闇に生き光に奉仕する男の話   作:ダレン シャン

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本編のハワイから帰ってきた後のお話になります。

気軽にお読みください。

※喫茶リコリコの常連のお客さんはオリ主君と千束ちゃんが付き合ってる事は知りません。


日常
赤ん坊のお世話は想像以上に大変な話


 

「ホンット~にありがとうございます!」

 

そう言いながら常連の伊藤さんが俺たちに対して手を合わせながら頭を下げる。

 

「いえ、責任をもってお預かりします。」

 

頭を下げる伊藤さんにボスがそう答えると今度は千束が口を開く。

 

「そうですよ!私たちにお任せあれぇ~!」

 

「本当にごめんねぇ。私の弟夫婦から預かったんだけど、私がすっかり仕事の取材で一週間ほど留守にすることを忘れたせいで……。」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ~。伊藤さんは取材に専念してくださ〜い!」

 

千束が伊藤さんに向けてそう言うが彼女の目はゆりかごの中にある小さな命に向けられていた。

 

ここら辺で話しを整理しよう。

伊藤さんは弟夫婦から赤ん坊を預かった。伊藤さん本人からすれば姪っ子だ。名前は華。生後4ヶ月。

預かったのは良いが伊藤さんは漫画の取材のため一週間ほど家を空けなければならない。預かった姪っ子を仕事に連れていくわけにもいかず、どうしたものかと考えたときに白羽の矢が立ったのが我ら喫茶リコリコだ。

伊藤さんが取材から戻るまで甥っ子のお世話を依頼された。

しかし、ボスは断ろうと考えたらしい。

妥当な考えだろう。ひとつの未来ある命を預かるのだ。無責任なことは出来ない。

そんな時に異を唱えたのが千束だ。どこでこの話しを聞いたのかは分からないが猛反対してきた。

 

『え~!いいじゃん、いいじゃん!受けようよぉ~。私、赤ちゃんのお世話したいぃ~!ねぇ先生、いいでしょ?!?、ねぇねぇ!先生、ねぇってば!…それともなに?いつもお客さん第一ぃ~とか言ってるけどホントはそんなこと思ってないんじゃないの?あ~、先生ってば口だけの人だったんだぁ~!』

 

『わぁかった!受ければいいんだろ!』

 

『えへへ、ありがとぉ~先生!』

 

と、俺が一連の出来事を思い返していると伊藤さんは店から出ていくところだった。

 

「じゃ、そろそろ時間だから私はこれで。……今度、弟夫婦も連れてきてお店に貢献するから。」

 

「はぁ~い、お待ちしてまぁ~す!」

 

伊藤さんが店を後にしたあと、俺は盛大なため息をつく。

 

「はぁ。」

 

「どうしたのさハチ?そんなヘビー級のため息ついて?幸せ逃げちゃうよ?」

 

「悩みの種がなんか言ってらぁ。」

 

ミズキさんがそう言うと千束がヒートアップしてしまう。

 

「その分私は、ハチを幸せにしますぅ〜!ミズキと違って私達はラブラブですからねぇ〜!!」

 

「こんのガキゃ〜!チョーシ乗ってんじゃねぇぞ!!!」

 

「悔しかったら彼氏の一人でも紹介してみなさいよぉ!」

 

「あ゛ぁん!!!」

 

売り言葉に買い言葉。

千束とミズキさんは取っ組み合いを始めてしまうがそんな彼女たちを無視してたきなとクルミから声がかかる。

 

「何がそんなに不安なんです?」

 

「そうだぞ、ミルクとかの必要なものは受け取ってるし困ったらいつでも連絡してくれって言ってたじゃないか。」

 

「俺が不安なのはもっと根本的なことだ。」

 

「「?」」

 

ふたりが首を傾げたため俺は一人ずつ指をさしながら確認するように口を開く。

 

「ボスは元傭兵のカフェのマスター。ミズキさんは絶賛旦那募集中の呑んだくれ店員。クルミは年齢不詳の天才ハッカー。千束とたきなはファーストとセカンドのリコリス。そして、俺は暗殺者(アサシン)。…………この中で一人でも今までにちゃんと赤ん坊の世話をしたことがある奴がいると思うか?」

