闇に生き光に奉仕する男の話   作:ダレン シャン

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過去の話 ③

 

僕はシンさんと一緒に車に乗っている。

 

「ねぇ、シンさん?」

 

「どうしたのかな?」

 

「これからどこへ行くの?」

 

これからの予定をシンさんに聞くとシンさんは少し考えた後に僕の質問に答えた。

 

「う~ん、すぐにこれからの君の住む所に案内しても良いが、君を引き取るためにこの後の予定は空けてあるからまずはお互いの親睦を深めようか。」

 

「しんぼく?ってなぁに?」

 

「あぁそうか。少し難しかったね。」

 

シンさんは困ったように笑う。

 

「親睦を深めるというのはね、一緒に何かをして仲良くなるという意味だよ。何処か行きたいところなどはあるかい?」

 

「行きたいところ?ん~?わかんない。だって今までおひさま園から出たことがないんだもん。」

 

「あぁ、そうだったね。」

 

そう言い再び考えてしまう。シンさんは数秒後何か閃いたような声をだした。

 

「では、水族館はどうかな?うん。そうしよう!」

 

「水族館?」

 

「うん。近くにちょっとだけ大きな水族館が新しく出来たんだ。たくさんのお魚やイルカショーが観れるよ。きっと気に入ると思うのだが。」

 

「イルカ?!イルカってあの跳び跳ねるやつ?!僕、図鑑やテレビでしか観たことない!」

 

「それじゃあ、決まりだ。」

 

僕とシンさんを乗せた車は水族館へ向かっていった。

 

_______

 

私は今日、孤児院で管理していた最後の被検体である少年を引き取りに来た。少年の第一印象は「明るく人懐っこい子ども」であった。

今までの被検体はアニムスの副作用である流入現象で全員死亡してしまった。

この少年は私の望みを叶えてくれるのか疑問が残るがこの少年が駄目でもどうせ孤児だ。代わりはたくさんいる。

もし、この少年がアニムスに適合できずに死亡してしまってもまたあの孤児院に新しい子どもたちを補充すればいい。

私がそう考えていると少年からどこに行くのか問われた。

 

今日はアニムスのメンテナンスのため少年をこれからの連れていってもアニムスに接続することは出来ない。それに、いつもは分刻みで詰まっている私の予定も珍しくこの後は空いていた。

 

私は少年と少しでも信頼関係を築くために親睦を深めようと少年の好きなところへ行こうと提案するが少年は孤児院から出たことがないことを失念していた。外部への接触を物理的に遮断することで情報流出を防ぐため私が孤児院に課したルールだったがここで裏目に出てしまった。

 

私は子どもが好きそうな場所が何処か考え彼に水族館はどうかと提案すると思いの外、彼から食いぎみに了承を得られたため車を最近できた新しい水族館に向かわせた。

 

 

__________

 

私たちは水族館に到着し、入り口にいる係員にチケットの購入を求めた。

 

「大人と子ども、一枚ずつ。」

 

私は代金を支払い、係員から二人分のチケットを貰い少年とともに水族館へ入る。

少年は水族館に入る前から興奮していた。

 

「すごい!すごい!水族館って大きいんだね!!おひさま園よりずっと広いし、人もたくさんいる!!!」

 

「ははっ、そうだねぇ。でも、もう少し声を小さくしてね。他のお客さんもいるし、魚たちがビックリして逃げちゃうかもしれないからね。」

 

私は口の前に人差し指を当てて彼を優しく咎めると少年へ自分の口に両手を当てて小さな声で喋るようになった。

 

「そうだね、ごめんなさいシンさん。」

 

なかなか聞き分けの良い子だ。

 

「それじゃあ、イルカショーでも観に行くかい?」

 

「うん!」と彼は小さな声で元気よく返事をして歩きだそうとした私の手を握ってきた。

私は急に手を握られたため驚いてしまった。

 

「おっと。」

 

「あっ、ごめんなさい。いつも院長先生と手を繋いで歩いてたからつい。」

 

そう言って、彼は私から手を離す。

 

「ああ、構わないよ。少しビックリしただけだから。」

 

私たちは手を繋がずにイルカショーをやっている場所に向かったが運がなかったのか丁度終わってしまったところみたいだった。

 

「残念。丁度、終わってしまったようだね。」

 

「そっか。イルカ観たかったな。」

 

彼は分かりやすく肩を落とした。

そんなにイルカを観たかったのか。私には何がそんなに良いのかよく分からないが少しでも彼を元気付けようとする。

 

「また次に来たときに観にくればいいさ。」

 

「また、シンさんが連れてきてくれるの?!」

 

彼は目を輝かせて聞いてくる。

 

「もちろん。また私とここに来よう。」

 

子どものことだ。そのうちに忘れると思い、私は彼とそんなに約束をした。

 

私の答えに満足したのか少年は元気を取り戻し、私は少年とともにいろいろな魚を観て回った。

 

「ねぇ、シンさん?何で同じ水槽のなかにいるのにあそこにいる鮫とか他のお魚を食べないの?」

 

