闇に生き光に奉仕する男の話   作:ダレン シャン

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平和な日の話

 

わたしがお店に出勤すると既に他のメンバーは集合していてわたしが最後のようだった。

今日はお昼から営業開始だが、料理の下ごしらえや店内の清掃、足りない食材などの買い出しにもいかなければならないが・・・。

 

「あぁ、大丈夫。ハチが全部やってくれたみたい。だから、開店時間まで自由にしてても良いって、先生が。」

 

千束はカウンター席で何やら緑色のゼリーを食べながらそう言った。店内はを見回すと綺麗に清掃されていて、テーブル席やカウンターもピカピカだ。調理場を覗くとしっかりと下ごしらえも終わっているようだった。

この作業をひとりでやったのか?申し訳ないことこの上ない。

 

「あの、千束?ハチさんは今何処に?」

 

「ん~?そこにいるよ。」

 

そう言ってカウンター席に座っている千束は、向かいにある座敷に寝っ転がっているハチさんをスプーンで指差す。

そこには、白黒の着物の作業服を着たハチさんが寝っ転がってブツブツと何か言っている。

 

「やっぱ、今の季節に合わせて見た目が涼しげな方がいいよなぁ。そんで、映えも気にしないと。いやでも、それだと費用対効果が余計にかかる場合もあるし、今あるメニューと出来るだけ被らないようにもしなきゃだし。SNSでわざわざ遠くから来てくれるお客さんも増えてきてるからここでしか味わえないような奇抜さも必要か?いやでも、それだとリコリコのイメージを崩しかねないし・・・・・。」

 

な、なにやらとても悩んでいるようだった。

 

「ち、千束?ハチさんは一体、何を?」

 

「あぁ、たきなは確か初めてだったよね。こんなハチ見るの。」

 

「え、えぇ。」

 

「私が新メニューの発案を頼んだんだ。」

 

カウンター裏から店長が出て来て、わたしに説明する。

 

「いつまでも同じメニューばかりだとお客も離れてしまうからな。いくら贔屓にしてくれてる常連さんがいるにしても限りがある。だから新規のお客を獲得するための対策として新メニューを考えてもらっている。」

 

「なぜハチさんが?」

 

「やはり、こういうのは若者の意見を取り入れた方が良いからな。それに、史八はこの店の調理スタッフだ。」

 

とはいっても、かなり悩んでいるようだ。

 

「いつも、こんな感じなんですか?」

 

「う~ん、ハチ曰く、アイデアが出るときは出るし、出ないときは出ないだってさ。でも今回は結構、難産みたいだねぇ。ちょっと確認してみよう。」

 

千束は笑いながらそう言うが・・・確認?

 

「ねぇハチ、1+1は?」

 

「・・・・用益潜在力。」

 

「ダメだ。かなり重症みたい。」

 

「というか、ハチさんはお店の開店準備もしてくれたんですよね。少し休んだ方がいいのでは?」

 

「あぁ、たきな。来てたのか。」

 

気付かれてもいなかった?!

 

「開店準備のことは気にするな。俺も動いてた方が考えが纏まるかなぁ~と思いながらやっただけだ。まぁ、全然纏まらなかったけどな。」

 

ハチさんは起き上がったがすぐにまた、横になってしまい、今度はゴロゴロとし始めた。

 

「ていうか、何だよ映えって?インスタ映え?動画映え?何だよそれ?知らねぇよそんなこと!俺に映えを求めんじゃねぇよ!ド畜生!!」

 

ハチさんはかなり切羽詰まっているみたいであったが、徐に立ち上がる。

 

「ダメだ!わからん!全然アイデアがでない!とりあえず気分転換で何か腹にいれよう。」

 

そう言って、ハチさんは調理場にある冷蔵庫に移動する。

数秒後、「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」というハチさんの叫び声が聞こえてきた。

 

_____________

 

俺は、全然新メニューのアイデアが浮かばずに悩んでいた。

気分を変えるため、昨日のうちに冷蔵庫で冷やし固めていたサイダーかんを食べようと冷蔵庫を開ける。

大きめのタッパーに入れておいたし、みんなの分も皿に盛り付けようとサイダーかんの入ったタッパーを取り出すと何故か昨日ほどタッパーが軽くなっていた。

おかしいなと思い、蓋を開けてみると全体の1/3程度しか残っていなかった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

何故だ!何で昨日のうちにみんなで食べようと作っておいたものが既にこんなに少なくなっているんだ!

俺はタッパーを持ちながらカウンターに出る。

 

「おい、誰だ!俺のサイダーかんを既にこんなに食った奴は?!」

 

そう言いながらカウンターに出ると千束が見慣れた緑色の物体を食べていた。

 

「・・・あれ?もしかして、それってハチのだった?」

 

「・・・千束、なぜお前がそれを食べている。」

 

「い、いや~?実はね!今日、朝ごはん抜いてきちゃってお店に来て冷蔵庫開けたら見慣れないタッパーがあって、蓋を開けてみたら美味しそ~だったから、・・・ね!」

 

「「ね!」じゃねぇ!みんなで食べようと思ってちょっと多めに作っといたのにほとんどお前が食べちまったじゃねぇか!」

 

「いや、私だって一口、二口で済まそうと思ったよ。そしたら止まらなくなっちゃって・・・てへ!」

 

千束は右手で拳を作り自分の頭を軽くこずく。

 

「「てへ!」じゃねぇ!それで半分以上食う奴がいるか?!」

 

まぁ、いいや。サイダーかんなんて何時でも作れる。

何だったら冷やす時間を除けば15分以内に作れるしな。

 

「あの、ハチさん。」

 

「どうした、たきな?」

 

「それを新メニューには出来ないのですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・それだ!」

 

たきなからの天啓を得た。

 

「良かったじゃん、ハチ!これで解決だね!いやぁ、良かった良かった!」

 

千束はそう言うが、こいつの罪は消えないため俺は小さいホワイトボードにある文章を書き、今日の営業終了まで千束の首からかけておくように指示する。

 

___________

 

開店時間となり、お客さんが入ってくる。

そこには常連である阿部さんの姿があった。

阿部さんは私の首から下がっているホワイトボードが気になるようだ。

 

「千束ちゃん、どうしたの、それ?」

 

「いやぁ、ははは。ちょ~と今朝に色々ありまして・・・。」

 

私は苦笑いを浮かべるしかなかった。

私の首にかけられてるホワイトボードにはこう書かれていた。

 

「私は、冷蔵庫にあった物を勝手につまみ食いした泥棒です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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