俺は吉松の最期を看取り、ケースの中に千束の新しい心臓があるのを確認してから汚れていない右手でケースを持つ。
来た道を戻ろうと振り返るとそこには、見知った人物がいた。
「………ボス。」
「史八………、お前が…やったのか?」
ボスはこの場の惨状を見て信じられないという風な声を出す。
しかし、俺はそんなこと関係なしに手に入れた心臓の入ったケースをボスに渡そうとボスの前に出る。
「ちょうど良かった。これ…、千束の新しい心臓です。早く病院を手配して千束に、」
「お前がやったのかと聞いているんだ!!!」
ボスの言葉に俺の言葉が遮られる。
「だったらなんだと言うんです?」
「っ!……、言ってたじゃないか。殺しはもううんざりだって。それなのに………、どうして?」
俺は足元に転がっている吉松に視線を落とす。
「
俺はボスに汚れていない右手に持ったケースをボスに手渡し、心臓をボスに任せてボスの横を横切る。
「これから……どうするつもりなんだ?」
「……最後にみんなに挨拶してからみんなの前から消えます。………もう俺は、ただの人殺しですから。迷惑もかけたくありません。」
俺は吉松の血で汚れた左手を見ながらボスにそう伝える。
「人殺しなら私もやった!!!今までに何人も殺した!お前だけじゃないんだ。お前がいなくなる必要なんてどこにも、」
ボスの言葉を今度は俺が遮る。
「そういうことじゃないんです。…何人殺したとか、俺には関係ない。俺が俺を許せないんだ。ぶっちゃけた話し、みんなにどんな顔して会えばいいかも分かってない。」
「……史八。」
俺は自嘲気味に笑ってからその場を後にした。
____
目が覚める。知らない天井。
どうやら私はさっきまで眠っていたようだ。あれ?いつ眠ったんだっけ?
確か、リリベルを撃退してから真島が延空木に現れて、爆発しようとするのを止めようと戦って。
「ダメだ、思い出せん。」
何故か頭がスッキリせず、考えが纏まらない。
ここはどこだろうと周囲を確認しようとしたときに横から声がかかる。
「ようやく起きたか?この寝坊助。」
「………おぉ~う。ようやく帰ってきたかぁ~、おかえりハチ。」
「………。」
「ハチ?」
「……ボスから状況は聞いてる。なんか、俺がいない間大変だったみたいだな。」
「そうだよ~。ハチだけなにもしてないんだからこれは私の我が儘の一つや二つ聞いて貰わなきゃ…、って冗談だよ~。……無事に帰ってきてくれただけで嬉しい。」
私は体を起こそうとするが、胸に痛みを覚えて顔をしかめる。
「何これ?」
「千束が真島と戦ったあと、たきなが急いで千束をこの病院に運んだ。その後、お前の新しい心臓を手に入れたボスが現れて、心臓を交換する手術を行った。……だから、お前はまだ死なない。しわくちゃのばぁさんになるまで長生きしろよ。」
「そっかぁ……、先生たちは?」
「みんな後始末に追われてるよ。たきなは今回の報告のために一度DAに行ってるそうだが、みんな揃うにはまだしばらくかかる。」
「そっか……そう………な…んだ。」
目蓋がまだ重い。意識が遠くなる。
「麻酔がまだ抜けきってないだろ。もう大丈夫だから安心して眠ってろ。」
「ねえ…、ハチ。」
「なんだ?」
「私が次に起きたときもそばに居てくれる?ハチが居てくれるとなんか知らないけど安心するから。」
「…………………あぁ、約束する。」
「やっ……たぁ、約……束だ…からね。」
____
千束が再び眠りについたのを確認して、彼女の左手に俺がずっと持ち歩いていた大事なものを握らせる。
「……ごめんな。その約束は守れない。」
「さよなら千束。」
俺はそう言って千束の病室から出るとそこには、ボスが立っていた。
「…ボス。」
「行くのか?」
