闇に生き光に奉仕する男の話   作:ダレン シャン

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南の島で告白の話

 

俺は今、新幹線に乗り窓の外を眺めている。

ふと横を見ると駅弁にまだ(・・)がっついている千束がいる。

向かい側の席には既に空の駅弁が3つもあるというのに……。

 

「なぁ…、ちょっと食べ過ぎじゃないか?」

 

いふぁ~(いやぁ~)おふぁかふいひゃっへ(お腹空いちゃって)。」

 

空腹にしても食べ過ぎだろう。

海鮮丼に、牛めし、釜めし、今はいくらとカニが入った弁当を食べている。

本当に、俺の隣に座っているこの人物は心臓の手術後の患者なのかと疑いたくなる。

少し、頭が痛くなってきた。

 

「はぁ~、もうちょっとゆっくり食べろよ。まだ向こうに着くまで時間はあるし、弁当は逃げないんだから。」

 

「美味しかったぁ~!ご馳走さま~!!」

 

「もう食い終わってるし……。」

 

「………ねぇハチぃ、そのカツサンドひとつ貰ってもいい?」

 

「まだ食う気か、おまえ!!」

 

「えへへ。」

 

千束は自分の後頭部を擦りながら少し恥ずかしそうに照れる。

そんな千束に自分のカツサンドをひとつ手渡すと彼女の目が輝く。

 

「ありがとぉ~!!!……ハグッ………、うぅっまぁ~~!!ハチも食べなよぉ~!めっちゃ美味しいよこれ!」

 

「左様で。」

 

俺は横で美味しそうにカツサンドを頬張る千束を眺める。

その事に気付いてない千束は俺にある質問をしてくる。

 

「そういえばさぁ~。」

 

「ん?」

 

「ハチってどうやって私の心臓を手に入れたの?」

 

質問には俺の口から答えるつもりはない。

千束に吉松さんとの取引を知られたら怒られるような気がする。

俺はしばらく適当な理由を考えてから口を開く。

 

「…………落ちてた。」

 

「落ちてた!?!?いや、絶対に嘘じゃん!!!教えろよぉ~。」

 

千束が俺の肩を掴み左右に揺らしてくる。

ちょっとめんどくさくなってきたな。こういうときはあれだ。第三者に丸投げしよう。

 

「ふぅ、ボスが知ってるからボスに聞いてくれ。俺の口から言うつもりはない。」

 

「えぇ~、気になるじゃ~ん。」

 

俺がそう言うと千束は諦めたのか背もたれに身を預けてそれ以上は聞いてこなかった。

俺は心のなかで千束に謝りながら残りのカツサンドにかぶりついた。

 

______

 

新幹線から降りてからは公共交通機関を利用し目的地である宮古島を目指す。

私は既に車椅子には乗っていない。ハチが乗れと言っても自分の足で歩きたいと駄々をこねたらハチはいつも通り折れてくれた。

……盛大なため息をつかれたが。

 

フェリーに乗っているとき、ハチがアランチルドレンのチャームを眺めながら何かを考えている様子だった。

新幹線のなかでは心臓のことを聞いてみたがあまり聞かれたくないような感じだったのであえて追及はしなかった。

しかし、ヨシさんとハチの間でなにかあったのは確かだ。

私の心臓はアラン機関のものだし、ヨシさんはそのエージェント。

ヨシさんは持っていた心臓を何故ハチに渡したのか?

ヨシさんの善意で渡して貰ったと考えたいが、それならば私に直接渡せばいい筈。

色々考えても答えは出てこない。先生が知っているとハチは言っているがここに先生は居ないし、連絡を取ったら先生たちに居場所がバレてこの旅行が終わる。

 

「うう゛わぁ~ん。」

 

頭を抱えてうめき声のような声をあげるとそれに気付いたのかハチが声をかけてくる。

 

「何やってんだ、おまえ?」

 

……こやつめ、人の気も知らないで。

 

______

 

千束と史八が姿を消してから一週間が経った。

ふたりが姿を消してから居場所くらいは把握しておきたい為、直ぐにクルミにふたりを探すように頼んでみたがあまり、芳しくはないみたいだ。

 

