わたしは、洗面台で顔を洗いながら、
鏡を観て右頬を確認するが痣は綺麗にひけたようだ。
向こう側から千束さんの声が聞こえる。
わたしは、聞こえるように少し大きめの声で返事をする。
「たきなぁ~。お店開けるよぉ。」
「はい、今いきます!」
今日も喫茶リコリコは変わらずに営業していく。
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今日も無事、喫茶リコリコの営業は終了する。
後は、片付けと簡単な明日の仕込み作業だけだ。
しかし、今日は店が閉店しても店のなかには従業員と常連客が数人残っている。
なぜなら今日は、閉店後に定期的に開催される常連さんとのボドゲ大会なのだ!
リコリコの従業員はそれぞれ閉店作業をしていき、それが終わり次第、ボドゲ大会に参加していくのがいつもの流れだ。
千束は、店のドアに付いてる札を営業中から準備中に変えて高らかに宣言する。
「っというわけでぇ、閉店ボドゲ会!すたぁと!!!
「「「「「「いぇえ~~~~~~い!!」」」」」」
今日の常連さんは6人。この中には漫画家さんもいたり、刑事の阿部さんもいる。
そして、何気にクルミも混ざっている。以前参加したとき、余程楽しかったのだろうか?ボドゲ会があるときは、必ずタイマーを設定し、時間厳守で一階に降りてくる。
「締め切り明日って言ってたっすよね。」
「今日のあたしには関係ないし。」
「止しましょう。仕事の話しは。」
「実は、自分も勤務中で。」
「刑事さん、ワルだねぇ。」
「早く、始めましょうよぉ。」
「じゃ~、順番決めるぞ~。」
常連さんとクルミはちゃぶ台を囲んでゲームを始めていく。
「ねぇ、たきなも一緒にやろうよぉ。レジ締めなら私も手伝うから~。ハチも~。」
千束は俺と井ノ上さんに声をかける。
俺は勿論、参加するつもりだ。
こういってはなんだが、ゲームは少し得意だ。心理戦が絡んでくるものならば勝率はさらに高くなる。
「ちょい待ち、あと、10分程度で終わるから。それから参加するよ。」
「もう、終わりました。レジ誤差ゼロ。ズレなしです。」
「はや~。」
井ノ上さんは、淡々と作業を進めていく。
常連の皆さんも井ノ上さんをゲームに誘うが「いえ、結構です。」と、振り返りもせず店の奥に行ってしまう。
「おじさん、多すぎなのかなぁ。」
「恥ずかしのよ。お年頃。」
「店で遊ぶ方がおかしいんだけどね。」
「そうかぁ~?」
俺と千束は目を合わせて、千束は井ノ上さんの後を追い、俺は明日の仕込みを出来る早く終わらせるために奔走する。
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仕込みも終わり、俺も店の奥に移動する。
奥ではボスが千束に対し、健康診断と体力測定は済ませたか確認している。
千束は答えに詰まっている。
あいつ、さてはまた忘れてたな。
俺は、千束の後ろから声をかける。
「おまえ、また忘れてたのか?ボスも前から確認してくれてただろ?」
「いやぁ、あんな山奥までいくのだるいしぃ。」と、文句を言うが健康診断と体力測定はライセンスの更新に必要ということを改めてボスが千束に説明する。
この会話も聞きなれたな。
「うえぇ。そこは先生、上手く言っておいてよぉ。先生の頼みなら聞いてくれるでしょ~。楠木さん。」
「楠木さん。」という言葉に反応したのか、突然女子更衣室の扉が開く。
「指令と、会うんですか?」
その瞬間、千束は驚愕する。突然ドアが開いたことに関してではなく、井ノ上さんの格好だろう。
途中であった。何がとは言わないが。
「うおぉ!バカ!!ふくぅ!!!」
千束は器用に足で更衣室のドアを閉めてら両手で俺の両頬を挟み勢い良く90度右に回転させる。
「いでぇぇぇ!!!」
俺は思わぬ激痛にその場にうずくまってしまう。
あれ?今俺の首ついてるよね?
