闇に生き光に奉仕する男の話   作:ダレン シャン

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ちょっと不吉な感じになってきた話

 

 

「では~、みんなぁ今回の!依頼内容を説明をしよう!とっても楽しいお仕事ですよぉ~。」

 

本日のリコリコの営業が終わり、明日の仕事内容を千束がタブレット端末を持ちながら元気良く説明する。

というか、何故千束が?

 

「ミズキさんが説明しないのですか?わたし、もう読みましたけど。」

 

「いひひひ、うふふふふ。まずね、ちょいちょいちょい

、ちょい!」

 

「今回やたら乗り気なのよ。」

 

「そこ!私語はしない!そして!そこのリス!!ゲームしてない。」

 

千束はタブレット端末で2階でゲームをしているクルミを指差す。

 

「聞いてるよ。」

 

千束は咳払いをしてから明日の依頼内容について説明していく。

 

「今回の依頼人は72歳、男性の日本人。過去に妻子を何者かに殺害され、自分も命を狙われた為、アメリカに避難していた。現在は、筋、き、きん~、」

 

千束がなれない単語に詰まったためクルミが代わりに言う。

 

「筋萎縮性側索硬化症。」

 

「あぁ、ALSか。」

 

「え、えーえる?」

 

「ALS。筋萎縮性側索硬化症の略称だ。簡単にいうと、体の末端から徐々に動きづらくなっていって最終的には自分でも呼吸できなくなってしまう病気だ。なんで依頼内容知らない俺の方が知ってんだよ。」

 

「それだと自分では動けないのでは?」

 

たきなの問いに千束は指を指して肯定する。

 

「そう!去年、余命宣告を受けたことで最後に故郷の日本、それも東京を見て回りたいって。」

 

「とどのつまり、観光したいってことか?」

 

「泣ける話でしょ~。要するに、まだ命を狙われている可能性があるため、Body guard!します。」

 

「依頼人は何で狙われてるのかわかってんのか?」

 

「それがさっぱり。大企業の重役で敵が多すぎるのよぉ。その分報酬はたっぷりだから。」

 

俺の質問にミズキさんが答える

結局、命を狙われる理由はわからずか。

 

「日本に来て直ぐに狙われるとは思えないけどねぇ。行く場所はこっちに任せるらしくて私がバッチリ、プラン考えるから!」

 

「まぁ、その辺は千束の十八番だな。」

 

「旅のしおりでも作ろうか?」

 

「それだ!」

 

クルミの提案に千束は指を鳴らしながら賛成した。

 

 

______________

 

翌日、朝早くに喫茶リコリコに一台の大型ワゴン車がやってくる。

酸素ボンベ付きの車イスに座った白髪交じりの男性が酸素ボンベから鼻カニューレで酸素投与しているが、目はどうしたのだろうか?ALSで目が見えなくなるという症状はないはずだが。

 

車イスに座りながら店に入ってきた老年の男性を俺達は迎え入れ、千束が元気良く挨拶をする。

 

「お待ちしておりましたぁ~。」

 

「遠いところ、ようこそ。」

 

ボスも今回の依頼人に挨拶をする。

 

「少し、早かったですかね?楽しみだったもので。」

 

男性からではなく、車イスについたスピーカーから声が聞こえる。しゃべれない段階まで症状は進行しているのか。

 

千束は少し戸惑いながらも直ぐにいつもの調子を取り戻し、旅のしおりを見せる。

 

「あっ、いえ!準備万端ですよ!旅のしおりも完璧でぇす。」

 

「千束、データで渡そうか?」

 

「え?あっ。」

 

千束は気づいたのか「しまった。」と言う風に自分の口をしおりで隠す。

 

「助かります。あとはこの方達にお願いするので下がっていいですよ。」

 

一緒に来た黒服の男性にそう伝え黒服の男性は店を後にする。

しおりのダウンロード中に今回の依頼人である松下さんと会話をする。

 

「今や、機械に生かされているのです。おかしく思うでしょ?」

 

そんな松下さんの言葉に千束は明るい声で否定する。

 

「そんなことないですよ。私も同じですから、ここに。」

 