「流石は暗殺者(アサシン)だな。徹底してるよ。スマホは家に置かれていたし、クレジットカードの使用履歴もない。町中の監視カメラをハッキングしてみたが、あいつらは見つからなかった。……おそらく、カメラの死角を上手くついているな。」

 

「そうか。」

 

「心配じゃないのか、ミカ?史八はまだしも、千束は手術したばかりなんだ。」

 

「まぁ、全く心配ではないと言えば嘘になるが、大丈夫だろう。あのふたりなら。」

 

「そうか。」

 

そんな風にクルミと話していると、ミズキの声が聞こえてくる。

 

「ったく、あんのガキ共~!こっちはこんなに忙しいってのに、旅行だなんて、いいご身分だなぁ~!!」

 

ミズキは姿を消した千束と史八に文句を言いながら忙しなく閉店の準備をしていた。

 

「ちょっとたきな!あのバカ共をそろそろ捕まえてこい!」

 

「無理ですよ。ふたりの居場所も分からないんですから。それに分かったとしても千束だけならまだしもハチさんが簡単に捕まってくれるとは思えません。」

 

「ぬあぁぁぁ!!!……あのガキ共、2人で行って3人で帰って来る様なことがあれば末代まで呪ってやる。」

 

「どういうことですか、ミズキさん?」

 

ミズキの口にした台詞の意味が理解できないたきなが尋ねるがミズキは答えずに閉店の準備を進める。

 

私はミズキの台詞で想像してしまう。

 

ふたりの子ども……か。

私にとっては孫になるのか?

ふたりとも身内贔屓なしで外見はいいし、男の子でも女の子でもルックスは保証されるだろうな。

そんな子におじいちゃんなどと呼ばれるのか。

ふむ……、悪くないな。

 

「お~い、ミカ~。戻ってこ~い。」

 

目を閉じ、私が様々な想像(妄想)をしているとクルミの声で現実へと引き戻される。

そんな時に店の扉が開いた。

 

「こんばんわぁ、宅急便で~す。」

 

宅急便?何か頼んだか?

そう思い、何を頼んだか思い出そうとするが心当たりがない。

 

「えっと、大神史八さん宛ですね。ここにサインお願いします。」

 

たきなが代わりにサインをし荷物を受けとる。

 

「はい、確かに。どうもありがとうございました。」

 

そう言って店の扉は閉められる。

 

「なになに?史八宛?どこから?」

 

「送り主は……、書いてないですね。なんなんでしょうか?爆発の危険はなさそうですが…。」

 

全員の目が送られてきた段ボールに集まる。

 

「どうするんだ?史八のやつはいつ帰ってくるかも分からんぞ。」

 

クルミがそんなことをいうとミズキが口を開いた。

 

「開けちまうか。」

 

「ちょっ、いいんですかミズキさん。ハチさん宛なのに勝手に開けてしまって。」

 

「いぃのよ。ど~せ大したものじゃないんだし。いつまでもここに置いとくわけにもいかないでしょ。」

 

そう言ってミズキは少々乱暴に段ボールを開けるとそこには黒いアタッシュケースが入っていた。

 

_______

 

ボスたちのもとから離れてしばらくが経った。

俺と千束は宮古島に滞在している。

今は海辺の近くにあるカフェでバイトをしながら近くにある民宿を借りている。

 

今日はバイトは休みで俺は浜辺に座りシンさんから貰ったチャームを眺めながら考え事をしていた。

そのため背後から近づいてくる存在に気付かず右頬に冷たいものが当てられる。

 

「うわ!」

 

ビックリして後ろを振り向くと麦わら帽子を被って白い無地のワンピースを着た千束がいた。

頬に当てられたのはペットボトルのアイスティーだった。

 

「ほぉ~ら、ちゃんと水分補給しないと倒れちゃうよ~。」

 

「ありがと。」

 

千束にお礼を言ってからペットボトルを受け取ると、千束が俺の隣に座る。

 

「なぁ~に考えてたの?」

 

「え?」

 

「たまぁにそれ(チャーム)見て、心ここにあらずみたいだからさ。」

 

「……うん。」

 

俺は自分のチャームに視線を戻す。

 

「ヨシさんのこと?」

 