「えぇ、もう決めたことなので。」
俺はボスに背を向けて歩き出すと後ろから銃を構える音が聞こえる。
「なんの真似ですか?」
振り返るとボスがこちらに銃口を向けていた。
「お前を行かせはしない。お前が闇に堕ちるつもりなら私がここでお前の四肢を撃ってでも止める。」
「…ボス。」
「気づいてくれ、史八。今の道を進み続けるならばお前は孤独になる。だから頼む。……行かないでくれ。私たちには……千束にはお前が必要なんだ。」
ボスに涙を浮かべながら懇願される。
「孤独になることは理解しています。でも、俺は人を殺した。少なくとも世界から
俺はボスの方を向き頭を下げる。
「千束のことをこれからもよろしくお願いします。」
「やめろ、言うな。……そんなこと言わないでくれ。頼む。私はお前達を本当の子どもの様に、」
「だから貴方に頼んでるんです。………父親である貴方に。」
俺の言葉にボスは銃を落としその場に倒れるように座る。
そんな彼に最後の挨拶をする。
「さようなら、父さん。」
_____
あたしはクルミと共に店にいる。
一通り、後始末が片付いたのでこれからも車で千束のいる病院へ向かおうとしたときに店のドアが開く音がする。
間違って入ってきた客に開いていないことを伝えようとホールに顔を出すとそこには、見知った顔の人物がいた。
「お疲れ様です、ミズキさん。なんか、大変だったみたいですね。」
「史八!おまっ!やっと帰ってきたのか!おっせぇんだよ!!!もう終わっちまってるよ!」
「帰ってきたのか?史八。」
あたし達の声が聞こえたのかクルミもホールに顔を出す。
「大まかな事はボスから聞いてます。千束の手術も無事終わったみたいなのでひと安心ですよ。」
「これからクルミと車で病院に行こうとしてたからあんたも乗ってく?」
「いや、楠木から極秘任務の報告をしに来いって言われてるんですよ。」
「そうなの?なら、あたしが送ってあげましょうか?」
「大丈夫です。DAからの迎えの車が来るみたいなのでそれで、行くつもりですから。ふたりは千束に付いていてあげてください。」
「お前も早く来いよ~。千束はお前に会いたがってだぞ~。」
「………ミズキさん。」
「なによ?」
「お酒はほどほどにしてくださいね。休肝日を作って可哀想な肝臓を少しでも休ませてあげてください。アルコール量を抑えればミズキさんならすぐに良い相手が現れますよ。」
「余計なお世話よ!!!」
私が文句を言うと史八は笑いながら次にクルミに話しかける。
「それからクルミ。」
「なんだ?」
「お前がこれからどうするのか俺は知らないけどもし、ここに残るなら出来る限り、千束の力になってやってほしい。頼むよ。」
「あ、あぁ、もちろんだ。」
「それじゃあ、ふたりとも俺はこれで。」
そう言って史八は店から出ていった。
「なんだったんだ?」
「さあ?」
____
わたしはDAへの報告を終わらせ千束のいる病院へ向かい走っている。その途中で、見慣れた紺色のコートを着た銀髪の人物を見つける。
「ハチさん!」
「よう、たきな。元気そうだな。」
「司令からの極秘任務は終わったんですね。よかった、千束がずっと心配してたんですよ。ハチさんが居なくなってから色々あって。」
「みたいだな。ボスから一連の出来事は聞いたよ。良く頑張ったな。」
「はい、ありがとうございます。ハチさんも、おかえりなさい。」
「…………。」
「ハチさん?」
「………たきな、これからも千束のことよろしく頼むな。千束のことで困ったらボスに相談すれば良いし、ミズキさんもクルミもいる。みんなでまた喫茶リコリコでたくさんの人を助けてくれ。」
「は、はい……。それは…もちろん……。」
なんだろう、この違和感は?
