闇に生き光に奉仕する男の話   作:ダレン シャン

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黄色いリスが仲間になる話

 

 

「で、どうする気?」

 

ミズキは私に、そう尋ねてくる。

 

「依頼人からの要望は空港までの逃走経路の確保とそれまでの護衛だ。だが、追手からの追撃が激しいらしい。これまでは、なんとかやり過ごしていたみたいだがそれも難しくなってきているらしい。そこで、コチラから1つ、提案した。」

 

「何よ?」

 

「依頼人の死を偽造する。依頼人からの了承も得られた。」

 

「なるほどね。誰も死人がどこに行ったのか調べないものね。」

 

「そこで、ミズキ。君には依頼人の代わりに敵にやられてもらいたい。」

 

「は?嫌よ!そんなこと?!ホントに死ぬわけじゃないだろうけど、史八にやらせればいいじゃない?」

 

「それは、無理だ。依頼人からの要望でリコリス2名とその協力者を護衛にほしいとの要望だ。」

 

「それでも!」

 

「それに」

 

ミズキは駄々をこねようとするが私はミズキに魔法の言葉を伝える。

 

「報酬は相場の3倍だ。」

 

「喜んで、命張らせていただきます!!」

 

ミズキは光の速さで掌を返す。

ミズキにとって、魔法()の力は絶大だ。

 

「でぇ〜、ガキ共にも伝えるの?」

 

ミズキは報酬の話しでテンションが上がりつつも聞いてくる。

 

「いや、3人には伝えない。千束とたきなには自然なリアクションで敵を欺いてもらいたい。」

 

後で、必ず何か言われるがその時は、和菓子で機嫌を取ればいい。

千束たちには悪いが敵を騙すには、まず味方からだ。

 

「史八にも、伝えないの?」

 

「あぁ、あの子なら途中で気づきそうな気がする。」

 

「なるほどね。」

 

私と、ミズキは3人には黙って今回の依頼の準備をしていく。

 

 

______________

 

元気のいい声とともに、喫茶店の扉が開く。

 

 

「お待たせ、千束が来ました。おぉ〜、ヨシさん、いらっしゃ~い!」

「一月ぶりじゃないですかぁ?」

 

ようやく来たか。

俺はボスから今回の、依頼内容を聞きあと少しで準備が終わるところだ。

それにしても、シンさんからまた、お土産をもらってしまった。

また来てもらったときにサービスしなくては。

というか、なんだコレ?太鼓か?

 

「千束、速く支度しなさい。」とボスが千束を急かすが、千束は「えぇ〜。」等と言っている。

 

「それではこれで失礼するよ。」

 

シンさんはどうやら仕事に戻るようだ。カウンター席のシンさんから声がかかる。

 

「史八君も、また来るよ。」

 

俺はカウンターの横の扉から顔を出すよ。

 

「お土産ありがとうございました。次の機会に何かサービスさせて貰いますよ。」

 

「ふふっ楽しみにしてるよ。」

そう言い、シンさんは店をあとにする。

 

シンさんが出ていった瞬間、ボスが黒いアタッシュケースを取り出す。

 

「千束。」

 

千束はマガジンに非殺傷弾を入れながら今回の敵の情報をボスから聞く。

 

「で、どんくらい急ぎ?」

 

「現在、武装集団に襲われている。」

 

「あぁ、それは大変。たきなぁ、仕事の話しもう聞いてる?」

 

「はい、一通り。」

 

井ノ上さんは簡潔に答える。

 

「おっけぃ〜。」

 

それから思い出したように、家から持ってきたであろう紙袋を今日の帰りに持って帰るように促す。

なんだろうこれは?千束セレクション?映画のDVDか?セレクションと書いてありながら10本くらいあるぞ。

井ノ上さんは紙袋を怪訝な表情で見つめる。

 

「ん?ミズキは?」

 

千束は、今この場にいないミズキさんの所在を聞いてくる。

 

「既に逃走ルート確保に動いている。」

 

「張り切ってるねぇ、めっずらしぃ〜。」

 

これには、千束と同感だ。あのミズキさんが1番に動いているとは。

だが、つぎのボスの言葉を聞き、俺も千束も納得する。

 

「報酬が相場の3倍、一括前払いでな。」

 

「どおりで。」

 

報酬が相場の3倍、しかも一括前払いとは。どうやら今回の依頼人は切羽詰まっているらしい。

無事に終われば良いのだが。

 

「敵は5人〜10人程度。プロよりのアマだ。ライフルも確認している。気をつけろ。」

 