 

「「………。」」

 

俺の問いにふたりが黙ってしまう。

そんな時、ゆりかごの中でさっきまで寝ていた赤ん坊が突然、泣き出してしまった。

千束とミズキさんの取っ組み合いの声が原因であろう。

 

赤ん坊の鳴き声で千束はミズキさんから離れ、赤ん坊を抱き上げ宥めようとする。

 

「おぉ~、よちよちよち、ごめんねぇ華ちゃ~ん。うるさかったよねぇ。あのおばさんが怖かったんだよねぇ~、もう大丈夫だよぉ。」

 

「お姉さんだ!!!誰がおばさんだ!誰が!!」

 

千束が赤ん坊をあやすがなかなか泣き止まない。

 

「う~、どうしよう。泣き止まないよ。」

 

「はっ!小娘には無理無理ぃ。あたしのように溢れ出る母性がないとっ!」

 

「母性?ミズキに?」

 

「年齢不詳ハッカーはだまらっしゃい!」

 

「むぅ~、ならやってみろよぉ。」

 

そう言って千束はミズキさんに赤ん坊を手渡す。

ミズキさんは自信満々に赤ん坊を抱っこし宥めようとするが赤ん坊の泣き声が一回り大きくなってしまっただけだった。

 

その事実に千束とクルミが茶々を入れる。

 

「あっはっは!ミズキも全っ然だめじゃ~ん!」

 

「酒臭いからじゃないか?」

 

「まだ、呑んどらんわ!」

 

歯を食いしばりつつも今度はクルミに赤ん坊を手渡す。

 

「なら、あんたがやってみなさいよ。」

 

「ボ、ボクか?……ボクも赤ん坊の世話なんて一度も……。」

 

クルミがそう言いながらぎこちない手で赤ん坊を抱っこするが泣き止まない。

 

「…………たきな、パス。」

 

「わたしですか!?こんなこと養成所では習っていませんよ!」

 

「まぁ、リコリスは習わないだろうなぁ。」

 

「たきな、ファイト!」

 

たきなは千束達の見よう見まねで赤ん坊を抱っこするが泣き止まない。

 

「…………店長。」

 

そう言いながらたきなはボスに赤ん坊を渡す。

 

「お、おぉ、次は私か。」

 

ボスはたきなから赤ん坊を受け取る。

 

「先生、今こそ先生の今までに温めてきた母性の出番だよ!!!」

 

「……私は男なんだが。」

 

赤ん坊はボスに抱っこされるがこれでも泣き止まなかった。

 

「はぁ、私でもダメか。ほら、今度は史八だ。やってみなさい。」

 

「えっ、俺ですか?いやいや、試すこともないですって。女性陣が全滅した挙げ句、ボスもダメだったんですから俺がしたところで…、」

 

「いいから、ものは試しだ。」

 

「えぇ……。」

 

「ハチ、期待してるよ!」

 

期待されても困るのだが…。

まぁいい。取り敢えず、抱っこだけでもしてみよう。

 

そう思いながら俺は赤ん坊の首は座っていると聞いているが一応、首を支えながら赤ん坊を横抱きに抱っこするとさっきまでの泣き声がウソのように静かになる。

なんで????

 

「…………うせやん。」

 

「おぉ、さすがハチ!どうやったの?」

 

「いや、普通に抱っこしただけなんだけど?」

 

俺が首を傾げているとボスが口を開いた。

 

「ふむ、そういえば、赤ん坊は親の体温や心臓の音で落ち着くという話しを聞いたことがある。」

 

「えっ!なにそれ先生?!じゃあ私、絶対ダメじゃ~ん。くっそぉ~、心臓の高性能さがこんなところで裏目に出るとはぁ~。」

 

それ(人工心臓)、鼓動がありませんもんね。」

 

「でも、ならなんで史八の時だけ泣き止んだんだ?」

 

