ゲームの楽しみ方にはいくつかある。
ゲームを純粋に楽しむエンジョイプレイ、みんなが選ばない方法をあえて選んで実用化するマイナープレイ、誰よりも早く目的を果たすことを目指すタイムアタック、そして自ら行動に制限をかけてその不自由さを楽しむ縛りプレイ。
私は縛りプレイが大好きだ。RPGゲームではアイテムの使用を禁止し、ハンティングアクションゲームでは防具をつけない縛りをしていた。
そして、話は変わるが私は死んだ。なんで死んだのか分からないくらい急に死んだ。コンビニで買い物してたら死んだから、多分居眠り運転か踏み間違えだと思う。
そして神様っぽい人に「君、人間として面白いから転生させてあげるね。次の世界でも僕を楽しませてね(要約)」と言われて特殊な能力を持って転生することになった。……女性として。正直意味がわからない。
その能力についてだが……
「きゃーっ!ひったくりよ!」
「邪魔だどけェ!」
「あ、神速スキップの嬢ちゃん!すまんがあれを捕まえちゃくれねぇか!」
「仕方ないですね……」
ちょうどいいタイミングでひったくりが出たので、実際に見せながら説明するとしよう。
私の能力の発動には3つのステップが存在する。
まず1つ目、レギュレーションを制定する。
「移動はスキップのみとする」
そして2つ目、スタートの合図をする。
「それではよーい、スタート」
最後に3つ目、そのレギュレーションを遵守している限り、能力が発動して身体能力の上昇などの恩恵を受けることが出来る。また、縛りがきつければきついほどその効果は大きくなる。
「はい、捕まえた。抵抗したらあなたの身が危ないからしないことをおすすめします」
「なんなんだよお前!スキップで原付に追い付きやがってふざけんなよ!くそったれ!」
捕まり原付を止められたひったくりが逆ギレして殴りかかってきた。完全に混乱してますねこれは。
「警告はしましたからね」
首を傾けて拳を避け、腕を掴み勢いを利用して投げ飛ばす。ちなみにこの動作の間に移動はしない。したら身体強化が切れるからだ。
投げ飛ばされ、強く背中を打ったのかひったくりは呻き声を上げ、動きをとめた。
「まあこの程度はできて当然、か……」
「あんがとな、神速スキップの嬢ちゃん!礼っていうにはちと安いがこのチケットを受け取ってくれや」
「だからその神速スキップって言うのやめてくださいよ……ん?競女のレース観戦チケット?」
競女とは、水の上に浮いたランドと呼ばれる浮島の上で女の子たちが女の武器(胸と尻)だけを使って落とし合い、最強を目指す公営ギャンブルの一種である。
この世界では割とメジャーなスポーツなのだが、前世にあったものとはあまりにも異なるっていうか、常識が異なるって言うか……まあ、そんな感じでビビって一切手を出していなかったのだが、私もあと1年もすれば大学生だ。そろそろ競女も見ておかないと世間話についていけなくなってしまうかもしれない、競女を知らないだけで浮いたりしたくないし……
「おう!久しぶりにこっちの方で大きなレースするからよ、せっかくだし初めて見るレースは派手な方がいいと思ってな!」
「……ありがとうございます、おじさん。それと白菜買いたいんですけど、安くなったりしませんか?」
「がっはっは!こんなタイミングで言われちゃあ安くせざるを得んな!やるじゃねぇか嬢ちゃん!」
と、いうわけで白菜とレースチケットを手に入れたので、今晩のおかずは家にあった豚バラ肉も使って白菜のミルクミルフィーユにでもしようか。
「って、このレース明日じゃん。おじさんのバカ〜。……早く寝よ」
私は訳あって一人暮らしをしているので、家事は全部自分でしないといけないのだが、これがなかなか面倒だ。大学では寮とかに入って料理くらいは楽をしたいな。
電気を消して布団に入る。……ねむ、おやすみ。
「んー、普段レース場に足運ばないから少し遅れてしまった……もう第二レースが始まる頃かな?……わっ」
レース場の外から中へ1歩踏み入れる。ただそれだけで空気が変わったのがわかった。
響く歓声、熱中する実況解説、ぶつかり合う選手の尻同士の熱気。それらが激しく私に問いかける。
『お前も競女選手にならないか?』と。
「すごい……」
胸が熱くなる。私も混ざって遊びたいと訴える心の声が聞こえるようだった。
私はそこにゲーム性を見た。ワクワクが止まらない。もう我慢できなかった。魂は既に叫んでいる。それを口から出力しないようになんて意識する暇もなかった。
「乳縛り、尻縛り、ジャンプ縛り移動縛り回避縛り視界縛り後進縛り技固定縛り歩き縛りスキップ縛り!」
「最っ高に!楽しそう!」
私、競女選手になります!