「りょーかい。」

 

「速く行くぞ、時間もあまりない。」

 

「えぇ!ハチも一緒なの?!」

 

千束は、俺が同行することを知って何故か口角が上がる。

 

「依頼人からの要望みたいだからな。」

 

そう言って3人で喫茶店をでる。

出た直後に千束が空腹であることを訴えてくる。こいつ、俺の話し聞いてなかっただろ。

 

「途中、適当な店で買え!」

 

そう言いながら、新幹線に乗るために駅へ向かう。

 

_____________________

 

 

新幹線に乗りながら、千束は井ノ上さんから今回の依頼の流れを説明してもらっている。

さすが、井ノ上さん。真面目だ。こうゆうときは本当に彼女の性格は助かる。

横を見ると隣で千束は、駅で買った駅弁に夢中で食べている。井ノ上さんからの話しを聞いているのか?こいつ。

 

「逃走手順は以上です。羽田でゲートを潜ったところでミズキさんと交t・・って聞いてますか?」

 

「ん~、依頼主、凄腕ハッカーでしょ。どんな人かなぁ?」

 

「千束、行儀が悪いぞ。食うか喋るかどっちかにしろ。口は1つしかないんだから。」

 

俺は千束に向けて注意をする。

千束は「ごめん。」と謝ってから飲み込み、依頼主であるハッカーのイメージを予想していく。

 

「メガネで、痩せて小柄な男かな?カタカタ、タァ〜〜ン。」

 

千束は箸をつまむような動作でキーボードのタイピングのような声を上げる。

千束の声が思いの外高く、車内に響き渡る。

他の乗客は多くはないが迷惑になるので再び千束を注意する。

 

「やめろ。恥ずかしい。他の人もいるんだぞ。」

 

千束は笑いながら謝ってくるが、本当に分かっているのか心配になってくる。

 

「映画の見過ぎですね。」

 

井ノ上さんはそう言いながら、持参したゼリー飲料を口にする

それを見た千束がゼリー飲料について尋ねる。

 

「いぃや、いやたきなさん。今の状況分かってるのかなぁ?」

 

「依頼人に会うために、特急に乗ってます。」

 

確かに今まさにその状況だけど、千束が聞いているのはそうゆうことではない。 

 

「そう!その前に、お昼食べとかないとぉ〜。」

 

「今、食べてます。」

 

まぁ、すぐに降りるから手早く済ませられるようにしたんだな。

千束は駅弁食ってるけど次の駅までに食べ終わるのか?

次の駅で降りるのを知らないはずないだろう。さっき、井ノ上さんから説明してもらってたし。

千束は井ノ上さんの隣に移動し、煮玉子を彼女の口に運ぶ。いわゆる「あ~ん。」というやつだ。

井ノ上さんは煮玉子を食べ、口に手で隠しながら「美味しいです。」と少々、悔しそうに言う。

 

 

「はぁい!、おいしぃ!!」

 

俺がそんな彼女達のやり取りを見ていると千束が俺に視線を向けてくる。

 

「あぁ〜!ハチも食べたい?そんなことなら遠慮せずに言えよぉ〜。はい、あ~ん。」

 

千束はそう言いながらこの駅弁のメインであろう角煮をひとつ箸でつかんで俺の前に持ってくる。

俺は、どうやって断ろうか考えたところで車内放送が流れる。

どうやら次の駅に着いたようだ。

 

「ほら、着いたぞ。降りる準備をしろ。」

 

「えぇ!」と千束が驚く。やっぱり話し聞いてなかったな。

 

「10分足らずで乗り換えなので、ゼリーを選んだだけです。」

 

「そぉなのぉ〜。ってか、ハチは?何も食べてないじゃん。」

 

「俺は家で済ませてきた。」

 

「えぇ〜。」と言いながら千束が急いで残りの弁当を食べ、俺たち二人を追いかけてくる。

 

_____________________

 

 

「ねぇ、たきな。そのウォールナットってハッカさんと合流した後、どうやって羽田まで行くの〜。」

 

「お前、本当に何も聞いてなかったのな。」

 

俺が呆れながら言うと、井ノ上さんがこれからの説明をする。

 

「店長が駐車場に車を用意してくれてる様です。」

 

車と聞いて、千束が元気よく答える。

大方、自分が運転したいとか言い出すんだろうなと予想していたがドンピシャであった。

 

「えぇ!まじ!!はい!はい!は〜い!千束が運転しまぁ〜す。」

 

