赤い制服の少女が俺に何者か尋ねてきた。
俺は立ち話もなんなので彼女を部屋に招き入れ、椅子に座るように促した後に、ベッドに座る。
「それで?あなたが噂の幽霊さん?あっ!私は錦木 千束!千束でいいよ!」
彼女は元気良く自己紹介してくる。
俺は自己紹介してもいいか分からずどうしたものかと考え込む。
「あぁ~、えっと、」
「えっ!?」
彼女は突如驚いたような声を出した。
何かあったのだろうか?
「もしかして君、男の子なの?!」
「あ、うん。」
「すっご~い!私、歳の近い男の子と初めて会った!あぁ、ごめんね!綺麗な髪だから女の子かと思っちゃったよ。これからよろしくね!」
そう言って、彼女が手を差しだし握手を求めてきたためそれに応じる。
「…あぁ、よろしく。」
「それで?」
「は?」
「君はなんて名前なの?」
「…大神 史八。」
「史八君かぁ~。いい名前だね!」
しまった。いつの間にか彼女のペースに乗せられ、自分から名乗ってしまった。
俺は単純に疑問に思ったことを口に出す。
「なぁ、ここって立ち入り禁止だったと思うんだけど…。」
「でも、史八君もいるじゃん。」
「あ、いや…俺は、」
俺はどう彼女に説明しようかと考えていると彼女が突然大声を上げる。
「あぁ!!!」
「どうした?」
「今、何時?!」
時計を確認するともうすぐ22時を迎えようとしていた。その事を伝えると彼女は座っていた椅子から立ち上がりドアのほうに走っていく。
「まずい!もうそんな時間か!消灯時間だからもう帰るね!フキに怒られたくないし!」
そう言って彼女は部屋から出て行ったが、何故か直ぐに戻ってきた。
「あっ、そうだった!私がここに着たこと先生には黙っといてねぇ。」
「先生?」
「さっき、ご飯を持ってきた人のこと。」
「あぁ、ミカさんか。」
「そそっ!じゃ、またねぇ!」
彼女はそう言ってから今度こそ部屋を出ていった。
「
彼女はまたここに来るつもりか?
ミカさんに報告したほうがいいよな。
………結局、彼女はここに何しに来たんだろう?
________
翌日の朝、ミカさんがいつもの時間に朝食を持ってきてくれた。
「食事はここに置いておくよ。」
「ありがとうございます。」
「では、これで私は行くが、他に何かあるかい?」
「あの、」
ミカさんの言葉に、昨日ここを訪れた錦木千束のことを報告しようとするが、直前になって躊躇ってしまった。
「ん、どうした?」
「あ、いえ、すみません。何でもないです。」
「そうか?ならば私はもう行くよ。」
「はい、ありがとうございました。」
何故、ミカさんに錦木千束のことを報告するのを躊躇った?
分からない。
でも、こうするべきだと直感的に感じでしまった。
…まぁいい、報告なんて何時でも出来る。
また気が向いたときに報告をすればいい。
彼女だってそのうち来なくなるだろうし。
俺はそんなことを思っていたが、彼女は頻繁に俺の部屋を訪れるようになってしまった。
_______
私はあれから何度も史八君の部屋を訪れた。
今日も史八君のいる部屋に向かう。
彼と知り合ってから時間に余裕が出来たら短い時間でも彼のところに行っていた。
史八君は私に興味深い話しを聞かせてくれる。
いやまぁ、私が無理強いをして話させていると言ってもいいが…。
「史八君く~ん!来たよ~!」
「また、来たのか?」
私はノックもせず彼の部屋に入る。
最初は注意されていたが私が直さなかったためどうやら諦めたようだ。
彼は気だるそうに対応するが、いつも部屋に入れて話しを聞かせてくれる。
興味深い話しとは海外の話しだ。
私たちリコリスは孤児のため戸籍がない。だからパスポートが作れないから海外にいくことも出来ない。
だから、史八君の海外の話しはとても興味深かった。
「ねぇ、前から気になってたんだけど。」
「?」
「今までにどんな国に行ったことがあるの?」
「イスラエルにイタリア、アメリカやカナダ、パリにイギリス、後は古代エジプトと色々と見てきた。」
「そんなに外国に行きたいのか?」
「もちろん!でも、私たちリコリスは戸籍がないから行きたくても行けないの。」
「戸籍がないのは俺も一緒だ。」
「え?!じゃあ、どうやって行ったの?」
「俺は海外に行ったことはない、見たことがあるだけだ。」
「え?ということは……、え、なに?テレビや本で見ただけってこと?」
「いや、実物を見た。」
「え?」
史八君の言っている意味が分からない。
今、彼は自分の口から戸籍がないから海外に行ったことはないと言った。
でも、同時に実物を見たことがあると言っているのだ。
つまり、彼は日本にいながらに外国に行ったことがあると言っている。
そんなこと、出来るはずがない。
右を向きながら同時に左を向けと言われているようなものだ。
しかし、彼の今までの外国の話しを聞いていると妙な信憑性があった。まさに、何十年もそこに居たことがあるような。
彼の話しは嘘をついているとは思えない程だった。
その国のこと細かなことを彼は私に教えてくれた。
「ねぇねぇ!もっと教えて!」
「はぁ、わかったわかっt…………うっ、」
史八君が突然、頭を抱え込むように蹲る。
どうしたのだろうか?頭が痛いのか?
