ようこそ超人が支配する教室へ   作:口の端にほっぺが!

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主人公の顔はマイケル・ウォルシュを、体は高円寺の肉体美でご想像ください。


原作一巻相当
入学


「実力主義」とは一体何を指すのだろう。

 

自らの能力を行使して、結果を出した者が正当に評価されるべし。そんな考えだ。

 

結果を導き出せる要素というのが、「実力」という訳だ。

 

そうすると、実力とは実に多様に存在することに気づく。

 

オリンピック選手は運動能力やメンタリティ。学者は思考力に想像力。大企業の社長であれば運営力、新進気鋭のベンチャー企業はリーダーシップや洞察力など。

 

多方面で結果を出そうとすれば、それこそ無数の実力を必要とする。

 

最近は特に注目されている話だし、各々の得意な分野を伸ばすためのフリースクールなども加速度的に増えている。

 

世界的にもその流れに遅れを取っていた日本も、ついに動き出した。

 

高度育成高等学校。

 

日本政府が直々に作り上げた、東京湾に浮かぶ大きな施設。

 

学校内部の情報や、その教育の仕組みなどは一切伏せられながらも、進学率・就職率100%を誇る、謎に満ちた学校。

 

ここでは計画的に生徒の実力を伸ばし、様々な方面で著名な人物を輩出してきた。

 

実に画期的で、「実力」のある学校なのだ。

 

そこに通うことになる生徒たちも、実にバラバラで、個性的な実力を有していることだろう。

 

そんな奴らを自分の思うように操る、手の上で転がすとしたらどれほど気持ちがいいか。

 

そして、俺には彼らを操れる実力が本当にあるのか。

 

きっと素晴らしい高校生活になる。自らを見直す最大の機会になる。

 

俺は、この学校で一番の実力者になるのだ。

 

伊王野美颯(いおのみはや)が、学校を支配するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

がたん、とバスが揺れる。目を覚ました。

 

寄りかかっていた窓の外にはピンク色の風が吹き、その奥で無機質な建物が流れていく。

ゆっくりとバスが走行する中で、道行く人影が見えた。新年度が楽しみな学生。友達と楽しそうに会話する主婦。ベビーカーの中で幸せそうに眠る赤子。

 

体を起こして、あとのついた頬を撫でた。

 

バスの中に目をやると、乗車してから人が増えたようで、前方ではつり革すら満員の様子だ。会社員や高齢者、更には制服姿の生徒も目に入る。同じ高校の生徒だろうか。

 

真っ赤なブレザーに、男子は緑色のズボンと女子は真っ白なスカート。俺と同じ格好をした彼らは、まさしく「高度育成高等学校」の生徒のはずだ。

 

緊張した面持ちの生徒や、居眠りをする生徒。しんと静まったバスの中で、彼らはバレないように息を潜めているようにすら見える。

 

こいつらが、同級生なんだろうな。

 

俺はそれとなく彼らの顔を見やる。彼女ら───つまり女子の顔を値踏みするように流し目を送り、そっとほくそ笑む。

 

可愛い子多いな。

 

うしっうしっと、心のうちでガッツポーズをした。おそらく高校の間でも、有意義に彼女たちを楽しむことができるのだろう。妄想をしつつ目を瞑る。

 

「どうぞ。この席に座ってください」

 

優しい声が響いた。

 

目を開けると、バスの前方でピンク色の髪の女子生徒がご老人に席を譲っている。譲られたほうは、ちょうど今乗ってきたらしいのだが、嬉しそうにお礼を言っていた。

 

暖かい雰囲気に、周りの人も微笑みを浮かべる。譲った彼女も、お礼を謙虚に受け取り、特に違った感情を見せることなく微笑みを浮かべたままでいた。

 

なかなか勇気のある子じゃないか。いたたまれなくなった、といった理由などではなく、純粋な優しさから行動を起こしたような、躊躇いのない様子が伺える。

 

俺は彼女を注視する。

 

一瞬遅れて、彼女も俺のほうを向き、目が合った。キラキラとした水面のような瞳が俺を見つめる。彼女は、にこりと微笑んで笑顔を向けた。

 

俺も同様に笑顔を返す。心の中で阿波踊りをしながら。

 

フゥ!めっちゃ美人じゃんか。

 

いいものを見た、と俺はさらに口角を上げた。

 

 

 

「ねえ君、こんにちは!」

 

バスを降りて歩くこと数秒。前方から声がかけられた。

 

相手はピンク色の髪の女の子。さっきの子だ。ニコニコと嬉しそうに笑顔を浮かべ、小さく手を振っている。

 