「………俺は結局、約束を果たせなかった。シンさんとの約束も……、吉松さんとの約束も……。まぁ、後者の約束は果たす必要がなくなったからここにこうやって居れるわけだけど…。」

 

俺はその場から立ち上がり、持っていたチャームを海へ思いっきり投げる。

遠くで小さくぽちゃんと音が聞こえてきた後に千束が尋ねてきた。

 

「よかったの?大事なものだったんでしょ。」

 

「いいんだ。俺にあれを持つ資格はない。俺はシンさんの望んだ通りにはならなかったからな。」

 

「そっか。……じゃ、私も!」

 

千束がそう言うと彼女も立ち上がり、自分の首から下げていたチャームを外して俺と同じように海へ投げ捨ててしまった。

 

「千束まで捨てることなかったのに。」

 

「いいの!これでお揃いだねぇ。」

 

千束が気付いているか分からないが彼女はDAで初めてのチャームを受け取ったときと同じようなことを言った。

 

「私のなかではヨシさんは救世主さん。そこは変わらない。でも、お店で先生からヨシさんの話を聞いて私に殺しを強要しようとしてた。それはヨシさんにとって私の幸せの為なんだと思う。ヨシさんは私に殺しをさせたかった。…本人から聞いてないしホントにそうかは分からないけど……、もしそうなら今の私はヨシさんの望む私じゃない。」

 

「千束……。」

 

「だからいいの!……それよりも、ハチ。」

 

千束は先程までの微笑みを隠し、真剣な表情になる。

 

「ずっと気になってることがあるの。」

 

____

 

知りたかった。

 

ずっと気になっていたハチの信条のことが。

 

「ずっと気になってることがあるの。」

 

「?」

 

「"闇に生き光に奉仕する。" "自由のために戦う。" それが、ハチの信条でしょ。なら、私の信条は"命大事に。" "やりたいこと最優先。" 」

 

「それが、どうしたんだよ?」

 

「私が聞きたいのはハチの自由って何?ってこと。ハチが自分の自由のために戦ってるとは思えないんだ。いつだって自分のことは後回しでさ、DAから嫌な任務も引き受けて、昔はDAから抜けたいのかな?って思ってたけどそんな素振りもないし。」

 

ハチはしばらくなにも言わなかった。

ハチがその場に座り込んだため、私も彼のとなりに座る。

 

「………以前、ボスに似たようなことを言われたことがある。」

 

「先生に?」

 

「…俺は、俺自身の自由のために戦ったことなんで一度もない。俺は……………、俺は自由のために………、千束の自由のために戦ってきた。」

 

「え。」

 

「覚えてるか?…人は人を幸せにするために生まれるって、だから人を助けたいんだって。」

 

「うん……、覚えてる。」

 

「千束は今までたくさんの人たちを救ってきた。幸せにしてきた。それが、お前の才能だと俺は思う。俺にとってのお前は光なんだ。灰色の世界を照らしてくれる光だ。」

「…でも、俺はそうじゃない。千束とは違う。俺にはお前のようにたくさんの人たちを幸せにすることなんてできない。だったらせめて、たった一人。たった一人の人を幸せにしようとした。………それが千束、お前なんだ…。」

 

「…なんで私なの?いつもハチに迷惑ばかりかけてるのに?」

 

「救ってくれたからだ。俺のことを。苦しみから解放してくれた。暖かさをくれた。…生きる意味をくれた。分かるか?当時の俺がどれだけ千束に救われたか。」

 

「えっと、ちょっと待って。じゃ……、じゃあ、今まで私の為だけに生きてきたってこと?……なんでそこまで?」

 

「好きだからだよ。千束のことが。」

 

好きだからだよ。千束のことが。

好きだからだよ。千束のことが。

好きだからだよ。千束のことが。

 

さっきのハチの台詞が頭のなかでこだまする。

ん?幻聴かな?それともいきなり耳が悪くなったのかな?

