闇に生き光に奉仕する男の話   作:ダレン シャン

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殺したいけど殺したくない人と取引する話

 

私は朝イチで山岸先生の診察を受け、特にこれと言った症状もなかったため今は、普通にお店で接客をしている。

今日初めてのお客さんは、常連の山寺さんだ。

山寺さんはメニュー表を見て、あることに気付く。

 

「えぇ!?あのパフェやめちゃったの?」

 

「たきなが恥ずかしがっちゃってぇ~。」

 

「まだ、食べてなかったのになぁ。」

 

山寺さんが残念そうな顔をしたためオーダーを無理やり取った。

 

「オーダー入りましたぁ!ホットチョコパフェ一丁!!」

 

私が厨房にいるハチに向けてそう言うと、ハチは厨房から顔を覗かせる。

 

「後で、たきなになんか言われても知らんぞ、俺は。」

 

「いいの、いいの。お客さん第一ぃ。」

 

ハチはそう言いながらもたきなのことパフェを作り、私がそれを山寺さんに持っていこうとするとタイミング悪く、たきなと鉢合わせてしまった。

 

「あ、あぁ~ちゃちゃちゃちゃ~。」

 

もう遅いと思うが、パフェをたきなから隠そうとするが、たきなは怒ることなく暗い表情で無言のまま私とすれ違う。

 

完全に私のことを気にしている。

出来れば今まで通り、怒って欲しかった。

 

そんな時に電話が掛かってくる。

 

「はぁ~い!リコリコ看板娘!」

 

「楠木だ。千束か?話しがある。今すぐDAに来なさい。」

 

「今ちょ~と手が離せないんで、また今度でもいいですか?」

 

「それでも来い。渡す物がある。大神もな。」

 

「ハチも?それに渡すものって?」

 

「来れば分かる。」

 

そう言われて一方的に電話が切られた。

 

_____

 

今、俺はミズキさんの運転する車に千束と一緒に乗っている。

なんでも、楠木から話しがあるそうだ。

千束は助手席で外を眺めて、俺は後部座席で横になっている。

 

「よくDAに行く気になったわねぇ、アンタたち。」

 

「なってなぁい。なんか渡す物があるから来いって楠木さんしつこいのよぉ~。」

 

「お金かな?」

 

「んな訳ないでしょ~。」

 

前のふたりがそんな会話をしているが、千束の声色がいつもと少し違う。

イライラしてるな。

 

それにしてもさっきから後ろの車がうるさい。

完全に煽られてる。

ミズキさんが気付いてないはずもないし俺は気にしないことにした。

 

千束とミズキさんも後ろの車を気にしないことにしたしたようで会話を続ける。

 

「たきな、意識しちゃってるね。」

 

「そりゃ~そうでしょ。」

 

「はぁあ、だから言いたくなかったんだよなぁ。」

 

「あんたはいつも通りねぇ。」

 

ふたりの会話をBGMがわりに聞いていると車の横から男たちの声が聞こえてくる。どうやらさっきの後ろの車のようだ。

 

「おいコラぁ!」

 

「トロトロ走ってんじゃねぇぞ!」

 

男たちの罵声にミズキから呆れた声が出る。

 

「あぁもう、クソガキ。」

 

千束が銃を取り出す音が聞こえたのでミズキさんに警告する。

 

「ミズキさん、窓開けた方がいいですよ。」

 

「えっ?」

 

俺の警告とほぼ同時に千束がミズキさんの眼前に銃をつき出す。

銃口は外に向けられていた。

ミズキさんは慌てて窓ガラスを開ける。

 

「ちょっ、待って!」

 

車内に銃声が響く。それとほぼ同時に男たちの情けない声と共に車はどんどんと離れていった。

後ろを走っている車の迷惑にならなければいいが。

 

「ちょっと千束!いきなり撃つんじゃないわよ!史八もさっきから黙ってないでなんとか言いなさいよ!」

 

確かに千束の今の行動は褒められたものではないが千束の気持ちも分かるので特に注意はしない。

 

「いいんじゃないですか?さっきみたいな奴らは一回痛い目に遭わないと分かりませんよ。」

 

「…あっそ。」

 

その後は特に会話という会話もなく、俺たちの乗った車はDAに到着した。

 

______

 

俺たちは楠木さんのいる指令室に入る。

 

「じきに死ぬにしては元気そうだな。」

 

楠木のセリフが頭に来る。

我慢だ、我慢。

 

「耳が速いですねぇ。で、なんですかぁ?」

 

「DAに戻れ。」

 

楠木の言葉を聞いた瞬間千束はわざとらしく咳き込む。

 

