たきなに迎えに来て貰った日の翌日、3人で羽田行きの飛行機に乗っているときに思い出したようにたきなが口を開いた。
「そういえば、おふたりに伝え忘れていたことがあるのですが…。」
「ん~なぁに、たきな?」
「真島のことです。」
「真島がどうかしたのか?」
「はい、あの延空木の事件の後、真島が落下したと思われる周囲をリコリスが捜索したみたいなのですが……、確認できなかったそうです。……奴の遺体が。」
「なにそれ?!えっ、じゃあなに!まだ真島は生きてるってこと?!」
「遺体が確認できなかったのでその可能性が高いかと……。」
俺はふと真島の最後の言葉を思い出していた。
(
真島はまだ生きているかもしれない。
でも、今回あいつは俺たちの敵だったってだけだ。もし次に会うときは敵じゃないかもしれない。
いや、会わないに越したことはないが……、それにしても、
「あの高さから落ちて生き延びるとはな…。下に藁山はなかったはずだけどな………。」
「藁山?……クッション代わりということですか?もしあったとしても普通、死にますよ。」
「いやまぁ、普通……は、そう…なんだけどさ……。」
「?」
俺が口にした言葉にたきなは首を傾げたため、俺は話題を変えることにした。
「まぁ、真島は今や全国的なお尋ね者と言っても過言じゃない。軽率な行動はできないだろう。」
「あぁ、そういえばニュースで言ってたよね。警察が色んな芸能事務所に確認を取ってる~って。………そんなことよりもさぁ、ハチぃ。」
「ん?」
「この窓……、開けてもいいかな?」
「殺す気か?」
そんな調子でおしゃべりをし、3時間ほどで飛行機は羽田空港に到着した。空港からタクシーを利用し、喫茶リコリコまで向かう。
店の前に到着する頃には完全に日が落ちてリコリコの閉店時間を過ぎていたが、まだ店の明かりは点いていた。
懐かしの店に千束は堂々と入っていく。
そんな千束に俺も続く。
「千束、帰還~!!やぁやぁ、労働者諸君!元気にしてたかねぇ~?」
「ただいま戻りました~。」
「おかえり、ふたりとも。たきなもご苦労だったな。」
「おぉ、思ったよりも元気そうじゃないか。」
そんな俺たちをボスとクルミが出迎えてくれた。
「あれっ?ミズキはいないのぉ~?」
千束がそう言うと、千束の声が聞こえたのか厨房の方からミズキさんが勢いよく走ってきた。
「おぉ~、ミズキも相変わらず元気そ、」
千束は走ってくるミズキさんにも声をかけるが言い終わる前にミズキさんは両手で俺たちの胸ぐらを掴む。
「よぉ~やく、帰ってきやがったな!!こんの、バカどもがぁぁぁ!!!なんだっ!テメェら!!ふたりして旅行か?!こっちは毎日仕事で忙しいってのに、いいご身分だなぁ!嘗めてんっのか!ああ゛ん!!!良かったなぁ!子ども引き連れて帰ってきやがったら末代まで呪い殺すトコだったぞっ!!!」
「お…、おおう。ずいぶんと手厚い歓迎だな。……子ども?」
「落ち着いてください、ミズキさん。」
「落ち着けるかっ!はよ、泡盛寄越せや!!!!」
「そういうと思ってちゃんと買ってきましたよ。はい、コレ。」
そう言って俺はミズキさんにお土産の泡盛を渡す。
ミズキさんは予想外だったのか言葉を詰まらせた。
「こ、こんなことであたしが許すと思わ、」
「今度、仕事終わりにリクエストしてくれれば
「…………。」
俺がそう言うとミズキさんは軽く俺と千束を睨み付けながら厨房の方へ戻っていった。
「流石は
「
「あれでも、お前達のことを心配してたんだ。後で、ちゃんと言っておけよ。」
「はぁ~い、先生。あっ、そうだ!みんなにもいろいろ買ってきたんだよっ!え~っとねぇ、ちんすこうでしょ~、マンゴークランチでしょ~、バナナケーキにぃ、あ~!そうそう、これもお店で使えないかなってさとうきびシロップとこくとうみつも買ってきたんだ!!」
「すいません、ボス。時間があまりなかったんで全部食材になってしまって……。」
「いや、無事に帰ってきただけで充分だ。改めて…おかえり。千束、史八。」
「ただいま、先生!」
「はい。」
それからしばらく久しぶりのメンバーで話し合ってから、リコリコ女性陣はそれぞれ自宅に帰宅する。
まぁ、クルミは店の押し入れに……だが。
俺とボスはそれぞれ紅茶とコーヒーを飲みながらカウンター席で話していた。
「どうだったんだ、初めての旅行は?」
「いいもんでしたよ。ゆっくり、羽も伸ばせましたし。」
「そいつは良かった。お前は働き詰めだったからな。」
「それは俺だけではないでしょう?」
