闇に生き光に奉仕する男の話   作:ダレン シャン

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喫茶リコリコ 閉店後の話

 

テレビのニュースを聞きながら私たちは3人でお店を片付けていく。

私は先程、閉店のお知らせの張り紙を入り口のドアに張ってきたところだ。

3人でとは言ったものの私はカウンター席に座って昔に撮った写真を見ているだけで片付けてはいないのだが、…どうにもやる気がでない。

閉店すると決めたのは私の筈なのに。

 

『ついに完成する延空木。その完成記念セレモニーが遂に迫る中、会場周辺の準備が着々と進んでおります。』

 

そんな時にテレビが消える。

先生が消してしまったようだ。

 

「あ~、見てたのにぃ。」

 

「もう、片付けてんだぞぉ。」

 

私はアルバムのページをめくると懐かしい写真が目にはいる。

 

「おっ、リキだぁ。可愛かったなぁ。」

 

「おぉ、また懐かしいもん見つけたなぁ。」

 

そう言ってハチもアルバムを覗いてくる。

 

「そういえば、ハチが最初にリキにつけようとしてた名前ってなんだったっけ?」

 

「セヌ?」

 

「そう、それだ!なんだっけ、鷹の名前だっけ?」

 

「セヌは鷲だ。」

 

私は更にページをめくると、開店したばかりの頃のハチとツーショットした写真が出てきた。

 

「おっ!これは、開店初日に撮った写真だよね!」

「は~、この頃の千束さんも可愛いけどハチもこうしてみると可愛かったんだね!」

 

「なんかこうして昔の写真を見返すと恥ずかしいな。」

 

「何を言ってるんだ、史八。確かお前はこの写真を懐中時計に、」

 

「だぁ~!!!ボス!ストップ!ストップ!!」

 

先生が何か言いかけていたがそれを言わせないように珍しくハチが慌てていた。

話しの内容は気になったが私は先生とハチにそれぞれ質問をする。

 

「ねぇ、先生。これからどうすんの?バイト雇ったりしてぇこの店続けたりとかさ。」

 

「そうして欲しいのか?」

 

「………。」

 

私は答えられなかった。

 

「ハチは?」

 

「………。」

 

何故かハチは上の空のようだったため再び呼び掛ける。

 

「ハチ?」

 

「ん?………あぁ、そうだなぁ。」

 

「なにさ、何も考えてなかったのぉ~?」

 

「………旅にでも出ようかと。」

 

「おぉ~!いいねいいね!海g、」

 

私が海外に行くの?と聞こうとしたときに甲高い音が店内に響く。音の発生源に目を向けると先生が手を滑らせたのか先生の足元でコーヒーカップが砕けてしまっていた。

 

「ちょっ!先生、大丈夫?!」

 

「あ、あぁ、すまない。……全く、歳には勝てんな。」

 

先生はそう言いながら店の奥から箒と塵取りを取ってきて砕けたコーヒーカップを片づける。

食器がが割れてしまうことなんてたまにあるが、その時の先生は難しい顔をしていた。

 

私はアルバムを閉じ、最後にお店を外から見たかった。

 

「ちょっと外に出るね。」

 

「あんま、遠くに行くなよ。もう遅い時間なんだ、補導されても知らねぇぞ。」

 

「へぇきへぇき、ちょっとお店を外から眺めるだけだから。」

 

そう言って私はドアの方に進み店から出ていく。

 

_____

 

千束が外に行って店内には私と史八だけになった。

 

「気持ちは変わらんのか?」

 

私の質問に史八は掃除をしている手を止めるがこちらを向くことなく答える。

 

「俺の気持ちが変わることはありませんよ。」

 

「殺しをしなければならないんだぞ!」

 

私は外にいる千束に聞こえない程度の大きな声で言う。

それに対して史八は飄々とした態度で言葉を返してくる。

 

「そうですね。」

 

「苦しむことになるんだぞ!何か他の手を考えよう。そうすれば、」

 

「ボス。」

 

史八は私の言葉を遮り、私の方を振り向いて答える。

 

「俺はこれからしたくもない人殺しをして苦しむのはわかってます。」

 