「やあ。君も1年生か?」

 

「うん!『も』っていうことは君もなんだね」

 

嬉しそうにオーバーな頷きをする彼女は、隣を歩きながら話を続けた。

 

「私は一之瀬帆波。よろしくね!」

 

「俺は伊王野美颯だ。こちらこそ、これからよろしくな」

 

お互いに優しく笑みを浮かべながら、隣を歩く。帆波の小さな歩幅に合わせつつ、俺は先程のことを思い出した。

 

「さっきのこと、なかなか普通の人にはできることじゃないな。帆波の優しい性格が垣間見えたよ」

 

「にゃはは。当たり前のことをしただけだよ」

 

照れたように、くすぐったそうに笑う。どこかほっとしたような表情を一瞬だけ見せて、満足したように顔をあげる。同時に正門をくぐった。感慨深そうに帆波は呟いた。

 

「...これから3年間、ここで生活することになるんだよね」

 

 

 

高度育成高等学校。

進学率・就職率100%をうたう、政府直々に作られたこの学校は、普通の高校とは一線を画す受験倍率からわかるように、ほかとは全く異なった学校である。

 

広大な敷地。いくつかの巨大な校舎。大量のお金をかけられた設備の数々に日本最高峰レベルの教師。

 

勉強するのにこれ以上ないほどシステムが整えられている。

 

そして、それは学校の中では収まらない。

 

隣接する学生寮はそこらのアパートなんかよりも充実した施設となっており、入学した生徒はそこで3年間過ごすこととなるのだ。

 

無論、欠点もある。

 

3年間この敷地内で過ごすため、実家に帰ることは出来ない。それどころか、学校に許可をとらない限り外の世界と連絡することすら出来ない徹底ぶりだ。ホームシックを患おうが、故郷に親友彼女がいようが、3年間の別れを必要とする。

 

その代わり、上記を覆してあまりあるメリットも存在する。

 

高度育成高等学校を要する人工島。その実態は、学校を中心とした小さな街となっているのだ。大手ショッピングモールに様々な店。ラウ〇ド・ワンがあれば叙〇苑すらある。生徒が生活に困らないように、ブティックやらカフェやらが、その60万平米を超える敷地に詰め込まれているのだ。

 

そんな夢の島で生徒が目指すのは、あらゆる分野での実力者。

 

3年間で学力のみに収まらない能力を伸ばし、日本の未来を背負う人物を輩出するのがこの学校の目指すところだ。

 

故に、今までのように定期テストだけに収まることはないのだろう。様々な条件下で身体能力や判断力、果てには今まで知ることのなかった力を試されることになるはずだ。

 

 

 

「ああ。───高度育成高等学校か。どんな学校生活を送ることになるんだろうな。実に楽しみだ」

 

目の前には大きな大きな校舎。威風堂々その威容を露わにするその学校は、俺の心を強く揺さぶる。

 

「うん。どんな人がいるのか、すごく楽しみだよ」

 

周りでは、俺と同じ新入生が歩みを進める。期待。緊張。不安。自信。様々な感情の入り交じった彼らの表情は、まさに俺と同じなのだろう。

 

よし、と小さく喝を入れて俺は足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

昇降口からさほど遠くない1年の教室は、クラス発表の掲示板から数十秒の場所にあった。

 

1-B。

 

Aクラスのすぐ隣のドアをくぐる。

 

気分的にAクラスが良かったのだが、これが抽選で決まっているのなら詮無いこと。多少残念な気持ちになっていたが、今やウキウキの裏側に消え去っている。

 

運良く俺の名前の下に名前があった帆波と共に教室に入った。

 

「よっすー」

 

「こんにちは!」

 

同時に教室内への挨拶が出た。まあ、帆波のような人物ならそれが当たり前か。注目を引いて、彼らと話すきっかけを作る。

 

最初の絡みが大切というのは、どこの誰もが当たり前に抱く考えなのだろうな、なんて思いながら、自分の席を確認しつつ目が合った男子に近づいていった。

 

教室のど真ん中。

 

「よ!」

 

「おす!」

 

と明るく返事を返してくれたのは、無邪気な笑顔を浮かべる快活な青年と、マッシュヘアーの目が細い青年だ。軽く手をあげている彼らは、座っている机の名前を思い出す限り、柴田(そう)と渡辺紀仁のはずだ。

 

「やあ。伊王野美颯って言うんだ。美しい颯で美颯。よろしくな」

 

軽く自己紹介して右手を伸ばす。利き手は左だが、こういう場面では右手を出す方が好ましい。

 

