喫茶リコリコにて
客入りのピークも過ぎ、小休憩中に団子を食べながらテレビを見ていると警察署に暴力団構成員らが発砲したというニュースが流れた。
そんな時に、店の扉が開き振りかえるとふたり組のリコリスが目にはいる。
こいつらは、確かこの前の・・・フキと、誰だっけ?
フキというリコリスは店には入りながら俺に話しかけてくる。
「千束はいるか?」
「あぁ、奥にいるよ。呼ぼうか?」
俺が千束を呼ぼうとしたときに声が聞こえたからか店の奥から千束が顔を出す。
「おぉ!フキ、いらっしゃ~い!」
「説明は不要だな。見せたいものがある。」
フキはカウンターに座ると隣にいるクルミが気になったようだ。
クルミは冷や汗を流している。
まさか、リコリスがこんなところに来るとは思っていなかったのだろう。
「あっ?見ない顔だな?」
「し、で、でぃ、ディ、DAノモノデス。」
クルミよ、声が震えているぞ。もうちょい隠せ。
「そうなのか~?」
「え?あ、あぁ・・う、うん。ウチのコンピューターのひと・・・。」
千束も相変わらず、ポーカーフェイスは苦手なようだ。
「ならちょっと借りるぞ。」
フキはそう言ってからクルミのタブレットにUSBメモリを挿す。
それからタブレットの画面に件の警察署内で撮られたであろう映像が映し出された。テレビのニュースでは暴力団がやったことになっていたが真相は例の銃取引の奴らが起こした事件のようだった。
まぁ、そんなこったろうとは思っていたが。
「署内の監視カメラ映像だ。」
「紋紋じゃねぇ~じゃん。」
「報道はカバーしてるに決まってるじゃないっスかぁ。」
「けど、行動前にやるのがあんたらの仕事でしょ~。」
ミズキさんの台詞にセカンドのリコリスは顔を背ける。
そんな時に、ボスが店の奥から現れた。
「おや、珍しいお客さんだなぁ。」
「団子セット、いいッスかぁ?抹茶のやつ。」
セカンドのリコリスはボスに団子セットを注文し、フキは顔が真っ赤になっている。
え、まさか?こいつ・・・ボスのこと・・・。
「抹茶団子セットね。フキ、お前は?」
「いえ、任務中なので・・・。」
フキは何かを紛らわすために横に座った千束に大声で真島がどいつか聞いてきた。
「あぁ~ああ、そんな大きな声で叫ばなくたって・・あっ!」
千束は画面を見ながら返事をすると、どうやら画面上に真島が映っていたようだ。
「こいつ!こいつ!ねぇ、ハチ!」
「そうだな。こいつだ。」
映像に映っている真島を見ながら、千束とたきなは以前自分が描いた似顔絵のことで言い争っている。
別にいいだろ。そんなこと。
「ほら、これ髪型私のじゃない?」
「色だけじゃないですか!」
「いやいや、形だって私の方が、」
ふたりのそんな言い争いをよそに店を出ていく。
「サクラ、行くぞ。」
「えぇ!まだ、団子がぁ。」
店を出ていくふたりを俺は団子を食いながらお見送りする。
「ありがとぉございやしたぁ~。」
俺が団子を食っていたためかサクラと呼ばれたリコリスに睨まれてしまった。
そんなに団子が食いたかったのか?ずいぶんと、嫌われてしまったようだ。
そんな俺にクルミが話しかけてくる。
「おい、史八。見てみろ。」
「ん?」
俺はクルミのタブレットを見て驚く。
そこには、署長室と思われる荒さらた部屋の壁にこう書かれていた。
勝負だ、リコリス!アサシン!!
