俺は自室のベッドに横になりながら、先日の件を振り返る。
内容は先日に起こったストーカー被害の件だ。
俺は、他人に説教するなんて柄ではないし、あまりグチグチも言いたくない。
だが、向こうが先日の件をどう思っているか分からないし、やっぱりちゃんと伝えた方が良い気がする。
最悪、嫌われるかな?いや、まだ嫌われるまで仲良くなってもいないか。
俺は目を閉じ、誰に何を言うわけでもなく呟く。
「はぁ、嫌な役目はいつも俺だ。」
俺は少し笑いながら眠りにつく。
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翌日、リコリコメンバー全員で開店準備を進めているときに俺は千束に向けて言う。
「千束、悪いんだが今日の業務が終わったら少し残ってくれないか?井ノ上さんも一緒に。」
「別にいいけど、なんで?」
「話したいことがある。」俺がそういうと千束は何か察したのか、心当たりがあるのかは知らないが、「たきなにも、伝えとくね。」と、真剣な声で言った。
「ねぇ、ハチ?」
「なんだ?」
「私は別にいいけど、たきなにはあまり言わないであげてね。」
「必要なことだ。善処はしてみる。」
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閉店後、閉店準備をしようとしたところにボスが話しかけてくる。
「史八、千束達に話しがあるんだろう?片付けはミズキと一緒にやっておくから、しっかり話し合いなさい。」
「すいません、ありがとうございます。」
そう言い、カウンターから出るためボスの横を通ったときに、ボスから「君が居てくれて良かったよ。」と言われる。
「ボスから言ってくれても良いと俺は思いますがね?」
「私はもう現役は退いた身だ。当日の現場にも居なかったしな。やはり、同じ現場にいた者の言葉の方が効くだろう。」
「こんなこと、俺の柄じゃないんですけど・・・。」
「とにかく、任せたよ。」
ボスは笑いながら、裏に引っ込んでしまう。
俺は、千束と井ノ上さんを呼び、カウンターの向かいにある畳の席に2人を座らせ、俺はちゃぶ台を挟んで2人の向かい側に座る。
「あの、話しがあると千束さんから聞いていますが、閉店準備の方はいいのでしょうか?」
井ノ上さんから疑問の声があがる。
「あぁ、ボスが気を遣ってくれてミズキさんと一緒にしてくれるらしい。」
井ノ上さんは「そうですか。」と答え、俺に何の話しであるか説明を求めてくる。
「先日のストーカー被害の件だ。2人にちょっと言いたいことがある。まずは、千束。」
「は、はい!」
千束は、話しかけられた瞬間背筋を伸ばして正座をし直す。
どうやら、これから説教されるのが分かったようだ。
「今回は、千束にはあまり言うつもりはない。ストーカー被害の件は当日に知ったことだし、その後の作戦の立案と実行にも直後だったから時間をかけられなかった。最後の最後で千束が間に合わなかったのも仕方がない。その作戦を許可したのも俺だしな。」
千束は、ホッと息を吐く。
「しかし、」という俺の言葉で再び千束に緊張感が走る。
「井ノ上さんに
「お前の説明不足でカフェ前で言っていた「命大事に」の言葉の意図が井ノ上さんに伝わらず、車内に沙保里さんがいるにも関わらず乱射していたぞ。」
「もし、跳弾でもして護衛対象に当たりでもしたら元も子もないだろう?」
「はい、おっしゃる通りです。」
千束は、申し訳なさそうに言う。
「とりあえず、2人で次の休みでもいいから話し合え。別に全てをさらけ出せという訳じゃない。必要だと思うことだけでもいいから。」
「千束に関しては以上だ。」
ふ~っと千束は息を吐く。
次は井ノ上さんだ。
「次に井ノ上さん。」
「はい。」
あぁ、嫌だ。ホントにこんなこと言いたくない。
けど、必要なことだと腹をくくる。
「俺は褒められた人間じゃないし、こうやってあまり偉そうなことも言いたくない。けど、今の君には色々と言わなきゃならない。」
「?」
顔には出ていないが、きっと井ノ上さんの頭の上には「?」が浮かんでいるだろう。
「最初に、なぜ護衛対象を囮にしたのか理由を聞きたい。本来だったら、あまりとらない行動だ。でも、君はその行動を取った。何を判断してその行動を起こした?」
現場にしか分からない空気などもある。遠くからしか見えていなかった俺には感じられないものを井ノ上さん自身は感じたのかもしれない。
どのような理由で沙保里を囮にしたのか、それを知りたかった。
「沙保里さんと歩いていたらカーブミラーに不審な車が私たちに近づいてくるのが確認できました。私たちの任務は沙保里さんの護衛と犯人の確保です。」
「沙保里さんには申し訳ないことをしたと理解してますが、犯行グループを迅速に捕縛するために囮になって貰いました。」
「つまり、合理的に行動した、と。」
「はい。」
俺は両手で顔をおおう。
はぁ~、とため息をつく。
「ハチ、違うの。私g」
千束が何か言いかけるが、俺は千束に「何も、言うな。」という目線を送り、その意図が伝わったのか千束は口をつぐんだ。
「井ノ上さん、君がDA本部への復帰を強く願ってくことをボスから聞いてる。ここで成果をあげて本部に戻りたいというのも理解は出来る。」
井ノ上さんはなにも言わない。