「だったら!」

 

「でもね。」

 

もう一度説得しようとするが、再び遮られてしまった。

 

「どうせ苦しむなら俺は………千束を護るために苦しみたいんです。」

 

史八は笑顔でそう言った。

その顔を見てから私は何も言えなかった。

 

「そろそろ千束を呼んできますね。」

 

そう言って史八はドアを開けて外へ出ていった。

史八……それほどまでに千束のことを。

 

彼の決意は硬い。

それでも、私はふたりとも助けたい。

私は人知れず覚悟を決めた。

______

 

「千束、そろそろ店に入れよ。」

 

お店から出てきたハチが私にはそう呼び掛けてくる。

 

「ぅん。」

 

私は気の抜けた返事を返すが、気になっていることをハチに尋ねる。

 

「ねぇ、ハチ。」

 

「なんだよ?」

 

「後悔……してない?」

 

「後悔?…なんで?」

 

「いや、だってほら覚えてる?ハチがDAに隠れて住んでた頃に、私がハチの部屋に行った時のこと。」

 

「もちろん覚えてるさ。」

 

「あれってDAに幽霊が出たぁって噂になって興味本意で先生を尾行してハチのところに行っただけなんだよね。」

 

「知ってる。」

 

私はなんとなく星空を見上げて言葉を続けた。

 

「あのときから私とハチと先生ってず~と一緒だったじゃん?」

「もし、私が興味本意でハチのところに行かなきゃもしかしたら…ハチはDAとか関係なく普通の暮らしが、」

 

「千束。」

 

言葉を遮られてしまった。

 

「俺が後悔してるって話しだが……、」

 

「うん。」

 

「………後悔だらけに決まってるだろ!」

 

「…そうだよね。」

 

言葉にされると思いの外、ショックだった。

でも、しょうがない。当時の私の軽率な行動がハチの人生を大きく変えてしまったんだから…。

 

「ご、ごめn、」

 

「俺が何度お前に手を焼いたか!」

 

「……………………え?」

 

「俺が何度帰れって言ってもぜんっぜん帰らねぇし!飯作れってねだるし!一緒に買い物に行くにしてもジュースとかお菓子とか買いまくって結局俺が荷物持つことになるし!決めたルールは守らねぇし!任務で勝手に行動するし!やりたいこと最優先なのはわかっけど、それで尻拭いするのはほぼ俺だし!あっ!思い出した!DAから出たばかりの頃ボスと3人で街に出掛けたとき、非常用ボタンの強く押すの"強く"ってどれくらいの強さなのか気になってボタン押したこともあっただろ!あのあとボスと俺が関係者に平謝りしたんだぞ!」

 

「な、あ、え………えぇ。」

 

なんか…想像してたのと違う。

と、とりあえず謝っておこう。

 

「ご、ごめんなさい?」

 

「なんで疑問系?まぁいいや、ほら店に入ろうぜ。冷え込んできたし。」

 

ハチはお店の方を向き、そう促すが私の足は動かない。

質問の意図を分からせようと説明しようとした瞬間、ハチがこちらを見ずに口を開いた。

 

「別に千束と出会ったことに後悔なんてしてないよ。むしろ逆。これでも感謝してるんだ、千束にはさ。」

 

「え?」

 

「あの頃の腐ってた俺を救ってくれた。俺に生きる意味を教えてくれた。………俺と一緒にいてくれた。」

 

ハチは私の方を向く。

 

「確かにお前には手ぇ焼いたけどそれ以上に……、ここ(喫茶リコリコ)での生活が楽しかった。千束と出会ってなかったら俺はここには居なかった。千束があの時、興味本意でも俺を見つけてくれたから俺は今ここにいるし、今の俺があるんだ。千束と過ごした時間が俺にとってかけがえのない大切な時間なんだ。それをくれたのは他の誰でもない、お前なんだよ、千束。俺()まだまだ生きる。これから先、苦しいことがたくさんあるが、ここで過ごした大切な時間が、大切なものがあるから俺はそれを耐えていける。」