「恐らくだが、史八の体温や心音がこの子に一番合ってるのだろう。」

 

「へぇ~。」

 

「あぁ~、それ分かるかも。私もハチの心臓の音聞くとよく眠れるんだよねぇ~。」

 

「「「……は?」」」

 

千束の台詞に彼女以外の女性陣が声を揃える。

確かに今の台詞だけ聞くと俺と千束は一緒に寝ているように感じるが実際のところ付き合いだしたからといってまだ一緒には寝ていない。

 

「千束、ハチさんと仲睦まじい事は分かりますがこのタイミングでのカミングアウトはちょっと………。」

 

「そうだぞ、ほら見ろ。ミズキが面白いことになってるぞ。」

 

「アタシ,リアジュウ,コロス.コロス,コロス,」

 

「え?……………あっ!」

 

ここでようやく、千束は勘違いを与えてしまったことに気づいて弁明しようと顔を紅くしながら口を開いた。

 

「いや、違うよ!?小さい頃!小さい頃の話し!!DAにいた頃、心臓の手術が怖くて前の日にハチに添い寝して貰ったことがあるの!それだけだから!!」

 

そういえばそんなこともあったなぁ。

俺は懐かしみながら、泣き止み眠ってしまった赤ん坊をゆりかごの中に戻そうとすると再び泣き出してしまう。

 

なんだ、ミルクか?オムツか?

そう思い確認しようとするがミルクの時間まではまだかなりあるし、特に何も臭わない。

ならなぜまた泣き出したのか?俺が理由を考えているとボスが口を開いた。

 

「恐らく、史八のこと気に入ったのかもしれないな。」

 

まさかと思いながら俺があやすように横抱きにしてゆっくりと揺らすとすぐに泣き止む。

その後、何回か他のメンバーに手渡してみるがどうしても泣き出してしまう。

俺が抱っこして落ち着いているときにミズキさんが口を開いた

 

「やっぱり女の子ねぇ。お世話されるのはやっぱりイケメンが良くて、女やオッサンじゃ嫌なのよ。」

 

「関係あります?後、俺はイケメンじゃないです。」

 

俺がそう否定するとミズキさんから「まぁた、こいつは…。」みたいな顔をされた。

別に間違ったこと言ってなくない?

 

その後、千束が手を上げて言う。

 

「純真無垢な華ちゃんにミズキみたいな邪な存在の考えを押し付けるのは良くないと思いまぁ~す!」

 

「誰が邪な存在じゃあ!!!」

 

再び千束とミズキさんが取っ組み合いを始めるが赤ん坊が泣き出すことはなく、俺の腕のなかでスヤスヤと眠っている。

そんな時に、たきなは伊藤さんが持ってきたバックの中からあるものを取り出し俺に渡してきた。

 

「どうぞ、ハチさん。」

 

「何これ?」

 

「抱っこ紐です。ずっと両腕で抱えているわけにはいきませんから、仕事中はこれで。」

 

「………ちょっと待って。俺、この子(赤ん坊)を抱えながら仕事すんの?」

 

「史八から離れると泣き出してしまう現状、そうする他ないだろう。」

 

ボスが諦めた表情でそう言うが俺はまだ納得できない。

 

「さぁ、そろそろ開店時間だ。千束、ミズキ。いつまでも言い争ってないで準備を始めてくれ。」

 

「はぁ~い。」

 

「へいへぇ~い。」

 

「ちょっと!こんな状態で仕事なんて、」

 

「人手不足なんだ…、頑張ってくれ。」

 

「ド畜生!!!」

 

俺の言葉に反応して赤ん坊が腕のなかできゃっきゃっと笑っていた。

 

________

 

俺は抱っこ紐で赤ん坊を背負いながら店の厨房で調理をしている。

この子はオムツが汚れたときやミルクの時間になると泣き出すことがあるが、俺と一緒にいる間はほとんど泣かない。

現に店が開店してから店が騒がしくなるがこの子が泣き出すことはあまりなかった。

 

