「おっはよう、諸君!今日も元気にお客さんに笑顔を振り撒いていくよぉ~!」
私がそう言いながら店に入ると先生たちが何故かカウンターまわりに集まっていた。
なんだろう……、いつもと雰囲気が違う?
そう思っているとみんなが困惑した表情で私を見てきた。
「およ?ど~したのさぁ、みんなでそんな顔してぇ。」
「千束……。」
「おうおう!どぅした私の相棒!なんか悩みでもあんのか?ん?千束お姉さんにぶっちゃけてみ?解決できそうなら解決しちゃるぞっ!」
「悩みと言えば……、悩みなんですけど…。」
「ん~、ハッキリしないなぁ。ズバッて言っちまえよぉ~。」
「…わたしたちから説明するより見て貰ったほうが早いと思います。」
「?」
たきなはそう言うと自分の体をずらして私にカウンター席が見えるようにする。
どうやらカウンター席に誰かが座っているようだ。
その誰かはクルミより背が低くカウンター席に座っていて足が見事に浮いていた。パッと見4~5才程度だろう。
まだ、後ろ姿しか見えないがこの後ろ姿……私は何処かで見たような気がする。
私の気配に気付いたのかその誰かが私のほうを振り向く。
「お姉ちゃん、だぁれ?」
……………………ハチっ!?!?!??!
______
「んんん~!可愛い゛ィィイいぃ゛ぃ゛!!!」
私は少年を膝の上に乗せ後ろから抱き締めるように座る。
先生に聞いてみるとどうやら朝から店の前に居るのを先生が見つけ保護したみたいだ。少年から色々と聞いていたときに私が来たらしい。
今も、みんなで集まっていた少年から事情を聞いている。
「すまない、もういちど聞かせてほしいのだが君の親御さんは何処にいるか分かるか?」
「親はいないよ!僕、孤児ってやつだから。院長先生とみんなと一緒に暮らしてるんだ!」
「………じゃあ、その院長先生は何処にいるのか分かるか?」
先生の問いに首を横に振りながら少し寂しそうに答える。
「わかんない…。僕も気付いたらこのお店の前にいて…、院長先生から外には出ちゃダメって言われてたのに……。これからどうしよう…。」
「大丈夫だよ!きっとすぐに見つかるよ!院長先生が見つかるまでここに居れば言いし。ね!先生っ。」
私が慰めるようにそう言うと少年の顔に笑顔が戻った。
「ホントに?!いいの?!………えぇと……。」
「あっ、自己紹介がまだだったね。私の名前は錦木千束。ち・さ・と、だよ。わかった?」
「うん!千束お姉ちゃん!!!」
・・・ズキュ~~~~~ン!!!!!
えっ?なに今の?お姉ちゃん呼びなんて保育園の子どもたちにいつも言われてるのに、ハチに似たこの子に言われると、えっなにこの気持ち?!分かんない!分かんないけどなんかこう……、私の中の何かが目覚めそうな感じがする!?!?
その後、先生たちが順番に自己紹介していき、この子の番になった。
「では、最後に君の番だ。名前はなんて言うんだ?」
先生がそう尋ねるとこの子はハッと何かに気付いたように自分の両手で自分の口を塞ぐ。
一体どうしたんだろうか?控えめに言って可愛すぎるっ!
こんなことを私の膝の上でやらされたらお持ち帰りしたい。
なんでこんな可愛い存在が私の膝の上にいるの?!
まぁ、膝の上に乗せてるのは私が勝手に乗せてるんですけどね!
「どうしたんだ?」
この子の行動を不審がった先生が尋ねると口の前に当てていた両手を少し緩めて小さな声で答えた。
「今更なんだけど、知らない人と喋っちゃダメって、院長先生が……。」
「大丈夫だよ!そ・れ・にぃ~もう自己紹介したから知らない人じゃないでしょ?」
「っ!千束お姉ちゃんってもしかして天才なの?!」
「えっへん!そこに気付くとは中々、」
「千束、子どもに煽てられて天狗にならないでください。」
うちの相棒は今日も辛辣だぜぇ~。
「それで、貴方のお名前は?」
たきながそう聞くとなにやら言いづらそうに答える。
「……ないの。」
「え?」
「名前は…ないの。」
「名前がない?」
「うん。」
「どうして?」
「前に一回だけ院長先生に付けてってお願いしたんだけど、名前っていうのは大事な人から贈られるとても大切なものだからって言ってた。……でも、院長先生にはその資格がないからって断られちゃって。」
「そっかぁ~でも、名前がないと不便だよねぇ。なんて呼べばいいか分かんないし……。それじゃ!あだ名を付けてあげよう!」
「あだ名?」
「そう!あだ名。それなら良いでしょ?」
「それならボクに言い考えがあるぞ。」
「クルミ?」
「顔が
「ク、クルミぃ~。それはちょっと、ねぇ君も……、」
「いいよ!」
それでいいの!?