なんとも大胆な、宣戦布告だ。
あぁ、ホントに嫌んなる。
________
今日の営業が終わり、ついに計画していた作戦を実行に移す時間が迫ってきた。
「腹減ったぁ~。」
「おうどんでも湯がきます?」
「いいね。」
「食べまぁす!!」
「どこにしまったっけなぁ?」
俺達のそんな言葉に外出する準備が整ったボスが声をかける。
「あ、あぁ悪いが、私は用事で外出する。」
「あら、そう?」
「どこに行くんです?」
俺は怪しまれないよう普段と変わらずに接する。
「野暮用だ。戸締まりを頼むよ。」
「りょ~かいです。」
そう言ってボスが店の後にしたと同時に俺以外のメンバーが行動を開始する。
俺はまだ、ボスが店の外にいるのが気配でわかっていたため動かない。
案の定、ボスは再び店のドアを開け顔を覗かせる。
「言い忘れたがガスの元栓・・・どうした?」
ボスは行動を開始していた俺以外のメンバーが不振な動きをしているのが気になったようだ。
しょうがない、フォローするか。
「あぁ、いや、うどんをどこにしまったか忘れちゃって。」
「ソ,ソウ!ウドンハドコカナァ?」
「ココニウドンハ,アリマセンデシタァ。」
千束とたきなは自分のバックの中を確認しながらうどんを探している振りをしたうえで棒読みだし、クルミはピョンピョン跳び跳ねてるだけだし、ミズキさんに、いたってはなんで、うどんを掛け声に体操してんだよ!
「うどんなら納戸だ。」
そんな俺達を余所にボスはうどんの場所を教えてくれる。
そう言って今度こそ、ボスは店を後にした。
数秒後、俺以外のメンバーがその場に崩れ落ちる。
「お前ら、誤魔化すのヘタクソすぎん??」
_______
尾行の準備を始めようと俺はジャケットに着替えようとするが千束から待ったがかかった。
「ちょい待ち、ハチ。そのジャケットで行くつもり?」
「あぁ、もちろん。ボスと行った時もこれで行ったし。」
「だぁめだよ!先生にバレちゃうかもしれないじゃん!私が持ってきたからこれに着替えて!」
千束はそう言って俺にスーツを手渡してくる。
「これ、スーツじゃん。嫌だよ俺。こういう堅っ苦しいの嫌いだって知ってるだろ?」
「たまにはいいじゃん!私だって今回このドレス着るし、せっかくだから髪の毛もワックスでセットしちゃおう!」
「はぁ?!そこまでやる必要ないだろ。ボスたちにバレずに行動するわけだからこんなことしなくても!」
「はい!ハチがこうやって駄々こねるのは知っていましたぁ。」
千束が、そう言って指を鳴らすと俺の両サイドをたきなとミズキさんに押さえられる。
「ちょっ、ちょっと?!ふたりとも?何してんの?」
「我慢してください。ハチさん、作戦成功のためです。」
「おもしろそぉだからぁ~~。」
俺が動けずにいると、千束が着々と俺に近づいてくる。
「まっ待て、落ち着け千束!いや、この状況で一番落ち着くべきは俺だがまず、話し合おう!話せば分かる!!」
「だぁいじょ~ぶだってぇ~、ハチが大人しくしてればすぅぐに終わるからぁ。」
「あ、あいや、ちょ、待ってまじ待って、あ、あ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そうして、俺は千束に無理矢理着替えさせられたのだった。
___________
わたし達は準備をすませミズキさんの運転する車に乗り移動している。
「もう、お婿にいけない。」
千束を挟んでわたしと逆側に座っているハチさんがそう呟く。そんなにスーツが嫌なのだろうか?似合っていると思うが。
「じゃあ、あたしが貰ってあげましょうか?」
「冗談はミズキさんの飲酒量だけにしてください。」
「そうだよ!ハチがミズキみたいな酔っぱらいを相手にするわけないじゃん。」
「なっんだと!クソガキ!!」
「おーい、おまえらぁそろそろだぞ。準備できたか?」
わたしたちはクルミの言葉にそれぞれの返事をする。
「はい。」
「はいはーい。」
「無理、もう疲れた。精神的に。」
ハチさんだけかなり参っているようだ。
「もう~、ハチ。しゃんとしなよぉ。お店の危機なんだよ?」
「いや、それは分かっているがスーツに着替えることなかったんじゃないか?というか千束、そのドレス肩と背中見えすぎじゃね。胸元も少し開いてるし。」
「いやん、もうハチってば!いつも私のそんなところばっかり見てるの?えっちぃ!!」
「・・・・・心配なんだよ。」
「えっ////・・・なっ!何言ってんだよぉ!ほらハチ、もうネクタイ曲がってる!こっち向いて。直すから。」
「ん?あぁ、悪いな。」
「おいコラ、バカップル。あたしの前でイチャコラするとは言い度胸だな。ケンカなら言い値で買うぞ、ああ゛ん!!」
「「イチャコラなんてしてねぇよ(してないよ)!」」
いや、してたと思うが、今のはカップルというより新婚なのでは?