この分なら問題なく仕事も出来るなと思い始めたとき、後ろでちょろちょろと動く存在に気を散らされる。

 

「なぁ、さっきからなんだよ千束。俺の後ろをちょろちょろと。」

 

「だぁ~ってぇ、華ちゃんが気になるんだもん!」

 

「仕事をしろ。」

 

彼女にそう言ったとき、ホールからカウンターからボスが顔を覗かせる。

 

「史八、そろそろ華ちゃんのミルクの時間じゃないか?」

 

ボスの言葉に反応し、時計を見ると確かにそろそろ時間だ。

粉ミルクを準備しようとすると横から千束に掠め取られてしまう。

 

「ここは、この千束さんに任せなさ~い!!」

 

「人肌の温度だからな。」

 

「わ~かってるって~。」

 

そう言って千束は鼻歌交じりに粉ミルクを溶かすためのお湯を沸かし始める。

 

「はい!完せぇ〜い!」

 

ミルクの準備が出来たようなので俺は背中に背負っていた赤ん坊を横抱きにして千束がミルクを飲ませようとする。

 

「はぁ~い、ミルクでちゅよ〜。たくさん飲みましょ~ねぇ~。………おっほぉ!見てみてハチ!華ちゃん、めっちゃ飲んでるよぉ。」

 

「そりゃ、飲むだろ。むしろ飲んでくれなきゃ困るわ。」

 

千束が哺乳瓶を赤ん坊の口に当てるとごくごくと飲み始める。それも見て千束のテンションが上がる。

数分後、哺乳瓶の中身が無くなり、赤ん坊の口からケプっという声が聞こえた。

どうやら満足したようだ。

 

_____

 

私たちはホールから厨房で華ちゃんにミルクをあげる史八と千束を見ていた。

 

「なんだあれ?」

 

「もう、恋人通り越して新婚にしか見えませんね、わたしには。」

 

「けっ!」

 

クルミの一言にたきなとミズキが反応する。

ミズキだけは面白くなさそうだが、私にとっては微笑ましい光景だ。私の子ども達が一緒に赤ん坊にミルクをあげている。

近い将来、ふたりの腕のなかにいる赤ん坊はあのふたりの子どもかもしれない。

そう思うと目頭が熱くなってくる。

私は涙がでないようにメガネを外してから熱くなった目頭をおさえる。

 

「え?何泣いてんだ、オッサン?怖っ。」

 

______

 

伊藤さんから赤ん坊を預かって数日が経った。

分かっていたことだがやはり育児は大変だった。

数時間後とのミルクとオムツ交換、夜泣きによるこちらの寝不足、言葉が使えないためなんで泣いているのか分からない、……etc。

世の母親はこんなにも苦労をしているのかと尊敬すら覚えてくる。

 

……院長先生。ごめん、大変だったよな。

 

俺は心のなかで院長先生に謝りつつ、ゆりかごの中で眠っている赤ん坊を見る。

赤ん坊は数日経って俺たちに慣れたのか俺から離れても泣かなかったし、俺以外が抱っこしても泣き出すこともなくなった。

現在はたきながミルクをあげるのを千束と俺が見守っている。

 

「やっぱりこうやってお世話をしてみると大変ですけどやっぱり赤ちゃんって可愛いですよね。」

 

「でしょ~。……あっそうだ、たきな。華ちゃんの手のひらに自分の指当ててみて。」

 

「…こうですか?」

 

たきなが千束に言われたとおりにすると赤ん坊がたきなの指をぎゅっと握る。

 

「こ…、れは、胸が……、なんと言いますか……、」

 

「きゅんきゅんすんだろ~。」

 

「そうですね。でも、なんで握るんです?」

 

「あ~、なんだっけ?………そうだ!握手反射だ!!」

 

「握手反射?」

 

千束がたきなに間違った知識を植え付けようとしたため修正するため俺が横から口を出す。

 

「握手じゃねぇ。把握だ、把握反射。」

 

「それだ!」

 

千束が指をパチンと鳴らしながら言うが、昨日教えたことをもう忘れたのかこいつは?いや、ちゃんと聞いてなかっただけか。

 

