タヒんだと思った?
残念!生きてました!
すみません、サボってました!
今日も今日とて喫茶リコリコは営業中。
いつもと何も変わらない風景がそこにあった。
開店前にハチに頼み事をする先生。
「史八、すまないが、電球が切れていたから換えてきて貰っても良いか?」
「了解しました、ボス。」
「ありがとう。」
営業中、調理中のハチへお願いをするクルミ。
「史八~、あんみつパフェ~。」
「もう少しで手が空きそうだからもうちょっと待っててくれ、クルミ。」
「わかったぁ~。」
閉店間際、ハチに要求する呑兵衛ミズキ。
「ねぇ~、酒の肴作りなさいよぉ~。」
「ミズキさん、おつまみは後で作りますから晩酌は家でやってください。後、まだ営業中ですよ。」
「へぇ~い。」
閉店後、ハチに依頼するたきな。
「ハチさん、すみません。レジのお金がどうしても合わないのでチェックお願いしても良いですか?」
「わかった、後で確認しておく。」
「ありがとうございます。」
私は一日の風景を見て思う。
これは、マズイかもしれない……と。
_____
翌日、私は閉店後にリコリコメンバー全員をちゃぶ台を囲むように集めた。少しだけ長くなりそうだから人数分のお茶とお茶請けの煎餅を用意する。メンバー全員と言っても今日はハチが休みであったためハチだけ不在だがこれで良い。
「どうしたんですか?また前みたいにふざけた内容で集めたのだとしたら怒りますよ。」
「残念ながら今日は真面目な話しだよ。」
「「「「?」」」」
私がたきなにそう言うとみんなの視線が私に集まる。
そして私は、両肘をちゃぶ台につき、指を口の前で絡めて真剣な表情で言う。
「…皆さん、最近ちょっとハチに頼りすぎじゃない?」
「「「「…………。」」」」
私以外の女性メンバーが顔を見合せと思ったらおもむろに私のほうを向き声を揃えながら言う。
「千束(アンタ)(お前)にだけは言われたくないです(わよ)(ぞ)。」
「ちょっと?!それじゃあまるで私がいつもハチに頼ってるみたいになるじゃん?!」
「そうですよね?」
「そうじゃない?」
「そうだろ?」
「うわ~ん、先生~、たきな達がいじめる~。」
私が隣にいる先生にすがりつくと先生が頭を撫でてくれる。
この場に私の味方は先生しかいない。
「先生~。」
「千束。」
「なぁに、先生?」
「……悪いがフォローの仕様がない。」
「まさかの味方がいなかった!?」
私は自分の席に戻り皆に尋ねることにした。
「そ、そんなに私、ハチに頼ってる?」
「「「「……………。」」」」
「いや、そんな『マジかよ、こいつ……。』みたいな目で見なくても。」
まぁ、思い当たる節はある。
ご飯はハチに作って貰ってるし、家事のほとんどはハチにやって貰ってしまっている。リコリスの仕事でもよくフォローして貰ったりもしているし。
………あれ、おかしいな。もしかしなくても一番ハチを頼ってるのって私?
「た…、確かに私もハチに頼りすぎてるところがあるかもだけど、それは皆もじゃない?」
私がそう言うと先生とたきなが賛同してくれる。
「ふむ…、確かに千束の言うことも一理ある。」
「そうですね、わたしもハチさんに頼りすぎているところがあるかと思います。」
先生とたきながそう言うとミズキとクルミも自覚があるのか顔をしかめ始める。
「でしょ~!こんなんじゃいつハチに愛想尽かされちゃうか分かんないよ。」
「でも、あいつ無自覚な世話焼きみたいなトコロがあるし、人に尽くしてなんぼみたいなタイプでしょ~。好きにやらせときゃ~いいのよ。」
「あぁ~、分かるかもしれん。」
ミズキの台詞にクルミも同意する。
「だから、いいんじゃない?好きに世話焼かせておけば…。」
ミズキはお煎餅を齧りながらそう言って彼女の言葉に私もそうかもと思い始めたときに、BGMがわりにつけていたお店のテレビの音が耳に入ってきた。
テレビに目を向けるとプライバシー保護の為か顔にモザイク処理をされた30歳くらいの成人男性がインタビューのようなものを受けていた。私に釣られて皆もテレビに目を向ける。
『では、何の前触れもなく奥さまは家から出ていかれたと…。』
『はい。本当にある日突然でした。でも、今思い返せば家内には家のことを何もかも任せっきりでろくにいたわることもしませんでした…。もしかしたら、もうずっと愛想を尽かされていたのかもしれません………。』
テレビの内容を見て私を含めた全員が無言になる。
そ、そうでもないかも………。
それは、私たちの心の声が揃った瞬間だった。