「あぁだが、千束相手は疲れるだろう?」
「もう、慣れましたよ。」
俺たちは笑いながらそんな会話をしていると急にボスの表情が暗くなる。
「史八、千束は……、シンジが死んだことを知っているのか?」
「……知らないと思いますよ。でも……、千束もバカじゃない。俺との会話で薄々、勘づいてると思います。」
「そうか…。史八……、お前は、」
「俺はあなたのことを恨んじゃいません。」
ボスの言葉を遮るようにハッキリと言葉を口にした。
「俺は俺の選択をして、あなたはあなたの選択をした。そして、あなたの選択が選ばれた。」
「史八……。」
「たまに考えてしまうんです。もし、ボスの選択がなかったら今頃俺はどうなっていたんだろうって。ボスが選択し行動してくれたお陰で、今、俺はここにいられる。…千束の側にいられる。だから、俺はボスのことを恨んじゃいません。」
「そうか……、ありがとう……。」
俺は暗くなってしまった空気を少し和らげようといつもより少し大きな声で話す。
「はぁ~あ、今日は疲れました。俺も帰りますね。」
「……あぁ、また明日な。」
「はい、また明日。」
俺はそう言って店を後にした。
_______
千束とハチさんがお店に戻ってきてからしばらく経った頃、千束が閉店後メンバーを集めた。
「諸君!集まっていただきありがとう!これから、喫茶リコリコについての重大発表があります!!!はい、たきな!ここでドラムロール!」
「ドラムなんてここにはありませんよ。」
「なぁんだよぉ~、ノリが悪いなぁ~。」
「わたしが悪いみたいに言わないでください!」
そう言ってわたしが千束の首を軽く締め上げているとクルミが口を開く。
「なんだよ、重大発表って?」
千束はわたしの腕からするりと抜け出しクルミの問いに答える。
「うん。前にハチと話し合って決めたんだけどね。なんと!喫茶リコリコがついに!!海外進出をしまぁ~す!!!」
「「「「は?」」」」
千束の思わぬ発表に千束とハチさん以外のリコリコメンバーの声が重なる。
シンと静まり返った空気を断ち切ったのはミズキさん。
「いや、海外進出って……、あんたとたきなはリコリスだからパスポートないでしょ。」
ミズキさんの最もな意見に千束が慌てる。
「あぁぁぁ、そうじゃん!!どうしよう、たきな!!!」
「いや、わたしに聞かれても……。」
「考えてなかったのか?」
「いや~、考えてなかった。ど~しよ~。」
「思い立ったらすぐ行動だからね、あんたは。」
「もう少し、落ち着いてほしいです。」
千束の抜け具合にわたしたちは呆れてしまっていたが、今度はハチさんが口を開いた。
「いや、千束とたきなのパスポートはあるぞ。ずっと前にクルミに頼んだから。なぁ、クルミ。」
「あぁ、ボクが持ってる。」
「なぁんだ、あるのかよぉ~。無駄にドキドキしちゃったじゃん。まぁ、ドキドキする心臓ないんだけどぉ~。」
「千束…、その自虐ネタ止めてください。でも、そうなんですね。あるんですか。わたしたちのパスポート。」
「じゃあ、パスポートの心配はないのか。」
「「「「……………………ん?」」」」
今度はハチさんとクルミ以外のメンバーの声が揃う。
「「「「ある(の)(んですか)(のかよ)(のか)!?!?」」」」
「あるよ。」
「だから、最初からそう言ってるだろぉ。」
ハチさんとクルミは当たり前のように言うが、千束がそんなふたりに問い詰める。
「えっ!いつ?!いつから私とたきなの戸籍があるの?!」
「あ~、クルミがここに来てからすぐに脅し……、ゲフン…お願いしたから、結構前だな。」
「おい、史八。お前ついに脅したって言おうとしたな。」
「まさか、空耳だろ?」
クルミがハチさんを睨み付けるがハチさんは惚ける。
「じゃあ、私たちも問題なく海外に行けるってことだよね!!やったぁぁぁ!ワイハだ、ワイハァァァ~!」
「だがそれだと、千束とたきなのパスポートがあるだけだろう?お前の分はどうするつもりだ、史八?」
店長の指摘に千束も気づいたようだ。
「そうじゃん!なんで一緒に作って貰わなかったんだよぉ~。」
「いやだって、千束は昔から海外に憧れてたし、相棒のたきなと一緒に行ければ喜ぶかなって思って…、俺は海外に興味はあまりなかったし……。」
「じゃ~、ハチはどうするのさ?」
「ん~、留守番?」
「安心しろ。史八の分もついでに作っておいた。」
「……弁当を追加で作るような感じで偽造するなよ。」
「ボクにとってはこんなの朝飯前だ。」
「さっすが、ウォールナット。ヤバイね。」