ハチさんはそう言うとわたしに背を向けて歩き出してしまう。
「えっ、ちょっと!ハチさん?!どこに、」
「野暮用だ。」
彼は右手を軽く挙げ行ってしまった。
____
私が目を覚ますと私が寝ているベッドの周囲にたきなとミズキとクルミがいた。
「千束!目が覚めましたか?!気分は悪くないですか?!」
「お…、おおう、急に質問責めするじゃん。私の相棒。まぁ、落ち着きんさい。」
私は周囲を確認するがハチの姿が見当たらない。
「ねぇ、ハチは?」
「帰ってきてますよ。なんか、野暮用があるとかでまたどこかへ行ってしまいましたが…。」
「あの遅刻ボウズなら、DAに報告しに行くって行ってたわよ。」
「遅刻ボウズって…、史八は任務で居なかったんだからしょうがないだろ。ミズキが仕事中に酒呑みながらサボってるのとは違うぞ。」
「でも、あいつだけ今回の真島の件に関して何一つやってないじゃない。いいのよ、それで。」
全く、ミズキは。
でも、起きたときに居てくれるって約束したのに居ないとは…、これはイジってやらなければ。
どういう風にハチをイジろうか?
ミズキに乗っかり遅刻ボウズと呼んでやろうか?いや、それじゃ、芸がない。
DAと私、どっちが大事なの?とウソ泣きしながら言おうか?
…うん。これだな。これがいい。
そんな風に考えていると先生が部屋に入ってくる。
「遅いぞぉ、オッサン。」
ミズキが先生にそう話しかけるが、先生から反応がない。
次にたきなが口を開いた。
「千束、実はあの後店長が新しい心臓を持ってきてくれたんです。それで、千束が寝ている間に手術をさせて貰いました。」
「あぁ、うん。知ってる。ハチに聞いた。」
「なんだ、あのガキもう来てたの?」
「うん。一回起きたときにハチしかいなくてその時に聞いた。」
「ったく、あのガキ。今回は何もしてないから今度、酒の肴でも作らせるか?」
「じゃ、ボクは甘いものでも作って貰おう。」
「いいねぇ、ふたりとも!たきなはどうする?」
「い、いえ、わたしは……。」
「いいじゃん、いいじゃん!この際だからみんなの我が儘を聞いて貰おうよ!ねぇ、先生!」
私たちがワイワイ話しているとさっきから一言もしゃべらなかった先生が口を開く。
「千束、みんな………、話さなければいけないことがある。」
先生は泣きそうなぐらい悲しそうな表情をしていた。
「な、なに、どうしたのさ先生?そんな泣きそうな顔して。」
「史八は……、もう………。」
珍しく歯切れの悪い先生にみんなは首を傾げる。
「史八はもう……、戻ってこない……。」
「えっ?」
先生が何を言っているのか理解できない。
ハチが戻ってこないってどういうこと?なんで?
私は情報を整理しようとするが、まったく進まない。
麻酔がまだ効いているのか?いや、違う。本当に先生が何を言っているのか理解できていないのだ。
「や…、やだなぁ~、先生!そんな冗談、面白くないよ~!そんなバレバレの嘘じゃ酔ったミズキぐらいしか騙せないよ~。」
「……………。」
「ねぇ、先生。嘘だって言ってよ。」
「……………。」
「ねぇってば!!!」
私がベッドから立ち上がろうとするとたきなに止められる。
「千束、落ち着いてください!」
「落ち着いてられないよ!!どういうこと?!ハチが戻らないって!!ちゃんと説明して、先生!ハチに何があったの?!」
「………。」
「先生!!!」
何も言わない先生に今度はミズキが口を開く。
「おい、オッサン。だんまり決め込んでんじゃないわよ。…いったい何を隠してる?説明できないことなの?千束には説明するってのが筋じゃないの?」
「……千束の心臓を手に入れたのは私じゃない。……史八だ。」
「どういうこと?」
「私は史八から心臓を受け取っただけだ。」
「じゃあ、どうやってあいつは心臓を手に入れたんだ?」
クルミからの最もな意見が出てきた。
私の新しい心臓はヨシさんが持っていた。
たきながヨシさんを殺して奪おうとしたが私がそれを止めた。結局心臓はケースの中にあったのか、ヨシさんの中にあったのか分からないが…。
心臓は2つあったのか?2つ目をハチが手に入れて先生に渡した。
自分の中でそう予想すると先生が私を方を向き言いづらそうにしながら口を開く。
「………………シンジを殺した。」
は?
