闇に生き光に奉仕する男の話   作:ダレン シャン

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我が儘の話

 

真島との決闘後、あっという間に時間は過ぎた。

3人で急いでクルミが手配した病院へ向かい、病院に到着次第千束にはオペを受けて貰った。俺はその間に真島から受けた傷の処置をした。

 

数時間後、手術が無事終わった千束は個室の病室に移される。

たきなは、真島の一件を報告するために一時的にDAへ戻っている。ボスとクルミとミズキさんは諸々の後始末に追われているようだ。

そんな中で俺は、千束が眠っているベッドのそばに立ち、オペが無事終わったことに安堵していた。

 

終わったんだ。本当に。

これで千束はこれからも生きることができる。

やっと、俺の目的を達成することができた。

 

俺は穏やかな寝息をたてている千束の頭を撫でながら呟く。

 

「ったく、呑気に寝やがって。俺がどれだけ苦労したか分かってんのか?なぁ、千束。」

 

千束はもう大丈夫だ。

ボスも居るし、ミズキさんも千束と言い合っているがあれでも千束を妹のように思っている節がある。クルミも千束に懐いているし、これからも力になってくれるはずだ。

それにたきなもいる。彼女は千束のいい相棒だ。これからも千束の手綱をしっかりと握ってくれるだろう。

 

喫茶リコリコも再開する。

これからもずっと、みんなで楽しく暮らしていける。

 

千束にはみんながいる。

もう俺は…………必要ない。

 

「さよならだ、千束。」

 

そう言って俺は後ろ髪を引かれる思いで、千束が眠っている病室から出た。

 

病室から出るとボスが待ち構えているように立っていた。

俺は千束の病室の扉を閉めてから口を開く。

 

「ボス……。」

 

「史八……、行くのか?」

 

「はい。俺がこれから約束を果たさないとまたアラン機関に……、吉松さんに千束が狙われる。……そういう取引ですから。」

 

俺はボスの目を見て最後の挨拶をする。

 

「………ボス、大丈夫だと思いますが、千束のことをこれからもよろしくお願いします。それと、長い間お世話になりました。」

 

「………そんなこと言わなくてもいい。」

 

「そ、そうですよ…ね。これから縁を断とうとしてる俺にこんなこと言われても迷惑、」

 

「そうじゃない!」

 

俺の言葉にボスは珍しく声を荒げる。

 

「どうしたんですか、ボス?そんな大声だして。らしくないですよ?」

 

「……そうじゃないんだ、史八。…………シンジは………、」

 

さっきからボスは何が言いたいんだ?

俺がそんな風に思っていると、ボスから信じられない言葉が聞こえてきた。

 

「シンジは………………、死んだ………。」

 

「…………は?」

 

「私が…………、殺した。」

 

何を言っているんだ?

吉松さんが………、シンさんが死んだ?何言ってるんですか、ボス?冗談は止めてください。

シンさんを殺した?ボスが………?

……嘘だ!!!

 

信じたくない言葉なのに、俺の直感がボスの言葉が嘘ではないと告げている。

 

気付いたら俺はボスの胸ぐらを掴み壁に押さえつけていた。

 

「ふざけるな!!!なんで、なんでシンさんを殺した?!愛していたんだろ?!あの人のことを!!なんで殺したんだ!?あんたにあの人を殺す理由なんて無いはずだ!!なんで殺したんだ!………なんで?!……なんでだ?!?!答えろ!!!」

 

俺はボスを強く睨み付ける。

しかし、ボスの表情は一切変わらなかった。

 

「私は……、今君に殺されても構わない………。」

 

「そういうことを聞いてるんじゃない!!あんたがシンさんを殺す必要なんて無い!!千束の心臓は俺がシンさんと取引して手に入れた!予定とはちょっと違ったが無事に手に入れただろ!後は俺が!シンさんとの約束を守れば!それで解決、」

 

「解決するわけないだろ!!!」

 

ボスは俺の言葉を遮るように言った。

 

俺は……、俺は………、

 

「みんなに……、生きていて欲しいだけなんだ。幸せになって欲しかっただけなんだ…。千束にも…、シンさんにも…、そうあって欲しいだけなんだ。………俺が、俺ひとりが闇に堕ちれば……、苦しめば……、それで……、よかった。…よかった筈なのに……。」

 

俺は力が抜け、ボスから手を離し近くにあった椅子へ倒れるように座る。

ボスはこちらに背を向け口を開く。

 

「史八…、赦してくれと言うつもりはない。千束にもな。私はそれだけのことをした。……これは、私のただの我が儘なんだ。」

 