しかし、井ノ上さんが「わたしがします。」否定する。

それに対して千束がぶーたれる。

 

「えぇ、なぁんでぇ、たきな運転できんのかよぉ〜。」

 

「できなきゃリコリスになれないでしょう。」

 

ここは、2人には悪いが俺の案を受け入れてもらおう。と俺は二人に向かい話しかける。」

 

「いや、運転は俺がする。」

 

俺が発言した瞬間、井ノ上さんの表情が一瞬暗くなる。俺は、それが気になったが千束は気づいていないので俺に理由を尋ねてくる。

 

「え〜、ハチがするの?なんでぇ?」

 

「理由は2つある。1つは井ノ上さんに射撃に専念してもらいたいから。移動中に敵に襲われたら千束じゃ、当てられないだろ。」

 

「私の射撃がヘタッピみたいに言うなぁ〜!」

 

千束が軽く戯れてくるが俺は気にせず最後の理由を話す。個人的にこっちのほうが前者より重要な理由だ。

 

「2つ目の理由は・・・。」二人の視線が俺にあつまる。

「・・・俺はもう二度と千束の運転する乗り物に乗りたくないからだ。」

 

と言うと千束がその場にずっこける。

 

「なんてこと言うんだよぉ〜!私が何した〜?!」

 

「おまえ、忘れたとは言わせないぞ!ずっと昔に、千束が運転する車に乗って死にかけたこと!俺はあの時から絶対にお前が運転するものには乗らないと決めていた!」

 

千束は当時のことを思い出したのか、下手くそな口笛を吹きながらよそ見をしている。

 

「井ノ上さんもそれでいいか?」

 

井ノ上さんにも了承を得ようと尋ねるが少し上の空だったようだが了承を貰えた。

 

「は、はい。」

 

どうもぎこちない。やはり、先日の一件だよな。前まで喫茶店の業務でもわからないことがあれば俺に聞いてくれるときも少なからずあったが、最近はトンと少なくなった。仕事を覚えたといえばそれはそれでいいが、隣で作業していてもわざわざ移動してボスや千束に聞きに行くことがたまにある。

これは、あれだな。完全に嫌われたというやつだな。俺は別に嫌われても構わないが仕事に支障をきたすといけない。近いうちに話し合わないとな・・・。

あれ?おかしいな?目から汗が・・・。

 

などと思っていると、駐車場にたどり着く。

てかなにあれぇ?ボスはなに考えてんだ?スピードは出るだろうけどあれでは余計目立つだろ。

俺の目線の先には赤いスーパーカーが鎮座していた。

千束は、フェンスを掴みながらスーパーカーに興奮している。

 

「あぁ!スーパーカーじゃ〜ん!!すっげぇ!!すっげぇ!!」

 

「目立ちますねぇ。」

 

千束は俺の紺のロングコートを掴みながら運転したいとお願いしてくる。

 

「あぁ〜、やぁっぱり私が運転するぅ〜。いいでしょ!ハチ!!ね!ね!!」

 

興奮してる千束を少しでも落ち着かせるよう、手で宥めながらどうするか考える。

あの目立つ車の運転はしなくない、けど、同じくらい千束の運転する車にも乗りたくない。どうしたものかと考えていると、反対側の車道から生垣をダイナミックに飛び越えてこちら側の車道に乗用車が来た。

「えぇ!なになに?!」と千束が驚いているがダイナミックジャンプしてきた乗用車は俺たち3人の前に止まる。

ドライバーはなぜか着ぐるみの人物だった。リスか?

 

「ウォール!」

 

着ぐるみの人物は以前に決めた合言葉を口にする。

ボイスチェンジャーで声を替えているのか。

 

井ノ上さんが「ナット」と答え、着ぐるみは俺たちに速く車に乗るように指示する。どうやら追手が近くまで来ているようだ。

俺と井ノ上さんは素早く乗車するが、千束は今の合言葉に「え?カッコ悪ぅ?」とツッコミを入れている。

最後までスーパーカーに乗りたかったのか赤い車を指さしながら何か言っているが、

 

「千束、どうでもいいから早く乗れ。」俺はそう指示を出し、着ぐるみは全員乗ったのを確認して車を走らせる。

 

「スーパーカーが、いいんだけど〜。」

 

千束、時には諦めも肝心だ。

俺は、そろそろフードを被っておくか。

 

________________________

 

 

「なんで守られる側が颯爽と車で現れるのよ。普通、逆じゃない?あぁ、すぅぱぁかぁ〜。」

 