「ペースメーカーですか?」

 

「いえ、まるごと機械なんです。」

 

千束は自分の胸の前でハートマークを作るとたきなとクルミが驚愕の表情を示す。

まぁ、知らなかったのは無理もない。でも、今言うことでもないだろ。

 

「人工心臓ですか。」

 

「あんたのは、毛でも生えてんだろうね。」

 

「機械に、毛は生えねぇっての。」

 

ミズキさんと千束がボケとツッコミを他所にたきなはどういうことか説明を求めようとするがタイミング悪く、旅のしおりのダウンロードが終わる。

 

松下さんの付けているゴーグルからたった今ダウンロードされたものが見えているのか松下さんは喜んでいるようだった。

 

俺は、気になっていることを聞く。

 

「松下さん。」

 

「何でしょう?」

 

「失礼を承知でお尋ねしますが、その目はなにか事故で?」

 

「え? えぇ、これはALSとは関係ありません。向こう(アメリカ)でとある事故に巻き込まれてしまって。」

 

「そうですか、すいません。突然こんなこと、謝罪します。」

 

「いえいえ、気にしないで下さい。良く聞かれるんです。」

「でも、そうですね。罪悪感を感じているなら貴方もこれからの観光に付いてきてください。」

 

「俺がですか?」

 

「はい、実は今回の東京観光の案内をしてくれるのはそこにいるお嬢さん達なのでしょう?こんなじじいが両手に華を持っていると少々、恥ずかしくてね。男性である君が付いてきてくれると嬉しいのだが。」

 

予定では今回の俺の役目は裏方だ。ボスに視線を向けると首を縦に振っているので俺の役割は誰かがやってくれることだろう。

 

「わかりました。依頼人からたってのご要望なので同行させて頂きます。」

 

「そうですか。それは良かった。よろしくお願いしますね。」

 

そして、千束の明るい声が響く。

 

「では!東京観光しゅっぱーつ!!」

 

そう言いながら千束は松下さんの車イスを押しながら店を出る。

 

「あの、ハチさん。千束の今の話し、」

 

たきなはそう俺に尋ねてくるが、千束から「早く。」と催促された。

 

「ほら、ハチも早く!ミズキ、車~!」

 

 

______________

 

 

ミズキさんの車で最初に来たのは水上バスであった。

松下さんもご満悦の様子だ。

 

「これは、予想外でしたねぇ。」

 

「墨田区周辺は、何本も川に囲まれてて都心を水上バスで色んなところを渋滞を気にせずに移動できるんです。」

 

俺とたきなは周囲の警戒をしながら千束と松下さんの様子を確認する。

 

松下さんは旧電波塔を見ながら言った。

 

「やっぱり、折れてしまってますねぇ。」

 

「折れてないの見たことはあるんですか?」

 

「いえ、東京に来るのは初めてで子供達と約束してたんです。「一緒に見上げよう、首が痛くなるまでって。」あの世で土産話が出来る。」

 

「ま~だまだ!始まったばっかりですよ~!」

 

千束は暗い雰囲気にしないようにわざとオーバーリアクションを取っていた。

 

 

水上バスを降りてから、浅草寺に来ていた。

ここでも、前日から勉強したであろう知識を松下さんに遺憾なく発揮していく。

普段からこれくらい勉強熱心だったらなぁ。

 

「正式名称は風雷神門。創建年数は西暦942年、正式名称のとおりに左に雷神、右には風神。浅草寺を災害や争いから守ってくれる神様!あっ!ガードマンですね。私とたきなと同じ。私たちは松下さん、専属ぅ。」

 

「可愛い神様ですねぇ。それでは彼は?」

 

「俺は真ん中のデカイ提灯役ですかね。」

 

俺は笑いながらそう答える。

 

次は仲見世通りを歩く。

 

「全然、進みませんねぇ。」

 

「雷門通りと浅草寺観音堂前の中間のお店で仲見世通りって言うわけ。浅草寺は1400年前にさっきの隅田川で漁師の網にかかった仏像を祀ったのが始まりなんです。それが、御本尊の聖観音世音菩薩なんです。地球上の全ての生き物を救ってくれる仏様なんですって。」

