最近はウマ娘の方ばかり書いてましたが、いよいよアニメが放送する、ってかしてるということでこっちも再開します。
にしても、オリ主の名前忘れるレベルで放置とかヤバすぎないか・・・?
ある日、いつものようにアニスフィアとクルーガーが講義を兼ねた雑談をしていると、イリアが書簡を持ってきた。
「姫様。陛下からの書簡です」
「父上から?いったいなんだろ・・・」
「説教のための呼び出しでは?」
「う~ん、ないとは言えな・・・うげっ!」
封を開いて手紙に目を通したほぼ一行目で、アニスフィアは心の底から嫌そうな顔をした。だがその表情は嫌悪というよりは恐怖や困惑に近いものだ。
「やはり説教でしたか?」
「いや、たぶん違うと思いたいけど・・・母上が帰ってくるって」
「アニス様のお母上ということは、シルフィーヌ王妃ですか」
シルフィーヌ・メイズ・パレッティア。国王であるオルファンスの妻、つまり王妃であり、アニスフィアとアルガルドの母親だ。
人物像としては基本的に武人であり、かつて内乱が起こった時はオルファンスの横に立って敵を蹴散らしたという武勇伝を持っている。
ちなみに、脳筋ではないものの肉体言語に精通しているため、アニスフィアにスパルタ教育を施している。それだけが理由というわけではないが、そういった事情があってアニスフィアはシルフィーヌのことが苦手だった。
現在では外交官として外遊にいそしんでおり、最近では王城にいる機会は少ないのだが、どうやら戻ってくるらしい。
とはいえ、わざわざ事前に便りを出して知らせるということは・・・
「・・・あぁ、なるほど。アニス様の相談役となった私の話を聞いて、一度話をしておこうと、つまりそういうことですか」
「だねー。クルーガーを名指しで指名してるし、そういうことだろうね」
「まぁ、拒否権なんてあるはずもありませんか・・・」
クルーガーは未だに会ったことはないが、アニスフィア曰く、恐いと言うよりは凄みのある人物で、どちらかと言えばキツい性格の持ち主であるらしい。
そのため、アニスフィアは当然のこと、珍しくクルーガーも気が重くなっていた。
「それで、予定は?」
「1週間後だって。はぁ、いろいろと準備しなきゃ・・・」
「大変ですね。まぁ、私は最悪心構えだけ準備していればいいので」
「うぅ、ずるいぞぉ!」
もちろん、王族と話す以上、相応の格好を心がける必要はあるだろうが、そもそもクルーガーは王族直々の客人であるだけで、身分は平民どころか良く言えば放浪の旅人悪く言えば根無し草である。そのため、貴族のような礼儀を求められるようなことはあまりない。というより、そのような礼儀が必要になる場に呼ばれることがほとんどない。
だからこそ、アニスフィアと共に行動していることも合わさってほとんどの貴族からの心証は地を這っているのだが・・・
「・・・ただ、いくら支度を整えたところで、私のような素性の知れない旅人相手にどう接してくるのか読めないのが怖いところではありますが」
「あ~・・・頑張れ!」
「いっそ清々しいほど丸投げしましたね」
多少は援護を期待したのだが、アニスフィアのこの態度でどうあがいても母親に逆らえないかがよくわかる。
そんなアニスフィアを見て、クルーガーはどうにか悪いことにならないようにしようと決めた。
* * *
報せが届いてから1週間後、ついにその時がやってきた。
クルーガーとアニスフィア、イリアの3人で王城に入り、今回の顔合わせの場でもあるオルファンスの執務室へと向かう。
普通なら応接間を使うなものだが、事のきっかけはオルファンスにあるということで同席させると決めた結果、執務室で行うことになった。
執務室に向かうまでの間、他の貴族から視線を向けられるのはいつも通りだったが、視線を向けられる時間はいつも以上に長かった。
アニスフィアとクルーガーが共に行動しているというのもそうだが、それ以上にシルフィーヌが王城に戻っているというタイミングが大きいだろう。
そういう事情もあって、いつもなら何をしでかしても堂々とするかそもそも見つからないように行動するアニスフィアも、若干居心地が悪そうに体を揺らしながら廊下を進んでいた。