こんな都合のいい言葉が聞こえてくるなんてあり得ない。

 

「ごめん、ハチ。もう一回言ってくれない?」

 

「好きなんだよ。」

 

「……誰が?」

 

「俺が。」

 

「……誰のことを?」

 

「千束のことを。」

 

「……なに?」

 

「好き。」

 

なるほど、なるほど。ハチは私のことが好きだったのかぁ~。

うんうん。幻聴でも、私の聞き間違いでもない。

ハチは私のことが好き…………と。

 

「………………………………ふぇ///」

 

顔がとんでもなく熱くなるのを感じる。

急に恥ずかしくなってハチに背を向けてしゃがみこむ。

この状態ならハチからは私の顔が見える筈はないが、念のため紅くなった顔を見られたくないので両手で顔を覆う。

 

ちょっと待って、ちょっと待って!落ち着け私。顔がとんでもなく熱いがこれは気温のせいだ。ここは本州より気温が高い。そうだ。そういうことにしよう!しかも、こういうのは昔読んだ少女漫画に似たような展開があった。ハチは今、私のことが好きと言った。好きと言っても家族愛に近いものでしょ!危ない危ない、勘違いするところだった。ハチが私を好きになるなんてことはない。…そりゃハチが私のことを好きになって告白してくれれば泣くほど嬉しいけど………、いや、そんなことよりもまずは事実確認だ。

 

私は平静を装い、立ち上がってからハチの方を向き尋ねる。

気恥ずかしくて目は合わせられないけど!!

 

「へ、へぇ~。ハチって私のことす、好きなんだねぇ~。」

 

「うん。」

 

「で、でも~、それってぇあれでしょ~。あ、あの~、あれあれ、家族愛的なやつでしょ~?」

 

「いや、一人の女性として千束のことが好きだ。」

 

一人の女性として千束のことが好きだ。

一人の女性として千束のことが好きだ。

一人の女性として千束のことが好きだ。

 

再びハチの台詞が頭のなかでこだまする。

更に顔が熱くなるのを感じる。

 

「えっと、それは~、ハチからは私への………、あ、愛の告白ってことでOK?」

 

「だから、最初からそう言ってるだろ。」

 

しばらくお互いに沈黙の時間が続く。

それを破ったのは私自身だった。

 

「…………いや、照れろよ!!!なんで!?なんで照れないの!?なんでそんな堂々と告白できるの?!せめて顔くらい紅くしろよぉ~!!!」

 

「なんで怒られてんの俺?」

 

「私も!なんで怒ってるのか分かんないぃ~!!!」

 

「まぁ、落ち着けって。」

 

「落ち着けるかぁ!!今!たった今!私にとって超重要なことを言われたんだよ!!!逆になんでハチはそんなに落ち着いてんの?!」

 

「いやこれ、ポーカーフェイスだから。今俺の心臓、バクバクよ。こんなところで暗殺者(アサシン)の技術に助けられるとは思わなかったけど。……まぁ、返事は返さなくてもいい。」

 

「え?」

 

「ただ、俺の気持ちを伝えたかっただけだ。それに、千束は俺にはもったいなさすぎる。千束にはこれからっていう未来ができたんだ。お前はこれから自由に生きればいいさ。」

 

これから。未来。

ハチの言葉でリコリコを閉店しタクシーでミズキとクルミを見送る前にミズキに言われたことを思い出す。

 

(人生の先輩からのアドバイスだ。あいつ(史八)に自分の気持ち伝えておきなさいよ。)

(…後悔してからじゃ遅いのよ。後悔のないようにしなさい。)

 

「ほら、もう陽が傾いてきた。そろそろ戻ろう。」

 

そう言ってハチは歩き出す。

私はそんなハチの背中を見つめる。

ここで私の気持ちを伝えなければこの先一生、伝えられないような気がした。

 

「ハチ!!!」

 

「ん?」

 

ハチが私の方を振り向いた瞬間、ハチの唇に自分の唇を押し当てる。

 

「…返事は要らないって言われたから、行動で!示しました!………これが、私の気持ちです。」

 

「あ………、うん。」

 

私が今した行動を思い返すと、顔が更に熱くなる。

ハチは目を見開いていて、顔も徐々に紅くなっている。

 

「えっと……、じゃあ、これからもよろしく。」

 

「う、うん。よろしく…、お願いします。」

 

私たちはそう言って借りている民宿へ手を繋いで帰っていく。

その日の夜はお互いに気恥ずかしくてなかなか寝つけなかった。

 

 

 

 

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