 

「全ての生き物ですか。とてもワタシには真似できないですねぇ。」

 

千束の説明を聞き、松下さんはそう答える。

全ての生き物を救うか。神様ってやつはスゴいな。

まぁ、俺は神や仏は信じちゃいないが。

歴史的に残っている神々が起こした、いわゆる神話のほとんどは「先駆者」が起こしたことだ。

 

「本当に、あんたら神様ってのが存在するなら助けてくれよ。」

 

「ハチさん?」

 

頭のなかで言ったつもりだったが口に出てしまっていたようで、たきなが尋ねてくる。

 

「すまん、何でもない。俺たちも早く行こう。」

 

そう言ってたきなと一緒に本堂を後にする。

 

_____________

 

五重塔に移動している最中に千束が反対側の歩道にいる阿部さんを見つけたようだ。何だか走っていたようで阿部さんの息が少し上がっていた。

千束は阿部さんに手を振る。

 

「阿部さ~ん!」

 

「やぁ、千束ちゃんか。」

 

「お勤めごくろ~さまで~す!」

 

「良く気づいたねぇ。!」

 

「私、目がいいのぉ~!」

 

俺とたきなも阿部さんにお辞儀をする。

この大勢人のいる前で声を上げるのは少々恥ずかしい。

 

「たきなちゃんと史八君もか。3人でお祭りかい?」

 

「今~、お客さんを観光案内してるんです~!」

 

「へぇ!偉いなぁ!」

 

「それじゃあ!お仕事、頑張ってくださぁい!」

 

そう言い、阿部さんとその部下であろう刑事と別れる。

 

それから俺達は松下さんを楽しませるため様々な所に行った。

もちろん、護衛の仕事は忘れていないが、千束はどうだろう?

千束もこの観光案内を楽しんでいるようだが、射的で景品であるぬいぐるみをほとんど打ち落とすと出禁になるぞ。

 

 

 

_____________

 

再び水上バスに乗り、次の目的地を目指す。

私と松下さんは今度は延空木を見ている。

ハチとたきなはふたりで周囲の索敵をしてくれている。

 

「あれが、延空木ですね。」

 

「11月には完成らしいです。」

 

「設計に知り合いが関わってるんです。」

 

「えぇ!すごっ!」

 

「そう。彼は未来にスゴいものを残してる。」

 

「じゃあ、完成したら見に来てくださいね。またご案内しますよ。」

 

「・・・・・・えぇ、またお願いします。君は素晴らしいガイドだからねぇ。」

 

私は嬉しくなる。そんな時に向こうにいるハチに松下さんは視線を向ける。

 

「ところで、君は彼とはどのような関係です?カップルなのかな?」

 

「えぇ!ハチですか?えぇと、どうなのかな?やっぱりそう見えちゃいますぅ?」

 

私は自分の顔が熱くなるのを感じる。多分、今わたしの顔は真っ赤なのだろう。

 

「えぇ、お似合いだと思いますよ。」

 

「もうっ!やだぁ、松下さんってば私とハチはまだそんな関係じゃありませんよ!」

 

まだ(・・)ということはいつかそうなるということですが?」

 

「え?!いやぁ~、あはは。まいったなぁ~。」

 

「なるほど、青春中というわけですか。すいません、少し苛めてしまいましたね。それにしても今日は暑いですね。ちょっと中で休ませてもらいます。」

 

そう言って、松下さんは車イスを自分で操作しながら船内に移動する。

 

自販機で買ったであろうジュースをたきなからを受け取る。

 

「喜んでもらえてるみたいですね。」

 

「私、良いガイドだって。才能あるかもぉ~。」

 

「依頼者の警護が優先ですよ。」

 

「そうだね、そうだった。」

 

そんな時にたきなから視線を感じる。

 

「なに、なに?」

 

「今朝の話し、本当なのですか?」

 

「ああ、胸のことね。本当だよ。鼓動なくてビックリしたけどスゴいのよぉ、コレぇ。」

 

人工心臓が入っているであろう箇所をトントンと軽く叩くようにしているとたきなが徐に胸を触ろうとしたので両手で胸を隠す。。

 