そんな会話をしているとカウンターからボスが声をかけてくる。

 

「史八、千束と一緒に華ちゃんの外気浴がてらに配達に行ってきてくれ。」

 

「いいですけど、なんで千束も?」

 

「帰りに買い出しも頼みたい。少し、量が多くなりそうだからな。」

 

「了解。………でも、外気浴が必要なのはクルミも同じじゃないですか?いつまでも引きこもってたらそろそろ頭からキノコとか生えますよ。」

 

「なら、クルミと一緒に行くか?」

 

「……止めましょう。帰りの荷物が多くなるだけだと思いますし。」

 

「そうだな。」

 

「それじゃあ、行こう!ハチ!」

 

「ん。」

 

「じゃ、先生行ってきまぁす!」

 

「気を付けていけよ。」

 

そう言って俺は赤ん坊を抱っこ紐で背負いながら千束と共に店を出る。

 

______

 

ふたりが店を後にした直後、ホールにクルミが顔を出す。

 

「あれ?ミカ、千束はどこだ?」

 

「千束なら史八と一緒に配達と買い出しを頼んだが……、なにか用事でもあったか?」

 

「いや~、手が空いてるようだったらボドゲで遊ぼうかと思ってただけだ………って、ちょっと待て、史八と行ったのか?」

 

クルミが何故か顔をしかめる。

何故だろう?千束と史八がふたりで買い出しに行くのは別に珍しくもない。

 

「…そうだか、何か問題か?」

 

「史八は赤ん坊を背負ってるんだよな?」

 

「あぁ。」

 

「…………そうか。」

 

クルミはそう言って押し入れに戻っていった。

何か不味いことがあるのだろうか?

 

______

 

押し入れに戻り、千束と遊ぼうとしたボドゲを片付けながら思う。

 

史八と千束の奴らがふたりで買い出しに行くことなんて珍しくもない。それこそ、日常的にあることだ。

しかし今、史八の背中には赤ん坊が背負われている。ボク達は、赤ん坊を預かっているということを知っているが、この事を知らない地域住民達が見たらどう思うだろう?

買い出しはいつも通り近くの商店街で済ます筈だし、商店街の人たちは挨拶程度はする顔見知りだ。そんな奴らが今のあいつら(千束と史八と赤ん坊)を見たらどう思うか?

ミカは気づいていないようだったが、まぁいい。ボクには関係ない。…………後で面白そうなことになりそうだ。

______

 

俺たちは配達を済ませ、千束と近くの商店街まで買い出しに来ている。

特に代わり映えのない配達と買い出しだ。

しかし、いつもと変わっていることが一点だけある。それは、周りの人たちからの視線だ。

周囲の人たちから何故か暖かい視線を感じる。

もちろんその視線は千束も気づいている。

 

「ハチぃ、なんか周りの人たちの視線がくすぐったいんだけど……。」

 

「我慢しろ。冷たい視線よりはいいだろ?」

 

「そうだけどぉ。え、なんで?なんで私たちこんなに見られてるの?ハチ、何かした?」

 

「何かしたって言うなら千束の方じゃないか?絶対なんかしただろ。思い出せ!」

 

「完全に犯人扱いされてる?!もうちょっと自分の彼女を信じろよぉ~。」

 

千束と小声で話すが結局答えが出ぬまま足早に買い出しを済ませ帰路にもどる。

帰り道でも、周りからの暖かい視線は変わらずにあり、そんな視線を気にしていないのは、俺の背中で飛んでいる蝶々に手を伸ばし、きゃっきゃっとはしゃいでいる赤ん坊だけだった。

 

_______

 

僕は仕事場である警察署から喫茶リコリコに向かって歩いている。

今は休憩時間でもないし、仕事のために喫茶店へ行くわけでもない。

ならなぜお店へ向かうのか?とどのつまり、サボりだ。

喫茶リコリコはとても良い喫茶店だ。

内装もお洒落だし、従業員たちも仲が良い。何よりもマスターの淹れるコーヒーは絶品だ。甘味も甘すぎず甘いものが苦手な人でも美味しく食べられるように工夫が施されている。