「渡辺紀仁。糸に己、人が二人で紀仁。これからよろしく!」

 

マッシュの紀仁はにっこり笑って握手を返してくれる。腕に程よく筋肉がついていた。細身なのを考えるによく鍛えられらた筋肉をしているのだろう。

 

そうして、体の向きを変える。

 

てっきりいの一番に挨拶をするかと思った颯を見ると、驚いたように目を丸くしていた。

 

「伊王野美颯...?もしかして、去年の優秀選手だったり?サッカーのさ、全国大会の!」

 

おや。それを知っているということは同じサッカー部だったのだろう。一部では有名な話だから、この学校でも数人は気づくのかもしれない。

 

「その通りだよ。私立恵華中学校出身。主にフォワードやってたんだ」

 

「おおお、すげえ!俺、柴田颯。美颯の“はや”とおんなじ漢字。俺も中学サッカー部でフォワードだったぜ」

 

嬉しそうに握手を交わす。そして、伺うように無邪気な笑みで覗きこまれた。

 

「なあ。ここにもサッカー部があるんだし、美颯も入るよな?」

 

「ああ。もちろん、最速レギュラーは俺がいただくがな!」

 

「言ったな?負けねーぜ美颯!俺もバカみたいにサッカー頑張ってるし!」

 

早速部活仲間と仲良くなれた。幸先がいい。

 

そしてそれは颯も同じようで、気持ちのいい炎がメラメラと瞳の奥で燃えていた。

 

「いいなあ。お前らもう部活仲間できたのかあ」

 

「紀仁もすぐにできるだろ。そういえばどこの部活に入るつもりなんだ?」

 

「紀仁は合気道だって。中学の頃は部員3名だから焦ってるんだってさ」

 

「サッカーはいいよなあ。いつだって人気だしみんなイケメンだし」

 

「ははは」

 

羨ましそうに嘆く紀仁に、軽く笑いを返す。

 

「まーでも、美颯のイケメン度はレベチ。レベチでしょ。前に動画で見たけど実物はもっとすごいや」

 

それに反応して颯がしみじみとつぶやく。合わせて紀仁にじっと顔を見られた。

 

彫りの深い顔は絶妙なバランスでパーツが配置され、毎日のケアを怠らない肌は美しく、サラサラと流れるような茶髪はセンターで分けている。

ダンディさよりも美青年さを追求したその顔は、真っ青な瞳でさらに輝いているはずだ。

 

「...間違いないな。こんなイケメンは俺の中学じゃ見たことない。それに美颯がクラスに入った瞬間の女子の反応とかも、わりとはっきりしてたしな」

 

紀仁の評価に、はははと軽く笑う。

 

まあ、絶世の美男子などとは言えないが、今まで生きてきた中でこの顔に感謝した機会はとても多い。

 

中学でも大勢にモテたし、このスタイルと相まってモデルにも勧誘された。自惚れることはしないつもりだが、これも俺のひとつのステータスだという自負がある。

 

クラスに入ってからあからさまに向けられた好奇の視線も、はっきり理解している。別れて女子のグループへといった帆波は、それとなく追求を受けてるようだ。可哀想に、顔が若干ひきつっている。

 

「なあ、彼女はいるのかー?」

 

面白そうに颯は聞いてくる。紀仁も興味津々だ。

 

「そうだな。美颯に彼女がいるのならそれに越したことはない。───逆に、いないのならしばらく女子たちが荒れそうだ」

 

「俺たちには彼女ができなくなるなー」

 

「あー。さすがに3年も遠距離は無理だからな。彼女とは別れた。フリーさ」

 

「グワッ!いないかー」

 

「けーっ。羨ましいなイケメンは。選り取りみどりかよ」

 

衝撃を受けたように仰け反った颯と紀仁は、一瞬のうち直ぐにからからと笑い出す。

 

良い友達ができたな、と嬉しく思いながら一旦自分の席へと移動する。窓側から2番目、前から2番目だ。教卓へと出やすくその場からもクラスへと発言しやすい。実にちょうどいい席を手にしたわけだ。

 

荷物を机の端にかけ、その後も大半の男女と話をしつつ時間を過ごすと、HRのチャイムがなった。

 

「どんな先生が来るのかな」

 

チャイムがなり終わる寸前に斜め後ろの席にスライドしたショートカットで童顔の女の子───安藤紗代が、実にウキウキした様子で疑問を口にした。振り返れば彼女の隣の生徒も多少興味を持ったようで、顎に手を当てて答えている。

 

「ああ。この学校の教師なら、イメージとしては気難しく厳しい男性。だが───」

 