そんなことを思っていたらおもむろにミズキが尋ねてくる。
「そういえば史八のやつはどうしたのよ?アンタと一緒に来るんだと思ってたんだけど。」
「えっ?もう家には居なかったからお店に来てるんじゃないの?」
「そういえば朝から姿を見ないな。千束、ちょっと連絡して見てくれ。」
「オッケー。え~っと、ぴ・ぽ・ぱっと。」
先生に頼まれ私がハチのスマホに電話をかけると私たちの近くから着信音がなる。昨日の夜お店にスマホを忘れたのだろうか?
まったく、ハチってばたまに抜けてるところがあるんだから……、まぁ、そういうところも可愛いんだけどね!
ハチのスマホの行方を探しているとナナシ君は自分のズボンのポケットに手を入れてあるものを取り出した。
「なんだろ、これ?」
ナナシ君が取り出したのはハチのスマホだった。
「えっ?!なんでナナシ君がハチのスマホ持ってるの?!」
「分かんない…。いつの間にか僕のポケットに入ってた。コレ、そのハチ?っていう人のなの?」
「そ……、そう…だね。私から返しておくから私に預けてくれる?」
おかしい……、何かおかしいな。
ハチに似てるナナシ君。そんなナナシ君がハチのスマホを持っていた。
それに名前がないって言ってたけど、そんなことありえる?
それに院長先生とみんなと暮らしてるって言ってたけど…。
………………まさか、いや、まさかな……。ドラマや映画じゃないんだし……。
一応、確認しよう。そうだ、そうしよう。
「ねぇ、ナナシ君?」
「なぁに、千束お姉ちゃん。」
「ナナシ君、さっき院長先生とみんなと暮らしてるって言ってたじゃない?お家はどの辺にあるの?ここから近い?」
「近いかどうかは分かんない。でも、山の中にあるんだ!『おひさま園』ってところ!」
「………………ナナシ君、ちょっと悪いんだけどお姉ちゃんたちあっちでとても大切な話しをしなくちゃいけないからちょっとここでケーキでも食べて待ってて貰ってもいい?」
「ケーキ!?ならショートケーキ!イチゴのやつがいい!」
______
私たちはナナシ君にカウンターで待ってて貰い、厨房のほうで話しをする。
どうやら、不審がっているのは私だけではなかったようだ。
最初に口を開いたのはクルミ。
「なぁ、やっぱり何かおかしくないか?名前がないこともそうだし、なんで史八のスマホを持ってたんだ?……それにあの顔。他人の空似ってレベルじゃないぞ。」
「あいつの隠し子だったりして。」
「ハチはそんなことしません~!私というものがあるんだからね!」
ミズキが冗談目かして言ったセリフを直ぐに否定する。
「結局、本人に聞くのが一番速いんじゃないですか?ハチさんが来るのを待てば良いのでは?」
「問題はそこだよ、たきな。」
「どういう意味ですか?」
「ナナシ君自身がハチかもしれないってことだよ。」
「いつもの悪ふざけ………と、いう感じではありませんね。」
「ハチに聞いたことがあるんだけど、ハチってば昔、院長先生っていう人と当時のハチと歳の近い子どもたちと一緒に暮らしてたんだって。」
「どこで暮らしてたんだ?」
クルミの質問に答える。
「山の中にある………、『おひさま園』っていう孤児院。」
私の言葉にみんな驚いたような表情となって、ミズキが慌てて否定する。
「で、でも、髪の色が全然違うじゃない!あの子は黒髪だけど、史八は銀髪じゃない!」
「いや、史八は昔は一般的な黒髪だったと聞いている。ある事件があって今のような髪の色になってしまったんだとか。」
先生からフォローが入りミズキがクルミが再び尋ねる。
「ある事件って?」
「……私の口からは言えない。」
「はぁ~。つまりなに?あいつだけタイムスリップしたってこと?」
「理屈は分からんがな。」
「ど、ど、ど…どうしよう!どうにかなんないのクルミ?!」
「お前は、ボクをなんだと思ってるんだ。完全に専門外だ。どうしようも出来ない。」
「いつ戻るかも分からないとなると不味くないですか?お店の営業もリコリスの仕事も……、そもそもDAに報告したとしても信じてくれませんよ。」
「え~、DAに報告しなくたって良いんじゃない?クルミのことだって言ってない訳だし。……取り敢えず、ナナシ君はここで保護するって感じで良いでしょ。」
「そうだな。本当に史八自身か分からないが目の届く範囲にいて貰ったほうがいいだろう。」
私の提案に先生が許可を出す。
他のみんなも首を縦に振っていた。
そうと決まればっ……!