 

そんな心のオアシスである喫茶リコリコに足を伸ばすために商店街を素通りしようと歩いていると商店街にいる人の口々から同じような言葉が聞こえてくる。

 

曰く、仲の良い男女が赤ん坊を連れて買い物をしていた。

曰く、その男女はこの商店街の近くにある喫茶店のスタッフ(・・・・・・・・)である。

曰く、その男女は着物、和装(・・)をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………落ち着こう。まずは落ち着こう。

僕は刑事だ。推理をしよう。

 

 

仲の良い男女が赤ん坊を連れて買い物していた?

特に珍しくない。新婚さんなのかな?

 

その男女は商店街の近くの喫茶店のスタッフ?

うんうん、職場が同じで結婚するということも珍しくない。社内恋愛みたいなものだ。しかし、この商店街付近の喫茶店はいくつかある。どこのお店だろう?

 

その男女は着物、和装をしていた?

 

 

…………………………………………………………。

 

 

 

気づいたら走り出していた。

向かう場所は既に向かっていた場所、喫茶リコリコ。

走り出したは良いが運動不足のためすぐに息が切れる。しかし、僕の足が止まることはなかった。早く真実を確かめなければならない!

はっ!先に他の常連さん達にも知らせなければ!

 

そう思い、スマホを使い情報を共有する。

 

仲の良い男女。

喫茶リコリコのスタッフはみんな仲が良い。互いに憎まれ口を叩くこともあるが端から見ていても悪意がないのはすぐに分かる。

 

マスターは足が悪いから買い出しにはあまり出ないと言っていた。僕が店にいるときもしばしばマスターから史八君や千束ちゃん達に買い出しを頼んでいたところも目にしたことがある。つまり、男性の方は史八君ということになる。

では、次は女性だ。

喫茶リコリコの元気印、天真爛漫な千束ちゃんか、クールでしっかり者のたきなちゃんか……、まさかのクルミちゃん!?いや、ここはまさか大穴のミズキちゃんという線もあり得る!!

 

僕は息を切らしながら喫茶リコリコの扉を勢い良く開ける。

いつも通り、マスターが出迎えてくれるが、彼はいつもとは違い息を切らした僕を案じてくれる。店の様子を見てみるがどうやら他のお客さんはいないようだった。

 

「いらっしゃいま……、どうしたんですか?!そんなに急いで!なにかあったんですか?!」

 

「い……っ、史……はぁ、はぁ、けっこ………。」

 

息を切らしながらそれに答えようとするが上手く言葉が出てこない。

マスターはそんな僕に落ち着くように水を一杯くれる。

 

「まずは、落ち着いてください。何があったんですか?」

 

僕は水を一気飲みし意を決して噂の真相を尋ねる。

 

「史八君が結婚して、しかも子どもまでいるって本当ですか!?」

 

「え?」

 

僕の言葉にマスターが目を丸くする。

まさか知らないのだろうか?いやいや、知っている筈だ。それに隠す必要はない。

……いや、待てよ。僕の予想の対抗のたきなちゃんは今年17歳。最近になって民法が改正され女性の婚姻可能年齢が18歳に引き上げられた。そして、僕は刑事。もし、史八君の相手がたきなちゃんであれば法に触れることになりマスターは僕に隠す必要がある………。つまり、史八君の相手はたきなちゃんということに!