千束はハチさんのネクタイを直してから自分の首から例のチャームを下げる。
「それ今朝もテレビで、なんか金メダル獲ってました。」
「あっそう!私にもそういう才能があっちゃうのかな?」
「弾丸避けるとか誰にでも出来ることじゃないですけど。」
「ははっ!ありゃ勘だよ。弾より速く動けたらメダル獲れるんだけどぉ。」
「アランさんの手違いだな。」
「なんちゅうこと言うんだ、貴様ぁ。まぁ金メダルとは行かなくてもぉ誰かの役には立てるでしょう。DAに戻されてる場合ではないのよぉ。」
「そうだな。」
千束の呟きにハチさんが反応する。
そんな会話をしているうちに目的地であるビルに到着する。
________
目的地であるビルに到着すると俺は千束とたきなと共にビル内へと入る。
「やべぇな、この雰囲気!」
千束は何故かワクワクしているようだった。
一回だけしか来たことはないが道は覚えているものだ。
俺が先行して進むと以前のボスと同じように壁に手を当てる。
そうすると壁の一部が開き暗証番号用のボタンが出てくる。
「は!すげぇぇ!」
どうしよう、千束が前回の俺と同じようなリアクションをしている。思考回路が似ているんだろうか?
俺がクルミから事前に教えて貰った番号を入力すると隣の扉がゆっくりと開いた。
「さて、こっからはおふざけはなしだ。」
3人で扉の前に立つ。
「ミッション、スタート!」
受付に近づくと受付スタッフから声がかかる。
「ようこそ、いらっしゃいました。恐れ入りますが、会員証をご提示していただけますか?」
俺は胸ポケットから前回作った会員証を手渡す。
「あぁ後、こっちにいるのが僕の妻でね。ここは初めてなんだが、一緒でも大丈夫だろうか?」
「妻!?//////」
千束が、何故か赤くなっているがこうした方が誤魔化しやすい。
「もちろん、大丈夫ですよ。それでは大神さまの配偶者会員として入会費3万円をいただきます。」
「カードで。」
俺はそう言ってクレジットカードを渡す。
「それで、そちらのスーツの女性はいかがいたしましょう?」
受付スタッフはたきなのことを聞いてくる。
「あぁ、彼女はウチの妻の護衛だよ。最近、何かと物騒だろ?数ヵ月前にはガス爆発事件があったり、地下鉄の脱線事故だったり、最近じゃあ警察署が襲われたりね。心配なんだよ、見れば分かるとおり、彼女は美しいからね。」
「美しい!?/////」
「どこのどいつにいつ襲われても不思議じゃない。貴方もそう思わないかい?あぁ、護衛の彼女が店に入るために別途料金がかかるならもちろんお支払するよ。」
「いえ、大丈夫です。当店には他にもそのようなお客様はいますので、それではごゆるりとおくつろぎください。」
「不意打ちはダメだってぇ!しかも2回!」
________
俺達は問題なく入店し、適当な白ワインを頼みテーブル席に座るが千束の顔が真っ赤だ。
「どうした千束?暑いのか?」
「あぁ、いやいや、な、何でもないよぉ~?」
「ハチさん、気にしないでください。ただ奇襲にあっただけですから。」
「奇襲?」
そんなものあったか?
たきなの言っていることがわからない。
「まぁ、いいや。クルミ、そっちからこちらの状況は確認できるか?」
通信機で車内で待機しているクルミとミズキさんに確認をとる。
「あぁ、既に監視カメラはハッキングした。お前らの姿も確認できているが、肝心のミカの姿が見えないな。」
「いや、見つけた。カウンター席だ。」
「うわぁ、先生なんかめっちゃ決めてんだけど。」
「ほらやっぱ逢い引きだ。逢い引き。楠木が来る前に撤退した方がいい。」
クルミはボスの格好を見て逢い引きと判断するが、相手はあの楠木だろ?それはない。
「だって楠木は。」
「女性だし。」
「え?」
たきなが声を出した瞬間、ボスに近づいてくる人物を見つけた。
その相手は、
シンさんだった。
・・・マジか~。まじで逢い引きだった。
千束もミズキさんも気付いたのかそれぞれの感想を口にした。
「たはぁ~~、逢い引きだな、こりゃ。」
「「え?」」
「私としたことがぁ~。」
「待て、ミカは
どうやらクルミも理解したようだ。
「行こう、ふたりとも。邪魔しちゃ悪い。馬に蹴られたくないしな。」
「そうだね、行こう。愛の形は様々なんだよ、たきなぁ。」
こうして俺達はイケオジふたりに気付かれないように隠れながらふたりの背後に回り店を後にしようとする。
しかし、ふたりに近づいたときにボスとシンさんの会話が耳に入ってしまった。
「急に呼び出してすまなかったな。」
「いいさ。」
「君に尋ねたいことがあってな。」
「改まって何だ?」
「手術後、私は君にあの子を託した。彼もそうだ。私のそばにいると危険だと判断したからね。その意味を忘れたのか、ミカ?」
俺は足を止めてしまった。
手術後、ボスに託した?千束のことか?じゃあ、シンさんが千束の探してる恩人?それに彼って誰だ?危険だと判断した?
