分を納得させてどうにか立ち直った。
むしろ、その方が自然とすら言えるかもしれない。
「にしても・・・クルーガーの刀身、なんか変な感じだね」
「そうですか?」
「少なくとも、
クルーガーのマナ・ブレイドは、わずかに反りが入った細身の半刃、いわゆる日本刀のような形をしていた。
ちなみに、基本的にパレッティア王国において武器は対魔物がほとんどのため、両刃に幅広のバスターソードが主流になっている。
「そうですね。この形状は刀と言いまして、特に斬れ味に優れています。私は基本的に風使いなので、威力よりも鋭さや斬れ味を優先することが多いのです。なので、それらを優先して形を最適化していくと、私の場合はこのような形状になりました。“斬る”という動作は、“押す”のではなく“引く”という動作が重要になってきますからね。わずかに反りが入っていることで引きやすく、コツさえ掴めば鞘に入れた状態から即座に斬るという動作に繋げることもできます。まぁ、マナ・ブレイドに鞘はありませんが」
「へぇ~」
「ちなみに、私は実際に見たことはありませんが、優れた刀使いが業物の刀を使うと、斬鉄と言って鉄ですらも斬る離れ業も可能らしいですよ」
「そうなんだ!クルーガーはできないの?」
「私の本分は魔法使いですので、剣を極めることはありませんでしたからね。それに、刀自体が遠い異国のもので持ち出すこともできなかったので、武器を持つとしてもナイフくらいでしたし。アイスブレイドで再現しようとしたことはありますが、氷の刃で斬るくらいならアイスランスで突き刺した方が早いですし、なんなら斬れ味はウォーターブレイドの方が上ですし。なので、再現は半ばあきらめていたのですが、マナ・ブレイドのおかげでこうして再現できました」
「よかったじゃん!」
まるで我がことのように喜ぶアニスフィアに、クルーガーは思わず苦笑を浮かべた。
どちらかと言えば、珍しいものを見て気分が上がっているのだろう。
「そうですね・・・では、これで試し切りをしてみましょう。“ロックキャノン”」
そう言って、クルーガーは左手に杖を持ち、土魔法を発動させて石の塊を作り出した。
「これは魔法で生み出しましたが、強度はその辺りの石と大差ありません。ですが・・・」
そう言いながら、クルーガーは右足を軸にコマのように回転しながら、右手に持ったマナ・ブレイドを一閃した。
次の瞬間、岩の塊はズズッと音を立てながらずれていき、僅かに光を反射する切断面を見せながら崩れ落ちた。
「おー!」
「このように、私でもこれくらいなら斬ることができます。魔物になると少し勝手が違ってくるかもしれませんが、このマナ・ブレイドなら余程でない限り問題はないでしょうね」
「それ、私にもできるかな!?」
「それは、どうでしょう・・・できなくはないと思いますが、この国の剣術と私の剣術は根底から違います。それに、私自身、誰かに教えられるほど剣に精通しているわけでもないので、同じことができるかと問われると難しいと言わざるを得ません」
「そっか・・・」
「ですが、剣術にも良し悪しがあります。魔物を相手にすることが多いパレッティア王国であれば、技に頼る私の剣術よりも力で押し切れるこちらの剣術の方が向いています」
「でも、私は魔法から身体強化もできないけど?」
「・・・
「う˝っ!?イリアめ、余計なことを・・・」
そう、魔法が使えないアニスフィアだが、実は例外的に魔法を扱えるようにする方法を見つけていた。
とはいえ、技術としてはまだ未完成で、なおかつ完成しても副作用があるような代物のため、あまり褒められるものではない。
「・・・まぁ、できる限りのことは教えますが、期待はしないでください。それに、場合によっては今まで教わった技術も失う可能性が無くはないので、その辺りのことをよく考えてから相談してください」
「ん~、わかった」
「では、私はこれで」
そう言って、クルーガーは立ち去って行った。
その後ろ姿を見つめながら、アニスフィアはあることを考えていた。
(・・・あれって、日本刀だよね?)
アニスフィアの前世の記憶では詳しいことはわからないが、その形状は日本人であれば知らない方が少ないと言える。
だが、少なくともアニスフィアは、この世界に来てから日本刀に類似した刀剣を一度も見ていない。
(そういえば、東の果てから来てたって言ってたし・・・いやでも、まさか、ね?)
クルーガーに対する疑問がさらに増えるが、だからと言って馬鹿正直に尋ねるというのも憚られ、結局クルーガーの謎はアニスフィアの頭の片隅に追いやられることになった。
もうしばらくは、こんな感じの短い話を投稿していこうかなと。
具体的な目途は立ってませんけど、遅くとも年内には本編に入りたいところ。