千束は井ノ上さんの肩を揺らしながら着ぐるみに向かって言う。

 

「目立つし、こっちのほうがいいですよ。」

 

井ノ上さんの言うとおりだ。なぜボスはスーパーカーなど用意したのか?と疑問に思う。

 

「予定と違ってすまない。ウォールナットだ。」

 

リスの着ぐるみから自己紹介される。その後、千束が俺たち3人の紹介を簡潔に言ったあとに尋ねる。

 

「なんかぁ、イメージしてたハッカさんとは違いますね〜。」

 

「底意地の悪い痩せた眼鏡小僧とでも?だとしたら映画の見すぎだよ。」

 

「ほら、やっぱり。」と井ノ上さんが新幹線での自分の意見を肯定するが、千束は「いやいや、だとしても着ぐるみじゃないでしょう。」と口にする。

 

「ハッカーは、顔を隠した方が長生きできるってだけさ。JKの殺し屋の方が異常だよ。フードの君もリコリスなのかい?」

 

「俺はリコリスじゃないよ。男だしね。ただ、協力しているだけ。それと、リコリスが制服を着ているのにもちゃんとした理由がある。少なくともリスのハッカーよりは合理的だと思うけど。」

 

俺は外の風景を見ながら言う。

 

「ハチ、リスじゃなくて犬だよ。」

 

そう言うがウォールナット本人から「リスで合っている。」と言われる。井ノ上は少しは驚いた表情になっていたため、別の動物を想像していたのか?

 

交差点を右折しながら、リコリスが制服を着る理由を尋ねて来たため千束が自分の制服を摘みながらそれに答える。

 

「つまり、日本で1番警戒されない姿だってことですよ、コレ。」

 

「JKの制服は都会の迷彩服というわけか」とウォールナットは納得する。

 

次に井ノ上さんが気になったのか助手席にシートベルトで固定されている黄色いスーツケースについて尋ねる。

ウォールナットがそれについて「ボクの全て」と答える。

ボクの全て?どうゆうことだ?大事な端末でも入っているのか?いや、ハッカーはパソコンなどの端末に拘りなどはあるだろうが、重要なのは端末などの機器ではなくてそこに入っている情報・・・データだ。データであればメモリなどに保存して身につけて入ればいい?

ということはバックの中に入っているのは身に付けられない何か。しかもそれはウォールナット自身の全て。

というか車に乗ってからずっと気になっていたがこの着ぐるみから、少量のアルコール臭がする。俺が、着ぐるみの後ろの席に座っているからふたりはアルコール臭に気づいていない様子。もし、この着ぐるみの中の人物が俺の飲んだくれの知り合いだと仮定すると、ケースの中の「ボクの全て」という発言に1つの可能性が生まれる。

それはケースの中には「何が」ではなく「誰が」入っているのかということだ。

とすると、最初から虚偽の任務内容をボスから伝えられたということになってくる。なぜ嘘を言う?嘘をつく必要があったからだ。俺たち3人を騙すために。俺たちが知っていると何か不都合なことがあるからか?何かが敵にバレる?聞いていた任務はウォールナットを羽田まで護衛し国外逃亡を助けるというもの。だが、虚偽の任務内容を伝えられていたということが真実なら……。

俺は頭の中でパズルのピースを順々に当てはめていき、1つの答えに辿り着く。

いや、まさかな。あくまで俺の想像だ。と思い、鼻で笑う。

 

「どうしたの?急に笑ったりして?」

 

隣りに座っている千束が俺に尋ねてくるが、俺は「何でもない。」と答える。

 

もし、俺の仮説通りならふたりには新鮮なリアクションを取ってもらわないといけない。

 

「このまま、羽田へ?」

 

「いや、車を変えるように言われています。」

 

追手がいないことを確認してから井ノ上さんは着ぐるみににスマホを見せ目的地に向かうように依頼する。

ウォールナットは了承するが高速に乗らずにまっすぐ一般道を走行する。

間違えたのか?