「先生っ!ハチが昔着てた着物!どこにしまってある?!」
「ちょっと待ってください、ナナシ君を働かせる気ですか?本人に確認したほうが……、そもそも着物だって、」
「残ってるぞ。奥のほうにしまったから少し手間取るかもしれないが。」
「さっすが、先生っ!じゃあ、ナナシ君に説明してくる~!」
「ちょっと千束!」
______
私がナナシ君にお店の手伝いをお願いしたら二つ返事で了承してくれた。取り敢えず、お客さんに聞かれたらハチの従弟だという設定にして口裏も合わせて貰った。
今日は幸いにしてリコリスの仕事が入ってないのでお店のホールの簡単なことを手伝って貰おう。
_____
「可愛い゛ィィイいぃ゛ぃ゛!!!」
昔の着物を着たナナシ君。
もう髪の毛の色が違うだけで当時のハチそのものだった。
「コレ、カッコいいね!…少し動きづらいけど。」
「でも、良いでしょ~?コレで私たちとお揃いだよ!」
「ホントだ!でも、千束お姉ちゃんはカッコいいってより綺麗だね!」
「ナナシ君~~!」
私は喜びのあまりナナシ君を抱き締める。
そんな私にたきなが話しかけてくる。
「千束、時間がないんですから速くすることをしちゃってください。」
「たきなお姉ちゃんも綺麗だよね!僕、知ってるよ。たきなお姉ちゃんみたいな人を『くーるびゅーてぃー』って言うんでしょ!」
「………あ、ありがとうございます。…………千束。」
「ん?どしたの、たきな?」
「この子はわたしが育てます。」
たきなに母性が目覚めちゃった?!
「だ、ダメだよ、たきな!いくらたきなでもそれはダメ!」
「………冗談です。」
ホントに冗談だったのか?
冗談だったらさっきの間はなに?
そんな私たちのところにクルミが来た。先程までパーカー姿だったが着物に着替えているのでどうやら、クルミも働くようだ。
「お前ら、ボクが働いてるんだから速く準備しろよ。」
「あっ!クルミちゃんも着替えたんだ!クルミちゃんもよく似合ってるね。可愛いよ!」
「…おい、どうしてボクだけ、『ちゃん』付けなんだ?」
「え、だってクルミちゃん、僕より少し年上でしょ?背も一番近いし。」
「………もう好きに呼べ。」
クルミが不満の声をあげるが、最終的にめんどくさくなったのか直ぐに折れてしまった。
「お~い、そろそろ店を開くぞ。」
そう先生が話しかけてきたのでナナシ君に先生について聞く。
「ナナシ君、先生はどう思う?」
「先生ってミカおじちゃんのこと?カッコいいと思うよ!だんでぃーって感じで!」
「くっ。」
ナナシ君がそう言うと先生は胸と目頭を抑える。
きっと嬉しかったのだろう。
「なに泣いてんだ、オッサン。」
「あっ!ミズキお姉ちゃんも着替えたんだ!ミズキお姉ちゃんの色は緑なんだね!」
「!」
「ミズキがお姉ちゃん?」
「でこっぱちは黙ってなさい!…おい、ナナシ。」
「なぁに、ミズキお姉ちゃん?」
「私と結婚するか?」
「ちょっと、ミズキ!!!」
「相手は子どもですよ?!」
「血迷ったか?!?!」
「じゃりんこ共は黙ってなさい!今の私なら…………私なら…………、母乳が出そうな気がする!!!」
ミズキが珍しくお姉ちゃん呼びされたから壊れた~~~!!!