「………我が儘?」

 

「お前たちふたりに幸せになって欲しい。…ただそれだけなんだ。」

 

「…結局、俺の最初で最後の我が儘は聞いてもらえなかったわけですか。」

 

「……すまない。」

 

「シンさんは……、シンさんは最期に何か言ってましたか?」

 

「伝言を預かっている。」

 

「伝言?」

 

「あの場所に墓を建てた。時間ができたら行ってみるといい、だそうだ。」

 

「そうですか………。少し…ひとりにしてください。」

 

俺がそう言うとボスは黙って俺から離れてくれた。

 

シンさんは死んだ。……もうこの世にいない。もう会うことも出来ない。吉松さんには院長先生たちを苦しめた恨みがあるが、同時にシンさんには俺を育ててくれた、様々なことを教えてくれた、俺に名前をくれた、………恩がある。

ボスは千束と俺の幸せのためにシンさんを殺した。そんな人を恨むことは出来ない。恨むつもりもない。

 

「あぁもう……、なんか色々ぐちゃぐちゃだなぁ。」

 

俺は一頻り泣いた後、誰に言うでもなくその言葉を口にした。

そして、椅子から立ち上がり千束のいる病室へ入る。何故か今、無性に千束の顔がみたい。……あの眩しいほどの笑顔が見たかった。しかし、千束は以前目を覚まさない。穏やかな寝息たてて眠っていた。

 

「どうすれば、一番よかったのかな?」

 

俺の選択は間違っていたのか?いや、俺に力が足りなかった。正しい選択に出来なかった。

俺は千束の手を握りうつむきながらそう言うと千束が起きたようだった。

 

「んん。」

 

「千束?」

 

俺は千束の顔を覗き込むようにして立ち上がる。

 

「おぉ~、ハチぃ、おはよ~。」

 

千束は寝ぼけ眼でそう口にする。

 

「気分はどうだ?麻酔の効果でまだ眠たいと思うが。」

 

「うぅ~ん、眠くはないけど……、胸がめっちゃ痛い。」

 

「そりゃそうだ。手術で胸を切り開いたんだからな。痛いに決まってる。まぁ、生きてる証ってやつだな。」

 

「それ、前の時も言ってたよね。」

 

「よく覚えてるな。」

 

「覚えてますよぉ~。千束さんだからね!…それよりも、泣いてたの?」

 

「え?」

 

「目。赤いから。」

 

迷った。千束に事実を告げるべきかどうか。シンさんは千束にとっても恩人だ。恩人が死んだと分かれば、少なからずショックを受けるだろう。

そんなことを迷っていると、千束が再び口を開く。

 

「まぁ、いいや。言いたくなったら言ってよ!無理に聞くつもりはないからさ!」

 

「…ごめんな。」

 

「謝るなよぉ~。私が悪いことしてるみたいじゃん!こういう時は、ありがとうって感謝しとくべきなんだよ!」

 

「……ありがとな、千束。」

 

「ふふふ~、どういたしましてぇ~。あっ!でもぉ~、少しでも悪いと思ってるならちょっとお願い聞いて欲しいなぁ、なんて!」

 

まったく、こいつは転んでもただでは起きないやつだ。

全く、どんな風に育てればこんな風に育つのか、親の顔が見てみたいものだ。

 

「お前の我が儘なんていつものことだ。なんだ?」

 

「ちょ~っと、旅行に行きたいなぁ~って。」

 

何を言っているんだ、このバカは?

千束からその言葉を聞いて、俺は無言で彼女の頭に軽く拳骨を落とす。

 

「いったぁ~!!何すんの?!私、病人だよ!!」

 

「だったら!病人は病人らしくベッドで安静にしてろ!!おまえ、心臓の手術したばかりなんだぞ?!わかってる?!」

 

「そんなことわかってるよぉ~。分かってるけど……。」

 

「…けどなんだよ?」

 

千束が何故か言いづらそうにしていて俺がそう尋ねる。

 

「いや、湿っぽくなるのは千束さん的にはなんか嫌だしぃ。」

 

「おまっ、そんな理由で、」

 

「そ・れ・にぃ~!今までお店の仕事とかリコリスの仕事で頑張ってきたじゃん!自分への~ご褒美ぃ~的な!」

 

あぁ~、頭が痛くなってきた。

なんか色々と考えてる俺がアホらしく思えてきた。

 

「わかった、わかった。今はみんな色々とバタバタしてるから行くなら早く行け。俺からボスたちにうまく説明しておくから。でも、定期的に連絡してこいよ。」

 

「え、何言ってるの?ハチも一緒に行くんだよ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「………what?」