「えー。優しくてあまあまな女の先生がいいな!」

 

「俺も賛成する。このクラスの雰囲気を見る限り、多少自由を許す教師の方が適しているだろう」

 

「なんだか難しいこと言うなあ」

 

緩やかに癖のかかった長髪の男。鷹のように鋭い目をさらに細めている美形の彼は、神崎隆二と言うらしい。特に挨拶を交わしてはいないが、彼が教室に着くなり「隣の席だね!」と紗代に絡まれてるとこは見ている。若干あたふたしていたのは実に面白かった。

 

「確かに和やかな雰囲気だよな。俺は伊王野美颯。よろしくな」

 

まだ薄い根拠ではあるが、彼はそれなりに観察力に長けているのかもしれない。論理的な思考回路も持ってる可能性も高い。友達ができて浮き足立っているこのクラスの空気から1歩引き、俯瞰するように1人で眺めているのは癖なのだろうか。

 

なんにしろ、冷静なブレーンというのは総じて利用価値が高い。頼もしい友達になるだろう。

 

そんなことをなんとはなしに頭に浮かべながら、右手を差し出す。隆二も同じように片手を差し出す。がっちりと握りしめた。

 

「神崎隆二だ。この空気は伊王野、お前と一之瀬。そして柴田や安藤の影響が大きいだろう。こんなにも早く一体感が現れるのは初めて見る」

 

「美颯でいいぞ。確かにこんなに仲良くなるのが早いのは驚いた」

 

「お、隆二くんが褒めてくれた...!?それとあたしも紗代でいいよ。さよちとかさーちゃんでもドンと来い!」

 

嬉しそうに童顔でドヤ顔をする彼女は、帆波に劣らぬコミュ強だ。スタイルよし顔面よし性格よしで、クラスの女子をまとめる存在になりうるだろう。

 

そして、詳しくは語らないがデカい。

 

帆波もそうだ。ダイナマイトだ。揺れる揺れる。

 

ただし、女子はその手の視線にはかなり敏感であるため、全身を俯瞰する時以外は目に入れることは無い。が、このクラスは相当豊作らしい。一部の男子も、既に興奮したように話題に出していた。それに気づいた女子の視線や態度も、推して知るべしと言ったところではあるが。

 

「ああ。よろしくな」

 

神崎はそこにさほど興味は無いのか、俺と紗代の目をしっかりと見据えて答える。女子からの評価は良好だろう。

 

そんな俺の隣には、これまた無口な少女が座る。背が低く、猫背で俯きがちな彼女の名前は遠藤絵美。神崎の静かさとは違い、単純に話が苦手な部類の生徒だ。だいぶ前から席に着いていたため、一応挨拶は交わしたが、それ以降誰かが話しかけない限り答えず、自分からは動こうとしない地蔵ぶり。帆波や紗代のお世話になること間違いなしだ。

 

せっかくだし、と声をかけようと体を向き直すと、ちょうど教室のドアが開く。

 

バタン!と遠慮なく全開にされたそれは大きな悲鳴を上げ、生徒は思わず前を向いた。

 

廊下を走ってきたのか、ドアにかかった手の外側でぜいぜいと呼吸が聞こえる。同時に生徒の息を飲む音も聞こえた。

 

果たしてどんな先生だろうか。堅物頑固教師か、ぼんやりぽやぽや先生か───。まあ、あの姿を見る限り大勢は決したようなものだ。

 

かくして。

 

「はあ、はあ───。ごめんね、みんな!ちょっと遅れちゃった」

 

よたよたと可愛らしい女性が教卓前へと転がりでる。ロングの茶髪は緩くウェーブがかかっており、庇護欲を刺激されるような雰囲気をもっている。生徒は女子を中心にくすくすと笑いが漏れ、男子はお互いに顔を見合わせている。

 

「はーーー、よし。Bクラスのみんな、初めまして!このクラスの担任をする、星之宮知恵です。保健室の先生をしてます。気軽に千恵ちゃんとか千恵先生とか呼んでね♪」

 

星之宮先生はパチリとウィンクをかます。途端にいえーい!とうおおお!といった歓声がクラスに響いた。どうやらクラスの大勢にとって、この先生はあたりのようだ。紗代も「やった!大当たりだよ!」と隆二の背中をバシバシと叩く。痛そうだ。

 

「うんうん。初日から打ち解けたようで、先生は嬉しいな。さてと、今から1時間後に入学式があるから、それまでにちゃっちゃと大事なこと説明しちゃうね」

 

自分の名前を書いたホワイトボードにいくつか大きな紙を貼り、さらに数枚の資料を配る。

 