今この場にいる全員が白目になっていたような気がする。
そんな静寂を破ったのはミズキ。
「………だ、大丈夫よ。あいつがここから出ていったりなんかしないって。」
ミズキは狼狽えながらそう言うが、手に取った湯呑みが激しく揺れている。どうやら、動揺は隠せないようだった。
そんなミズキをよそに今度はクルミが真剣な表情をしながら口を開く。
「いや、むしろボク達が解放してやるべきじゃないか?史八を野生に帰してやったほうがやつにとっては幸せかもしれんぞ?」
「おいなんだ、あたしゃら悪徳サーカス団ってか?!」
「というか、クルミは人の彼氏のことをなんだと思ってるの?!」
ハチのことを野生動物かなにかだと思っているクルミにツッコミをいれるとたきながいつもより一層真剣な表情と声色で言う。
「でも、確かにここにいる全員がハチさんに頼ってることが多いのは確かです。いつわたしたちに愛想を尽かされてもおかしくありません。今見たテレビのように出ていかれることがあるかもしれません…。これには、早急な対策が必要です。」
おぉ、流石私の相棒。こんな時でも頼りになる!
「じゃ!私たちは何をしたら良い?」
私がたきなにそう尋ねるとたきなは自分の顎に手を当てて考える。
「そうですね…、簡単に言ってしまえばわたしたちがハチさんに頼りっきりになっていることが問題なのですから、まずは……。」
たきなは名指しで私たちに指示を出す。
「ミズキさんは、営業中に飲酒を控えてください。後、ハチさんにおつまみをねだるのもダメです。」
「ちぇ~、まぁ、しょ~がないかぁ~。しばらく控えるよぉ。」
ミズキはちゃぶ台の上に突っ伏しながら答える。
「クルミはハチさんに言われる前にお店に出て来て簡単なことでもいいのでお店を手伝ってください。」
「……ホントに簡単なことでもいいんだな?」
「えぇ、それだけでも作業がなくなる分とても助かりますので。」
「分かったぁ。」
「店長は明日から配達などの頼み事はハチさんではなく、わたしか千束にお願いします。」
「了解した。」
「ねぇねぇ、たきなぁ。私は?」
「千束は………。」
私が自分は何をしたら良いのかたきなに尋ねるとたきなは再び顎に手を当てる。
「………取り合えず、ハチさんに甘えないでください。」
「私だけなんかアバウト過ぎない?!」
「では、明日から各自その様にお願いします。それと、当たり前ですが真面目に仕事することが大前提ですので。」
「はぁ~い。」
「へぇ~い。」
「ほぉ~い。」
私とミズキとクルミがそれぞれ返事をするとたきなは疑惑の目を私たちに向けてから大きくため息をはく。
「それでは、解散!」
たきなの掛け声で先生達が席を立ち、各々帰宅の準備を始めるが……、あれ?ちょっと待てよ?
「ねぇ、たきな?今回の話し合い、私が仕切ってた筈なんだけど……、なんでたきなが締めくくった感じになってんの?」
「………気のせいじゃないですか?」
「……そっか~、気のせいか。」
「そうですよ。」
「そっかぁ。」
なんか釈然としないが、相棒がこう言っているのなら私の気のせいだろう!
______
私は自宅への帰り道、今回の話し合いのことを思い出していた。
話し合いの内容は私たちが
確かに千束の言うとおり、私たちは史八に頼りきってしまうところがある。他のメンバーも思い当たる節はあるようだった。しかし、もしそうならとうの昔に逃げられてると思う。
少し考えれば分かりそうなことなのにあの場では私以外、気づかないようだった。
_____
昨日は休みであったため、今日は喫茶リコリコへ出勤する。
店にはクルミが住んでいるが起きるのは遅いため店の中は真っ暗。そして大体、俺が一番乗りのため店を開けるのはいつも俺なのだが……。
おかしい。もうすでに店の中には明かりがついていて中から声が聞こえてくる。
何事だと思いながら店のドアを開ける。
「おはようございま~す。」
「おはよう、史八。」
「あ~、ハチ遅いよぉ~!もう開店準備終わっちゃうよ!」
「おはようございます、ハチさん。」
「お~う。」
「やっと来たか。」
俺が店に入るとメンバー全員が既に店の作業着に着替えて開店の準備をしていた。
……そう、もうすでに
しかし、他のメンバーがもうすでに店にいることが異常なのだ。
あの自由奔放・不真面目・飲んだくれの3人が俺より早く店にきて開店準備をしている。
もう一度言おう。これは異常なのだ。言ってしまえば太陽が西から昇ることくらい異常だ。
俺は夢でも見ているのか?