「それは、水槽のなかにいる魚は満腹の状態を維持しているんだ。だから鮫などの魚を餌にしている生物は他の魚を食べることはないんだよ。」

 

「そうなんだぁ。」

 

彼はそう言って、今度は小さな声でショーケースにいる生物を指差しながら言う。

 

「シンさん、このタツノオトシゴっていう子も魚なの?」

 

「もちろん。そんな成りをしているが歴とした魚だよ。」

 

「へぇ、何でこんな変な形してるの?」

 

「タツノオトシゴはまだはっきりと解明できていないことが多くてね。諸説あるが、この姿が一番プランクトンや小エビといった餌を食べやすいからだとも言われているんだ。それからタツノオトシゴは雄の育児嚢といわれる所に雌が卵を産み卵が孵化まで雄の育児嚢の中に赤ちゃんがいることからよく雄が出産すると勘違いされているよ。」

 

「育児嚢?カンガルーのお腹の袋みたいなもの?」

 

「そうだね。イメージとしては近いんじゃないかな。」

 

「そっかぁ~。・・・シンさんって何でも知ってるんだね!」

 

「はははっ、何でもは言いすぎかな。私にだって分からないことはあるさ。」

 

「たとえば?」

 

私は考えた。正直に話したところで彼は理解できない。

ここでは少しぼかして答えるか。

 

「ん?ん~、形のないものの創り方とか?」

 

「形のないものをどうやって作るの?」

 

「ふっ、それが分からないんだよ。」

 

「あっ、そっか。じゃあ、僕が協力するよ!」

 

「では、君には期待しても良いかな?」

 

「いいよ!」

 

このときの私はふざけて彼とこのようなやり取りをしていたが、まさかこの少年が私の期待を遥かに越えて応えてくれるとは夢にも思っていなかった。

 

時間を確認すると思っていたより時間が経っていたようだ。心苦しいが彼を呼び寄せる。

 

「すまない、そろそろ時間だ。車に戻ろう。」

 

「そっか、もっと観て回りたかったけどしょうがないね。」

 

「観れなかったところは次回までのお楽しみだね。」

 

「!、うん!!」

 

彼は元気よく返事をして私と一緒に車に乗り次の目的地へと向かう。

 

_______

 

僕たちを乗せた車が目的地に着いたようで僕はシンさんとともに車を降り、今日何度目かも分からない気持ちになる。

 

「うわぁ。水族館も大きかったけど、このお家もおっきいねぇ。ここがシンさんのお家なの?」

 

「ここは、私の仕事場さ。ん、いや?寝泊まりするという意味では家なのかな?・・・まぁいい、今日からここが君の家になるからね。」

 

「すご~い!僕、こんな大きいお家住むの初めて!!」

 

僕がドアに近付くとドアに手も触れていないのにドアが勝手に開いた。

 

「え?!なに?!シンさんすごい!触ってもないのに、ドアが勝手に開いたよ!」

 

シンさんは僕の驚いた行動一つ一つに笑っていた。

もちろんエレベーターに初めて乗ったときも笑われた。

 

_______

 

私たちは一緒にエレベーターに乗り目的の階で降りたが彼は少々不機嫌な様子であった。

しまった。流石に笑いすぎなかな?

 

「むっす~~!」

 

「ふふっ、すまない、流石に笑いすぎたよ。」

 

「いくらなんでも笑いすぎじゃない?!シンさんにとっては当たり前のことだけど僕にとっては初めてのことだらけなんだから?!」

 

「そうだねっ。でも、ごめん。君のリアクションが面白くてね。ははは!」

 

「まぁた笑った~、もうぅ~!」

 

「ふっ、まぁお詫びといってはなんだが君のために用意したものがある。着いてきなさい。」

 

「?」

 

私はある部屋の前で立ち止まって部屋の扉を開く。

 

「さぁ!今日からここが君の部屋だ。必要そうな物は一通り揃えてあるから自由に使うといい。」

 

用意した部屋は大学生の一人暮らしのようなものだが幼い彼には充分だろう。

彼は一瞬だけ目を丸くして部屋の中を見ていたが途端に走り出しベッドへとダイブした。どうやら気に入ってくれたようだ。

 

「すっご~い!ベッドだぁ!おひさま園は皆、布団で寝てたから憧れてたんだぁ!それにここ、僕の部屋ってことは僕の自由にしていいの?!」

 

「もちろん。でも物は壊さないように、後片付けもこまめにね。」

 

「はぁ~い!」

 

「それと、トイレとお風呂は部屋の中に備え付けのものを使ってくれればいいし、掃除も定期的に清掃係の人が来てくれるから。」

 

「ご飯はどこで食べればいいの?」

 

「食事は朝昼晩と決まった時間に他の者にここへ持ってこさせよう。」

 

彼の質問に答えていくと彼は明日からのことを聞いてきた。

 

「ねぇ、シンさん?」

 

「ん?」

 

「僕は明日からここで何をすればいいの?おひさま園では院長先生に勉強を教えて貰ったり、皆と遊んでたりしたけど。」

 