「もう死ぬんでちょっと体調がぁ~。」

 

そう言って千束は近くのソファに倒れ込むように座る。

 

「真島が来たそうだな。」

 

「2回会いましたねぇ。」

 

「2度取り逃がした。」

 

「それは私の仕事じゃないんで。ここに来るのは最後だと思いますしぃ、もっと楽しい話ししましょうよぉ~。」

 

千束の口から最後という単語が出た瞬間胸が締め付けられる。

その事は顔には出さず千束と楠木の会話を聞く。

 

楠木が俺たちの前のソファに座る。

 

「でぇ~、なにくれるんですか?」

 

千束の言葉に楠木は黙ってテーブルの上にカメラを置く。

千束がそのカメラを見ると勢いよく食いつく。

 

「ん?なんで楠木さんがこれ持ってんの~?!」

 

「情報漏洩阻止のため回収していた。」

 

「ずっと探してたのにぃ!ドロボ~ゥ!」

 

千束の文句を遮るように楠木が口を開く。

 

「近く、大規模な真島討伐作戦を行う。お前達も参加しろ。」

 

限界だった。

俺の体は気付いたら動いていた。

テーブルを乗り越え、奴の首にあと数mmで刃先が当たる位置にリストブレードを止めていた。

 

「指令!」

 

後ろで楠木の助手の女が声を上げる。

 

「黙れ!!!」

 

俺は楠木の方を向いたまま助手の女に指示を出し、大人しくなった。

 

「楠木、あまりふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ。」

 

楠木の表情は変わらない。

 

「千束の命が短くなったことあんた知ってんだよなぁ。知った上で千束を闘いに駆り出そうとするのか?」

 

「それの何が悪い?」

 

「ふざけるな!!!千束の残りの時間をどうするか決めるのはあんたじゃない!!千束自身だ!俺は別にいいよ!そういう契約だ!だけど千束は、あんたらDAの使い捨ての駒なんかじゃない!!!」

 

「多くの者が千束を優秀なリコリスにするために尽力したというのに…録に役割を果たさずに死ぬんだな。」

 

「それは千束が望んだことじゃない!」

 

俺は楠木と数秒間ほど睨み合うが千束から声が掛かる。

 

「ハチ、落ち着いてよ。私は大丈夫だから。」

 

「千束。」

 

千束の方に振り向くと千束は微笑んでいた。

俺は楠木から乱暴に手を離し、ブレードをしまう。

 

「千束に救われたな、楠木。」

 

俺は千束の隣に移動すると千束はソファから立ち上がりながら言う。

 

「私の思う役割は楠木さんとは違うよ。ハチ、行こ。」

 

俺たちは共に部屋から出ようとする。

 

「話しは終わっていない。座れ。」

 

俺がまた行動を起こそうとする前に千束が口を開く。

 

「たきなをここ(DA)に戻してあげて。そしたら、考えなくもなぁい。あぁ、これ(カメラ)ありがとぉ~。」

 

そう言って俺たちは部屋を出た。

ミズキさんが待っている車まで戻る途中俺は千束に話しかける。

 

「よかったのか?あんな約束しちまって。正直、たきなはもうDAに戻りたいとは思ってないと思うぞ。お前だって薄々感じてるだろ?」

 

「まぁねぇ、でも結局選ぶのはたきな自身だからさ、私はたきなの選択肢を広げただけだよ。」

 

「…………優しいな、千束は。」

 

「ふっふっふ~、ハチほどじゃ~ないけどねぇ。」

 

そんな会話をしている内にミズキさんの車に到着し乗り込む。

 

「お待たせぃ。」

 

「でぇ、なんだった?」

 

ミズキさんは缶コーヒーを飲みながら聞いてくる。

 

「ん~、泥棒が自首した。」

 

「なんだそりゃ。」

 

ミズキさんはエンジンを掛け店に向かって車を走らせる。

俺は行きと同じように後部座席で横になる。

帰り道に千束が助手席からこっちを見て話しかけてきた。

 

「そうだ。ハチぃ、ありがとね。」

 

「何かしたっけ、俺?」

 

「楠木さんに掴みかかって怒ってくれたじゃん。」

 

「あぁ、あれか。」

 

「正直、めっちゃ嬉しかったんだよぉ。あれ。」

 

「気に食わない奴が気に食わないこと言ったから噛み付いただけだ。気にすんな。」

 

「まぁ、やりすぎだとも思ったけどねぇ。」

 

「そうかい。次から善処するよ。」

 

「いやそれ、絶対にしないやつじゃん。」

 

千束が笑いながら言う。

 

