「ん~。」
今日は朝から千束の様子が少し変だ。
朝食を摂りながら千束に尋ねる。
「どうしたんだ、千束?」
「……ねぇ、ハチ。今日バイト休みだよね?」
「あぁ、明日の午前中からだからな。それがどうした?」
「今日、買い物に行きます!!」
「いいんじゃないか?行ってこいよ。」
「ちっがぁ~う!ハチも一緒に行くの!」
_____
ハチと結ばれてしばらくが経った。
初恋は実らないと言われているが、私は今幸せの真っ只中にいる。
しかし、不満が一つだけあった。
それは、
付き合った当初は恥ずかしくてまともに目を合わせられなかったが最近になってようやく慣れてきた。
そして、本日ハチと恋人らしいことをしようと計画している。
……という訳で今、私はハチと一緒に街中を歩いていた。
「で、何を買うんだ?」
「ん~、別に買いたいものはないんだけどねぇ。……折角、こ…、恋人になれたんだし、それらしいことをしてみたい………というか、なんというか………。」
「あぁなるほど。そういうことか。……でも、恋人らしいことってなんだ?」
「え?そりゃ~……、名前で呼び合ったりとか。」
「呼んでるじゃん。」
「手料理を振る舞うとか。」
「年がら年中、食ってるよな俺の手料理。」
「お、お泊まりする!」
「入り浸ってんじゃねぇか。」
「一緒に旅行!」
「今してる。」
「あとは……、あとは……。」
あれ?おかしいな。ほとんどしてるぞ。デートだって一緒に買い物して遊ぶって意味なら何回もしてるし……、あれ?もしかして、私たちが自覚してないだけだったのではないか?
私が頭を悩ませているとハチが口を開く。
「ま、そんなに慌てることも無理することもないだろ。気楽に、これから一緒に考えていこう。取り敢えず、簡単なことから始めようか。」
「あ。」
そう言ってハチは私の手を繋いでくる。
指を絡める……、所謂恋人繋ぎというやつだ。
「こういう簡単なやつでも、気分は変わるもんだろ?」
「そ、そうだね///」
それから私たちは海中公園など色々なところを歩き回った。
歩き回っているとある店が視界に入る。
私はハチにダメもとであることを提案する。
「ハチ、あれ。」
「ん、アクセサリーショップがどうした?何か欲しいものでも見つかったか?」
「欲しいといえば欲しいんだけど……、」
「珍しく歯切れが悪いな。」
「あ~、だから~、その~、この前、ヨシさんから貰ったチャーム捨てちゃったじゃん。」
「あぁ。」
「私、ずっと首から下げてたからなんかあれがないと違和感があるんだよねぇ~。」
「なるほど、代わりのやつが欲しくなったのか。いいじゃん。新しいのを買って、」
ハチが店に入ろうとするのを止める。
「そうだけど!そうじゃなくて……、ハチにも買って欲しいの。……ハチがアクセサリーとかジャラジャラしたのがあまり好きじゃないのは分かってるよ!……でも、その~……、」
「お揃いのやつが欲しいってことか?」
ハチの察しの良さはこういうときに頼りになる。
私は恥ずかしくなってしまい、黙って頷く。
私の頷きにハチはため息をはく。
やっぱり、ダメか。
「最初からはっきりとそう言えばいいのに。変なところで気を遣うよな。」
「えっ!いいの!」
「いいよ、それぐらい。ちょっと恥ずかしいけど、指輪とかブレスレットじゃなきゃ仕事の時に邪魔にはならないしな。」
「じゃあ、ネックレス!ネックレスなら良いよね!」
「あぁ。」
それから私はハチと共に意気揚々とアクセサリーショップに入り、ネックレスを選んだ。選んだのはダブルリングのネックレス。
お互いのものを買い、それをプレゼントし合った。
その後、昼食を適当なところで摂り、私たちは現在与那覇前浜ビーチにいる。
季節がらか人がまばらであった。
しかし、今日の気温は少し高いので今ハチに近くにあるキッチンカーで売っていたアイスを買いに行って貰っている。
私は浜辺に立ち、先程買った貰ったネックレスを見つめる。
まさかハチからペアルックをOKして貰えるとはなぁ~。
ダメもとでも、言ってみるもんだね、こりゃ。
今、ハチもこれと同じやつを着けてるんだよねぇ。
あっ、ダメだ。そう思うと顔がにやけちゃう~。
私は勝手に上がってくる口角を懸命に下げようとする。
そんな時に後ろから肩を叩かれた。
「あっ!ハチ、」
ハチだと思って振り向くが、そこにはハチの姿はなく、大学生くらいのふたり組の男達がいた。
「おっ!やっぱ、めっちゃカワイイじゃん!ほら見ろ、俺の言った通りだったろ?」
「あぁ、確かにすげ~美人!ねぇ、君!ここで何してるの?もし暇ならこれから俺達と遊ばない?」
なんだこいつら。ナンパか?