・・・いや、後ろのドローンせいか。

 

「あれ?高速に乗るのでは?」

 

井ノ上さんはウォールナットに尋ねるがウォールナット本人も「どうした?」と疑問の声を出す。

 

「いや、それはこっちのセリフだけど。」

 

着ぐるみはハンドルから手を離すが、ハンドルが勝手に動いている。

 

「車を乗っ取られたか。」

 

「うえぇ!!いや、ちょっと!ちょっと?!」

 

千束は、驚きながら体を前に乗り出す。

車のスピードも急に上がる。

車がスピードをあげたせいで慣性の法則に従い千束が後部座席に倒れるようになる。

 

「千束、少し落ち着け。どうやらあちらにも優秀なハッカーさんがいるみたいだ。」

 

俺はフロントミラーを指差し、ふたりも一台のドローンを確認する。

 

「ははーん、あれか。」

 

「ロボ太か、腕を上げたな。」

 

ウォールナットは相手のハッカーに心当たりがあるのか名前を口にする。

 

「知り合いか?」

 

俺はそう尋ねるが「そんなんじゃない。」と返答が帰ってくる。

 

車のスピードも徐々に上がっていき、千束がどこに向かっているかウォールナットに確認するとどうやら海のようだ。

回線の切断を井ノ上さんが提案するが、直ぐに上書きされるとウォールナットが否定する。

こちらの作業完了と同時にネットを物理的に切れればいいと希望をウォールナットが言う。

 

「えぇ。ルーター何処よ〜。」

 

千束がルーターがどこか確認しようとするがウォールナットは自分の車じゃないから知らない。

 

「おいおい、このままだと少し早いが5人で仲良く海水浴することになるぞ。ちゃんと水着は持ってきたか?ちなみに俺は持ってきてない。」

 

俺は盗聴されてる可能性もあったため、相手を少しでも油断させるためワザとふざけたセリフを言う。

そんな俺に苛立ったのか井ノ上さんが声を上げる。

 

「こんな状況でふざけている場合ですか!?」

 

俺は、口の前に人差し指を立て、どこに盗聴用のマイクがあるかわからないので千束と井ノ上さん両名に顔を近づけ、できるだけ小さい声で作戦を伝える。

 

「盗聴されてる可能性もある。井ノ上さんには、ドローンを撃ち抜いてもらう。俺と千束の使う弾だとはずれる可能性が高いからな。できるか?」

 

「はい。」

 

「千束は窓ガラスを撃って井ノ上さんが外に身を乗り出せるようにしてほしい。」

 

「りょ〜かい。」

 

「バレたら逃げられて、みんなで海水浴だ。風邪ひきたくなかったら外すなよ〜。」

 

俺はできるだけ緊張させないよう、井ノ上さんに言う。

井ノ上さんは既に集中していて俺の声は届いていない様子。

 

「着ぐるみも準備いいか、カウント3秒前から開始する。しっかり、ハンドル持っててくれよ。」

 

「カウント開始、3・2・1……」

 

俺の「撃て!」という指示とほぼ同時に千束が窓ガラスへ向けて発砲する。

井ノ上さんはひびの入った窓ガラスへ体当りし、窓ガラスを割ったあと、ドローンを狙撃する。

3発でドローンを無力化。いいセンスだ。

車は取り戻せたが、目の前には海が広がっている。

着ぐるみが素早くハンドルを右側に切り、急ブレーキで速度を落とす。

ドリフトしながら海へ近づいていくが、左側の車輪だけが落ちたところで車は止まる。

 

「お前らぁ、取り敢えず動くなよ〜。せーので出るぞ。」

 

「ス、スーツケースを〜。」

 

「わたしが。」

 

こんな時まで、スーツケースの心配か。俺の立てた仮説の信憑性が出てきたな。

 

全員、無事車から脱出し車が海へ落下する。

周囲を索敵すると上の車道に停車しこちらを観察しているグループを発見する。

どうやら千束も気付いたようだ。

 

「取り敢えず、場所を変えよう。」

 

_______________

 

 

俺たちは、廃墟となったスーパーに避難している。

井上さんがボスにスマホで連絡し、千束と一緒に奴さんらの人数と装備を確認する。

確認できたのは5人。全員ライフルを所持している。ボスの情報では10人までとあったので伏兵が潜んでいる可能性も考慮する。

あちらさんは作戦が決まったのか、各々、展開していく。

 

千束が先導し、その後に着ぐるみ、井ノ上さん、俺と続くが残念ながら敵に見つかってしまう。

千束と着ぐるみは向こうにある棚まで移動し銃弾を防ぎ、俺はまだ移動する前だったのでまだあちらには見つかっていないだろう。

移動中であった井ノ上さんは敵の集中砲火を受けるがケースを盾にして防いでいる。・・・ん?それ不味くね?

