私がミカをバーのカウンター席で待っていると数分後にフォーマルなスーツに身を包んだ彼が私の隣に座る。
「すまない、待たせたな。」
「構わないさ。それよりも早速だが頼み事というのは?」
私は話を切り出すとミカは一台のタブレットを取り出し、動画を見せてくる。
その動画には、史八と歳の近いであろう赤い制服のような服装の少女が彼女よりも一回り大きいベージュの服を着た6人の少女達をペイント弾で無力化する動画であった。
もちろん、ベージュの服を着た少女達もペイント弾を発砲するが、走りながら近づく赤い服の少女には当たらない。少女は取り囲まれたが迅速に且つ確実にペイント弾を発砲し、無力化していった。
「素晴らしい。銃では彼女を殺せそうにないな。」
私は素直な感想を言った。
史八の他にこれ程の才能を持った子どもが居るとは。
もし、この少女が史八と共に…、
私がそう考えているとミカから声がかけられる。
「あぁ。しかし、」
ミカが何かを言いかけたとき動画内で少女が急に苦しみだし倒れてしまった。
「先天性心疾患だ。もって半年。病が彼女を殺す。」
「ふむ。」
何故才能を持つ者に限ってこのような障害があるのか。
神のイタズラか?
私はこの事実に憂いを帯びた気持ちになる。
「そうはさせない。」
私には、解決策があった。
以前から支援しているアランチルドレンの一人に「川辺楓」と名乗っている人物がいた。
彼女は完全置換型人工心臓を製作していたはずだ。機関として接触するのは御法度だがそんなことはどうでもいい。この素晴らしい才能を見捨てる方が愚策だ。
早急に彼女と連絡を取ろう。
そう思っていると再びミカから話しかけられる。
「それで?そちらの頼みというのは?」
「あぁ今日、相談しようと思っていたが、次に会ったときでいい。まずは、彼女の心臓の件を片付けよう。」
「お前が良いならこちらも構わないが…。」
「数週間欲しい。準備ができたらこちらから連絡させてもらう。」
「わかった。」
そう言って、この日はお互い帰路に着いた
帰路の途中で彼の・・・史八のことについて考える。
私はもう彼とは会っていない。私の存在自体が彼にストレスを与えてしまうことを危惧しての行動だ。他のスタッフも彼との接触は最低限にしている。
彼は記憶を失ってからすっかり変わってしまった。忙しないくらい元気だった性格は成りを潜め、物静かなものに変わり口数も減ってしまっているようだ。食事も最低限にしか摂らず、流入現象が起きると、頭痛や幻覚で苦しみだし頭を抱えて泣いていることが多い。部屋の前ですすり泣く声がよく聞こえる。
私はどうすれば良かったのだろうか?
_____
私は「川辺楓」に連絡を取り、人工心臓を受け取りに行く。
彼女から人工心臓の注意点を聞き、再びミカと連絡を取る。
今回はとあるホテルの一室で落ち合うことになった。
ベッド上に人工心臓の入ったアタッシュケースを開きながらミカに説明する。
「これもまた、アラン機関の支援によって生まれた才能の結晶。」
「拍動なしの完全置換型人工心臓。現在知られている技術の数世代先を行く最も実用に足る代物だ。」
「とは言え、完全ではない。」
「と言うと?」
「耐久性に問題が…、恐らくもって彼女が成人するまで。」
「リコリスの現役は精々18だ。それだけ生きれば充分、」
「充分殺すか?」
私がミカの言葉を遮ったため彼はこちらに目を向ける。
「殺しの才能であれ、世界に届けられること。それが1番重要な条件だ。」
「期待には応えよう。」
「そうか、ならばいい。」
私はミカと数秒見つめ合うが彼が私に尋ねてくる。
「それで?お前の頼み事というのは?」