さて、競女選手になることを志したはいいが、いかんせん私はど素人だ。調べてみたところ競女選手になりたいならまずは日本にふたつしかない競女養成学校に通う必要があるらしい。
んで、日本にふたつしかないもんだから倍率もえぐいし基準が高いと。
これ私大丈夫か?だって競女選手になるためにこれまでめちゃくちゃ努力してる人たちと競い合わなきゃいけないんでしょ?
「入試科目は徒競走、垂直跳び、尻8の字……?まあいい。それで、2次試験はPKシュート…PKシュート!?、人を背負っての階段上り、反応速度テスト、そして2回の模擬レースか……途中変なのあった気がするけど、まあスポーツ選手の養成学校だし?運動能力を調べる試験内容になるよね、当然」
お?どうやら体験会とかもあるみたいだ。
縛りプレイしたいならまずはそのゲームに慣れなければならない。というわけで、まずは縛りなしで自分がどこまでできるか、その体験会で測ってみようじゃないの!
結論から言うと、ダメダメでした。一通り調べて多少練習した程度じゃ話にならなかった。まずは基礎をしっかり教えてくれる先生が欲しいところだ。
「競女の基礎を教えてくれる先生を探しているのかい?なら紹介するよ」
「ありがとうございます、おばさん。お礼にひき肉300g買っていきますね」
無事、専属の先生がつきました。なんかトントン拍子で話が進んでいくなぁ。
そういえば体験会で面白い子に出会った。体操のすごい選手らしい子と、柔道の最強の子。2人とも体操と柔道の道を捨てて競女選手への道を志しているらしいけど、なんでだろう?
いや、わかる。たぶん競女がすごく楽しそうだからだ。でも、あの二人の才能はすごく楽しそうだからって脇道にポイしていいものとは思えないのだ。
水着姿の2人と、その立ち居振る舞いを見るだけで本当にすごい選手なんだってわかる。体幹凄かった。
「人の心配してる場合じゃないか……寝よ」
次の日から先生による地獄の特訓の日々が続いた。が、修行パートは需要が薄いのでスルーする。
ただひとつ言えることは、私にも実力というものがつき始めたということだ。
競女採用試験2次テスト当日
「うん、順調。いけるいける」
「あ、遊理ちゃーん!」
「久しぶりね、
「あ、神無さんに宮田さん。お久しぶりです」
あの時の面白い子たちだ。また会えるなんて嬉しいな。勝手に運命感じとこ。
「運命、感じちゃいますね?」
「え?うん、せやな!運命バリバリに感じるなぁ!」
「よく分からなかったら聞き返してもいいのよ?ま、お互い残すは模擬レースだけだから頑張りましょう?」
「ではこれよりこのロードのランドで競女採用試験最終実技テスト、模擬レースを行わせていただきます」
お、ついに始まるのか……模擬レースは流石にできてないから心配だな……
ロードのランドって言うのはあれかな?プールの真ん中にデーンって浮いてるやつ。いくつもの丸いランドとそれを繋ぐ細い一本道で構成されたロードは、ランドの体験会で乗ったやつよりは動きやすそうだけど下手したら細いところで挟み討ちに会いそうで怖いな。
あ、似たような事を宮田さんと神無さんが言ってたわ。
「なんか前乗ったやつより動きやすそうやなぁ」
「確かに、体験会のランドよりは窮屈さはないわね。けど、むしろ頭を使わないと動けないわよ、これは……」
「迂闊に動けない時の対処法って2人は分かりますか?」
「動けない時の対処法?」
「状況によって変わるから正解は無いと思っていたのだけれど……」
「正解は『動かない』でした。向き不向きはもちろんありますけどね」
「ほんとにそれでいいのかしら?」
「信じられないなら私のレース見てて。正解を見せつけてあげる」