「ちょろいね。という訳で史八、あんみつパフェ。大至急な。」
「ウォールナットに貸しを作るのは怖いからな……、畏まりました。暫し、お待ちを。」
ハチさんはそう言って厨房の方へ移動していった。
_______
cafe リコリコでカフェオレを淹れているときに一通の電話が入ってくる。
「千束~、電話出てくれ。ちょっと手が離せん。」
「ほいほ~い。はぁ~い!cafeリコリコ!………あぁ、その節はどぉも~。」
千束が元気よく電話に出るが、相手が分かった途端明らかにテンションが下がった。
「あ~、残念ながら仕事は受けられませぇ~ん。なぜならぁ~…、今!ハワイだからぁ~!!」
そう、我々は今東京から離れ、ハワイにいる。常連さんには申し訳ないが暫くはこちらにいる予定だ。
「パスポート?…んな、野暮なこと聞かないでくださいよぉ。あっ、リリベルけしかけないでね。」
そう言って千束は電話を切る。
たきながそんな千束に話しかける。
「誰ですか?」
「え?千束のファンからぁ~。」
たきなの質問に千束は猫なで声で答える。
たきなはジーっと千束を見つめている。
「……なんだよ。」
「どうせまた、変な人でしょ。」
「おっ、言うようになったなたきな。多分、相手はお前らの上司の楠木だぞ。」
俺はたきなをからかうように言うとたきなが慌てふためく。
「えっ!ホントですか?!嘘ですよね千束?!」
「えぇ~、どうだったかなぁ~?」
千束は俺の悪ノリに乗っかり共にたきなをからかい始めた。
そんな時にキッチンカーの運転席に座っているミズキさんから声がかかる。
「千束~、史八~、凍えたペンギ~ン。」
依頼者か。
「ほんじゃま、行くか。千束。」
「おぉう。待ってました~。」
俺と千束はキッチンカーから降りて依頼者の話しを聞きに行く。
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その日の夜、再び依頼者の男性に会うために私はハチ、たきな、クルミと歩いている。
たきなは私の服装に疑問の声を上げてくる。
「なんで着替えたんですか?」
「コレがワイハの迷彩服だろぉ、たきなもハチも着ろよ。」
私は今、リコリスの制服の代わりに少し、露出度の高いハワイアンドレスを着ている。
「いや、俺がそのドレス着たらおかしいだろ。」
「え~、案外似合うかもよぉ~?」
ハチは今、私が選んだ白無地の七分袖のシャツの上に黒の袖無しロングカーディガンを着ている。…もちろんフード付きだ。
……ヤバい、かっこよすぎ。流石は私。
「勘弁してくれ、確実にアウトだ。それにしても、あんまりあーだこーだ言いたくはないが…、少し肌見せすぎじゃないか?」
ハチが私の服装を指摘してきた。
そういえば、先生を尾行するときに着たドレスの時も同じようなことを言われたような気がする。
「ほほぉ~。千束さんのあまりのセクシぃ~さに悩殺されちゃう?」
「いや、確かにセクシーだけど……、その、」
「なぁに~?」
「……あんまり、他の男に……、その……なんだ、見られたくない……というか、なんというか。」
「…………………。」
ふぁぁぁぁぁぁ!!!独占欲!!独占欲だよね、コレって!!!
もぉ~う!なんだよっ!!可愛すぎかよっ!私の彼氏!!ポーカーフェイスで隠してるけど、今絶対に胸に顔押し付けたらめっちゃドキドキしてんだろうなぁ!でも、そっかぁ~。ハチって結構、独占欲強かったのかぁ~!あぁ~なんか嬉しい~!!ハチ好き~!!!
そんなことを思っているとハチが私の顔を覗き込んでくる。
「千束、どうした?」
「あぁ!な、なんでもない!なんでもない!」
「……たきな、ボクたちはなにを見せられているんだ?」
「……奇遇ですね、クルミ。わたしも同じ事を思っていました。」
後ろからたきなとクルミの会話が聞こえてくるがもう先生達と一緒にいる依頼者が確認できる距離のため、気分を落ち着かせることに徹した。
「Here she comes.」
「ゴアンシンクダサァ~イ!」
先生とミズキが顔を伏せている依頼者を慰めてあるようだ。
そんな彼らに声をかける。
「お待たせぇ!」
「ウデハァ、イチリュウデェス!」
「ハァイ!
私は淑女のように摘まんで挨拶をする。
私の後ろではクルミがヒモを引っ張ると付いている花がピョコピョコと左右に揺れるカチューシャを付けて場を和ませようと?してくれている。
「アロォ~ハァ。」
暫し、私たちの間に静寂の時間が訪れるが、それはミズキによって断ち切られた。
「………浮かれてんじゃねぇぞ、テメェら。」