「ありがとう、千束。お前と出会えて本当に良かった。」

 

ハチからの予想外の言葉に言葉が出なかった。

そんな風に思っていたなんて知らなかった。

 

私はなぜか恥ずかしくなり、それをごまかすために下を向きながらお店の方に向かう。

 

「ハ、ハチってば、たま~に恥ずかしい台詞を平気で言うよね!先生を尾行したバーの時だって。」

 

「…俺何か言ったっけ?」

 

「知らない!」

 

私はハチの横を通りすぎてお店に入る。

 

____

 

千束が店に入ったので俺もそれに続く。

千束は店内を懐かしむように見渡す。

 

「この店ともちゃんとお別れしないとなぁ。」

 

やはり寂しいものは寂しいのだろう。

ここ(喫茶リコリコ)は俺たち3人で作ったものだから。

まぁ、しばらくしたら再開するだろう。

……そのときは俺は居ないが。

 

「あまり無理するな。」

 

「あっは、先生にはお見通しかぁ。やっぱり、寂しいですよ。」

 

そんな千束にボスは気を利かせてある提案をする。

 

「コーヒー……淹れるか。」

 

ボスの提案に千束は笑顔で答える。

 

「うん~、是非!」

 

「史八もどうだ?」

 

「ボスの奢りですよ。」

 

俺が冗談交じりにそう言うとふたりとも笑っていた。

 

ボスがカウンターに立ち、俺と千束はカウンターに座ってボスのコーヒーを飲む。こうしていると懐かしい気持ちになる。

 

「なんか、こうしてると昔に戻ったみたいですね。」

 

「私も今、同じ事思ってた!昔の先生はコーヒーもまともに淹れられなかったよねぇ。」

 

「あぁ、あの泥水みたいなコーヒーな。」

 

「茶化さないでくれ。当時の私はコーヒーなんて淹れたことがなかったんだからな。」

 

「あの時はまともにコーヒーも淹れられない、食事も簡単なものしか出せない人間が集まってよく喫茶店をやろうと思ったよな。」

 

「いいじゃん!やりたかったんだから!それに、お客さんにも喜んでもらえたでしょ~。」

 

「まぁな。」

 

そうして俺たちは3人で昔話に花を咲かせた。

 

_____

 

わたしは現在、フキさんのチームと共に真島のアジトである小型貨物船に突入している。

眞島がいるであろう部屋に入るとそこは既にもぬけの殻だった。

 

「逃げられたっすねぇ、これ。」

 

フキさんの相棒であるサクラさんがそう言うと、チームリーダーであるフキさんが通信機で連絡をする。

 

「アルファ1、オールグリーン。」

 

その瞬間、設置されていたスクリーンに真島の姿が映る。

 

『おっ、おぉ~お、たくさん来やがってぇ。修学旅行かぁ?』

 

銃口を向けていたが無駄だと判断したのかフキさんから銃口を下ろすよう指示が入る。

 

「真島。」

 

フキさんの言葉の後に楠木指令が部屋に入ってくる。

 

『お?おぉ、引率の先生も一緒にいたかぁ。何者だ、あんたぁ?』

 

「お前を殺す指揮を取っている者だ。真島。」

 

『自己紹介は不要みたいだなぁ。…つまり、リコリスの親玉かぁ。』

 

「目的は金か?」

 

『へへっ、それもある。仲間の生活もあるしなぁ。…だが、それ以上に興味のある仕事だから引き受けた。』

 

「興味……マフィアに手を貸すことにか?」

 

『正義の味方気取りの悪党がどんな奴らかってことだよ。』

 

「悪党はお前らだろ。」

 

『善悪の物差しは現代においては法だ。お前らは法のもとに存在してるのか?』

 

「その法が生まれる前から我々は存在し、政治体制を越えてこの国の治安とモラルを育ててきたのだ。」

 

『ははははは、体制を越えて?お前らは何様なんよ?』

 

「それを話すつもりはない。結果としてこの国の利益は守られている。」

 

『マキャヴェリズムってやつ?古くせぇ。んなもんがまかり通ってるって知ったら世間はどう思うかねぇ?』

 