「でもうちと宮田ちゃんのレースの方が先みたいやで!」
「そのようね」
「え〜」コケッ
「後で答え合わせとして見せてもらうことにするわ」
「せやな!逆にうちらのレースちゃんと見といてな、遊理ちゃん!」
「……ッ!」
ジャージを脱いでランドに向かう2人は光の加減のせいか酷く眩しかった。かっこよすぎて危うく落ちるところだった。レース前なのに。
……もう2人のことを『面白い子たち』として見れないかも。
〜〜〜〜
「うわ、神無さんすごい踏み込み。水しぶきが高すぎてもう煙幕じゃん。からの急襲、速いし重いな」
レースを見ながら解析を行う。これは先生から教わった絶えず成長するために必要な過程だ。『他人の尻見て我が尻直せ』『尻技乳技は見て盗め』これらは先生がよく言っていた、私の競女の基盤になる言葉だ。
神無さんと宮田さんのレースを見て盗めるものは全部盗む。このランドの攻略方法を見つける。これが今私のできる最善だ。
「ま、ランドの攻略法は分かってるんだけどね。ってうわやばっ今の避け方いいな、参考にしよ」
〜〜〜〜
「ん。あの小刀って子、凄いですね」
「レース前やのにそんな分かるもんなん?」
「ええ、彼女は武道を極めた者の歩き方をしているって言って分かるかしら?重心がまるでぶれてないの」
「少なくとも一般人って言うよりは逸般人って感じですね。あ、始まりますよ」
レースが始まるなりいきなり小刀さんの所に高速で突っ込んでくる尻。
「速い!」
「あれは尻キャノン砲!」
「さっき神無さんが使ってた技ですね」
でもこの尻キャノン砲は神無さんのより威力が控えめな分、かなり速い。それに対して小刀さんは……1歩も動いてない!?避けずに迎え撃つってこと?
「あの構え……居合?」
「そうか!」
「秘技……乳抜刀!!」
パァンッ!という音と共に尻キャノン砲の少女に綺麗なカウンターが入る。
綺麗に決まった乳抜刀は少女を簡単にはじき飛ばし、落水させた。
「いいな、それ……」
「ん?なんか言うた?」
「いえいえ、大したことじゃないので」
〜〜〜〜
ついに私の番がやってきた。私の対戦相手で1番気をつけないといけないのは日下生美桜。彼女のこれまでの試験の様子を見て、総合的にこの競女というスポーツにおいて彼女の強さを推測するならば "ヤバい"この一言に限る。出来れば最後の方まで私に興味を持たずにいて欲しいなぁ……。
「ハァイ♪私は日下生美桜。年はハタチで、好きなことはかわいい女の子とイチャイチャすること♡キミ、すっごいタイプかも…♡」
「ひぅっ……」
「ふふっ♡かーわい〜♪じゃ、また後でね♡」
嵐が去っていった、そんな気分だ。頼むからいきなり耳をさわっとするのはやめてくれ。
しかしスタート前に興味持たれてしまうとか運が無さすぎてもう笑いが込み上げてくるレベルだわ。もうなんかこう、ニヤって感じのやつ。
「すごいね、あの子。ミオにあんな表情向けられるなんて……実力差が分からないおバカさんなのか、それとも勇気あるヒーローなのかな?」
レース開始の鐘が鳴る。周りが一斉に動き始めた。速攻で他ランドに攻め込む者、それを迎え撃つもの。あ、私の方にもひとり来てる。
私がこのランドにおいては動かないのが正解と言っているのには私特有の理由がある。それは至ってシンプル。縛りを設けて私の能力を発揮しやすいからだ。
「レギュレーションはこの丸島だけ縛り。それではよーい、スタート」
「何ごちゃごちゃ言ってんの、よ!」
鋭い尻撃。綺麗に私の頭を狙い大ダメージを与えるつもりだろう。
だが
「頭狙いは避けられやすいのでここぞと言う時以外は胴を狙うことをおすすめします」
縛りを設けたことによって動体視力、身体能力が上がった私なら簡単に避けられるし、攻撃後の無防備な脚を払って彼女を転倒させることも出来る。
