わたしは千束と一緒に店を出て、街の方に向かっている。
そんな時、千束がわたしの服装が気になったのか話しかけてきた。
「まずはここかぁ~。ってかさ、寒くない?それ?」
「これ、千束が選んだやつですよ。」
「おぅ、夏服だろ。他にないの?」
「ないです。」
わたしは以前に千束に選んで貰った服を着ている。
当時はまだ日差しの厳しい夏だったため現在のわたしは半袖だ。
確かに千束に言われたとおり寒いが、他に着る服があっても今日はどうしてもこれを着てきたかった。
「よぉし!千束さんがたきなの冬バージョンを選んじゃるよぉ!」
そう千束から提案され、近くにあるアパレルショップにふたりで向かう。
店に入るなり、わたしは再び千束のきせかえ人形となり、次々と試着させられる。
「わっはぁ~!やっぱたきな良い素材だわぁ~!」
千束が選んだ服を試着したわたしを見てそう言うと、わたしが事前に設定していたスマホのアラームが鳴る。
「時間です。移動しましょう。」
「え、まだコートが買えt、」
千束の言葉を遮りながら次の目的地に向かう。
「時間がないのでこれで!」
「えぇ~!」
次はハチさんが提案してくれたゲームセンターだ。
レースゲームに誘うと千束は夢中でゲームのハンドルを握っていた。
レースゲームの後にはUFOキャッチャーなどをやり、時間が来たら別の場所に移動し雑貨などを見て回った。
その後少し早めの昼食をとり、再びアラームが鳴る。
千束はまだ食べている途中であったが、そんな彼女を急かして店を後にし、次の目的地である水族館に向かう。
水族館に向かう途中千束が話しかけてくるが、口の中には先程のパンケーキが残っているのか言葉が聞き取りづらかった。
「わんで、こんないほぎあふぃでまふぁるの~?」
(なんで、こんな急ぎ足で回るの~?)
「秘密です。あっ!」
そう千束に答えると水族館の前には看板が立っていた。
それを見ると臨時休館と書いてあった。
わたしが暗い顔をしていると千束からフォローが入る。
「人生、計画通りには行かないもんだよ~。」
「よし、たきな。着いてきんさ~い。」
そう言う千束に着いていくと気付いたら千束と共に釣り堀で釣糸を垂らしていた。
「トラブルを楽しむのが千束流だよぉ~。」
先程から一向に釣れない。
浮きが動く気配すらない。
「………釣れませんね。」
「釣れないねぇ~。」
結局、今日は千束を連れ回してしまった。
今日の計画はわたしが千束に楽しんで貰えるよう一生懸命考えたものだが、遊ぶ計画なんて初めて考えたことだった。
千束は本当に楽しめているのか、わたしの独り善がりではないか心配だった。
「楽しいですか?」
千束にそう聞くと千束は即答した。
「楽しいよぉ。たきなといればさぁ!」
(千束はたきなと一緒ならどこでも楽しいって言いそうな気がするな。)
千束の言葉で昨日のハチさんの言葉をふと思い出し笑ってしまった。
「ふふっ。」
「なぁにさ、急に笑い出したりしてぇ。」
「いえ、流石ハチさんだなって。」
「?」
千束は首を傾げたが、再びわたしのスマホのアラームが鳴る。
「おぉ、時間ですな。」
わたしと千束は釣竿を片付けてから駅に向かって電車に乗る。
千束はわたしが渡したしおりを見ながら話しかけてくる。
「結構、行くねぇ。どこ行くの?」
千束がそう聞いてくるが、わたしは窓の外を見ながらしおりに書いてある通りに答えた。
「秘密です。」
最後の場所はゆうひの丘だ。
しかし、最近は日が落ちるのが早くなり辺りは既に真っ暗で少し肌寒い。
しかし、わたしたちの眼下には街の灯りがありとても綺麗だった。
千束と一緒にベンチに座っていると肌寒いためか鼻がむずむずしてくる。
「へっくしゅ!」
「だからコート買えばよかったんだよぉ~。ほれぇ。」
「すいません。」