「いらぬ心配だ。真の平和とは悪意の存在すら感じない世界ことだ。お前も…誰の記憶にも残らずに消える。」

 

『お得意の情報操作かぁ。だがなぁ、悲惨な現実を知らなければ平和の意味さえ人々は忘れてしまうんじゃないのかぁ?……与えられるものではなく勝ち取るものだってこともなぁ。』

 

「賢しいことを言うじゃないか。悪党も自分が悪である認識には耐えられないか。」

 

『心配してやってるんだぜぇ。…善悪の天秤ってのはなぁ、どっちに傾くにしてもお前らみたいな存在に操られるべきじゃねぇ。バランスを取り戻さなきゃなぁ。』

 

「それが、延空木を狙う理由か?」

 

『ははっ、そこまでお見通しかぃ!両方壊れてないとアンバランスだからなぁ!』

 

「武器商人から得た銃で武装しようが結果は10年前と同じだ。」

 

『…どうかな~?今回もあいつらが助けてくれるかなぁ。そこにあの時のリコリスと暗殺者(アサシン)は居ないようだが?どうした、遅刻か?それとも迷子か?ダメだぜぇ、先生。ちゃあんと出席は取らなきゃ。』

 

「貴様には関係のないことだ。」

 

リコリスたちがざわつく。

それもそのはずだ。電波塔事件は千束が一人で解決したと聞いていた。昨日の作戦会議でもそう聞いている。

しかし、真島の話しでは、暗殺者(アサシン)も一緒だった。

電波塔事件は千束とハチさんで解決した?

そのとき、店にきたばかりの頃に千束が言っていたことを思い出す。

 

(結局壊れちゃってるしねぇ。あの時は、ひとりじゃなかったし。)

 

電波塔事件は千束とハチさんで解決した。

では、何故DAはハチさんの存在を隠したのだろうか?

気にはなったが時間が惜しいため別のことを聞こうと一歩前に出るがフキさんに肩を掴まれてしまう。

 

『じゃあな。リコリスの親分さんよ。』

 

真島との通信が切れる直前にフキさんの制止を振り切ってスクリーンの前に立つ。

 

「待ちなさい!」

 

『おぉ、黒いほう。久し振りだなぁ。お前はこっちに戻ったのか。』

 

「吉松はどこ?」

 

『なんだ、お前もヨシさんかぁ?人気者だなぁ奴は。』

 

「わたしはあなたに興味はない。吉松の居所を、」

 

『俺もお前の方には興味ねぇよ。ま、ゆっくりしてってくれ。そこにあるコーヒーもまだ暖かい筈だぁ。』

 

「待て!」

 

情報を引き出そうとするが真島との回線が切れた。

 

____

 

翌日、店の片付けが結局終わらなかったため、本日も引き続きやっていると急に店のドアが開かれる。

入ってきたのは常連である伊藤さんだった。

 

「ちょっと!これなに?!なんでよぉ~?!」

 

「い、いや~、ちょっと一身上の、」

 

私は適当な理由をでっち上げようとするが、伊藤さんは息を荒くして詰め寄ってくる。

 

「これから私はどこで漫画描けって言うのよぉ~。こんなに静かなお店は他にはないしぃ。」

 

どうしたものかと考えているとハチがフォローに来てくれた。

 

「申し訳ありません、伊藤さん。」

 

「史八!私はこれから誰に漫画のアドバイスを貰えばいいのよぉ~!」

 

「それは、伊藤さんの担当者さんから貰ってください。それに静かな店って言うほど静かでしたか?千束とミズキさんあたりが喧しかったと思うんですけど?」

 

「おっと~、言うじゃないかハチぃ!」

 

そう言いながらハチに向かって座ったままシャドーボクシング風なことをするとハチはそれを無視して伊藤さんに耳打ちをする。

声が小さくて聞こえないが、とりあえず伊藤さんは落ち着いたようだった。

 

「とにかく、近いうちに戻ってきてぇ。約束よぉ~。」

 

そう言って伊藤さんは出ていった。

 

「なんて言ったの?」

 