「そうだった。1人、ミカに預かって欲しい少年がいるんだ。」
「おいおい、私のところは保護施設なんてやっていないぞ。」
「はっはっは。大丈夫、彼はもうすぐ10歳になるし、とても素直な子だよ。手はかからない。」
「そういう意味では、」
「分かっているさ。お互い秘密が多いからな。取り敢えず、これを見てくれ。」
そう言って、私はミカにタブレットで史八が記憶を失う前に撮影した動画を見せる。
動画を見ていたミカの顔が徐々に驚愕のものへと変わっていった。
「…シンジ、彼は一体何者だ?」
「さっき言ったじゃないか。もうすぐ10歳になる少年だと。」
「ふざけるな!こんな、これは…。どう考えても10歳になる少年の動きじゃない!裏の仕事をしていた私には分かる!これは、何度も死線をくぐり抜けてきた猛者の動きだ!……それも暗殺に特化した…。」
「流石だね、ミカ。」
「茶化すな。どういうことか説明しろ。」
「彼はね…特別なんだよ。」
「特別?」
私はミカに話した。
私の話しを聞きミカが尋ねてきた。
「才能は神からのギフトではなかったのか?」
「神にでもなったつもりか?」
「私は神ではない。ただの人間だよ。今までもそしてこれからもね。私はただ、彼の才能を最大限に伸ばしただけに過ぎない。」
「そうか。」
「彼を預かってくれないか?彼の力は今見た通りだ。きっと、君の役にも立ってくれると思うのだが?」
ミカは考えるように腕を組んで数秒後口を開いた。
「…少し考える時間をくれ。」
「わかった。しかし、出来るだけ速くしてくれ。彼が私の側にいるのは危険なんだ。」
そう言ってから私は部屋を後にした。
_______
DAに戻ってからも私は頭を悩ませていた。
千束の心臓の件は取り敢えず今は大丈夫だ。後は、手術の成功を祈るのみ。問題はシンジからの頼み事だった。
少年を預かって欲しいなんて想像していなかった。
普通なら断ることができた。
そう……、普通なら。
彼は普通ではなかった。動画で見た彼の動きは何十年も研鑽を重ねてきた猛者の動きだった。
彼には今現在歴代最強リコリスとの呼び声もある千束でも、倒せないだろう。
もし、彼がこれからDAに仇なす存在になるとは考えられないがもしも、彼が我々の敵として立ち塞がった時はこちらの敗北は必至。
だったらこちらで抱え込んでおくのも手か?
いや、彼の存在をどうDA本部に説明する?隠し通せるのもではない。それならばリリベルにするか?
いや、しかし…。
私は色々と考えていたがそんな時、聞きなれた明るい声に話しかけられる。
「先生!どうしたの?何か考え事?」
千束が私の顔を覗き込むように見てくる。
「千束か。今日の訓練は終わったのか?」
「うん!フキも終わってるよ。これから晩ごは~ん!」
「そうか。発作は?」
「大丈夫!今日は苦しくなかったよ!」
「そんなことよりなんか悩み事?」
この子にとって自分の命に関わることは「そんなこと」らしい。
私は千束の質問に答える。
「悩み事と言えば、悩み事なんだがなぁ~。」
「なぁにぃ~?はっきりしないなぁ~。」
「知人から頼まれ事をされてな、どうするべきか考えているんだ。」
「頼まれ事って?」
「それは言えない。」
「いいじゃん!先生のケチ~。」
千束はしばらく考え込む。
「ん~?でも、いいんじゃない?受けちゃっても。」
「おいおい、簡単に言ってくれるなよ。」
「でも結局、先生がどうするか決めるんでしょ。だったら応えてあげた方が良いんじゃないの?その知人さんの頼み事。」
千束の言葉に私は数秒考えてから結論を出し、シンジに連絡を入れた。
______
俺は、これからどうなるんだろう?