「ちょいちょちょいちょい。」

 

「確かめようと思って。」

 

「いいけど、公衆の面前で乳を触るな。」

_____________

 

俺は、船上から周囲に敵がいないか索敵していると向こう岸からこちらを双眼鏡で見ている怪しい人物を見つける。

念のため報告しておこう。

 

「ボス、双眼鏡でこちらを見ている怪しい人物を発見した。このくそ暑い日に真っ黒なコートを来てやがる。おまけにバイクとヘルメットも黒尽くしだ。」

 

「了解した。今クルミにドローンで追跡してもらっている。」

 

「史八が見つけたやつの名前はジン。暗殺者。その静かな仕事ぶりからサイレント・ジンとも呼ばれてる。ベテランの殺し屋だとさ。史八と気が合うんじゃないか。」

 

「冗談は止めてくれ、クルミ。話し合いに応じるような奴なのか?」

 

現在俺達はクルミが調べた情報を聞きながら敵にバレないように水上バスから降りている。上手く撒ければいいが。

 

「サイレント。」

 

「知り合いか?」

 

「15年前まで警備会社で共に裏の仕事を担当していた。私がリコリスの訓練教官にスカウトされる前だ。」

 

「どんな奴?」

 

「本物だ、サイレント。確かに声を聞いたことがないな。もっとも、史八程ではないが。」

 

「あまり、嬉しくないですよ。ボス。」

 

ミズキさんは車でサイレント・ジンを尾行しているようだ。

 

「30m先で確認。こっちは顔がバレてない。発信器付けに行くよ。」

 

ミズキさんは尾行を続けるが やつは走らせていたバイクを止め、クルミが操作していたドローンを打ち落としたようだ。

 

「くそ!バレてる!」

 

「ジンは不味いな。」

 

どうやらミズキさんが危険なようだ。

クルミからの指示が入る。

 

「予定変更。避難させてこちらからひとり打って出るべきだ。予備のドローンとミズキでジンを見つけ次第、攻撃に出る。」

 

「そっちが美術館出たら車回すよ。」

 

「わかった。」

 

「了解。」

 

俺と千束はそう答える。

チッ!慌ただしくなってきた。

松下さんと一緒に観光名所を回っているとボスからの報告が入る。

 

「ミズキと連絡が途絶えた。ジンが仕掛けてくるぞ。」

 

「俺が行k」

 

「いえ、わたしに任せてください。」

 

「俺が行く。」と言おうとしがたきなに遮られる。

そんなたきなを千束は止めようとするがたきなは走って行ってしまった。

 

「どうしました?」

 

今の状況を護衛対象である松下さんには伝えるわけにはいかず、松下さんには悪いが誤魔化せてもらおう。

 

「ちょっとトイレに行ってくるみたいなので先に行っててほしいみたいです。」

 

「そうですか。では、行きましょうか。」

 

千束と松下さんと一緒に避難行動を開始する。

相手はプロだが、たきなは大丈夫だろうか?

 

俺達は今、東京駅のホームにいる。

その時に、ボスから連絡が入る。

 

「史八、千束。」

 

松下さんにはちょっと待っててもらうようにお願いしてから松下さんに聞こえないよう少し離れた位置に移動する。

 

「ボス、状況は?」

 

「ミズキが無事だったぞ。」

 

そうか。とりあえず良かった。

千束も安心したのかほっと息を吐く。

 

「はぁ、よかったぁ~。」

 

「そっちに迎えに行ってる。松下さんと直ぐに帰ってこい。」

 

「了解しました。ミズキさんを待って電車で帰ります。」

 

ボスとの連絡が終わって千束が「松下さん。」と振り向きながら呼び掛けるがそこに松下さんの姿はなかった。

 

「え?松下さん?」

 

「どこ行った?あの人ぉ~~!」

 

俺達は手分けして松下さんを探して駅内を走り回る。

 

「千束、居たか?」

 

「ううん、そっちは?」

 

「コレだけ探して居ないってなると駅の外か?」

 

「探してみよう!」

 