「ん?大したことは言ってないさ。さっ、掃除!掃除!」

 

ハチにそう促されるが今日に限って常連さんが次々に来る。

 

「ちょっと急じゃない?!マスター!」

「閉店なんてやめようよぉ~。」

「ま、まじでぇ!?」

「はっ!」

 

常連さんの対応は私とハチでやった。

どの常連さんにも最後はハチがなにやら耳打ちをして仕方ないと言う風に店を後にしていった。

 

「つ、疲れたぁ~。まぁでもぉ、なんか嬉しい。」

 

となりに座るハチにそう言うと、ハチも笑顔で言う。

 

「それだけ、この店が愛されてたってことだ。ですよね、ボス。」

 

「そうだな。」

 

先生も微笑みながら賛同してくれた。

 

_______

 

午後になってボスにあるお願いをされる。

何でも倉庫にしまってある物を取って欲しいそうだ。

目的のものは上の方にあり脚立を使わなければ取れないし、長年ここにあったためかかなり埃をかぶっていた。

 

「ごほっ、げほっ!!なんっで!店の片付けをしてんのにこんな埃かぶってるやつを取り出すんですか?!」

 

「いいだろ?大切なものなんだ。」

 

「大切なものならもっといい保管場所があるでしょ。」

 

俺がそんな文句をいいながら目的のものを探す。

 

「そこに大きめの木箱がある筈だ。」

 

「2つありますけど、どちらです?」

 

「両方だ。埃を払って店の方に持ってきてくれ。」

 

「……了解。」

 

一体これは、なんなのだろうか?大切なものだと言っていたが。

とりあえず埃を払ってから千束がいる店の方に2つの木箱を運ぶ。

 

「おぉ~、おかえ、え、え、なにそれ?」

 

「さぁな。ボスの大切なものらしいが。」

 

俺は千束の質問に答えながら木箱を2つとも座敷におく。

 

「大切なものだが……、お前たちのものだ。開けてみろ。」

 

「鍵閉める?またお客さん来るかも?」

 

仕事用のものだと思ったのか千束はそんなことを言うが、重さ的には銃器でないことは明らかだった。

 

「いや、いいんだ。武器じゃない。」

 

「「?」」

 

ボスの言葉に俺たちは顔を見合わせてから自分達の前に置いた木箱をゆっくりと開ける。

そこには、着物と羽織などが入っていた。

店の作業服として着てはいるが肌触りで、とても上等なものだと

すぐにわかった。

 

「着物?」

 

千束がそう言って気になって隣を見ると千束の木箱にも着物が入っているようだった。

 

「お前たちの晴れ着だ。史八には遅くなって悪いと思ったが千束と同じタイミングで渡したかった。まぁ、成人式にはちょっ~と早いがな。」

 

「んんん~!」

 

「おい。」

 

千束は本当に嬉しかったのかボスに抱きつく。

 

そして俺たちはそれぞれの晴れ着に袖を通す。

まぁ、俺の方は店で着ていたものとはあまり変わり映えはしないが。

変わっているのは色ぐらいだ。

店で着ていたものは白黒のモノトーン調のものだったが今着ているのは、着物の色が紺色で羽織が鉄紺色のものだった。

仕事用に貰ったコートも紺色だが、ボスは紺色が好きなのか?

まぁ、嫌いじゃないが。

 

着替え終わったので更衣室から出て座敷に移動すると誰もいない。

着付けには時間がかかるだろうからゆっくり待つかと、思いながら数分間待っていると店の奥のほうからボスが出てくる。

 

「似合っているじゃないか。」

 

「色が変わっているだけであまり変わり映えはしないでしょう。」

 

「そんなことはない。よく似合っているよ。」

 

普段、ボスから出てこない言葉を聞いて気恥ずかしくなったため話題を変える。

 

「そ、そういえば千束はどうしたんです?着付けをしてたんじゃ、」

 

そう口にした瞬間、先程ボスが出てきたドアが開いた。

視線をそちらに向けると白い振り袖を着た千束がいた。

 

「どう?ハチ。似合ってるでしょ~!」

 

「…………。」

 