「史八が……シンジを殺して奪ったんだ。」
なぜだろう?なぜ今日はこんなに先生の言葉が理解できないのか。
ハチがヨシさんを殺した?あのハチが?あの…誰よりも優しいハチが?
「嘘だ。……嘘だって、先生。ハチがそんなことするはずない。先生も知ってるでしょ!ずぅっと一緒にいたじゃん!ハチがヨシさんを殺すなんて、」
「嘘じゃない!!!」
「!」
「嘘じゃないんだ、千束………。」
信じられない。ハチがヨシさんを殺すなんて……。
じゃあ、なに?ハチは私の心臓を手に入れるためにヨシさんを殺したの?なんで?なんでそこまでして?!
殺しは嫌だって言ってたのに。私と一緒に
「ごめん………、みんな。しばらく…一人にして。」
私が俯いたままそう言うとたきなたちは黙って病室を出ていく。
「……千束、明日も来ますから。」
たきなは帰り際にそう言ってくれたが今は何を言われても耳に入ってこなかった。
私はふと左手に何かを握っていたことに気づく。
握っていたものを確認するため手を開いてみると、そこには、私と先生がハチの誕生日に初めて贈った銀色の懐中時計があった。
時計の蓋を開けると蓋の裏にはリコリコ開店当初に店前で先生に撮って貰ったハチと私のツーショットの写真が貼ってあった。
「約束……したじゃん。……起きたらそばにいてくれるって………約束…………したのに………。」
なぜハチはこの懐中時計を私に持たせたのか、その理由がはっきりと分かった途端、涙が溢れてきた。
これは、リコリコのみんなとの……私との完全な………、
決別だ。
____
俺は今、何者かに追われている。
なんで!?、なんでだ?!なんで俺がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!!!
俺がなにしたってんだよ!!
数日前にテレビのニュースで流れてた緑髪の男がばらまいたって言ってる銃を偶然拾っただけだ。
俺は金に困ってた。だから、たんまりと金を溜め込んでるジジババのいる家に奴らが外出してる間に侵入して金を盗んだ。
でも、すぐに帰ってきちまったから、拾った銃で脅した。
脅すだけだ。撃つつもりはなかった。
けど、ジジィが抵抗してくるもんだから思わず撃っちまった。
ババァがそれで騒ぎだしたから黙らせるためにババァも撃った。
俺は悪くない。抵抗してきたジジィと騒ぎだしたババァが悪い。
いや、もとを正せば会社の金をちょっと横領したぐらいで俺をクビにした会社が悪い。
クビにならなければ妻と娘にも逃げられることはなかったし、安月給だったがこんなに金に苦労することもなかった。
悪くない!俺は悪くない!!!
悪いのはこの世の中だ!!!俺は絶対に悪くない!!!!
気づくと俺は廃工場に逃げ込んでいた。
行き止まりで逃げ場はなく、走って苦しくなった肺に酸素を取り込むためにゆっくりと呼吸する。
振り向くとそこには誰もいなかったがわかる。俺を追っている奴がここにいる。
「誰だよ!誰なんだよ!!俺がなにか悪いことしたって言うのかよ!!!」
その言葉を口にした瞬間、俺のすぐ目の前にフードを被った人間が現れる。顔が見えなかったため男が女かも分からない。
「何なんだよ、おま、え?」
突如腹部に痛みと違和感を覚える。
手を当てるとベットリと生暖かいものが手に付いた。
これ俺の血か?
足に力が入らずその場に倒れるように崩れ落ちるがすんでのところで体を目の前にいる人物に支えられる。
「いやだ………、嫌だ。まだ……死にたくない。助け……て。」
自分の死を悟り、目の前の人物に懇願する。
しかし、目の前の人物に俺の懇願は届かなかった。
「汝、来世を渇望するより今の生に満足すべし。眠れ、安らかに。」
はい、ifルート終わり。
終わりったら終わり。
スッキリしない終わりかたですが、勘弁してください。
書いてて辛くなってきた。
ホントなら退院した千束ちゃんが張り付けたような笑顔で働いて店のみんなに慰められる描写も書きたかったけど可哀想だから止めました。