「アニス様、はしたないですよ」
「う~、クルーガーだけで行かせるのってダメ?」
「ダメに決まっているでしょう。仮にもご自身の母君が帰られたのですから、最低でも一度は顔を見せなければいけませんよ」
「・・・もし駄々をこねたら?」
「未来に負債が膨らむ・・・いえ、お話を聞いた限りでは、離宮に突撃してきても不思議ではないでしょう」
「だよね~」
クルーガーに諭されて、アニスフィアはようやく事態を受け入れた。それでも「あ~」「う~」と呻き声を漏らし続けているあたり、受け止めきれてはいないようだが。
そうして重い足をどうにか動かしてなんとか前に進み続け、ようやく執務室の前にたどり着いた。
そして、アニスフィアは扉の前に立ち、そのまま立ち尽くした。
「アニス様?」
「えっと・・・もうちょっと、もうちょっとだけ待って。あとちょっとで心の準備ができるから・・・」
「そうですか」
それだけ言って、クルーガーはドアをノックした。
「ちょっ!?」
『誰だ?』
「クルーガーです。アニスフィア様とイリアもいます」
『そうですか、入りなさい』
入室の許可を出した人物の声は、最初に問いかけてきた声とは違っていた。
そして、その声を聴いてアニスフィアは体を強張らせた。
であれば、後の方の声がシルフィーヌなのだろう。
あわあわと両手を泳がせるアニスフィアを尻目に、クルーガーは扉を開けた。
中に入ると、応接のために用意されているソファにオルファンスと赤髪の小柄な女性が座っていた。
彼女が、シルフィーヌなのだろう。
横ではアニスフィアがギギギとぎこちない動きで回れ右しようとしたが、シルフィーヌの視線に射竦められてすぐさま直立姿勢になった。
だが一歩も動くことができず、まさか王女よりも先に進むわけにはいかないクルーガーはどうしたものかと軽く眉を下げた。
すると、シルフィーヌが口を開いた。
「アニス、いつまでそこに立っているつもりですか?早く中に入りなさい」
「は、はいっ!わかりました母上!」
内容はただ着席を促しただけのように聞こえるが、彼女が言うとなぜか有無を言わせない命令のように感じる。あるいは、怯え切っているアニスフィアがいるからそのように聞こえるだけなのだろうか。
そんなことを考えながら、クルーガーもアニスフィアの後に続いた。
「ほら、座りなさい。それと、あなたがクルーガーですね?あなたも座って構いません」
「ありがとうございます」
ガチガチに緊張しているアニスフィアとは対照的に、クルーガーは落ち着いた様子で対面のソファに腰を下ろした。
「さて、あなたについての話は先ほど陛下から聞きました。どうやらアニスがずいぶんと世話になったようですね。改めて私からも感謝します」
「いえ、礼を言われるようなことはありません。偶然とはいえ、あのような状況を無視することはできませんから」
「それでも、です。ですが・・・客人としてこの場にいる、というのには少しばかり疑問を抱いてしまいます」
シルフィーヌの言葉に、オルファンスがビクッと肩を揺らした。
身分で言えば国王であるオルファンスの方が上であるはずなのだが、この場の立場は圧倒的にシルフィーヌの方が上だった。
「陛下はよく人を見て物事を判断しますし、アニスも人を見る目があります。ですから、貴方に悪意がないのは間違いはないのでしょう。ですが、たった一度会っただけの旅人に、ここまで心を許すほど愚かでもありません。もしや、この2人に何か怪しいことをしたのではないか、と疑ってしまうのは、私の考えすぎでしょうか?」
「いえ、シルフィーヌ王妃の言うことに間違いはありません。いたって当然の疑問でありましょう」
「でしたら、あなたから何か申し立てはありますか?内容次第では、私はあなたの立場を認めるわけにはいかなくなります」
「・・・つまり、陛下やアニスフィア王女、ひいてはパレッティア王国に翻意がないことを証明せよ、ということでよろしいでしょうか?」
「そう受け取ってもらって構いません」