千束の質問には答えられなかった。

あまりにも綺麗だったから。どう表現したらいいか分からなかった。

 

「ハチ?」

 

「…あぁ、いや、ゴメン。少し……見惚れてた。」

 

「見惚れる?!///………そ、そう、そうか…えへへ///あっ!ハチもカッコいいよ!」

 

「そうか?俺はあまり変わってないと思うけど…。」

 

「いやいや、いつもは白黒の着物だったけど、やっぱり、ハチには紺が似合うね。……あっ、もちろん白黒の着物もいいんだけどね!」

 

そんなに誉められると悪い気はしないが、少し恥ずかしい。

 

「ありがとな。」

 

俺は千束に笑いながらそう言う。

そんな会話をしてるとボスがある提案をする。

 

「ほら、ふたりとも。写真を撮るからそこに並びなさい。」

 

そう言われて千束の隣に立つ。

そんな時、千束から声が上がる。

 

「あれ?」

 

「どうした?」

 

「珍しい。ハチが写真を嫌がらないなんて。ちょっとビックリ。」

 

「まぁ、こんな時ぐらいはな。………これが最後(・・)かもしれないし。」

 

「…そうだね。最後(・・)……なんだよね。」

 

千束の顔が一瞬暗くなる。

俺たちの思っている最後(・・)はきっと違う。

千束は自分の死を覚悟した言葉だが、吉松さんとの取引が達成されれば千束はまだ生きられる。でもその時……、きっと俺は千束のそばにはいない。

俺にとってはこれが最後だった。

 

「ほら、君たち。笑って笑って。そんなんじゃ撮れないだろ?」

 

ボスがそう言うと隣に立っていた千束がいきなり抱きついてきた。

 

「お、おい。」

 

「いいじゃん!最後なんだし!」

 

まったく、お前という奴は。

俺がやれやれといった顔をした瞬間、カメラのシャッターが切れる音が聞こえてくる。

 

「どうどう?」

 

千束は写真の出来が気になりボスの方に歩いていきカメラの画面を覗き込む。

 

「あぁ、よく撮れてるぞ。」

 

「おほぉ~!いいじゃん!いいじゃん!ほら、ハチも見なよぉ~!」

 

千束がカメラの画面を俺に見せてくる。

 

……あぁ、とてもいい写真だ。

今まで撮ったなかでも最高のものだ。

………最後にいい思い出を作らせて貰った。

 

「…ありがとう。千束、ボス。」

 

俺は気づいたらその言葉を口にしていた。

その言葉はお世辞などという余計な含みを持たない純粋なふたりへの感謝の気持ちだった。

 

「こっちこそだよ!ハチも先生も、ありがと!」

 

俺たちふたりの感謝の言葉を聞いてボスの表情は暗くなる。

 

「お前たちに感謝されることなどなにも出来てないさ。」

 

「またまた~。私に名前をつけてくれたのも先生だしぃ、銃を教えてくれたのも!この店も、ハチやたきなと出会えたのもぉ~、何より、私のためにヨシさんを探してくれたのも先生じゃん!あっ!さっきの写真、ヨシさんに送ってよぉ!それくらい、」

 

「そうじゃないんだ!」

 

ボスは珍しく大声をあげて千束の言葉を遮る。

 

「な、なに、先生。大きな声だしてぇ。」

 

ボスは一度俺の方を向いてから千束に視線を移す。

 

「千束、史八。シンジのことで話すことがある。」

 

そうしてボスは過去のことを話しだす。

_____

 

わたしは現在、延空木で真島討伐作戦の真っ最中だ。

ライフルを構えながらエレベーターに乗ってこの階に上がってくる真島を待ち伏せしている。

エレベーターの上についているランプがこの階の所で光るがエレベーターのドアは開かず、上の階のランプが転倒した。

______

 

俺は旧電波塔で待機している。

今頃、リコリスどもは延空木の方にいるだろう。

 

「後は頼んだぜぇ。My Hacker.」

 

『この日のためのバックドアだ。ひひひひっ!』

_____

 

私は千束と史八に真実を伝える。

 

「あの時私がシンジにオペを頼んだのは、司令官としての利益のためた。少なくともあの時はそうだった。史八もシンジからどこまで聞いているか分からないが、お前を引き取ったもの、その技術を利用しようとしたからだ。」

 

当時のシンジとの会話を思い出しながら千束にシンジとの約束を伝える。

 

(リコリスの現役期間だけ生きればいい。)

(そういうことなら引き受けよう。だが、これだけは約束してくれ。)

 

「約…束?」

 

(彼女を最強の殺し屋として育ててくれ。…いや、最強は彼の方かな?)