 

「いやいや、私普通に病人だからね?ひとりで旅行になんて行けるわけ無いじゃん?」

 

「普通の病人は手術後すぐに旅行に行きたいとか言わないと思うんだけど…。」

 

「…………。」

 

「…………。」

 

「まぁ、そういうことはひとまず置いといて…。」

 

「いや、置いとくなよ!」

 

「いぃじゃん!いぃじゃん!いこぉ~よぉ~!ハチが協力してくれなきゃここから出ることも出来ないんだよ!それにほら!ハチだってずっと忙しかったじゃん!ちょっとぐらい休んだってバチは当たらないよ!それに、旅に出るとか前に言ってたじゃん!」

 

「言ったっけ?そんなこと?」

 

「言ってたよぉ~!覚えてないの?」

 

言ったような?言ってないような?

 

千束は梃子でも動かないモードに入ってる。

俺が折れるしかない。………いつも通りだ。

 

「わかったわかった。で、どこに行くつもりだ?わかってると思うが海外なんて無理だぞ。俺、パスポート無いし。」

 

「そ~だねぇ~、寒いし暖かいところとか良くない?!沖縄とか!どう?!」

 

「沖縄か……。」

 

沖縄なら新幹線とフェリーに乗れば行けるか……。

俺は頭の中で計画を練る。

はぁ、まぁいいか。

 

「わぁ~たよ。」

 

「おぉ!流石ハチ、話しが分かるぅ!」

 

「取り敢えず、車椅子持ってくっからその間に着替えてろ。病衣のままじゃ目立つからな。着替えはロッカーの中に入ってるはず。」

 

「りょ~かい!」

 

俺は千束にそう伝えてから病室から出て、車椅子を拝借する。

病室に戻ると千束は既に病衣から私服に着替えていた。

 

「準備はいいか?」

 

「いつでもいいよぉ~!」

 

千束は俺が拝借してきた車椅子に座る。

流石に、店のみんなになにも言わないで姿を消すのは忍びないので病室のテーブルの上にメモを残す。

 

「さぁて、まずはどうやって病院から脱出するの?」

 

「どうやってって……、堂々と出るんだよ。」

 

「えっ、見つかんない?」

 

「見つかるだろうな。…けど堂々としてれば見つかっても脱走してることはバレないもんだよ。」

 

そう言って千束の乗っている車椅子を押しながら病院の通路を歩く。時折、看護師っぽい人たちから声をかけられる。

 

「あぁ、今日で退院なんですよ!」

 

「そうなんですか。お大事にしてくださいね。」

 

以上の通り、堂々としてれば案外バレないものなのだ。

病院の出入り口から堂々と出たときに千束から声がかかる。

 

「息をするように嘘をつくじゃん。」

 

「いいだろ?出られたんだから。」

 

数時間後には病院内はパニックだろうな。

俺は病院スタッフに罪悪感を覚えながら車椅子を押す。

 

「まずはどこに行くの?」

 

「俺の家だな。資金やら着替えやらを準備しなきゃいけないしな。」

 

「カードで買えばいいじゃん。」

 

「別に新しいものを買ってもいいけど、早い段階でカードの履歴でクルミに見つかる可能性がある。スマホも俺の家に置いてこよう。GPSで居場所が特定される。この旅行を短いものにしてもいいなら別に構わんが…。」

 

「おぉ~、徹底してるねぇ。……さてはお主、少し楽しんでるなぁ?」

 

「バレた?」

 

正直、少し楽しい。

何せ旅行なんて初めてのことだ。折角なら楽しまないとな。

 

そうして俺たちは俺の家に到着し、着替えなどの準備をしていく。スマホはテーブルの上に置いていく。

 

「よぉ~し!!準備完了!じゃあ、新幹線に乗るために駅へ~Let's go~!!」

 

テンションの高い千束には悪いが俺には行かなければいけない場所がある。

 

「いや、少しだけ寄りたい場所があるんだ。」

 

「ん?それは別にいいけど……、どこに行くの?」

 

「………懐かしの我が家だよ。」

 

院長先生たちに挨拶しに行かなければ……。

 

 

 

さぁ、そろそろクライマックスです。そんなわけでこの物語が終わりしだいネタが思い付いたら番外編のような小話も書きたいと思っています。オリ主君離反ルートも考えていますがどう考えても鬱展開というか我らが千束ちゃんを曇らせてしまいます。

  • 番外編・小話を書いてほしい。
  • 曇らせてもいいから、離反ルート。
  • 黙ってどっちも書け。コノヤロー。
  • 別に書かなくてもいい。
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