そう思い、試しに自分の頬を抓ってみるが痛いだけで夢から覚めることはなかった。
そんな俺の行動に対して千束から声がかかる。
「も〜う、なにしてんの〜。夢じゃないよ。ほら!早くハチも着替えてきて手伝ってよねぇ〜。」
「千束。」
「どったの?」
「なんか変なものでも食べたのか?それともどっかに頭でもぶつけたか?」
「ぶつけてもいないし食べちょらんわっ!」
俺は真剣に心配になり、そう尋ねたが千束から否定の言葉が返ってくる。
「クルミは何だ?店の備品壊したとかなんか悪いことしたのか?怒らないから言ってみ?」
「失礼なやつだな。」
「ミズキさん?あなたは本当にミズキさんですか?いつもの一升瓶はどうしたんですか?一升瓶は装備しないと意味ないんですよ?」
「疲れてんの、アンタ?」
だっておかしいだろう。
いつも仕事をサボっているあの3人が真面目に仕事をしている。
ホントにどうしたんだ!?天変地異の前触れか?!
「ハチ?なんか失礼なこと考えてない?」
______
閉店後、今日の賄い担当は俺だったことに気付く。
「なんか食べたいものとかあります~?今なら希望きけますけど?」
俺が皆に向けてそう言うと千束が少し慌てて声をかけてくる。
「あっ!い…いやいや、いいよいいよ!今日は疲れたでしょっ!もうレジ閉めも終わったし速めに帰っちゃえば?!」
「いや、でも俺、」
俺が言い終わる前に今度はたきなが口を開いた。
「そうですよ!最近のハチさんは働きすぎです!たまにはゆっくり羽でも休めてきてください!」
「そ、そうだよっ!たきなの言うとおりっ!たまには何処かで遊んで来てもいいんじゃないかなっ?!」
「?……いやでも、」
「そうだぞ、二人の言うとおりだ。」
「ボス…。」
「こういう日もあってもいいだろう。休むのも仕事の内だぞ。」
「はぁ……、じゃあお言葉に甘えて……、あっでも、明日の賄いは、」
「いぃいぃ!明日の当番はアタシだし!アタシがやるからっ!」
「正直、ボクはミズキの賄いより史八の賄いのほうが、」
「喧しい!」
「アギャッ!」
クルミが何か言い終わる前にミズキさんが持っていたお盆でクルミの頭を叩く。
「じゃ、じゃあ、今日はもう帰らせて貰いますね。後はよろしくお願いします。お疲れ様です…。」
「はいはぁ~い!おつかれぇ。っそうだ!明日も私たちが速く来て開店準備やっておくからハチはゆっくり来てもいいからね!」
「はい!ハチさんが居なくても大丈夫ですので!ねぇ!」
たきながそう言うと皆がうんうんと頷いた。
「えっ…あ、あぁ、うん、了解。」
千束とたきなにそう言われ俺は店を後にする。
______
史八が店を後にしてから千束たちがその場に崩れ落ちた。
「はぁっ!いつも通りに出来てたよね?」
「た、たぶん…、大丈夫だと思いますが…。」
「大丈夫よ……、たぶん、きっと、メイビー。」
「それ、お前らの願望込みだろぉ。」
「………………。」
というか、お前ら誤魔化すの下手くそすぎじゃないか?
______
仕事が終わり、今日という異常な一日を振り返ってみた。
おかしい、本当におかしい一日だった。
ボスは何故かいつも俺に頼んでくる配達を千束かたきなにお願いしてたし、たきなはいつもより俺のフォローに入ってくれていたのでとても仕事が楽だった。
仕事が楽だった理由が他にもある。それはあのミズキさんが勤務中に飲酒してなかったし、クルミはホールの手伝いをしてくれていた。千束に至っては常連さん達との長話を控えて、さらには勤務中にボドゲの誘いを断っていた。
………いや、分かっている。世間一般ではこれが普通だということは。
だが、喫茶リコリコは普通ではない。DAの支部という意味でも…、カフェという意味でも…。
大体、何故急に
ボスもたきなもいつもと感じが違った。
何かあったのかと考えるのが普通だ。では、何があったのか?