千束と一緒に駅の外を探し始めると、駅の近くの広場で松下さんを見つける。そんな彼に千束が話しかける。

 

「松下さん、どうしたんですか?行きたいところがあったんですか?」

 

「ジンが来ているんだね。あいつは、ワタシの家族を殺した。確実に私を殺しに来るはずだ。」

 

コレだけ慌てていれば気づかれるか。

クルミからの通信が入る。

 

「千束、史八。たきなが撒かれた。気を付けろ。」

 

「日本にいる限り、あいつは絶対に殺しに来る。」

 

「なら、一度店に帰りましょう。避難してからどうするか考えましょう。」

 

「ワタシには時間がないんだ。」

 

千束がそう提案したとき、松下さんの背後の工事現場からこちらを狙っている男が目にはいる。

 

「千束!松下さんを安全なところに!!」

 

そう言いながら松下さんとジンの対角線上に入り、奴が撃った銃弾を右側の籠手で防ぐ。

 

「2人とも逃げてぇ!!」

 

そう言いながらたきながジンに発砲しながら近づく。

たきなはタックルをし、工事現場の2階からジンと共に落下する。

 

「たきなぁぁぁぁ!」

 

「たきなの奴、無茶しやがって!千束!早く松下さんを安全なところに!俺はたきなの所に行く!!」

 

「分かった!気をつけて!」

 

俺はたきなの後を追い、工事現場内に入る。

サプレッサーで小さくなっているが銃声が聞こえる。こっちか!

銃声のなる方に進んでいくとコンテナの側面に背中を預けているたきなを発見するが、2階からジンに狙われている。

俺は、たきなのもとにスモークグレネードを投げジンからたきなの姿を見えなくする。

たきなをコンテナの裏側に移動させジンから死角にする。

煙の中でたきなに話しかける。

 

「たきな。大丈夫か?」

 

「大丈夫です。弾が足を掠めただけです。」

 

俺は懐から応急キットを取り出したきなに渡す。

 

「なら良かった。じゃ、コレで自分で治療してくれ。後は、俺がやるから。治療がすみ次第援護射撃を頼みたい。出来るか?」

 

「もちろん。」

 

たきなは自信満々に答える。

頼もしい限りだ。

 

「さて、それじゃあやりましょうかね。」

 

俺はそう言ってフードを被る。

煙が徐々にに晴れ、俺は堂々とジンの前に立つ。

だが、奴との距離があるため近づかなければならない。

俺は、パルクールをしながらジンに近づく。ジンも発砲して近づけないようにするが俺には当たらない。

数秒でジンのいる2階に到着し、右手にスタンナイフを構える。

 

先にジンが発砲し仕掛けてくるためそれを避け更に走って近づく、スタンナイフを当てようとするがさすがにプロと行ったところか、簡単に避けられてしまった。

まぁいい。計画通りだ。今俺の右手にはスタンナイフが握られていて、奴の射撃を防いだのも右手だ。奴は今、俺の右手を警戒している。

俺は再びスタンナイフで奴の首筋を狙うが今度は確実にかわされ手首を捕まれてしまう。

勝ちを確信したのか奴はニヤついているが、俺は左手の掌を奴の鳩尾に当てるようにおき、非殺傷弾を三発お見舞いする。

鈍い音が3度鳴り、ジンは膝から崩れ落ちる。

 

ジンをワイヤーで拘束していると後ろからたきなに声をかけられる。

 

「任せてって言ったじゃないですか。」

 

「悪いな、美味しいとこだけもらっちゃって。」

 

そんな時、千束とミズキさんと一緒に松下さんがやって来た。

 

「殺すんだ。そいつは、ワタシの家族の命を奪った男だ。殺してくれ!」

 

そう言って松下さんは俺と千束にジンを殺すようにお願いする。

 

「いや、」

 

「本来ならあの時、ワタシの手で殺すべきだった。家族を殺された20年前に。君たちの手で殺してくれ!君たちはアランチルドレンのはずだ!千束、何のために命をもらったんだ。その意味を良く考えるんだ。」

 