首を擦りながら立ち上がると千束からの謝罪の言葉が。
「ご、ごめん。急で、思わず・・・。」
「今の俺、悪くなくない?」
千束が再び「ごめん」と言ってくる。
というか、ボス。あんた目をそらしただけだったな。ずるい。これだから、大人ってやつは。
そんな風に思っていると再びドアが開く。
俺は今度こそ、自身の首を守ろうと防御体制に入るが井ノ上さんはすでにリコリスの制服姿であった。
「「はやっ。」」
俺と千束のセリフがハモる。
「私も連れていってください。お願いします。」
井ノ上さんが頭を下げてくる。
「お願いします。」
井ノ上は本部への復帰を強く望んでいると以前から知ってはいたがこれほどか。
「分かったよ、たきな。」と、千束も了承する。その後、ボスから「丁度良い。」と声がかかる。
「史八、君も明日、DA本部に行ってくれ。」
「嫌ですけど?」
俺は条件反射で返事をする。井ノ上さんには悪いが俺はDA本部などに行きたくはない。いや、正確には行くのは構わない。ただ、大嫌いな
「残念だか、そんなわけにもいかなくてな。楠木から直々だ。なんでもライセンスの件で話があるそうだ。」
俺は絶望で手を床につける。
そんな俺の肩に千束はポンっと手をおく。
「じゃ、明日三人で行こっか!」
俺の久方ぶりの休日が音を立てて潰れた瞬間であった。
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「で、話しってなんだよ?」
千束から「話しがある。」ということだったため俺は家で紅茶を飲みながら千束に尋ねる。
千束は、最初、「コーヒーがいい。」と言っていたが今は黙って俺の淹れた紅茶を飲んでいる。
「たきなのことなんだけど。」
「井ノ上さんの?」
大体は予想できていた。千束は想像以上に優しいし、面倒見がいい。
だから、本部への復帰を願ってる井ノ上さんの力になりたいのだろう。
「うん。どうしたら、たきなをDAに復帰させてあげられるかなって?」
俺は腕を組み少し考える素振りをする。
「復帰ねぇ、お前はそれでいいのか?井ノ上さんが本部に復帰すれば自動的にペアは解消されるけど。」
「私も、たきなとは離れたくないよ。いい子だし。まだ、出会って数ヵ月だけどせっかく仲良くなったし。」
「ならなんで?」そう聞こうとする前に千束の口が開く。
「でも、たきなが望む場所はここじゃない。悔しいけど、私はたきなの居場所にはなれないし、それを提供する力もない。だから、ハチにも協力してほしいの。」
「協力は、勿論するが。」そう言った瞬間、千束の顔がほころぶ。だが、次の俺のセリフを聞いたとたんに暗い表情になってしまう。
「井ノ上さんが直ぐにDAに戻るのはほぼ不可能。いや、全くないと言ってもいい。」
「なんで?!」
千束はおもむろに立ち上がり理由を求める。
そんな彼女に座るように言ってから復帰が不可能である理由を伝える。
「理由は2つある。ひとつは勘違いの可能性があるから。」
「どうゆうこと?」
「前に、ボスから聞いた話なんだが、井ノ上さんが初めてリコリコに来たときに言ったらしい。」
「「ここで、成果を挙げ本部への復帰を果たしたい。」ってな。」
「これのどこが勘違いなの?」
「この発言自体が勘違いの可能性がある。」
「?」
「いいか、井ノ上さんは任務で命令無視をしてリコリコに左遷になった。ここまではいいか?」
「うん。」
「確かにこれだけだったらここで頑張っていけば本部への復帰も叶うだろう。」
「なら!」と千束が言うが、俺は2つ目の理由を伝える。
「ここで問題なのが2つ目の理由だ。前に、ちょっと気になってボスに例の銃取引の件の報告書を見せてほしいと頼んだことがある。」
「その報告書を見ると少し不可解な点があった。」
「不可解な点?」
「銃取引の時、セカンドのリコリスが人質になったのは覚えているか?」
「覚えてるよ。それで私たちに2人が呼ばれたんだよね。」
俺は頷きながら話しを続ける。
「不可解な点は、そのリコリスが人質になったところから井ノ上さんが機銃掃射するまでのことが全く記録されていなかった。」
「!?」
千束も気づいたようだ。本来、どんな会社や企業でも報告書は分かりやすく正確には記録しなければならない。勿論DAもそうだ。しかし、記録には残っていない。リコリスが一名人質になっているのにもかかわらず。
「分かるか?つまり、当時俺たちが現場に向かうまでに何かあったんだ。誰にも知られちゃいけない何かが。」
「つまり、その「何か」をDA本部は隠蔽するためにわざとたきなを異動させたってこと?」
「絶対ではないが、可能性は高いだろうな。しかも、成果を挙げたら戻すなんて
「そんな。」
千束は泣きそうになりながら目を伏せる。
「まぁ、今のは俺が言ったただの推測であって、絶対じゃない。まったく、見当違いだって可能性もある。」
俺は元気づけるように千束の肩を軽く叩きながらいう。
「ありがと。」
千束は少し笑うと、急に紅茶をイッキ飲みし「よ~し!!やるぞぉ~!」と声を挙げる。
「やるって何を?」
「分かんないけど、とにかく出来ることは全部やる!!」
千束に気合いが入ったようだ。
やっぱりコイツはしょげてるより元気な方が良い。
元気すぎるときは大抵こっちが困るが。
「俺も、丁度明日の司令官殿と会うから、井ノ上さんに会ってほしいと言ってみるよ。それで、解決はしないだろうけど、せっかく、本部まで行ったのに目的の人と会えないんじゃあ可愛そうだからな。」
「お願いね!」
「・・・ところで。」
「?」
「千束、お前いつ帰るの?」
「あれっ?今日も泊まっていくって言ってなかったっけ?」
「・・・。」
千束は「てへぺろっ」っと可愛く舌を出す。
夜が今日もふけていく。
はい、ということで前回は長すぎたので今回は前回より短めに。
リコリスリコイル第8話、皆さんも見ましたか?
面白かったですよね。回を追う毎に面白くなっていく気がします。
では、とつぜんですが、皆さん目をつぶってください。
千束ちゃんが逆立ちした時に太ももに目がいき動画を一時停止した人。素直に挙手。