部屋の中で考える。しかし、考えたところで答えが出るわけでもなかった。
何をするわけでもなく、ベッドの端に座る。その時、急に頭痛と幻覚に襲われる。
また、流入現象だ。頭が割れるように痛い。死者の声が聞こえる。両手で耳を塞いでもずっと聞こえる。
もう嫌だ。
流入現象は数十分経てば自然に収まるが、ふとした時にまた発現してしまう。
「死にたい。」
流入現象が治まった頃、部屋のドアがノックされたため、「はい。」と返事をする。
部屋に入ってきたのは薄い赤毛で無表情な見たことない女性であった。クールビューティーという言葉が似合うだろう。
赤毛の女性は俺の引き取り手が見つかったからここから出る準備をして欲しいとのことだった。
しかし、持っていくものは金色の梟のような鳥のチャームだけだった。誰に貰ったのかも分からない、拾っただけかもしれない。
しかし、何故か分からないがこれだけは持っていかないといけない気がした。
「それだけで良いのですか?」
「はい、大丈夫です。」
赤毛の女性は俺がチャームをズボンのポケットに入れたのを確認してから俺を案内した。
到着したのは公園のある広場だった。遊具で遊んでいる俺より年下であろう少年少女達の向こうには電波塔が見えた。
そんなことを考えていると赤毛の女性が話しかけてくる。
「ここで待っていてください。じきに、引き取り人が貴方を迎えに来るはずですので。」
「分かりました。」
「それでは、私はこれで。」
立ち去ろうとする女性に声をかける。
「あの。」
「?」
「お世話になりました。」
俺はそう言ってから女性にお辞儀をする。
「私は貴方をここまで連れてきただけです。お世話した覚えはありません。」
「なら、俺が世話になった人に伝えてください。記憶がなくなってしまったので誰に世話して貰ったのか覚えてないんです。」
彼女は軽く溜め息をつく。
「伝えましょう。」
「ありがとうございます。」
「ご武運を。」
彼女は俺にそう言ってから今度こそ立ち去った。
近くに誰も座っていないベンチがあったためそこに座って引き取り人を待った。
________
シンジからの連絡を貰い指定された場所に向かうと既に彼はベンチに座っていた。動画でしか見たことがなかったが、彼は動画より幼く見えた。
私は彼に近づき話しかける。
「大神 史八君…だね。」
「そう…ですけど、貴方は?」
「私はミカ。君を引き取りに来た者だ。」
「そうなんですね。」
彼は少し驚いたような声を出した。
「どうかしたか?」
「あぁ、いえ、すみません。不快感を与えてしまったのなら謝罪いたします。ただ、外国の方だとは思ってなかったので。日本語もお上手なようで。」
そういうことかと私は納得した。誰だって見ず知らずの人間に話しかけられれば少なからずびっくりする。相手が外人ならなおのことだろう。
「ははは、ありがとう。私は仕事で日本での暮らしが長くてね。頑張って覚えたんだよ。それにしても、君は歳のわりに丁寧な言葉遣いをするね。」
千束とは大違いだ。
「いえ、これからお世話になる方に失礼は出来ませんので。」
彼と少し話をするためベンチに座ろうとする。
「隣…座ってもいいかい?」
「どうぞ。」
彼と一人分間を空けて私もベンチに座る。
「少し、君と話がしたい。」
「?」
なんの話しをされるかわからず彼は私の顔を見る。
彼をDAに連れていけばもう彼はこの先、DAの関係者として生きていくしかなくなる。DAは秘匿されている組織だ。学生のバイトのようには辞められない。その覚悟があるか彼に聞く必要があった。
「正直に言うと、私はまだ君を引き取ろうか迷っている。それは、私の仕事に関係しているんだ。」
「仕事?」