 

僕がそんなことを考えていると先程の僕の声が大きかったのか奥の方からマスター以外のスタッフが出てきた。

 

「何なのよ~、おっきな声でぇ。」

 

「店長、どうしたんですか?」

 

「俺がどうかしました?」

 

出てきたのはミズキちゃんとたきなちゃんと史八君。

その数秒後千束ちゃんが出てくるが………、千束ちゃんの腕には可愛らしい赤ちゃんが横抱きになって抱えられていた。

 

「ねぇ、ハチ。華ちゃん眠っちゃってミルクあげられないんだけど………。」

 

「哺乳瓶の先っぽを唇に当ててみな。そしたら勝手に飲み始めるから。」

 

「…………おぉ!ホントだぁ!飲み始めたぁ!さっすがパパぁ~。」

 

「誰がパパだ。」

 

僕の前でそんなやり取りが行われる。

 

そうか、そうか。

やっぱりそうだったんだな。

 

自分のなかで結果を出したところで史八君に話しかけられるが僕はそれどころではなかった。

 

「阿倍さん?」

 

すぅ~……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり本命だったぁぁぁ~!」

 

 

 

 

僕は腹の底から今日一、大きな声を出した。

 

______

 

「……本命ってなんです?」

 

ハチは状況を確認するように阿倍さんに尋ねる。

 

「え?その子、史八君と千束ちゃんの子どもでしょ?」

 

「「はい?」」

 

ハチと声が重なる。

 

「え?なんでそんなことになるんです?」

 

「だって、そこの商店街で噂になってたよ?和装の喫茶店の男女が赤ん坊を連れて歩いてたって。」

 

「やっぱり、そんな感じになってたかぁ~。」

 

ハチの問いに答えた阿倍さんに対して押し入れからいつの間にか出てきたクルミが口を開いた。

そんなクルミに尋ねる。

 

「どうゆうこと?」

 

「別にお前らふたり(千束と史八)が一緒に買い出しに行くなんて珍しくはないが、今日は赤ん坊も連れていたんだろ?なら、変な噂が立ってもしょうがないということだ。」

 

なるへそ~…………って!

 

「ちょっと待って!じゃあ、私とハチが結婚してしかも子どもがいるって噂が流れてるの!?!?」

 

「まぁ、それに近い噂が流れてるだろうな。人の口に戸は立てられんということだな。」

 

クルミは悪い笑顔を浮かべながら言う。

 

なんだろう?顔が熱くなってきた。え?私はハチと結婚してるって噂されてるの?しかも子どもまでいるって……………?

は、恥ずかしい///!

さっきの配達と買い出しの時の周りからの暖かい視線はこの事だったのか///

特に意識はしていなかったけど、周りの人たちからはそうみられていると思うと嬉し恥ずかしだよ///

 

私は両手で顔を覆い指の隙間からチラッとハチの方を向くと、私の視線に気づいたのか彼もこちらを見てくるがすぐに目をそらしてしまった。

私から目をそらしたハチは顔の紅さは隠せても耳までは隠せていなかった。

 

そんな時に、状況を勘違いしている阿倍さんに対して先生が誤解を解くように説明する。

 

______

 

「なぁんだ!伊藤さんの姪っ子かぁ~!」

 

阿倍さんは座敷でコーヒーを飲みながら言う。

どうやら無事、誤解は解けたようだ。

 

「すまない、ふたりとも。私の配慮が足りなかった。」

 

ボスから謝罪されるがこちらにも落ち度はあった。

 

「いえ、俺も気付くべきでした。なぁ、千束。」

 

「私は、別にぃ~…。ち、近い将来…、そう…なるかも、だしぃ~。」

 

「ちっ!!!」

 

千束の台詞に対しミズキさんから舌打ちが聞こえてくる。

そんな時にたきなが口を開いた。

 

「でも、いいんですか?今、商店街におふたりの噂が流れてるってことですよね?」

 

「まぁ、それに関しては別に良いだろ。めんどくさいけど、聞かれたら勘違いを解くようにしてけば。人の噂も七十五日って言うからな。」

 

「ハチ、考えること放棄してない?」

 

「……ちょっとな。」

 

その瞬間、店の扉が再び勢い良く開けられた。

扉の方に目を向けると常連さんの皆さんだった。

 

「誰と誰が結婚したって!?!?」

「おめでと~!」

「式はいつだ?!もうやったのか?!」

 

なんだろう?前に閉店するときにも似たようなことがあった気がする。……今日は一気に人が来たが。

 

俺はもう考えることを完全に放棄し今回の騒動の説明をボスへ丸投げした。

 

______

 