何故か俺はこの話しを聞いてしまったとき、他人事とは思えないような感じがした。
「何のために千束を救ったと思ってる?あの心臓だってアランの才能の結晶なんだぞ。千束だけじゃない。史八だって、」
「!」
「え?ヨシさんなの?」
千束にもふたりの会話が聞こえているようだった。
「千束!出ないんですか?」
「ヨシさんだよ!」
「ちょ、ちょっと!千束!」
たきなは千束を止めようとするが、俺も千束と真相が気になりふたりの前に出ていく。
「ヨシさんなの?」
「千束!史八!」
千束がそう言い、ボスとシンさんが振り向く。ようやくふたりは俺達に気付いたようで、驚愕の表情を示す。
「今の話し、どういうことですか?」
「ミカ。」
「いや、違う!」
シンさんはボスに疑いの目を向けるがその誤解を千束とたきなが解くように説明する。
「ごめんなさい!先生のメールをうっかり見ちゃって。」
「指令と会うのかと。」
「お前達。」
「でも今の話し、ちょっとだけ、ちょっとだけヨシさんと話しをさせて。」
千束はシンさんに目を向けるが逆にシンさんは千束から目を背けてしまう。
「何かな?」
たきなは空気を呼んでくれたのか小声で「先に出てます。」と報告をする。
「ごめん。」
「悪いな。」
「まさか、ヨシさんだったなんて。あっ、すいません。吉松さんの方がいいか。ありがとうございました。貴方をずっと探してて、手術の後お礼を言えてなかったから。」
「それを認めることは出来ないんだよ。」
「え?」
「そういう決まりなんだ。」
「そう・・なんだ、そっか。私もいただいた時間でヨシさんみたいに誰かを、」
「知ってるよ。しかし、君はリコリスだろ。君の才能h」
「差別だ!」
シンさんが何か説明しようとしたとき、聞いたことのある声が店内に響き渡る。声のした方向を見るとクルミとミズキさんが店員と言い争っていた。
なにしてんだ、あいつら。
「ですから、未成年は・・・」
「よくIDを見ろよぉ。ちゃんと30って書いてあるだろぉ?」
「ですが、」
「でぇたぁ~。この店は見た目で人を判断するのか。」
しょうがないと思うぞ、クルミ。その見た目では誰も30とは思えない。俺は対応している店員に何とも言えない申し訳なさを覚えた。
「10代に見えるかもしれないけどこう見えて・・・ハタチ!」
「お前のことじゃねぇよ。」
何やってんだあのふたり?漫才か?
「あたしも飲みたい!男の金で!」
そんなふたりを千束が注意しようとするがシンさんは立ち上がり、店を後にしようとする。
「アランチルドレンには役割がある。ミカとよく話せ。」
そんなシンさんに声をかける。
何故か知らないがこの場ではっきりさせなければこの先ずっと俺の失った記憶についてわからなくなるような気がしたから。
「シンさん!」
梟のチャームをポケットからとりだし問いただす。
「あんたがこれを俺に渡したのか?!さっきのボスとの会話のなかで俺の名前も出てた。あんた、昔の俺のことを何か知ってるんじゃないのか?!店で初めてあんたと話したときあんた言ったよな。俺達ははじめましてだって!何で嘘をつく必要があったんだ。知ってるなら、教えてくれ!昔の俺に何があったんだ!!」
シンさんは振り返らずに答える。
「それを、私の口から言う義務も権利もない。」
「お願いd」
「ただし、もし君が本当にそれを望むなら、私のところに来るといい。私からは言えはしないが・・・
「何を言っt」
「シンジ!」
ボスが急に声を出す。何やら少し怒っているようだった。
「ではね。」
そう言って、シンさんは店から出ていってしまう。
俺も千束も呆然とするしかなかった。
「あの、ヨシさん。またぁ、お店で待ってますから。待ってますぅ。」
千束の声は届いたのだろうか?