松下さんが言っていることはめちゃくちゃだ。自分の復讐のために俺と千束に殺しを強要している。それに、何故俺がアランチルドレンであることを知っている?俺は松下さんにチャームを見せてないし、俺自身、アランチルドレンであるかどうかも分からないのにこの人は俺がアランチルドレンであることを知っているようだった。

 

「松下さん。私はね、人の命は奪いたくないんだ。」

 

「は?」

 

「私はリコリスだけど、誰かを助ける仕事をしたい。これをくれた人みたいにね。」

 

そう言って梟のチャームを松下さんに見せる。

 

「何をいっt、千束、それではアラン機関は君をその命を。」

 

遠くでパトカーのサイレンが鳴る。

ミズキさんがさっさと逃げようと俺たちに促すが、松下さんの車イスに付いていた機械が突然シャットダウンする。

 

「なっ!松下さん!」

 

俺は急いで松下さんのもとに駆け寄ると違和感を感じる。

先ほどの松下さんの会話、突然の機械のシャットダウン。

嫌な予感がし、俺は松下さんの付けているゴーグルを外す。

そこには目を閉じて眠っている老人がいるだけであった。

 

「ちょっと!ハチ!何やってるの?!」

 

突然の俺の行動に千束とたきな、ミズキさんも驚いていたが、俺は今分かった事実を三人に伝える。

 

「やられた。」

 

「やられたってどう言うこと?」

 

「俺たちが今日、話していたのは松下さんじゃないってことだ。とりあえず撤退しよう。」

 

______________

 

 

現場から少し離れたところで車を止め、ボスがジンに話しかける。

 

「ミカ!そうか。お前の部下か。」

 

「フードの彼は私の部下ではないがな。」

 

「良い腕だ。」

 

「そりゃどうも。」

 

それから、ボスとジンは俺たちから少し離れたところで話をしている。

ボスなら上手く情報を引き出してくれるだろう。

 

____________

 

帰り道の車の中でミズキさんが言う。

 

「クリーナーから連絡があったわ。指紋から身元が判明。先々週に病棟から消えた薬物中毒の末期患者だって。もう自分で動いたり喋ったり出来ないらしいわよぉ。」

 

「そんな!みんなと喋ってたじゃない。」

 

「ネット経由で第三者が千束達と話してたんだよ。ゴーグルのカメラに車イスはリモート操作で音声はスピーカーだよ。」

 

「松下さんは存在しない。」

 

「え?じゃあ、誰が?何で私とハチに殺させようとしたの?何のために?」

 

「理由は分からないが、今回の黒幕はアラン機関の関係者なのは確かだな。俺のチャームを見せていないのに俺がアランチルドレンであることを知っているようだったしな。」

 

 

どこの誰かは知らないが、やってくれたな。

 

 

__________

 

同時刻

 

 

サードのリコリスが一人、作業服を着た男を尾行していた。

横断歩道の信号が青になったため男の後ろについて歩くようにし、男に止めを刺そうと銃口を向ける。

その時に対向車線から勢い良く車が突っ込んでいき、サードリコリスを跳ねる。

罠に嵌められたと思ったときにはもう既に遅く、次々と、作業服を着た男達がリコリスを取り囲む。男達の手には銃が握られていて、銃口はリコリスに向けられる。

 

車でリコリスを跳ねた緑色の癖っ毛の男は車から出て来て誰に言うわけでもなく呟く。

 

「まずは、1人目だ。リコリス。」

 

人気のいない道路に銃声が鳴り響く。

 

___________

 

喫茶店に戻ってきたわたしは畳の上に腰を掛け隣では千束が横になっている。

 

「いっぱい話して良いガイドだって言ってくれたのもぜぇ~んぶ嘘かぁ。」

 

「良いガイドだったのは嘘じゃないと思います。」

 

「ありがとぉ。」

 

わたしは千束に本心を言うが千束の心には届いていないようだった。

わたしは徐に千束の胸に耳を当てる。

 

「ちょーいちょいちょいちょい。」

 

「今は他の人、いませんよ。」

 

「・・・・・・本当に、鼓動ないんですねぇ。」

 

「そうなの、スゴいだろ。」

 

 

 

 

 

 

 





難産でした。
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