「私が、この仕事について君に説明すれば君は私の関係者となり、君は君の一生をそこに縛られるかもしれない。君にその覚悟があるというのなら私と一緒に行こう。」
「…………。」
彼は考えているようだった。当たり前だ。自分のこれからの人生が決まるようなものだ。
数分後、視線を下に向けたまま彼が口を開いた。
「……覚悟はありません。」
当然だろう、彼はまだ幼い。
私はシンジに連絡しようとスマホを胸ポケットから取り出すと彼は言葉を続ける。
「でも、どうでもいいんです。そんなこと。」
「どうでもいい?」
「これから引き取ってくれるミカさんには悪いんですけど俺はもう……、死にたいんです。」
「死にたい?」
「流入現象がひどくって…、あっ流入現象というのは…、」
「大丈夫だ。シン…いや、君の前の引き取り人から聞いている。」
「そうでしたか。あ~つまり、流入現象がいつ来るかも分からないから怖いんです。」
「俺は何のために生きているのか。何のために苦しみ続けなければならないのか分からないんです。それに、」
「?」
彼は自傷気味に軽く笑う。
「俺一人が死んだところで世界は何も変わらないでしょう。」
「生きる理由がない。」
私は驚愕した。
まだ、9歳の子どもにここまで言わせるか。
彼の精神はかなり危険なようだった。シンジからも言われている。扱いには充分、気を付けるようにと。
「そうか、君の気持ちはわかった。向こうに車を待たせてある。来なさい。」
私は立ち上がって彼にそう伝えると彼も立ち上がり、私の左側を歩くいて、車に乗り込む。
________
車でDAに向かうまでに史八君にDAについて説明した。
リコリスとリリベルの存在のこと。我々がリコリスを使って犯罪を未然に防いでいること。DAが秘匿されていること。
私は彼に全てを話した。
「荒唐無稽の話しで簡単には信じられないだろうが、」
「いえ、信じますよ。」
「本当か?私が君をからかっているだけかもしれないのに?」
「本当にからかっているだけなら自らそんなことを言わないでしょう?それに、分かるんですよ。」
「分かる?何が分かるというんだ?」
「嘘をついているか、いないか。」
「!?」
「言語は数多く存在しますが、大きく分けて2種類の言葉しかありません。」
「ほう?」
彼の言い分に興味が湧いた。
「真実の言葉か嘘の言葉。この2つしかありません。」
「それが、君には分かると?」
「はい。感覚的なもので、説明しろと言われたら難しいんですけど。」
「それに、世界でも裏で暗躍している組織はありますよ。」
嘘と真実が分かるということには少々疑問が残るが、彼の最後の言葉には妙な説得力があった。
____
無事にDAに到着し、史八君が他のスタッフにバレないようにフードで顔を隠して貰い声も出来るだけ出さないようにお願いした。
目指すのはDAの地下にある使われていない一室。
ここは過去にリコリスが使っていた部屋だが、新しくリコリス達の寮が出来たためリコリスたちは現在のリコリス棟へ移った。
そのため、今現在ここは誰にも使われていない。
彼を隠すにはここしかなかった。しかし、何時までも隠し通せはしないことも事実。
まぁ、楠木辺りにバレたらその時考えればいい。
「取り敢えず、史八君。必要なものは部屋の中に準備したが、他に必要なものがあったら言ってくれ。食事は朝昼晩と決まった時間に私が持ってこよう。」
「ありがとうございます。」
「後、分かっていると思うが…、」
私が申し訳なく言うと史八君は私の言葉を遮る。
「大丈夫です。この部屋からは無断で出ません。」
「すまないな。」
「謝らないでください。それに、ここなら流入現象が起きて大声を出してもここの人たちは聞こえないでしょうし。ありがたいです。」