もう少しで千束は死ぬ。

この笑顔を見ることが出来なくなる。

これ以上闘えば千束の残り少ない時間は更に短くなる。

出来るだけそれは避けたい。

 

 

 

 

千束は………絶対に死なせはしない。

 

 

 

______

 

昨日、千束とハチさんが楠木指令に呼び出されていたがふたりに何故呼び出されたか聞いてみてもハチさんはなにも答えてくれないし、千束に至っては「泥棒が自首した。」と訳の分からない返答が帰ってくるだけであった。

そのふたりは今、配達に行っていて、そんな時に店の扉が開く。店に入ってきたのはフキさんとその相棒のサクラさんだった。

 

わたしはいらっしゃいませ、とふたりを歓迎したがサクラさんはわたしを通りすぎ店長にパフェを注文していた。

その後、店長はフキさんに話しかける。

 

「フキも要るか?」

 

「いえ、すぐ帰りますので。」

 

「えぇ!早く、早くぅ!」

 

フキさんの言葉にサクラさんは店長にパフェの催促をする。

フキさんはわたしに手紙を押し付けてきた。

手紙はDAからのものだった。

 

「これは?」

 

「おそらく、復帰の辞令だ。」

 

「!?」

 

「真島のアジトが判明した。突入に当たって戦力がいる。」

 

「良かったなぁ、おい!」

 

「ほら、帰るぞぉ!作戦は3日後だぁ。先生、失礼します。」

 

そう言いながらフキさんはサクラさんを引っ張って出ていってしまう。

 

「もう帰るのか?また、来なさい。」

 

サクラさんは手を伸ばしパフェが食べられないことを嘆いていた。

 

ふたりが出ていったことを確認してから隠れていたクルミがカウンターから頭を出した。

 

「やったな、たきな。」

 

復帰の辞令。

前のわたしなら飛んで喜んでいただろう。

でも………、今は違う。

 

 

 

今は………千束ともっと一緒にいたい。

 

 

 

______

 

俺は早々に配達を終わらせある場所に向かっている。

ボスにも帰りは少し遅くなるかもしれないと伝えてあるため店の方は大丈夫だろう。

ボスも俺がこれから向かうところは察しているようだった。

 

目的の場所に到着した。

俺はフードを被り、あの人がいる部屋に向かう。

 

____

 

ドアがノックされた。

おかしい。今朝聞いた姫蒲君からの予定ではこの時間に来る者はいないはずだ。

姫蒲君も私の隣で怪訝な表情をしている。

 

私が返事をする前にドアが開かれた。ドアの先にはフードを被り、顔が見えない青年が立っていた。史八だ。

 

彼は「失礼します。」と言いながら部屋に入ってくる。

姫蒲君が史八に銃口を向けるが彼は一切気にせず、私の前で立ち止まる。

 

「突然の訪問、お許しください。吉松さん(・・・・)

 

吉松さん…か。

もう、前のように呼んではくれないか。

 

私は少し寂しい気持ちになったがそれは表には出ないようにする。

 

「やぁ、急に来るから驚いたよ。史八君。……いや、史八と呼んだ方が良いかな?」

 

「…どちらでも。」

 

彼はそっけなく答えた。

 

「しかし、今日はどうしてここに?もうここには来ないと思っていたのだけど。あぁ、そうだ!今回の警備はどうだったかな?前回、君が来たときにはザルと言われてしまったからね。あの後、警備会社と話し合って改善してみたのだが。」

 

「そんなに変わりませんでしたよ。」

 

「そうか。」

 

私は嬉しくなる。

史八は記憶を取り戻していて、徐々に昔の…暗殺者(アサシン)としての彼に戻りつつある。

 

「そんなことはどうでもいい。本題に入ってもいいですか?あなたもそれほど暇ではないでしょう。」

 

「確かに暇ではないが…、君との会話は面白い。雑談でもしたい気分だが……、本題に入りたいならばそれも構わないさ。」

 

史八は姫蒲君に視線を向ける。

姫蒲君はまだ史八に銃口を向けている。

私が許可を出せば躊躇なく彼女は撃つだろう。

そんな彼女の説得を試みる。

 

「姫蒲君、銃を下ろしてくれ。こんな状態では落ち着いて話すことも出来ないだろう?」

 

「それは出来ません。何をされるか分からないので。」

 

姫蒲君は珍しく私に反論するが私は事実を彼女に伝える。

 

「史八が私たちを殺すつもりなら彼がこの部屋に着いた時点で我々は死んでいるよ。でもまだ、我々は殺されていないということは何か聞きたいことがあるということだ。そうだろう?」