「どうしたの?!大丈夫?!」
「…………うっ、はぁ、はぁ、悪い、今日は……もう、帰ってくれ。」
尋常じゃない苦しみ方だった。
「帰れって………そんなに苦しがってるのに放っておけるわけないじゃん!」
「いいから帰れ!!!」
「やだ!ほっとけないって言ってるでしょ!一体、どうしたの?!」
「……頼む。早く帰ってk、」
「うっ!うぅ、あぁ、やめて…やめてください。お願い…します。許して、もう……許して…ください。」
突然、史八君が空中を見ながら誰かに謝りだした。
「ちょっ!ホントに大丈夫?!」
私は彼の手を取ろうと手を伸ばすが彼の手に弾かれてしまった。
「うわぁぁぁ!!止めて…止めてください。もう、勘弁してください。お願いします。…………もう……もう誰も…………………………殺したく……ない。」
「うぅ、うっ、あぁぁぁぁぁぁ!!!」
何も出来なかった。
そんなときに先生が部屋に入って来た。手には食事が乗ったトレーがあったので、どうやら夕食を持ってきたようだ。
「どうした!?史八君!大丈夫か?!」
私は先生に助けを求めた。
「先生!史八君がっ!!」
「千束!?何故、お前がここにいるんだ?!」
「そんなことより!どうしちゃったの?!話してたら急にこんなことになって、私どうしたらいいか分かんなくて。」
「……大丈夫だ。直ぐに治まる………。」
「治まるって!そんな…………この苦しみ方は普通じゃないよ!」
私たちがこうやって話してある最中も史八君は何かに魘されている。
「ごめんなさい。ごめんなさい。許してください。………殺してしまって………ごめん……なさ…い。」
史八君はその後、数十分間この場にいない誰かに謝り、魘され続け突然意識を失った。
先生は大人しくなった彼をベッドに寝かせる。
「先生?史八君は大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫だろう。今回はそれほど酷くなかったからな。」
「酷くはなかったって………、さっき以上に酷いときがあるの?」
「彼はずっとさっきの症状に苦しみ続けているんだ。」
「そんな…。」
「うっ、」
先生と話していると、史八君の目が薄く開く。どうやら気がついたようだ。
私は彼の顔を覗き込むようにして見る。
「史八君、大丈夫?」
「うぅ、なんだ、まだ……帰ってなかったのか?」
「あんなに苦しんでる人ほっといて、帰れるわけないでしょ。」
「史八君、気分はどうだい?」
「ミカさん、すいません。俺…また、」
「気にしなくていい。」
史八君は上半身だけを起こして私たちに言う。
「ご心配をおかけしてすみませんでした。もう大丈夫です。」
「わかった。今日はゆっくり休みなさい。千束、行くぞ。」
「……うん。」
私は先生と一緒に部屋を出る。
______
私は千束に何故彼の部屋にいたのかを問い詰める。
「千束、何故あの部屋にいた?」
「ごめんなさい!噂の真相を確かめたくって、先生の後をつけてたら先生があの部屋に食事を届けてたから……」
「…つけられていたのか。」
気付かなかった。
片手で目を覆い天井を見上げる。
「初めてか?彼のところに行くのは?」
「……ううん、ここ最近は毎日………。」
千束が最近、不振な動きをしてあるのは気付いていたし、同室のフキからも報告を受けていたが、まさか史八君の所に行っていたとは思わなかった。
「千束、この事は、」
「分かってる。誰にも言わないよ。それより先生、史八君のさっきのあれは何?」
さっきのあれとは、おそらく流入現象のことだろう。
説明してもいいが、私から言うのは野暮というものだろう。
そう思い、私は史八君が千束と接して彼の中の何かが変わることに期待して千束に再び彼のところに行くことを許可する。
「私の口から言うのは野暮というものだろう。明日、史八君のところへ行き彼自身に説明して貰うといい。でも、無理に聞き出すんじゃないぞ。」
「うん!」
私から彼のところに行ってもいいという許可が出されたためか千束は元気良く返事をした。
______
朝、ミカさんが持ってきてくれた食事を食べ終わり、何をするでもなくベッドに座っているとドアがノックされる。昨日の流入現象の影響でまだ体がだるかったので「どうぞ。」と返事をするとドアがゆっくりと開かれた。
「失礼しま~す。調子はどう?」
高い声が聞こえたためどうやらミカさんではないようだ。
もう見慣れてしまった、黄色みがかった白髪が目に入る。
「あぁ、お前か。また外国の話しを聞きに来たのか?」
「あっ、うん。話しを聞きに来たんだけど、今日は外国の話しじゃなくって……。」
「?」
外国の話しではない?