さっきまで気分が良かったのに一気に気分が下がってしまった。
この手の相手はめんどくさいんだよなぁ。
その眉間に先生の弾をぶちこみたい衝動に駆られるが、残念ながらそれはできない。
はぁ~、ミズキを生け贄にしたい。
「いえ、今彼氏を待ってるので。」
おぉ~、彼氏か……。
自分で言った台詞だがちょっと気分が良くなった。
「えぇ~、そんなつれないこと言わないでよぉ。」
「そうそう!君みたいな美人さんを待たせる彼氏なんて最低じゃん!オレならそんなことしないけどなぁ~。」
こいつら、ハチのことを知らないくせに好き放題言いやがって!
いくら千束さんの心がユーラシア大陸よりも広いからって我慢できないものがあるぞ!!
私は目の前のふたり組に少し痛い目に遭わせようとした瞬間、ふたり組の後ろからハチの声が聞こえてきた。
「えっと、どちら様?」
そこには両手にアイスクリームを持ったハチがいた。
「うおっ!ビビった!」
ふたり組は気配なく近づいたハチに驚いていたが、次第にハチに強気に出ていく。
「なんだぁオメー、邪魔すんじゃねぇよ。」
「今、取り込み中だ。どっか行けよ。」
取り込み中じゃねぇよ。お前らがどこか行け。
「いや、申し訳ないんですけどその人、俺の彼女なんですよ。」
彼女だって!今!ハチが私のこと!彼女って言った!!!
「ハハハハハ!!お前がこの子の彼氏か!?笑わせんなよ!!」
「そうだよ!なんだぁ、このヒョロい体は?髪色もジジイみたいな色しやがって。気持ちわりぃ!」
……おい、いい加減やっちまうか?このふたり。ハチの方が貴様らより体引き締まってんぞ。着やせするタイプなんだよ!髪色も綺麗だろうが!なんだお前ら、登録者数100人未満のYouTuberみたいな髪色しやがって。
私はハチに絡んでいるふたり組の後ろでハチにやっちまえ!とジェスチャーを出すが、それに気付きつつもハチはあくまでふたり組に下手に出ていた。
「俺の髪色で不快を感じさせたのなら謝ります。申し訳ございません。」
「謝るくらいならさっさとどっか行ってくんない?」
「すいません、それは出来ません。」
「ちっ、めんどくせぇ………なっ!!」
そう言ってふたり組のひとりがハチに殴りかかった。
ハチは顔を殴られ後ろに勢い良く倒れてしまう。
「っハチ!大丈夫?!」
私は倒れたハチに駆け寄り安否を確認する。
ハチは顔をしかめながら大丈夫と言うが、私の我慢が限界であった。
私がふたり組に手を出そうとした瞬間にハチに肩を掴まれ、制止させられる。
「ここら辺でやめにしておきませんか?」
「あ゛?何言ってんだ?」
「周りを見てくださいよ。少ないですけど、他の利用客に見られてしまっていますよ。ことを荒立てるつもりはこちらにはありません。ここら辺で手打ちにしませんか?」
私も熱くなってしまっていたため気付かなかったが、周りの利用客がこちらを見てヒソヒソと何か言っている。それにふたり組も気づく。
「ちっ、……シラケた。もう行こうぜ。」
「………おう。」
そう言ってふたり組は私たちから離れていった。
「ちょっと、ハチ。何でやっちゃわなかったの?あんな奴ら小指で倒せるでしょ~。」
「いや、流石に小指だけじゃ倒せねぇよ。それに周りの目もあるしこうするのがベストだったんだよ。」
ハチはそう言って服についた砂を払いながら立ち上がる。
「それよりも……、あ~ぁ、もったいない。折角買ってきたのに。」
ハチはあいつらに殴られたときに砂浜に落としてしまったアイスに視線を落とす。
「アイスよりもハチだよ!なにも殴られることはなかったんじゃない?」
「ん?あぁ、確かに殴られたけど直前にうまい具合にしたから痛くもないよ。……それに、俺はあのふたり組を助けたんだぜ。」
「……どういう意味?」
「トップリコリス様があいつらの頭に弾をブチ込む前に助けたって意味。」
「言ったなぁ~、こいつぅ~!………えいっ!」
冗談を言うハチに私は足だけを海の中へ浸からせ軽く水面を蹴り、ハチに水をかける。
「ちょっ、!おまっ、やめて、濡れるから!」
「嫌ですぅ~!イジワル言うハチなんかこうしてやるっ!」
私はハチに水をかけ続け、彼はそんな私を止めようとするがそれをヒラリと避ける。
「止めたかったら捕まえてみてぇ~。うふふ、捕まんないけどぉ~。」
「こいつ……。」
私は笑いながら追いかけてくるハチに捕まらないように走り出した。
_____
ハチとのデートが終わり一緒に借りている民宿へ帰る。
「先に風呂貰うぞ。誰かさんに水をぶっかけられたからな。」
「はいはぁ~い。ごゆっくりどぉ~ぞ~。」
そう言ってハチはポケットから懐中時計をテーブルの上に置いてからお風呂に入りに行った。
ハチは夏でもお風呂に浸かりたいタイプの人だからしばらくは出てこないだろう。
私はテレビを見ていたがふとした時にハチがたった今テーブルの上に置いた懐中時計が気になった。
これは、ハチの初めての誕生日プレゼントで先生と一緒に選んで贈ったものだ。
今思えば10歳にも満たない子どもに何故、懐中時計なんてプレゼントしてしまったのかとも思う。
ハチはずっと愛用してくれているから見るからにボロボロだ。所々凹んでいたりしている。そういえば以前にたまに動かなくなると言っていたような気がした。
ハチはこれが良いって言ってるけど、次の誕生日に新しいのを贈ってあげようかな?