案の定ウォールナットが慌てている。

やっぱりそうか。あのスーツケースの中にウォールナット本人がいる。

 

「え、えっ!ちょっと、盾に使うのはなしだ!!!大事なものだって言っただろぉ〜〜!!!」

 

「たきなぁ!なんかそれ、駄目っぽいよ!!」

 

「無茶言わないでください!」

 

井ノ上さんは床に横になりながら相手に反撃する。

 

「ハチぃ!何とかして!!」

 

「アイヨっと!!」

 

俺はスモークグレネードを相手の足元近くに投げる。

グレネードから発煙し、一時的に砲火が止まる。

 

「中に入ってきたあのふたりは俺に任せろ。ふたりは着ぐるみを連れて通路へ急げ!」

 

三人は右側から回り込み通路へ移動していく。

 

それを見届けてから腰につけたナイフを手に取る。

これはただのナイフではなく、電流が流れるいわゆるスタンナイフと言われるものだ。

刀身を相手の首辺りにあてて柄に付いているボタンを押せばかなりの電流が流れる。若干、電力に不安があり2〜3人にしか使えないが確実に相手の意識を奪い行動不能にできる。

俺は左側から相手の後ろに回り込むように移動し、男の首筋にナイフの刀身をあてボタンを押す。

男は気絶するが、うめき声を上げたため、もうひとりの赤い帽子を被った敵が俺のいる方向に銃を向ける。

まだ煙が晴れていないため、フレンドリーファイアを恐れてか発砲はない。

通路側からも戦闘の音が聞こえる。手早く済ませる必要があるな。グレネードの音も聞こえたし不安も残るが小さく千束の声が「ほい!」とも聞こえていたので大丈夫だろう。

 

煙が晴れ、赤い帽子男と対峙する。

 

「何なんだよお前ら!なんだおまえは?!」

 

赤い帽子の男が叫ぶとライフルの銃口をしっかりと俺の方に向ける。

 

「さぁな?俺が知りたい。」

 

「ふざけるな!!」と激昂し、ライフルを発砲する。

俺はそれを、左右に移動しながら避けていく。

弾切れを起こした瞬間に男に接近し、男のみぞおち辺りに左の掌を押し付ける。男は怪訝な表情を浮かべるが、次の瞬間、男のみぞおち辺りから鈍い音がなり男は倒れる。

さっきの鈍い音は俺の左側のリストブレードから非殺傷弾が炸裂した音だ。かなり、痛いだろう。

 

二人の方も終わっただろうか?戦闘音が聞こえない。

 

「ん?」

 

倒したばかりの男を見ると右の脇腹から出血している。

止血はしとくか。

手当しようと男の服をたくし上げたとき男の意識が戻る。

 

「な、何をしている?」

 

俺は「手当て。」と簡潔に答えるが「ふざけているのか!」と男が聞き返してきたため、少し脅してみる。

 

「じゃあ、死ぬか?」

 

手当していた手を止め、右のリストブレードから「シャキンッ」と音を立ててブレードを出し相手の首に刺さりそうなくらいに近づける。

もちろん俺に、殺す気はサラサラないがそれを知らない男は「や、止めてくれ。」という。

 

通路側から千束が話しかけてくる。

 

「ハチぃ、終わった?」

 

「今、応急処置してるところだ。先に行ってろ。俺もすぐに合流する。」

 

「OK!たきな、行こ。」

 

その時井ノ上さんから声がかかる。

 

「敵の増援が来る前に脱出しましょう!囲まれますよ。」

 

「千束と先に行ってて。」

 

俺がそう言うと井ノ上さんは千束を追う。

 

「なぁ、あんた。家族はいる?」

 

「いる。」

 

「晩メシは?家族と?」

 

「そうだな。」

 

「いいねぇ、羨ましい。」

 

「?」

 

「あんたが死んだら泣いてくれる人がいるってことだ。」

 

「だが、仲間たちは、お前らに。」

 

「あぁ、そのへんは大丈夫。たぶん誰も死んじゃいないよ。激痛で気を失ってるか動けなくなってるだけだから。」

 

「!」

 

「大事にしなよ。家族も・・・仲間も・・・自分の命も。」

 

応急処置も終わったため、「肉食えよ、肉。」と言いながらその場を後にしようとしたとき、「待て」と声がかかる。

 

「そっちは止めろ!ウチのハッカーのドローンが見ている。待ち伏せしているぞ。」

 

「!!・・・千束!井ノ上さん!外に出るな!!」

 

俺は急いで二人に耳につけた通信機で指示を出すが、次の瞬間銃声が聞こえる。

 

通信機から井ノ上さんの声が聞こえる。

 