「そんなにひどいのか?流入現象というのは?」
「ミカさんには関係ありません。お気になさらないでください。」
私は「そうか。」と言ってから彼の部屋を後にする。
____
ミカさんが部屋を出ていってから数十分後、ベッドで横になっていると流入現象が起きた。
天井に亡霊達の顔が浮かび上がり俺に呪いの言葉を吐く。目を閉じても、耳を塞いでも奴らの顔が目蓋の裏側に顔が浮かび、呪いの言葉はずっと続く。
「早く…早く終われ。終わって…くれ。」
俺は蹲るしかなかった。
言葉が聞こえなくなり、ふと目を開けると両手が真っ赤に染まっている。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
俺は驚いて洗面台まで走り、手に付いた血を水で洗い流すが気づけば俺の手には一滴も血なんて付いていなかった。
急激な吐き気に襲われて嘔吐する。吐くものがなくなっても胃液だけが出る。
口の中に酸っぱさが残る。
……気持ち悪い。
こんなことが数週間続き、アニムスに接続されていないのにも関わらず流入現象が治まることはなかった。
「死にたい。」
___
私は午前の訓練を終えて午後の訓練に向けお昼ごはんををフキと一緒に食べている。
ここの食事は美味しい。そこに不満はないが、おやつを作ってくれない。かりんとうしか出てこない。食事が終わり正直な言葉が口から漏れる。
「あぁ~、プリン食べたい。パフェ食べたい。甘いものが食べた~い。」
「お前、まだそんなこと言ってんのか?」
私の愚痴にフキがツッコミを入れる。
「フキだってたまにはスイーツとか食べたくならないの~?」
「かりんとうがあるだろうが。」
「いやいや、そればっかりだと飽きるでしょ。」
「お前、この間まで旨い旨いって食べてたじゃねぇか。わたしの分までなぁ!」
どうやら食べ物の恨みは恐ろしいらしい。
「だぁから!ごめんって謝ったじゃん。」
「ふんっ!そんなことより、あの噂聞いたか?」
「えっ?噂ってなに?」
「わたしも他のリコリス達が言っているのが耳に入っただけだから詳しいことは分からないが、何でも旧リコリス棟から人の声が聞こえるらしい。」
「え!何でなんで!あそこってもう使われてないでしょ?!」
フキの面白そうな話しに思わず食いついてしまう。
「何でちょっと楽しそうなんだよ。まぁいい。確かにあそこは既に誰にも使われていないが何人ものリコリスが声を聞いたらしい。」
「声?」
「あぁ、叫び声やら死にたい、死にたいってずっと言ってるらしい。何でも、任務に殉職したリコリスの霊が住み着いてるんじゃないかってリコリスの間で今、噂になってるみたいだぞ。」
「へぇ~。」
私は妙案を思い付いた。
「ねぇ、フキ!それ私たちで調べてみない?!」
「あぁん!旧リコリス棟は先生が立ち入り禁止にしただろうが!頭湧いてんのか、てめぇ!」
そうだった。最近になって先生が何故か立ち入り禁止にしたんだった。
そう思っているとフキが口を開く。
「ほら!もう少しで休憩も終わりだ。次は座学だ、教室に戻るぞ。」
「ああん、待ってよ。フキぃ~。」
私たちは空になった食器の乗ったトレーを持ち片付けてから教室に向かって歩きだした。
_____
私はどうしても噂の真相を確かめたかった。こんな面白そうなイベントを見逃したくない。
しかし、真相を確かめると言っても場所は立ち入り禁止の旧リコリス棟。もしバレたら先生かフキに怒られるのは必至。
「むむむ~、まぁバレたときに考えればいいか。」
私は良くも悪くも楽観的だった。
そうと決まれば早速、行動開始!っと言いたかったが、それは出来なかった。
それは何故か?