そういえば、ハチってこれを私にあまり触って欲しくなさそうだったけどなんでだろ?
そう思いながらハチの懐中時計を触っていると懐中時計の上についているポッチを押してしまい懐中時計の蓋が開く。
蓋の裏にはお店が出来て初めてお店の前で撮った幼い私たちのツーショット写真が貼ってあった。
「……………。」
私はそれを見てからしばらく思考回路がショートする。
手に持っている懐中時計の蓋をゆっくり閉めてからテーブルの上に置く。
「……………。」
ちょっと待って!ちょっと待って!!ちょっと待って!!!
え!何?!あの写真見られたくなかったから私に触らせないようにしてたの?!?!可愛くない?可愛すぎじゃない?!私の彼氏!!ヤバイって!ヤバイって!!コレ!ハチってば、私のことめっちゃ好きじゃん!!!まぁ、私もハチのことを同じくらい好きだけどぉ~~!!
私が両手で顔を抑えながら身悶えているとお風呂から上がったハチから声がかかる。
「出たぞ~………、って何やってんだ、千束?」
「え!……あぁ~、いや!何でもないよ!そう、別に!全然、何でもない!あっ、そうだ!私も、お風呂入っちゃうねぇ!」
「?」
そう言って私は誤魔化すためにお風呂場へと直行する。
_____
夜、私は中々寝つけずに布団に横になりながらとなりの布団で同じように横になっているハチに声をかける。
「ハチぃ、もう寝た?」
「……寝た。」
「起きてるじゃん。」
「なんだ?明日はバイトなんだから早く寝ろよぉ。」
「いやぁ、中々寝つけなくてねぇ。……今日は楽しかったね。」
「そうだな。楽しかった。」
「お揃いのネックレスも買ったし、今思うと、浜辺でおいかけっこしたのってなんかドラマみたいじゃない?」
「…そう思うとそうだなぁ~。」
「………ねぇ、ハチ。そっち行っても良い?」
「は?」
私はハチの返答を聞かずに彼の布団に潜り込み、ハチの胸に自分の顔を埋める。
「お、おい。もう子どもじゃないんだから、こういうのは……。」
「いいじゃん別に。…それに、ハチの心音を聞くとなんか落ち着くんだぁ。」
「…左様で。」
「あっ、心臓の音が速くなってきた。千束さんにドキドキしちゃってる?」
「せっかく、ポーカーフェイスでバレないようにしてんのに心拍数で俺の感情を読み取るのやめてくんない?」
「アハハ。次からこうしよ~っと。」
「まったく……。」
「……ハチ。」
「ん。」
「その………、私って……魅力ない?」
「はい?」
「だって、こんな状況でも全然手ぇ出してこないじゃん。……不安にもなるよ。」
「千束は充分、魅力的だよ。……今すぐ手を出したいぐらいだ。」
「だったら、」
「でもな………、その~、なんだ。こういうのは計画的にした方が良いと思うんだ。」
「計画的?」
「…悪く言っちゃえば、男側は気持ち良くなって出してはい、おしまい。いやもちろん、千束との子どもが出来れば嬉しいし、出来るだけ協力もしていくけど、女性側は違うじゃん。……子どもを身籠って、体が徐々に重くなっていって、つわりとかきついことがあってから最後に一番つらい出産をするわけじゃん?明らかに女性の方が負担が重いんだよ。」
「…だから、千束にはあまりそういう負担を感じて欲しくない。出来るだけ減らせるようにしたいんだ。……だから、今は千束に手を出さない。たとえ、ヘタレと言われようとも。」
「そ、そう。そうなんだ……、そっか……。」
いや、めっちゃ私のことが考えてくれてるじゃん!えっ、男の人ってみんなこんな風に考えてるの?!違うよね?ハチがマイノリティーなだけだよね。昼のあのふたり組にハチの爪の垢を煎じて飲ませてあげたいよ!ヤバイよ~、想像以上に大事にされてるぅ~!しかも、先のことまで考えてくれてるぅ!私だけじゃなかったぁ!めっちゃ嬉しいんだけどぉ!あ~、ドキドキするぅ~。心臓の音めっちゃ速くなるぅ~!
………あ、これ前のやつと同じで鼓動ないタイプやつだ。
この日の夜はお互いにあまり眠ることができず翌日のバイトはふたりとも遅刻しそうになってしまった。