 

私の話しを聞いて千束が口を開く。

史八はそんな私たちを静観していた。

 

「嘘、うそうそ、だって、自分は人を助ける救世主だってヨシさん、」

 

私は首を横に降る。

 

「お前なら分かるだろ、史八。」

 

「……………。」

 

私の問いに史八は目を伏せてなにも答えない。

いや、答えたくないのかもしれない。

史八は記憶を取り戻して、シンジがどういった人間であるかを知っている。

もしかしたらシンジのことは私よりも詳しいかもしれない。

 

「じゃあ…どうして?」

 

私は頭を抱えて罪悪感に押し潰されそうになりながら千束に伝える。

 

「言えなかった。お前の中で…どんどん大きくなるシンジに対しての憧れは…いつ終わるかわからない命を支える力となっていった。それはとても眩しくて……、儚い。」

 

「先生。」

 

「言ったほうがよかったのか!?お前の生き方は間違いだ。殺しを重ねればシンジはまたお前を助けてくれると……言えば良かったのか!?…教えてくれ、千束。」

 

千束は私に背を向けながら言う。

 

「……ありがとう、先生。私に決めさせてくれて…ありがとう。でも、……それを聞いてても私は多分変わらなかったと思う。」

 

「何故だ?」

 

「ハチがいるから!」

 

千束は笑顔でそう言った。

その言葉を聞いて史八も笑っている。

 

「もし、ハチがいなかったら多分、私は負けてた。そんで、仕方なくリコリスの仕事してたと思う。んで、嫌なこととか辛いことは全部、先生やヨシさんのせいにするんだぁ~。……それは嫌だわぁ、うん。ないない。」

「私の仕事も、このお店を始めたのも全部私が決めたこと。…それをさせてくれた先生とヨシさんへの感謝は今の話しを聞いても全然変わんない。…ふたりとも、私のお父さんだよ。」

「それが、一番嬉しいって感じするぅ。」

 

私は千束の言葉にあふれでる涙を止めることは出来なかった。

 

「すまない、すまない。」

 

「ほぉら、先生、泣かないでぇ。先生こそどうなのよ?この千束はどぉお?好き?さっきハチは見惚れちゃってたみたいだけど~。」

 

千束は全身が見えるようにその場で一回転しながら私にそう尋ねてくる。

 

「ぁぁ、あぁ、自慢の娘だ。」

 

そう答えると千束は笑い、史八が口を開く。

 

「ボスはもうちょっと自分の娘を信じてみても良かったんじゃないですか?」

 

「ふっ、そうだな。ありがとう、史八。お前も自慢の息子だ。」

 

「お、俺はなにもしてませんよ。」

 

「あぁ~、ハチってば照れてるぅ。」

 

「喧しいわ!いいだろ、別に!」

 

真実を話して私の中の問題がひとつ解決したことで体が少し軽くなるような気がする。

私はやはり、このふたりには幸せになって貰いたい。

どちらにも死んで欲しくはないし、傷付いて欲しくもない。

 

私は自慢の娘と息子を護るためなら……なんだってする。

 

私の目の前でじゃれあうふたりを見てそう決心した。

 

_____

 

外から警報が鳴っているのが聞こえる。

何事だと千束がテレビをつけると信じられないことに真島が映っていた。

 

『えぇ、繰り返します。延空木がテロリストに乗っ取られ占拠された模様です。犯人の男は30代の男性。警察は、』

 

「何これ?」

 

くそっ、なんだってこんな時に?!

 

ニュースを見ていたら突然店の電話が鳴る。

楠木か?