本来はシルフィーヌにアニスフィアとオルファンスからクルーガーを紹介する場であったはずが、いつのまにかオルファンスとアニスフィアが脇に追いやられ、シルフィーヌとクルーガーによる腹の探り合いが始まっていた。
最初から緊張していたアニスフィアはもちろん、付き合いの長いオルファンスさえも2人を取り巻く空気に気圧されて口を挟めないでいた。
「なるほど・・・私は旅人の身故、権威や権力に興味はありません、と口で言うのは簡単ですが、これはあくまで私個人の話。貴女に納得してもらえるかはまた別の問題でしょうね」
「えぇ、当然です」
「であれば、私がここで示すべきは誠意ではなく、価値でしょうね。陛下や国を裏切らず、アニス様の傍に居ることでどのような利益を得られるか。分かりやすい損得勘定こそ、今この場に必要なものでしょう」
「なるほど。なら、貴方はアニスにどのような価値を見出したのか、言ってみてください」
オルファンスとアニスフィアが固唾をのんで見守る中、目を閉じて僅かに考え込んだクルーガーが口を開いた。
「言うなれば、可能性でしょう。魔道具によって生まれる可能性」
「それは、魔道具が普及することによる利益、ということですか?」
「それもなくはありません。ですが、それよりも大きいものは、魔道具によって新たな道が示されるということです。この国では貴族やその血筋にしか扱えない魔法、それに近しい力や技術がより多くの人々へ与えられる。そして、与えられたものをただの道具として扱うのではなく、新たな可能性の基点とするのであれば、さらなる発展を促すことにもなります。その果てにある景色を、私は見てみたいのです」
「ですが、それは貴族の権益を奪うことになります。場合によっては、平民による反乱も起こり得るでしょう。そのような国の危機を促すつもりですか?」
「ならば、敢えてこう言いましょう。
クルーガーの物言いに、オルファンスとアニスフィアはギョッとする。
クルーガーの言葉は、見方を変えずとも国に翻意があると受け取られてもおかしくない。
だが、そこで終わりではなかった。
「もし民に魔道具を与えたことで国が亡ぶと言うのであれば、それもまた結末の一つでしょう。その時は魔道具が、あるいはこの国がその程度のものだった。それだけのことです
ですが、アニス様はそれを良しとしない。なぜなら、この御方の根底にあるのは善意であり、希望に満ちた輝きです。そして、アニス様の魔道具はその輝きから生まれるものでもあります。
逆に言えば、輝きを失ってしまえば、アニス様が望む魔道具は作れなくなってしまうでしょう。であれば、その輝きを失うことにならないよう、私も力を尽くしましょう。アニス様が国が亡ぶのを良しとしないのであれば、私もその意に従います。
つまり、私の忠誠はアニス様だけに向けられるものです。もしアニス様が私の期待から外れるようなことになれば国を出ることもありましょうが、アニス様であればそのようなことには決してならないと、私は確信しております」
自らの潔白を証明すると言うには、あまりにも暴論であり誠実さに欠けるものであったが、それでもクルーガーは何一つ嘘をついていないと、それだけはなぜかアニスフィアは確信できた。
大して、シルフィーヌは瞑目して深く考え込み、しばらくして口を開いた。
「・・・つまり、あなたの行動はすべてアニス次第であると、そういうことですね?」
「えぇ、そうなります」
「そうですか・・・であれば、アニス」
「は、はいっ!」
「クルーガーは、貴女が責任をもって預かりなさい。私も、この者のすべてを信用したわけではありませんが、あなた次第では裏切らない、というのは嘘ではないようです。なら、王位継承権を放棄したとはいえ、貴女も王族であると言うなら、その身に恥じぬ働きでクルーガーの信頼に応えなさい」
「わ、わかりました!」
(あれ?クルーガーの話のはずなのに、なんで私に飛び火したの?)
流れるように責任を押し付けられたことにアニスフィアは疑問を覚えたが、クルーガーが認められたならそれでいいやとそれ以上考えるのをやめた。