勘違い騒動から三日が経ち、今日の午後に伊藤さんが華ちゃんのお迎えに来るという連絡が来た。

今、ハチと一緒に華ちゃんの散歩に来て公園のベンチで休憩中だ。

華ちゃんはハチの腕の中できゃっきゃと笑っている。

 

「まったく、呑気な奴だ。お前のせいでこっちはたいへんだったんだぞぉ。」

 

ハチは冗談交じりにそう言って、華ちゃんの体を高く掲げる。

 

「しょうがないでしょ~、まだ赤ちゃんなんだから。しっかり、お世話しないと。」

 

「分かってるって。」

 

私は華ちゃんをハチから受け取り横抱きにする。

そんな時に私たちの前を通りかかった一人のおばあさんに話しかけられる。

 

「あら、家族でお散歩?いいわねぇ。その子はいくつ?」

 

「あっ、いや、俺たちは、」

 

誤解を解こうとするハチを遮るように私はおばあさんの問いに答える。

 

「4ヶ月です!」

 

「あら、なら一番大変な時期じゃない?」

 

「そうですねぇ、自分で動き始められるようになってから大変ですねぇ。夜泣きとかもありますし。」

 

「そうなの!私もねぇ同じくらいの孫がいるんだけど……、」

 

私がおばあさんと話し始めると横からのハチの視線を感じる。

おばあさんと会話を終えてからハチが話しかけてきた。

 

「おい、誤解を生んだじゃないか。」

 

「いいでしょ~、今日で最後なんだし!」

 

「はぁ、まったく。」

 

ハチはやれやれという感じで立ち上がる。

 

「ほんじゃ、そろそろ時間だ。店戻ろうか。お母さん(・・・・)

 

「そうだね、お父さん(・・・・)!」

 

______

 

「ホンっト~にありがとうございました!」

 

時間通りに伊藤さんが来店し、その腕には既に赤ん坊が抱えられている。

 

「いえいえ、お気になさらず。」

 

「このお礼は次に、お店に来たときに…。」

 

「またのご来店をお待ちしてますよ。」

 

伊藤さんがボスとの会話が一段落ついたため店を後にしようとしたときさっきまで寝ていた赤ん坊が泣き始めて手足をバタバタと動かす。

 

「さっきまで寝てたのに、みんなとのお別れが寂しいのかな?」

 

伊藤さんがそう言うと千束が赤ん坊に近づく。

 

「華ちゃん、またね。」

 

千束がそう言うと赤ん坊はすぐに泣き止み笑顔になる。

 

それから伊藤さんと赤ん坊は店を後にする。

本日の閉店準備のときに千束が話しかけてきた。

 

「ねぇ、ハチ?気になってたんだけどさ?」

 

「ん~?」

 

「なんでハチって華ちゃんの名前、呼んであげなかったの?」

 

ハチは片付けの手を止めて口を開く。

 

「……だって名前を呼んだら感情移入しちゃって別れづらくなるだろ。」

 

俺がそう言うと千束は笑い出す。

 

「そんな理由で名前呼んであげなかったの?可愛いかよ、私の彼氏!」

 

「喧しいわ!」

 

「あ~、そういえばハチって涙脆いもんねぇ。」

 

「そうなんですか?意外ですね。」

 

俺たちの会話が聞こえたのかたきなが会話に入ってくる。

 

「そうなんだよ!たきなぁ~。泣ける映画とか見ると高確率で泣いてるし、可愛いでしょ~!」

 

「可愛いですね。」

 

「おまえら、さっさと片付けをしろよ!帰れねぇぞ!」

 

 

 

 

 

 

その日以降、時々伊藤さん経由で赤ん坊の動画や写真が送られてくるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





投稿が遅くなりました。
理由としましては、リアルが忙しくなったとかそんな理由ではありません。

神様になって九界を冒険したり、パルデア地方を旅したりなどして時間があまり取れませんでした。

………正直に言いましょう。サボってました!すんません!!!

しかし、そのかいもあり昨日スカーレット図鑑コンプしました。
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