シンさんが店を後にしてからボスにここで待つように言われ、ボスはシンさんを追いかける。
今は、千束と一緒にカウンター席に座り、なんと声をかければいいか分からずにいた。
「ヨシさんだったね、探してた人。」
「そうだな。」
「ハチのことも知ってる風だったね。」
「・・・・そうだな。」
「ありがとうって伝えられた。」
「でも、気はすんでないんだろ?」
「・・・うん、ちゃんと感謝の気持ちを受け取って貰えなかった気がする。・・・ねぇ、ハチ?」
「ん?」
「ヨシさん、またお店に来てくれるかな?」
「・・・来てくれるさ。その時ちゃんと伝えればいい。次来たときは千束の感謝の気持ちを受け取って貰えるまで帰さなきゃいい。」
千束は少し笑顔になり聞いてくる。
「そんなこと出来るの?」
「出来るさ、ドアに鍵をかけちまえばいい。窓から出入りしてくるシンさんなんて想像できないだろ?」
「あはは!確かに。そうだね、そうしよう!」
千束に笑顔が戻ったが、理解はしているはずだ。
こんなのは気休めであることに。
_______
私はシンジと一緒にエレベーターに乗っている。
「シンジ、ジンは逃がしたぞ。」
「ふっ、前はそんなに甘い男じゃなかっただろう。どうした?」
「ふたりの望む時間を与えてやろう!」
「ミカ、才能とは神の・・先駆者の所有物だ。人の物ではない。まして、私たちの物でもない。私たちは約束したじゃないか。そうだろう。」
シンジは私に近寄る
「止めろ!」
そして、シンジを突き放して銃口を向ける。
「だったら史八のことはどう説明する!神にでもなったつもりか?!」
「それも、10年前に聞かれた気がするよ。」
「ふざけるな!もう一度言うぞ、あのふたりを自由にしろ。私にはこの引き金を引く覚悟がある!」
「君の店を初めて訪れたときは、胸が弾んでいたよ。ほんとさ。10年前のあの日のように。」
私はシンジと出会った日のことを思い出す。
(はじめまして、吉松シンジです。)
(お互い、秘密が多いな。私たちはうまくやれる。)
(成功だよ!ミカ!)
(サヨナラだ。約束だぞ、才能を世界に届けてくれ。・・・類い希なる殺しの才能をね。)
私はもう何も言えなかった。
エレベーターのドアが開きシンジが出ていく。
私は自分の持っている拳銃に目を落とす。
「覚悟なんか・・・あるわけないだろ。」
_______
私はミカと別れ、既に私を待っている姫蒲君の運転する車に乗ろうとしたときに後ろから声をかけられた。
声の主はたきなちゃんだった。
「あの!」
「ん?」
「先ほどはお邪魔してしまって、でも千束喜んでいました。また、お店でお待ちしています。千束はずっと貴方を、」
「君なら分かる筈だ。史八と千束の居場所はここではないと。君には期待しているよ、たきなちゃん。」
私は彼女にそう伝え車に乗り込む。
_______
ハチと話しながら先生をカウンター席で待っているとようやく戻ってきた。
私はチャームを弄りながら先生に聞く。
「なんで黙ってたの?」
先生は目を押さえてあるため表情が読めない。
「はぁ~~。・・・・それが、君を助けるときの条件だった。」
「約束を守ったんだぁ~。その方が先生らしい。やるなぁ~千束を欺くとは。」
「すまなかった、千束。」
「いぃってぇ!気にすんなよぉ。」
「・・・すまない。」
それからハチが先生と少し話したいと言うので私はクルミ達が待つ車に向かう。
ハチも気になることがあるのだろうと思い、私は何も言わずに店を後にした。
________
千束が席に外してから無言の時間が過ぎる。
それを打ち破ったのはボスだった。
「・・・・・すまなかった。」
「別に俺は怒っちゃいませんよ。千束も貴方を許した。俺が何かを言うのはお門違いでしょ。ただ・・・」
「?」
おそらくボスは自分でも気持ちがめちゃくちゃなんだろう。
千束は先天性心疾患だ。昔から心臓が弱かった。だから人工心臓を移植した。今回の件でその提供元がアラン機関・・・いや吉松シンジさんだと言うことがわかった。