「あぁ、そうだね。明日から朝ご飯を食べた後にまた、ここに私が迎えに来るからその時に、詳しく話そう。今日は疲れただろうから、ゆっくりおやすみ。」

 

私はそう言って、彼の部屋を後にした。

 

_______

 

疲れた。

普段と違うことをすると精神的に疲れる。

ましてや相手は子どもだ。私は結婚していないし、もちろん自分の子どももいない。彼は今日一日で様々な初めての経験をしていたが、私にとっても「子どもを連れて行動する。」は初めての経験だった。

世にいる親は毎日こんな大変な思いをしているのかと少しだけ尊敬の念を覚えた。

いや、彼は物わかりのいい方だろう。水族館から出ていくときも私に対して文句を一つ言わずに着いてきてくれた。念願だったイルカショーも見れないことに対してもわがままを言わなかった。彼と同じくらいの年の子どもならだいたいは駄々をこねるようなイメージがあるが彼には一切そういうのがなかった。

 

不思議と私は彼に好感が持てた。

 

________

 

朝ご飯をすませ、手持ち無沙汰となり時間を潰すため、僕は勉強机の上にあった算数のドリルの問題を解いていたら突然、僕の部屋のドアがノックされた。

 

「は~い。」

 

僕は返事をしながら、ドアを開けるとそこにはシンさんが昨日とは違う色のスーツを着て立っていた。

 

「おはよう。昨日はよく眠れたかい?」

 

「うん!ベッドも枕もフカフカだしよく眠れたよ。」

 

「それは良かった。」

 

シンさんはそう答え、僕を部屋から連れ出し一緒にエレベーターに乗る。シンさんはエレベーターのボタンを押さずにカードを差し込むとエレベーターが動き出した。

 

「シンさん?これから何するの?」

 

「これから、君に少し手伝ってほしいことがあるんだ。」

 

「手伝って欲しいこと?僕に?」

 

「そう。さぁ、着いたよ。」

 

エレベーターが開くとたくさんの白い服を着た人がいた。机や椅子もたくさんあり、その上には見たこともない機械や本がたくさんあった。

 

僕はその光景に目を奪われながら前を歩くシンさんについていくと開けた場所に出た。そこには何やら固そうなベッドがあるだけだった。

 

「シンさん、この固そうなベッドは何?」

 

「これは、アニムスという我々が造った装置だよ。」

 

「あにむす?」

 

「さぁ、アニムスに横になりたまえ。」

 

「手伝ってほしいことがあるんじゃないの?それに、まだ起きたばっかだし全然眠くないよ。」

 

「ははは、大丈夫。本当に横になるだけでいいし、直ぐに眠くなってしまうからね。」

 

「ふーん。」

 

僕はシンさんに手伝ってもらい、アニムスの上で横になる。シンさんは、変なコードを僕の腕に着けた。

 

「君には期待しているよ。」

 

「?、シンさん、どういうk」

 

シンさんの言葉の意味が理解できず聞こうとするが突然の眠気に襲われて僕は意識を失った。

 

 

________

 

「ん?ん~、ふぁ~~あ。あれ?ここは?」

 

起きたときには僕は自分の部屋にいた。

カーテンが開いていて、夕日射し込んでいた。時計で時間を確認すると午後5時を過ぎた頃だった。

 

「あれ?僕いつ寝たんだっけ?」

 

朝ご飯を食べた後にシンさんが来て、一緒に変な場所へ行って、確か・・・アニムス?っていうのに横になって、突然眠くなってそれから・・・。

 

夢を見た。

僕は滅多に夢を見ない。夢の内容は覚えていないが、はっきりと夢を見た感じがする。

 

「ん~?ま、いっか。院長先生も夢の内容は忘れちゃうものだって言ってたし。」

 

僕は深く考えなかった。そんな時、部屋のドアが開いた。シンさんだ。なんだか機嫌が良さそうだった。

 

「おや、起きたのかい?」

 

「あっ!おはよう、シンさん!ん?おはよう?もう夕方だけどおはようで合ってる?」

 

「ははは、気分はどうかな?体調が悪くなったりしてないかな?」

 

「んーん、別に大丈夫だよ。でも、変な夢を見た気がするんだ。」

 

「ほう。どんな夢だい?」

 

「う~ん、それがよく覚えてなくて。」

 

「そうか、まぁ気にしてもしょうがないことだ。お腹が空いているだろう?すぐに準備して持ってこさせよう。」

 

「ありがとう。それよりシンさん、何か良いことがあったの?」

 

「え?何故だい?」

 

「何か機嫌が良さそうだから。」

 

「・・・あぁ、あったよ。君のお陰だ。」

 

「僕、なにもしてないよ?」

 

「いいや、してくれたよ。ありがとう。」

 

「?」

 

僕はシンさんが言っている意味が分からず首を傾げた。

 

「明日も今日と同じような感じになるけど構わないかな?」

 

「また、あの変なベッドに横になるの?」

 

「そうだね。」

 

「う~ん、いいよ!シンさんがそう言うなら!」

 

「ありがとう。それではまた明日も迎えに来るよ。」

 

そう言って、シンさんは僕の部屋から出ていった。

 

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