「ナナシ君!速くこっちに!ミズキから離れて!!」
私は急いでミズキからナナシ君を離そうとするが、ミズキに抱き締められてしまって不可能となってしまう。
「ミズキ!ナナシ君を離して!!!」
「ミズキさんまだ間に合います!冷静になってください!!」
「やだ!アタシはこいつと結婚するぅ!」
そんな暴走機関車状態になったミズキを止めたのはこの場で一番小さい存在だった。
「ミズキお姉ちゃん、ミズキお姉ちゃんみたいな美人さんはね、僕には勿体ないから結婚は出来ないけど、きっと僕よりミズキお姉ちゃんを幸せにしてくれる人が出来ると思うよ。」
「くっ!穢れを知らない純粋な言葉が心に刺さるっ!」
_____
その後、荒ぶるミズキを抑えて、無事今日もリコリコは開店した。
業務のほうも最初はたどたどしかったナナシ君も要領を得たのかとてもよく働いてくれていて、常連さんたちにも好評であった。
閉店後、ナナシ君は私が預かることとなり一緒に私のセーフハウスにいる。
「今日はよく頑張ったねぇ~、ナナシ君。慣れないことばっかりで疲れたでしょ?」
「うん!でも、楽しかったよ。お客さんも面白い人ばっかりだったし!」
「そうだねぇ~!」
私が頭を撫でているとふとした瞬間に表情が曇ってしまった。
「どうしたの?」
「……院長先生、見つからなかったから。」
私は雰囲気を変えようとナナシ君に質問する。
「ねぇ、ナナシ君。院長先生ってどんな人なの?」
「院長先生はね、スゴいんだよ!いつも僕たちのご飯を作ってくれるんだけど全部美味しいんだ!」
「そうなんだねぇ、他には?」
「他にはね、う~んと……、あっ!千束お姉ちゃんに似てるかもしれない!」
「私に?」
「うん!優しいところとかねぇ、雰囲気?っていうのかなぁ?千束お姉ちゃんと話してると院長先生とおしゃべりしてる気がするんだ!だから千束お姉ちゃんのこと大好きだよ!!!」
っ!、………………もう我慢できない。
私は小さくなったハチをソファーベッドに押し倒す。
「え、どうしたの?千束お姉ちゃん?目がちょっと怖いよ。」
「ハチが悪いんだよ。綺麗だとか、大好きだとか私が我慢できないセリフばかり言うから…。」
「ハ、ハチ?僕、ハチさんって人じゃないよ?」
「大丈夫、ハチが小さくなったって私の気持ちは変わらないから。ハチはハチだもん。私の大切な人だもん。」
「千束お姉ちゃん?」
「千束って呼んで。」
「ち、千束?」
ハチのセリフで私は既に感情のコントロールが出来なくなってハチを襲ってそれから………、
_____
「はっ!!!」
目が覚めた。
視界に広がるのは私の部屋の見慣れた天井。
「あ………、あぁ、はいはい、OKOK、理解した。」
そういうことね…………。
夢オチかよぉぉぉぉ!!!!!
私は枕に自分の顔を埋める。
くっそ~、もうちょっと夢から覚めるのが遅ければ………ってなに考えてるンだ、私ぃ~!!!
落ち着け、まずは落ち着かなければ…、ひ、ひ、ふぅ~。
……よし、落ち着いた。
「………にしても、小さい頃のハチってばあんなに可愛かったっけ?」
当時はカッコいいと思ってたけど、あんなに可愛かったならもったいないことしたぁ~!
それにしても…………………、
「千束~。」
「ひゃいっ!」
いきなり部屋にハチが入ってきたから変な声が出てしまった。
「っ!ちょっと、ハチってば!いきなり入ってこないでよ!親しき仲にもなんとやらっていうでしょっ!」
「礼儀あり、な。後、ちゃんとノックはしたぞ。お前の反応がないから入ったらだけで、というか起きてるなら返事くらいしてくれ。」
「あ、あれ?そ、そうだったんだ?ごめんね?」
「なぜ疑問系?……ん?」
そう言うとハチはおもむろに私に近づき私のおでこに掌を当ててくる。
「ちょちょちょっ!!!」
「熱は………無さそうだな。」
「何してんの?!」
「何って……、熱計っただけだよ。なんか顔が赤いし。どうした?風邪か?」
「だ、大丈夫だって!これは………あれよ!運動!運動してたの!」
「なんで朝から自分の部屋で運動を?」
「そーゆー気分だったの!あるでしょ!!!」
「ねぇよ。……まぁ、いいや。朝飯出来てるから速く顔洗ってこいよ。」
「分かったから!速くでてって!着替えるから!!」
「はいはい。」
私の無理矢理な理由に怪訝な表情を浮かべつつもハチは部屋から出ていったが、私はしばらくベッドに座り動けなかった。
「言えるワケないじゃん………、ハチとの子どもを想像してたなんて…。」
そうして私は再び枕に顔を埋めるのだった。