「失敗です。護衛対象は死亡です。」その後、ボスからの指示も入る。

 

「ふたりとも無事か?」

 

俺は二人の安否を確認する。

 

「私達は大丈夫。だけど、ウォールナットさんが・・・」

 

「取り敢えず、そこで待機していてくれ。」

 

俺は通信を終わらせ、男に向かっていう。

 

「これで、あんたらの任務は成功。おめでとう。」

 

俺はパチパチと男に向かって拍手を送る。

 

「逆に、お前らの任務は失敗だ。どうする?今度こそ俺を殺すか?」

 

「別に殺さないよ。だってまだ、任務中だからね。」

 

「なんだと?」

 

「まぁ、知らなくていいこともある。おたくらには、依頼主にウォールナットを確実に殺したことを伝えてくれよ?ちゃんとね?」

 

俺はそう伝え、今度こそその場を後にする。

 

__________________

 

私たちは先生が手配した救急車に並んで座っている。

目の前には撃たれて血だらけになっている着ぐるみの姿がある。

 

「すみません。」とたきなが浮かない表情で謝ってくるが、私は直ぐに「たきなのせいじゃない。」と否定する。

 

そんなとき隣りに座っているハチが、変なことを言い出した。

 

「そんな死にそうな顔すんなよ。結局は誰も死んじゃいないんだから。」

訳がわからなかったが次に、聞こえるはずのない声が聞こえる。

 

「もういい、頃合いじゃないか?」

 

「「?」」

 

たきなとふたりでハチの方を向くと私達の目の前でありえないことが起こる。

力なく横たわっていた着ぐるみが突然動き出し頭の部分を取り外したのだ。小気味よく「スポーン」となったと思ったらそこには、メガネを外したミズキの顔があった。

 

「ぷっはぁ〜〜。」

 

たきなといっしょに信じられないという顔をする。

 

「えぇ!!!」

 

「あっつぅ〜。ビール頂戴。」

 

ミズキはそんな私達とは裏腹にビールを要求すると、運転手のほうから缶ビールが投げ込まれ、ミズキそれをキャッチする。

私は今何を見ているの??

 

「ミ、ミズキ?え、あ?あっなんで??」

私は混乱しミズキに説明をするように求めるが運転席の方から先生が、「落ち着け。」と言ってきたため、更に混乱してしまう。

 

「えぇ!!先生っ!!!」

 

ミズキは喉を鳴らしながらビールを飲みこんでいく。次に、着ぐるみが防弾であることを説明するがもっと別のことを説明してほしい。

 

たきなから純粋な疑問があがる。

 

「あの、ウォールナットさん本人は?」

 

「そうだよ?!どこ行った?」と、たきなの疑問を肯定しながら聞くと、助手席にあるケースが開き女の子の声が聞こえる。

 

「ここだ。」

 

「追手からの逃げ切る一番の手段は死んだ思わせること。そうすればそれ以上は捜索されない。」

 

「では、わざと撃たれたんですか?」とたきなが聞くとどうやら先生のアイデアみたいだ。

 

ケースの中からVRゴーグルのようなものをかけた黄色の長髪の幼女が出てきた。

 

「やっぱりそこにいたか。」と、隣りに座っているハチが言う。

知ってたってこと?!

 

ゴーグルを外しながらこちらを振り向き、

 

「想定外の事態にきちんと対処して、見事だった。」

 

私は混乱し続けているが、最初に確認しなければならないことがある。

 

「ちょっと待って!色々聞きたいことあるけど、つまり、その、予定通りで誰も死んでないって、こと?」

 

ミズキが肯定すると、私は安心して体の力が抜ける。

 

「よぉかった〜〜。みんな無事で。」

 

「この子金払いめっちゃ良いから命賭けちゃったよ!」

 

私は感極まってウォールナットに抱きつく。

 

________________

 

喫茶店に戻ってから千束はカウンター席にいじけながら座っている。

 

「いい加減、機嫌直せよ。いつまでいじけてる気だ?」

 

「事前に、教えてくれても良かったんじゃないんですかね?というか、ハチは知ってたの?」

 

急に隣りに座っている俺に向かい言ってくるが俺は事実を言う。

 

「いや、俺もなにも知らされていなかったよ。車で逃走している途中で気づいただけだ。それに、言っただろ?車がハッキングされたとき、5人で仲良く海水浴することになるって」

 

「なるほど、その頃から既に気づいていたというわけか。」

 

ボスに対してその時はまだ確証はなかったことと、井ノ上さんがスーツケースを盾にしたときのウォールナットの発言で確証を得られたことを伝えると、「流石だな。」と言われた。