今日は皆がいつもより真面目に仕事してくれていたのでいつもより余裕があった。
今日は配達はボスが千束とたきなにお願いしてたし、たきなはレジ誤差の確認とかをミズキさんのほうへ行っていた。ミズキさんは飲酒してなかったし、クルミは俺が何も言わずともホールのほうで働いてくれていた。千束も他のメンバーと同じようにいつも以上に働いてくれていた。
そして、閉店後のみんなのあの慌て様……。
「俺が居なくても大丈夫………か。」
店を出る前にたきなに言われた台詞が頭をよぎる。
もしかしなくても……俺って皆に嫌われた?
なんか今日はみんなの様子がおかしかったし…。
俺って結構、ウザいのか?!
思えばお節介すぎたかもしれない……。
_____
翌日、リコリコに向かう俺の足取りはいつも以上に重かった。
そうだよなぁ。みんな子供じゃないんだし…。
俺、お節介すぎたかもなぁ…。みんな、内心うんざりしてたのかもなぁ…。
「はぁ。」
そんなことを思いながらため息をつく。
いつの間にか店の前に立っていた。
あぁ、店に入りたくねぇ!
あったかハイムが待ってねぇよ!
どうしようこれから。休憩時間に俺の悪口大会が開催されてるところに出くわしたら…。
「お…おはようございまぁす…。」
控えめに朝の挨拶をしながら店に入ると俺とは正反対の反応が帰って来た。
「おっ、ハチおはよぉ~。今日も一日頑張りまっしょう!」
「おはようございます、ハチさん。」
「おはよう、史八。」
「遅いぞ、クソガキ。」
「やっときたかぁ。速く手伝ってくれぇ。」
みんなは笑顔で出迎えてくれるが、それが偽りのものかと思うと気分が沈む。
この際、ハッキリ言ってしまおうか。
そんなことを考えていると千束が声をかけてきた。
「ハチ?」
「みんな、無理して笑わなくていい。俺は分かってるから…。」
「……藪から棒にどったの?」
「だってみんな俺のこと嫌いなんだろ?……俺なんて居なくてもいいんだもんな…。」
「はぁ~?なんでそうなるの?」
「おい、なんか昨日のことで誤解してないか?」
「?」
「あっ、あれはわたしたちが最近ハチさんに頼りきりだったからで…たまには、羽を伸ばして貰おうと……。」
「へ?それこそなんで…?」
まるで意味が分からない。なんで急にそんなことを…。
俺は考えがまとまらず困惑していると千束が口を開いた。
「ハチっていつも頑張ってくれてるでしょ?…ご飯作ってくれたり、リコリスの仕事もフォローしてくれたり。だから少しでも、休んでほしくて……。」
そうか、そういうことだったのか…。
「そんなの…、そんなの俺が好きでやってんだからいいんだよ。」
俺がそう言うとみんなが安心したような表情になる。
「ほぅらね!アタシが言ったとおりじゃない!こいつがこっから出ていったりしないって!」
「その割にはめちゃくちゃ動揺してたけどな。」
「ですね。」
「だまらっしゃいっ!」
ミズキさんの言葉にクルミとたきなが反応する。
「ほら君たち、そろそろ開店時間だ。持ち場に付いてくれよ。」
ボスの言葉にみんなが行動を開始する。
「それにしても、改めてハチの偉大さを知ったよぉ。今度から出来るだけ手伝うからね!」
「アタシも、如何にアンタに任せっきりだったのか痛感したわぁ。」
「ボクもたまには、店の手伝いをしてやる。」
千束とミズキさんとクルミからそんな言葉を聞くことが出来て少し感動する。
千束たちに内心感心しつつ、俺も準備をしようとしたとき千束たちが再び口を開く。
「「「というわけで、」」」
「?」
「今日の晩ごはんはハンバーグがいいなぁ!」
「店終わったら肴作れ。」
「あんみつパフェ~。」
……………俺の感動を返してくんない?
ボスとたきなが頭を抱えていた。
「取り敢えず、お前らは『自重』の言葉の意味を辞書で調べて赤線引いてこい。」