ボスが受話器を取るとどうやら俺の予想通り楠木だったようだ。

どうせまた、真島を討伐するために来いとでも言ってくるんだろう。

 

その次に千束のスマホが鳴る。

 

千束は画面を見た瞬間顔が強ばりる。

 

「先生貸して。」

 

そう言って、千束はボスから受話器を受け取る。

千束は楠木からの話しを聞きながらスマホを俺とボスに見せてくる。

そこには、椅子に拘束された吉松さんがいた。その横には千束の心臓が入っているであろうケースも置かれている。

 

くっそ!!!

最悪だ!

吉松さんが真島に捕まっていた。このままでは心臓は届かない。

 

千束のスマホから男の声が聞こえてくる。

 

『お前たちが延空木に近づけばこいつの命はない。一時間で起爆する。お前のようなリコリスに来られると都合が悪い。こいつの命が掛かっているんだぞ。』

 

ボスが千束から受話器を取る。

 

「楠木、また後で掛けなおす。」

 

『それでいい、下手なことをするなよ。ずっとお前らを見ているからな。』

 

その言葉で窓の外を見ると、複数のドローンがこちらを監視していた。

 

「罠だろうな。」

 

「だからって見殺しに出来ないでしょ!」

 

俺はひとつ大きく深呼吸をしてふたりに言う。

 

「ボス、千束。俺が行きます。ふたりはここで待機しててください。」

 

「ちょっ!ハチ、何いってんの?!私も行くよ!」

 

俺は千束の肩に両手を置き諭すように説得する。

 

「千束、今のお前は残り時間があるんだ。お前のその貴重な時間をこんなふざけたテロリストどもに使ってやることはない。」

 

「…ハチ。」

 

「大丈夫。吉松さんは必ず助け出す。俺の目的のためにも。千束はここでボスと一緒にコーヒーブレイクでもしてな。」

 

「……わかった。」

 

「ありがとう、千束。ボス、千束のことを」

 

「だが、断る!!!」

 

ボスに千束のことを頼もうとしたときに千束に言葉を遮られる。

俺は彼女が何を言っているのか分からなくなったため確認を取る。

 

「え?い、いや、お前、今わかったって……。」

 

「ハチの考えが分かったって言っただけだし、分かった上で断った!」

 

千束がテロリストにやられても、戦闘中に今の心臓に不具合でも出たら俺の目的が全ておじゃんになってしまう。

それだけは防ぎたかったため、どうにか説得しようとするが、ボスの手が俺の肩に置かれる。

 

「史八、知っているだろう?こうなった千束は梃子でも動かない。」

 

俺は仕方ないと深いため息を吐く。

 

「もちろん、私も同行するがな。」

 

「っ、この似た者親子め!」

 

「ははっ!お前もそのひとりだよ。」

 

悪態をついてみたがボスに笑って返され、千束もそんな俺たちを見て笑っていた。

 

「不幸中の幸いだ。武器庫の弾丸が処理できそうだ。ありったけ持ってこい!延空木はたきなやフキが守ってくれる。あのふたりも私の優秀な教え子だからな。」

 

「うん。」

 

「そうですね。」

 

俺たちはそれぞれ戦闘の準備をする。

俺はいつものコートに袖を通しフードをかぶる。

しかし、右側のリストブレードだけ普段とは違う。以前からボスに頼んでいたが最近になってようやく完成した。テストもバッチリだ。

 

ふたりも準備が出来ているようだった。

そうして俺たちはそれぞれの思いを胸に旧電波塔へと移動する。

 

 





オリ主君が常連さん立ちに耳打ちした言葉は「一時的に閉店するだけでしばらくしたら再開します。」です。

吉松さんと取引をしていて新しい心臓を受けとるだけなので今現在、オリ主君の中では心臓を受け取って手術を受けて貰うだけなので千束が手術を受け退院したらリコリコはまだ営業するつもりで言っています。
その時にオリ主君はリコリコにいるのか、いないのか……。

オリ主君の新しい装備はアサシンクリードシリーズのパルクールアクションに革命をもたらしたあの装備です。
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