 

「俺には言ってくれても良かったと思うんですけど。」

 

「君なら途中で気づくと思ってたからね。」

 

報告、連絡、相談が欲しかったところだが信頼の証として受け取っておこう。

俺がボスと話していると千束とミズキさんがじゃれ合っている。

どうやらミズキさんが千束が泣いてなんとも言えない顔をしているところを隠し撮りし、千束がそれを消そうと躍起にやっていた。

 

そんなとき井ノ上さんが声を上げる。

 

「やっぱり、命大事にって方針無理がありませんか。あのとき、キチンと3人で動けていれば今回のような結果にはならなかったはずです。」

 

「目の前で人が死ぬのをほっとけないでしょう。」

 

千束がそういうが井ノ上さんの表情は険しいままだ。

 

「わたしたち、リコリスは殺人が許可されています!敵の心配なんて。」

 

「許可されているから殺すの?」俺は我慢できずに尋ねる。

 

「どういうことですか?」

 

「いや、言葉通りの意味。今の君の話しを聞いていると、敵であれば容赦なく殺すべきだって、そう聞こえるんだよね。」

 

俺は紅茶を飲みながら言う。

 

「その通りです。情けをかける必要はありません。」

 

「それがどんな善人でも?」

 

「?、善人であれば殺されることはないと思います。」

 

「そんなのわかんないじゃん。どんな善人でも生きている限り何処かで誰かの恨みを買うこともある。その恨みを持つ人が君に殺しの依頼を出し、君は殺人許可証を持っているから依頼通りその善人を殺す。あら、びっくり。悪人に加担してしまったね。」

 

「わたしは!!!」

 

井ノ上さんが叫ぶが、俺は淡々と告げる。

 

「死んだ人は生き返らない。それが世の常であり、覆らない事実だ。人を殺せば恨みが生まれる。その恨みがまた新たな恨みを生む。そうやって、負の連鎖が起きていく。だから、この世から戦争や紛争といった争いはなくなることはない。循環しているからね。まぁ、戦争がビジネスになるってこともあるけど。」

 

俺はあの記憶の中での戦いを思い出す。血で血を洗うような戦いだ。

 

「何が言いたいんですか?」

 

井ノ上さんは俺を睨みつける。

 

「今回、俺たちが相手にした奴ら。今回は敵だったってだけ次は、味方になるかもしれないし、もう会うことはないかもしれない。そして、今回は、誰も死ななかったから良かった良かったで、イイんじゃない?」

 

井ノ上はまだ不安そうだが、ボスが団子を出し空気を変えようとしてくれる。

 

「あぁ〜。先生、甘いもので買収するつもりぃ〜。」

 

「いらないか。」

 

「ううん、食べますぅ。」

 

千束の機嫌は治ったようだ。

 

「ハチ、座敷に座布団だしといて。」

 

「はいはい。」

 

せっかくボスが取った機嫌を損ねないように適当に返事をし、座布団を取り出すため襖をあける。

 

「……………。おい、誰だこんなところに黄色のリス型ロボットをおいたのは??」

 

襖の上の段が俺の知らない空間になっていた。

俺の声が気になって千束が来た。

 

下の階からミズキさんの「ウチでしばらく匿ってくれって、あんまり散らかすんじゃないよ〜。」という声が聞こえてくる。

 

「それで、君?ここに住むの?」

 

「お前らの、仕事を手伝う条件で。言っとくが、格安なんだからな。」

 

日本一のハッカーが味方になるとは。

まさか、ボス。始めから狙ってたな?

俺がそう思ってると千束がウォールナットに取引現場の写真を見せ、探してほしいとお願いする。

 

「今日から仲間ね。名前は?」

千束が聞くと「ウォールナット」と答える。

しかし、その人物は死んだことになっているから本当の名前を教えるように言う。

 

「くるみ。」

 

まぁ、相手はハッカーだ十中八九偽名だろう。

日本語になっただけだし。

 

千束は「よろしく、くるみ!」と嬉しそうにしながらウォールナットもといくるみに抱きつく。

俺は後ろに気配を察知し飛んでくるであろう物体を避ける。千束も避けてしまったため、くるみに当たる。飛んできたものは井ノ上さんのツインテールが崩れているためヘアゴムだとわかる。彼女が俺と千束のどちらを狙ったのかはわからないが、避けられたことで驚いている様子だ。

 

後ろでくるみがデコを押さえて唸っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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