では、何の話だ?
「…お互いの話し。先に史八君から教えてよ。」
「俺?」
「うん。昨日のあれ、何だったの?」
そういうことか。
合点がいった。
ただ、正直に言っても良いか迷ってしまう。
「ミカさんは、なんて?」
「彼自身に聞けって。」
「そうか、わかった。」
そして、俺は彼女に話した。
アニムスのこと。流入現象のこと。そして、自分が記憶喪失であること。
まぁ、アニムスと流入現象のことを説明しているとき彼女は理解出来てなさそうな顔をしていたのであまり理解できていないのだろう。
「…………そうして、ミカさんに引き取られてここに来たって訳。わかったか?」
「そっか。……そうだったんだね。じゃ、今度は私の番だね。」
「?」
「私ね……後、半年以内に死んじゃうんだ。生まれつき心臓が弱くてね、激しい運動をすると発作が起きちゃって……先生が何とかしてくれるって言ってたんだけど。」
「そうだったのか。」
彼女の話しは自分が短命だということだった。
しかし、俺はそんな彼女を羨ましく思った。
「うん。だから、史八君には私の分まで生きt、」
「…良いなぁ。」
「良い?」
「もう少しでお前は死ぬんだろ?俺は死にたいんだ。羨ましいよ。」
俺の言葉を聞いて彼女は座っていた椅子から立ち上がり、右手を振りかぶる。
彼女の意味不明な行動を見ていたら突如、左頬に衝撃と痛みが走る。
俺は一瞬、何をされたか分からなかったが、目の前にいる彼女にビンタされたのだと気付いたとき、怒りが沸々と湧いてくるのが分かる。
「何するんだ!」
彼女にそう文句を言うが彼女は自分のとった行動に驚いていた。
「あっ、ごめん、思わず。だって死にたいとかふざけたこと言うから、つい。」
「ふざけてない!」
俺は声をあげる。
「お前に俺の何が分かる!!俺の苦しさの何が分かるっていうんだ!!今までずっと耐えてきた!これからも耐え続けなきゃいけないんだ!ずっとこの苦しみが続くんだ!!!お前にこの絶望がわかるか!!!!」
「………それでもダメだよ。命を粗末にしちゃ。」
「はっ!だったらお前にくれてやろうか?俺の心臓をよぉ!!」
「ダメだよ。そんなことしたら死んじゃうよ。」
「なんでだよ?!それで生きられるかも知れないんだぞ?!俺は死にたい。お前は生きたい。Win-Winじゃないか!」
「そうまでして生きたいとは思わないや。」
突然、声が暗くなる。
彼女は涙を流しながら言う。
「確かに、私はもっと生きたい。だけどね、誰かを犠牲にしてまで生きたいとは思わないよ。」
「なん……でだよ。それじゃあ、俺……俺は…………。」
「大丈夫。」
優しく抱き締められた。
「何してんだよ。何…やってんだよ。」
声が震える。怖いからじゃない。
涙が次から次へと溢れてきたから。
彼女は諭すように優しく言う。
「安心して。史八君は一人じゃない。私がいるから。私が一人にはさせないから。今はまだ辛いけど、きっとこの先、幸せになれるときがきっと来るから。」
「でも………それでも、俺は……。」
「先生に聞いたよ。生きる理由がないからって。私ね、こう思うんだ。人は人を幸せにするために生まれるんだって。」
「人を…幸せに?」
「そう。だから私はたくさんの人を助けたいんだ。」
彼女は俺を抱き締める腕の力を強めた。
「多分、史八君は優しいんだよ。」
「俺は…優しくなんて、」
「優しくなんてないって?そんなことない。君はとても…とても優しい人。」
「…俺にも出来るかな………?………人助け。」
「出来るよ。私と一緒にやろ。」
「あぁ。」
「今まで、よく頑張ってきたね。」
俺は彼女の胸に顔を埋める。
もう涙を我慢できなかった。
自身の感情を抑えることが出来なかった。
彼女は俺の涙で自分の服が汚れることを気にせずに俺を優しく抱き締めてくれた。
彼女の暖かさに懐かしさを覚える。まるで以前、誰かにこんな風に抱き締められたことがあるのかと思えるほど。
「暖かい。」
この瞬間から、
本日は千束ちゃんの誕生日!
おめでとう~!
YouTubeでも、最終話の予告が投稿されていましたね。相変わらずリコリコの次回予告は次回予告になっていなくて最高でした!最後にみんなで笑っちゃうのもとてもよかったですね!
みんなで最終話に備えましょう!