 

私は史八に話しかけるが彼は肯定も否定もしなかった。

姫蒲君も納得したのか、銃を下ろす。

 

「さて、これでようやく話が出来るね。それで、何が聞きたいんだい?」

 

「まず………、千束を襲ったのはその女ですか?」

 

史八は明らかな殺気を纏いながら言った。

姫蒲君も再び銃口を彼に向けるが私はそれを手で制する。

 

「確かに君の推察通り千束を襲ったのは彼女だが、それは私の指示だ。」

 

私のそのセリフに殺気が消えた。

 

「そうですか。………よかった。」

 

「よかった?…なぜ?」

 

「あるんでしょう?千束の………新しい心臓が。」

 

「驚いたな、第六感か。流石だよ。」

 

「こんなの少し考えれば誰だって分かりますよ。」

「あなたはあの時のバーでこう言いました。アランチルドレンには役割があると。千束にも役割があるんでしょう?そんな千束をあなたが見殺しにするとは思えない。おそらく、あなたは新しい心臓をネタにして取引するつもりでしょう?心臓を渡すかわりに才能を世界に届けろと。」

 

「はっはっは、全く君には何度驚かされるんだろうね!」

「君の予想通りだよ。千束の新しい心臓は準備出来ている!そして、千束と君は共にその人殺しの才能を世界に、」

 

「あなたは千束のことを全く理解していないようだ。」

 

私の言葉を遮って史八はそう口にする。

 

「千束の才能は人殺しなんかじゃない。」

 

「ほう?では、なんだね?」

 

「人を幸せにする才能だ。」

 

「人を幸せに?……バカな、そんなものは才能でもなんでもない。」

 

「あなたには理解できないでしょうね。だから、あなたは千束を理解できていない。」

 

「何が言いたいのかな?」

 

「…千束は心臓を受けとりませんよ。絶対にね。」

 

「何故だね?死んでしまうんだぞ?」

 

「あいつは、人殺しをしてまで生きたいとは言いませんよ。……ずっと昔に俺の心臓をくれてやるって言ったら断られましたからね。今もその気持ちは変わっていないでしょう。」

 

「バカな……そんなこと…、」

 

あるわけがないと反論したかった。

それより先に史八が口を開く。

 

「千束との付き合いはあなたより俺の方が長い。それに、店での千束の様子はあなたも見ていたでしょう?」

 

私はミカの店で働く千束を思い出す。

無邪気に笑い、注文したコーヒーや甘味を私に持ってくる。

 

そんな私に史八は追い討ちを掛けるように言う。

 

「千束が死ねば、俺も死にます。彼女のいない世界に生きる理由はないので。おや、そうするとあなたの言う人殺しの才能は2つとも失われますね。」

 

「脅しのつもりか?」

 

「脅すつもりはありません。俺と取引してください。」

 

「取引?」

 

「それとも俺とは出来ませんか?武器商人とはしたのに。」

 

「………取引内容は?」

 

「千束の新しい心臓を渡してください。その上でアラン機関から千束に今後接触はしないと約束してください。」

 

「…こちらの見返りは?」

 

「もし、この2つを約束してくれるなら…………、俺はあなたの望み通りこの人殺しの才能を世界に届けましょう。この身が滅ぶまでね。」

 

才能を2つとも手放すか、ひとつは手放しひとつを手中に収めるか。

だったら、私の選択肢は1つしかないだろう。

 

「約束できるか?本当にその君の才能を世界に届けると。」

 

「必ず。けど、俺が殺すのは悪人だけ。罪のない人は殺しません。暗殺者(アサシン)なんでね。」

 

それは暗殺者(アサシン)の信条のひとつ。

 

「罪なき者を傷つけるな……か。いいだろう、取引成立だ。だが、新しい心臓はまだここにはない。後日、届けるようにしよう。」

 

「出来るだけ早くしてくださいね。千束の残り時間はあとわずかなんですから。」

 

「わかっている。」

 

「では、俺はこれで。」

 

出ていこうとする彼の背中に声をかける。

 

「ひとつ聞かせてくれないか?何故そこまでする?ミカから聞いているよ。殺しはもううんざりなんだろ?」

 

彼は振り向かずに答えた。

 

「千束は俺の光であり、俺が………暗殺者(アサシン)だからですよ。」

 

なるほど。

闇に生き光に奉仕する者………か。

 

「信念を身に纏ったな。似合っているよ。」

 

私の言葉には何も言わず史八はこの部屋から出ていった。

 

 

 

 





吉松さんの最後のセリフはアサクリ4の最終暗殺目標のセリフです。
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