くしゃみをしたわたしに千束は自分の首に巻いていたマフラーをわたしの首に巻いてくれた。マフラーは千束の体温でとても暖かかった。
しばらく無言でふたりで座っていると千束が口を開く。
「なんか待ってる?」
「………雪。9時から。」
「ぁはっは!それで!」
「完璧なスケジュールの筈だったのですが……。」
こんな時ぐらい降ってくれてもいいのに…。
「ふっふふ、神様は気まぐれだからなぁ。」
「今日だけは止めて欲しかったですね。」
「なぁんでぇ?」
「………それは、」
「DAに戻れるのかなぁ~?」
わたしは答えなかったが千束はわたしの表情で察したようだ。
千束は満面の笑みで言ってくる。
「やっぱりぃ~!やったじゃん!いつ?」
「……明日。」
「…嬉しくないの?」
以前のわたしなら嬉しかった筈……。
でも、今は………。
「わかりません。」
「そっかぁ。確かに降ったら良かったねぇ~。」
「はい。」
わたしはそう言ってから立ち上がり千束に尋ねる。
「理不尽なことばかりです。…そうは思いませんか?」
「自分でどうにもならないことで悩んでもしょ~がない。受け入れて、全力!…大体それで良いことが起こるんだ。」
千束も立ち上がり体を伸ばしてそう言ってから言葉を続ける。
「それに、たきなの計画は大成功してるよぉ。今日はめっちゃ楽しかったぜ!」
「やるな。」
千束はわたしの目を見ながら笑顔でそう言ってくれた。
千束が拳を突き出してきたためわたしも拳を作りそれに答える。
「やったぜ。」
わたしたちは笑顔でグータッチをした後、DAに連絡しなければならないことを思い出す。
「あっ、今日中にDAに連絡しないと。」
「うん、ほら行って!」
千束に背中を軽く押されがマフラーを返していないことに気付く。
「あっ!これ。」
「餞別だ、持ってけぇ!」
「…ありがとう。行ってきます。」
そう千束に伝えてから階段を走って下りていくと白いものが視界に入る。空を見上げるとそれはゆっくりと降ってきた。
……雪だ。
わたしは振り向く。その先には千束がいて笑ってわたしを見てくれていた。
わたしたちは何も言葉を交わさなかったが千束がこの時何を言いたかったのかなんとなくわかるような気がした。
そして、わたしたちは別々の道を歩み出す。
…再会を願って。
______
しばらく歩いていると、街灯の下に立っている人物を発見する。
フードで顔が見えないが誰なのかははっきりと分かったためその人物に話しかける。
「ハチさん。」
「よう、たきな。もう良いのか?」
「はい、とても有意義な時間を過ごせました。」
「…そうか。ならよかった。」
この寒空の下、わたしを待っていたのだろうか?
それを聞こうとしたときにハチさんが口を開いた。
「なぁ、たきな。」
「なんです?」
「昨日、お前がDAに戻るって言った時にお前の人生だから俺はなにも言わないって言ったの…覚えてるか?」
「もちろん、覚えてますよ。それがどうかしたんですか?」
「すまない、いくつか……言わせてくれ。」
「?」
ハチさんはフードを外してから言う。
「必ず、戻ってこい。……千束にはお前が必要だ。
ハチさんの言葉にわたしは笑って答える。
「もちろん、必ず戻ります。わたしは千束の相棒ですから。」
わたしは堂々とハチさんに伝えると彼は軽く微笑む。
「…そうか。よかった。」
「よかった?」
「千束のことを見てくれる人が多ければ多いほど俺は安心なんだよ。………いつまでも一緒には居れないから。」
ハチさんはそう言うとフードを再び被り、こちらに向かって歩いてくる。
一緒には居られない?どういうことだろう?
その事を尋ねようとするがハチさんがわたしとすれ違いざまに先に口を開く。
「千束の
ハチさんは時折、よく分からないことを口にする。
一緒には居られない、千束の心臓は大丈夫、なぜそんなことを言うのだろうか?