先生が怪しい行動をしていた。食事の乗ったトレーを持ち地下にある旧リコリス棟へ向かう。
私が先生を追おうとした時に突然後ろから声がかけられる。
「おい、千束。」
急に声をかけられたためビックリしてしまう。
「うわぁ!なんだ、フキか。脅かさないでよ。」
「なんだとはなんだ。もうすぐ就寝時間だから呼びに来てやったってのに。……なにやってんだ?」
「え?えぇ、と。…いや別にぃ~、なにもぉしてないよぉ~。」
「あ?お前、まさかあのくだらねぇ噂を確かめに行こうとしてたんじゃねぇよな。」
フキの目が鋭くなる。フキのこういうときの勘だけは鋭い。ズルい。
図星をつかれて懸命に誤魔化そうとする。
「そ、そんなわけないじゃ~ん。私だって先生に怒られたくないしぃ~。」
口笛を吹こうとするが上手く音が出ない。
フキの鋭い眼光が私を貫く。
「…はぁ、まぁいい、早く部屋に戻るぞ。連帯責任の罰だけは勘弁だからな。」
「はぁ~い。」
フキに見つかってしまったため今日は諦めるしかなかった。
そう思って私たちは部屋に戻りベッドに横になってから眠りにつく。
____
最近、リコリスの間である噂が広まっている。旧リコリス棟から人の声が聞こえるというものだ。
十中八九、史八君のことだろう。
私も史八君の流入現象があそこまで酷いものだとは思っていなかった。以前食事を持っていったときにたまたま、見かけたが酷いものだった。彼自身も流入現象に抗う術を持っていないため蹲っているだけだと思ったが急に叫び声を上げたり、洗面台に移動したと思ったら汚れてもいない手を洗い出したりして、とても穏やかなものではなかった。
噂が広まってしまった以上、彼をどこかに移動させるしかなかった。しかし、どこに移動させたらいい?
そう考えながら、今日も彼に食事を運ぶ。
考え事をしていたからか、このときの私は気付かなかった。
私を尾行していたファーストの制服を着た小さな影に。
____
私は既に今日の訓練を終わらせ、晩御飯も食べた。後は、部屋に戻って明日に備えて眠るだけだが、そんなことは私自身が許さない。
私は今、先生を尾行している。噂の真相を確かめるためだ。
先生は食事の乗ったトレーを持ちながらある部屋に入る。
「食事を・・てきた。・うだ、調・・?」
「あり・とう・・います、ミカ・ん。流入・・は・変・らずです。すい・・ん、俺・・び声なん・・・るから噂に・ってしまっ・る・・・よね。出来るだけ、我・・るようにして・・ですが。」
「噂・・・は気に・な・もいい。・こは・・・り禁止にしたから私・・・来ることは・・。では、食・・ここに・・ておく。また、明・・・来・よ。」
「あ・が・・・ざい・す。」
遠くて何を言っているのが分からない。しかし、何やら会話をしているようだった。
先生は幽霊と会話しているのか?いやいや、食事を持っていってる。幽霊が食事を摂るとは思わない。いや、お供え物っていう線もあり得るのか?
先生が部屋から出てきたため、私は急いで息を殺し隠れる。
先生は私の存在に気付かずに出ていく。
先生が旧リコリス棟から出ていくのを確認してから先生が先ほど入っていったドアをノックした。
______
ミカさんが部屋を後にした数分後に再びドアがノックされる。
忘れ物か?先ほどミカさんはここを立ち入り禁止にしたと言っていたのでノックしたのがミカさんだと疑わずにドアを開けてしまった。
「ミカさん?忘れ物ですか?」
ドアを開け目線を上に向けるがミカさんの姿はなく、下から視線を感じたので目線を下げると、赤い制服のような服装をした黄色みがかった白髪に赤いリボンを付けた少女が立っていた。
「あなた、誰?」
少女が首を傾げながら俺にそう尋ねてくる。
これが俺、大神史八と錦木千束との初めての邂逅であった。
ようやくここまで書けました。
次回から過去のオリ主君と千束ちゃんが本格的に関わっていきます。
リコリスリコイルの小説、読み終わりました。
個人的にはたきなちゃんが頑張って作ったまかない飯を食べてごはん粒つけた千束ちゃんが可愛すぎましたね。
たきなちゃんはまかない飯をつくって貰うためだけに他の店から大将を連れてくるという予想外の行動に笑ってしまいました。
もし、そこにオリ主君がいたらミカさんと一緒に謝ってたのかなぁ~と思います。
まだ、お読みでない方は是非読んでみてください。
とても面白い作品となっております!