しかもこの縛りは自分が此処で待っている限り破られることがない。だから動かないことが正解なのだ。
「お待たせ♪待たせすぎちゃったかな?」
「いえ、もう少しゆっくりでも大丈夫でしたよ」
丸島を出ずにそこから4人ほど落としたところで遂に来た。
私の嵐が細道を通って丸島に足を踏み入れる、その瞬間。
「先手必勝、尻キャノン砲!」
「あら、お出迎えしてくれるなんてうれし〜♡お姉さんはりきっちゃうゾ☆」
彼女は確実に強い。だから島に移動してくるその瞬間、人が無意識に意識を切替えるその空隙を狙った速攻技。並の人間なら避けることも受けることも叶わず落水する技を彼女は受け止めて軽口まで叩いてきた。
本人的には軽口を叩くとかじゃなく、いつも通りなのだろうがそれが逆に恐ろしい。
「お出迎えと言うより、追い出すつもりだったんですけどね……」
「そんな寂しいこと言わないでよ〜☆きちんと長く遊びましょ?」
後ろに跳んで距離をとり、少し腰を落とした状態で言葉を交わす。
「うんうん♪キミやっぱりスタイルいいね!完璧なバランスだわ!お名前聞いていいかしら?」
「……私は縛業遊理。あなたを落とす女です」
「やーん♡落とす宣言されちゃった♡でもごめんね?私──」
気を抜いてたわけじゃない。しっかりと日下生さんの一挙手一投足に注意してた。
なのに気がついたら目の前に尻があった。
「──攻める方が好みなの♡」
「ガッ……!……っぁあ!」
「ワオ♪咄嗟に半身になって衝撃を回転エネルギーに変えて尻撃によるカウンターを撃つなんて、正直驚いたわ♪」
「平気で避けといて何言ってるんですか……」
「もっともっと!楽しみましょ♪」
(攻撃が、早すぎる……!)
それぞれの攻撃が速いのはもちろんだが、尻、乳、尻、尻、乳と連携が上手い。尻を避けたと思ったら避けた先に乳が迫っている恐怖。
「避けてばっかりじゃお姉さんは落とせないわよ〜?」
「分かってます、よっ!」
刺すような尻をかがんで避け、尻を跳ねあげて攻め込むが上体を反らすだけで避けられてしまう。
が、それだけで終わらせるつもりは無い。
はね上げた勢いそのまま上半身を起こして上向きの乳撃を打ち込む!
「抜乳……
「なっ!?」
「あれは私の……!?」
さっき見た本家の乳抜刀に比べると不完全もいいところ。初速も足りないし勢いも不十分だが、ありえないコンボによって不意を突き完璧に胸を打ち上げた!上半身はのけ反りきって次の一撃は躱せない!ここで決める!!
「俺の勝ちだ!!
空中で伸びきった体を体勢を整えながら丸めるようにして下向きに強力な叩きつけを行う!
仰け反ってほぼ地面と平行になっている胸に自身の体重を全て乗せた乳撃を叩き込み、日下生さんを吹き飛ばして落水させる……
そうなるはずだった。
「キミ、かなり無茶な動きするのね?してやられちゃった♪でも、安易に空中に上がっちゃだめだゾ☆こんなカウンターを受けたら避けれないからね♪」
私の乳隕石は疲れやダメージというものもあったのだろう、加速し切る前に上体を起こされ不完全な状態でヒットさせられた。
胸を下にしている私は当然その後に振るわれた尻を避けることなんて出来なかった。
「バァイ♪とっても楽しかったわ♡」
「ゴフッ!」
遠のく水面を眺めながら、敗北したものの全てをだしきった気持ちよさと水の冷たさを堪能する。
ああ、凄いなぁ。養成学校入学前ですらこのレベルの人がいるんだ。プロなんかに入ったら一体どれだけなんだろう……
(競女って、最っ高に面白い!)
あれ?日下生さんの喋り方ってこんな感じだっけ?
アニメしか見てないからこうとしか書けないので許してください……