「ハチさん?」
わたしはハチさんの名を呼びながら振り返るが、そこには街灯で照らされた道だけしかなく、既に彼の姿はなかった。
_____
私は史八との約束を果たすために千束の新たな心臓の入ったケースと共に車で移動している。
ミカからの着信が入るが、今は彼と連絡を取るつもりはない。
断腸の思いで彼からの連絡を断つ。
「……ミカ。」
そんな時に車を運転している姫蒲君が急ブレーキを踏む。
どうやら車道に人が立っていたようだ。
周りを見ると6人の男達が銃口をこちらに向けている。
車道に立っていたのは真島。
逃げることは不可能か…。
私たちふたりは大人しく車から下りて両手を挙げ無抵抗の意を示す。
そんな私に真島は声をかける。
「はじめましてぇ、………ヨシさん。」
真島は不気味に笑っていた。
_____
俺がたきなと別れてから自宅へ戻るとリビングの方から人の気配がした。十中八九千束だろう。
「た~いま。」
俺がリビングに入りながらそう言うと千束が出迎えてくれる。
「おぉ~、おかえりぃ!やっと帰ってきたぁ!ハチ、速く!ご飯作って!私もうお腹ペコペコだよぉ~。」
千束は自分のお腹を擦りながらそう言ってくる。
「腹減ってんなら外で食ってくればよかっただろう?なんで、俺のとこに転がり込んでくる?」
「だってぇ、ハチのご飯美味しいんだもん!」
そう言われると悪い気はしない。
俺もちょろいな。
「簡単なものしか出来ないぞ。」
「おぉ~!やったぁ!」
俺は簡単な夕食を作り、テーブルにそれらを並べ千束と共に席に着く。
「「いただきます。」」
手を合わせそう言いながらふたりで食事を食べる。
「ん~、おいひぃ~!やっぱハチのご飯は最高だね!」
「そんなに持ち上げても、食後のデザートはないからな。」
「え~、まじぃ。」
千束は本気で残念がっているようだが俺は話題を変える。
「で、どうしたんだ?」
俺の言葉に千束の表情が先程の柔らかいものから固いものへと変わる。
「………どうしたって何が?」
「惚けるな。何か話しがあるんだろ?」
千束は少し間を置いてから口を開く。
「……さっき電話で先生とも話したんだけど。お店、閉めようかなって。」
「…ボスはなんて?」
「お前達、2人で決めなさいって。」
「そっか。」
しばらく無言の時間が流れるが、千束が無理やりこの重い空気を変えるように明るく話す。
「ほら!お店も私のわがままでやってきたもんだし!私ももうすぐ死んじゃうからお店を続ける意味も、」
千束の口から死という単語が出てきた瞬間、嫌な気持ちになる。
「死ぬなんて軽々しく言うな!!!」
急に大声を出した俺に千束は驚いてしまったようだった。
「……ごめん。」
「あ、いや、すまん。俺の方こそ、………お前が言うなって話しだよな。」
「ううん。ハチはあの頃とは違うもん。今のはわたしが悪かった。」
千束は首を横に振りそう言ってくれた。
俺は気分を落ち着かせるために一度深呼吸をしてから話しをもとに戻す。
「…千束が決めたのなら俺はお前の意見を尊重するよ。」
「……いいの?」
「いいんだよ。……でも、そうだな。閉店するとしても売りに出すのはまだ先にしよう。」
「なんで?」
千束が最もな意見を口にすると俺はその問いに答える。
「そうした方がいい気がするからだよ。」
「なにそれ、変なの!」
「ミズキさんとクルミには俺から言おうか?」
「ううん、私が言う。」
「そっか。今日は泊まっていくのか?」
「うん、そのつもりぃ!あっ、お風呂先に入ってもいい?今日はたきなと遊んで疲れちゃった。」
「あぁ。」
その後、俺は皿洗いや入浴を済ませて、千束が今日たきなと遊んでとても楽しかったという話しを眠たくなるまで聞いた。