そこで、ボスとシンさんとの間に約束ごとがあったのだろう。
アランチルドレンには役割がある。シンさんの口振りから察するにおそらく、千束に何かしてほしいのか。もしそれが、千束の望まないことであったら・・・・・。
人工心臓も万全じゃない。千束は今の俺の歳まで生きれるかわからない。ボスはそれを知った上でシンさんと何かを約束した。つまり、当時はボスはシンさんに協力的だったということだ。
しかし、ボスの今までの行動や言動を顧みると、千束と深く接してるうちに情がわいてしまったのだろう。
ここまで推理してみるが、結局のところ俺のやることは変わらない。
「いえ、何でもないです。」
そう言ってから、ボスと別れた。
________
翌日も喫茶リコリコは通常営業。
しかし、もうすぐ昼休憩で常連さんはボドゲの準備をしている。
しかし、千束の姿はまだ見えない。やはり、昨夜のことが響いているのかと思う。
阿部さんも気になったのかたきなに「千束ちゃんは?」と尋ねるがたきなも「今日はまだ。」としか答えられずにいた。
ボドゲの準備をしてしているとなりの席で漫画家である伊藤さんは頭を悩ませていた。というかスマホがさっきからずっと鳴っている。
「伊藤さん、参加しません?」
「ダメ。」
「さっきからめっちゃケータイ鳴ってるぞぉ。編集じゃないのかぁ?」
「鳴ってない!」
「結局出来なかったんですか?」
俺はそう言って伊藤さんにお茶を出す。
「あぁ、ありがとう。ねぇ史八?やっぱりこの悪人は殺すべきかなぁ?」
俺は自身の感想をいう。
「うーん、俺は殺すのには反対ですね。」
「なんで?」
「だってキャラが死んじゃうと再登場させるのが限定的になっちゃうじゃないですか。過去編だったり回想シーンだったり。せっかく頭を悩ませて作ったキャラがあんまり登場しないなんて勿体なくないですか?殺すにしても、こう何て言うんですか?主人公のパワーアップのためだったり他のキャラの成長のために意味がある死をさせた方がいいと俺は思いますけどね。そういうのがカッコいい悪役キャラになるんですよ。」
「あぁ、史八と千束の方が編集より良いアドバイスくれるぅ~。編集変わってぇ~。」
「勘弁してください。俺はもういっぱいいっぱいです。」
俺は笑いながら伊藤さんから離れた。そんなときに、ミズキさんが目にはいる。
なんてかっこしてるんだ?この人は?
「ミズキっ!おまっ!陽の高いうちからなんちゅうかっこしとるんだ?!」
「ミズキさんお出掛け?」
「まぁねぇ。」
「決まってるねぇ。」
「どこ行くぅ。」
「もちろん、昨日の高級バーよ。お子様連れで入れなかったけどあたし一人で行けば入れますから、このゴールドカードで。」
「そのIDならもう消したわ。」
「なんでぇ!高級バーよ。」
「お前が低給だからだ。いいから座れ。」
「イヤだぁ!絶対行くぅ。」
子供みたいなワガママをいいながら店を出ていってしまった。
「なに?なに?野良イッヌ!メスじゃねぇか!メスはいらねぇぇぇ!」
あの人は・・・・もうダメかもしれん。
「遅いですね、千束。」
「今日くらいは休ませてやろう。」
「一人の時間も必要だしな。」
「そうですね。」
そんな会話をボスとたきなとしていたらドアの向こう側から元気な声が聞こえてきた。
「千束が来ましたぁぁぁ!!!」
そう言って千束が店に来ると一気に店が騒がしくなる。
たきなは千束に速く着替えるように言い、
伊藤さんは千束に漫画のアドバイスを求め、
ほかの常連さんに、ボドゲに参加するように促され、
クルミにパフェを作るようにお願いされる。
やっぱりそうだな。千束はみんなに求められる。
「ボス。」
「なんだ?」
「誰がなんと言おうと、ここが千束の居場所ですよ。」
「・・・あぁ、そうだな。」
ボスは微笑みながらそう答えた。
よろしければ高評価よろしくお願いします。