「ただ、それは君の目標で、いってしまえば「私情」だ。
「悪く言えば、君は君の私情でひとりの善良な市民を危険に晒したことになる。」
ここで初めて井ノ上さんから否定の言葉が出る。
「犯人達の目的は沙保里さん自身ではなく、沙保里さんがSNSにアップした画像データです。沙保里さんを囮にしても犯人が沙保里さんを殺す必要はない筈です!」
井ノ上さんの口調が鋭くなるが、俺は、すぐに井ノ上さんに人差し指を指しながら指摘する。
「問題はそこだよ。」
「えっ?」
井ノ上さんは反論されると思わなかったのか、少し狼狽えてしまうが、俺は気にせず話しを進める。
「ここで、重要なのは成果をあげたいと思っている井ノ上さんと殺される必要のない沙保里さん、この2点だ。」
井ノ上さんは疑問の表情を見せる。
「もし仮に、今回のストーカー被害の件に俺たちが関与しなかったなら、沙保里さんは奴さんらに襲われて軽症を負うかもしれないが画像データのみを消されるかスマホごと盗まれただけかもしれない。井ノ上さんがさっき言ったように犯人達に沙保里さんを殺す必要はないからね。」
「だったら!」
「でも、そこには成果をあげて本部への復帰を望む君がいた。君は犯人達を確保するために発砲した。犯人達は想定外のことが起きてパニック状態だ。そんな状態の彼らが沙保里さんを人質に取らないとは考えなかったのか?」
井ノ上さんは視線を落としてしまった。
俺も、口調が強くなってしまっているがここは、心を鬼にしよう。
「殺す必要がない、ということは逆に言えば、殺してしまっても別に構わない、ということだ。」
「パニック状態の犯人が沙保里さんを殺したらどうするつもりだった?」
「仮に沙保里さんが殺されてしまったとき、沙保里さんの家族にどう説明する?君が遺族と面と向かって「沙保里さんを囮にして犯人達に殺されてしまいました。ごめんなさい。」と謝罪できるなら俺は、これ以上は何も言わない。」
「・・・すいませんでした。」
「何に対しての謝罪だ。謝る相手は俺じゃない。」
井ノ上さんは暗い表情になり、隣にいる千束は俺たちを交互に見ながらオロオロしている。
「今回の件を、悪くいってしまえば、君は君の私情で善良な一般市民を囮という道具として扱い、危険に晒した。それは理解できたか?」
「はい。」と、井ノ上さんは肯定する。
さて、これで言うことは言った。
井ノ上さんもだいぶ反省しているようだ。これで終わりにしたいが・・・・。
く、暗い!!!雰囲気が暗い!!
誰だよ!!こんな暗い雰囲気にしたの!!俺だよ!!!バカかよ!!!ど畜生が!!!!
心の中でノリツッコミでもしないと罪悪感に押し潰されそうだった俺はパンっとてを叩き、出来るだけ明るい声で言う。
「はいっ!じゃあ、この話し終わり!!2人とも遅くまで悪かった。気をつけて帰れよ。」
俺がそう言うと2人は立ち上がるが井ノ上さんは浮かない表情だ。少し、千束にフォローを頼むか。
「千束、ちょっと。」
千束に手招きし井ノ上に聞こえないように千束に頼み事をする。
「千束、井ノ上さんを慰めてやってくれないか?俺が原因である手前、俺にはどうしようもない。」
「大丈夫っ!分かってるよ。私の大事な相棒だからね。」
千束は親指と人差し指とで輪っかをつくり、帰宅の準備をするべく井ノ上さんと一緒に更衣室へと移動する。
俺は2人が帰るのを見届けてから畳の上に横になる。
「やっぱり、柄じゃねぇよ。こんなこと。」
俺は、その日最後のため息をつく。
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たきなと一緒にお店を出てからも、たきなの表情は相変わらず暗いままだ。私は、励ますために明るい声で話しかける。
「たきな!元気だして!そんなに落ち込むことないよ。結果論だけど最終的に沙保里さんは無事だったわけだし!」
「・・・私は合理的に行動しました。今回も、そしてビルでの一件も、それが正しいと信じて自分の意思で行動しました。」
たきなは夜空を見上げながら
「私はどうすればよかったのでしょうか?」
「たきな・・・。」
「すいません、こんなこと聞かれても困りますよね。ちょっと1人で考えます。また、明日お店で。」
たきなはそういいながら走っていってしまった。
この時、私は以前ハチが口にした言葉を思い出していた。
真実はなく許されぬことなどない。
この言葉を耳にしたときはあまり意味は理解できなかったが、今日少しこの言葉の意味が理解できたような気がした。
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あたしは、喫茶リコリコに備え付けてあるノートパソコンを開きながらのひとり寂しく晩酌している。
どこかにあたしと一緒に晩酌してくれる未来の旦那様は居ないのかと思いながら酒を注いでいるとパソコンから通知音がなる。
どうやら店のSNSにDMが送られてきたようだ。
「ウォールナット?」
送られてきたDMの宛名には「ウォールナット」の文字が表示されていた。
はい、という事で今回は完全にオリジナル回でした。
最初のオリ主君のセリフは僕の大好きなあのキャラです。
真実はなく、許されることなどない。この言葉は、作品ごとに使われていますがストーリーや時代背景のこともあって、それぞれ解釈が異なっています。