それから説明されたのは、3年間クラス替えがないことと、入学前の資料で確認した『Sシステム』なるものだ。これは簡単に言えば現金の代わりに学校から支給されたポイントを使うというもの。その収入も支出も、全て学校が確認しているというわけだ。お金の使い方も社会に出る上で大事だと言うことなのだろう。

 

毎月一日に無償で振り込まれるというのだが、ここで星之宮先生は驚くべき発言を、もったいぶってする。

 

「どれくらい振り込まれるかって言うとね?みんな、学生証カードの電源付けてみて」

 

「お、おおお!!」

 

「嘘だろ!?多すぎね!?」

 

「なんでも買い放題じゃん!」

 

生徒の悲鳴。喜びの発狂が響き渡る。それもそのはずだ。

 

10万ポイント。1ポイント1円の価値があるわけだから、その実10万円。それだけの莫大な金額が表示されているのだ。

 

「うんうん。すごいことよね。この学校はみんなの実力を測る。この学校に入ることが出来たみんなには、それだけの価値があるってこと。───そのプライベートポイントを使えば、この学校のあらゆるものを購入できるのよ」

 

ポイントは卒業後全額返還させられること。ポイントの譲渡は可能だが、カツアゲは厳禁だということ。ポイントの使用は自由だということ。

 

『Sシステム』について詳しく説明された後、全員の荷物や教科書は各々の部屋に置いてあるため、今日中に確認しとくといいよ、とアドバイスを放って教室を去っていった。

 

後に残るのは、若干の困惑と大勢の喜び。

 

「10万...。なんだか実感が湧かないや。毎月こんなに貰っちゃったら、卒業までにまともな金銭感覚でいられるか心配になるなあ」

 

「そうだな。3年間で360万円。これを全生徒に支給するなど、ありえないように感じるが...」

 

後ろには、大きすぎるお小遣いに困惑する2人組。困惑こそすれど、星之宮先生の言葉の隠された意味は読み取れなかったようだ。

 

それはほかの生徒も同じようで、考え無しに喜ぶ生徒が3割、困惑する生徒が7割に収まっている。

 

無論、俺も同じように疑問をもった。教育にさほど金をかけないこの国が、たかが高校の一生徒にこれだけのお金を支給できるはずがない。教育に金をかけようがかけまいが、無駄な支出に間違いない。

 

そして、それを裏付けるように、先生は『毎月10万支給される』とは言わなかったし、後半など言い方を変えれば『この学校にふさわしくなければ、払うお金もない』ように聞こえた。あの先生が抜けているだけの可能性も無くはないが...。

 

ともあれ、それを考えたり、真相を突き止めるのはあとのことだ。

 

せっかく時間がある。残り40分を有意義に使おうと、立ち上がった。

 

「みんな。少しいいか?せっかく時間があるんだ。これから一緒に学校生活を楽しむためにも、自己紹介の時間にしよう」

 

クラスの視線が一気に集まる。好意的なものが大半。気持ちいいものだ。

 

「うん!わたしもそれに賛成だよ!まずはみんなのこと知りたいかな」

 

どうやら同じ行動を取ろうとしていたらしい帆波は、宙に浮いた腰を椅子に落ち着け、賛成の意を示してくれた。帆波と早速仲良くなった女子一同もうんうんと頷く。

 

「まずは言い出した俺からさせてもらおう。伊王野美颯。美しい颯で美颯だ。得意なことはサッカーで、趣味は色々───最近は料理とカラオケにハマってる。みんなよろしくな」

 

決まった。100点満点(パーフェクト)だ。

 

男子からは大きな拍手がしたし、女子からもきゃあきゃあとはしゃぐ声が聞こえる。

 

第一印象は抜群らしい。

 

その後、クラスの端っこの人に声をかけ、順々に自己紹介をしてもらった。

 

「一之瀬帆波です。好きなことはスポーツと映画。みんなと仲良くなれたらいいな!3年間よろしくね!」

 

「柴田颯、だ。美颯と同じでサッカー部に入るつもりなんだ。運動全般なんでもこい!仲良くしようぜ!」

 

「神崎隆二。ボードゲームが好きだ。...よろしく」

 

「安藤紗代って言います!好きなことはバレーボール、部活ももちろんバレー部!最近はアニメにハマってます!ぜひ話しかけてください。あたしからもじゃんじゃん話しかけます!よろしくっ!」

 

どうもこのクラスは元気印らしい。明るい自己紹介が続き、多種多様な趣味も伺えた。カバディ経験者や、出身国がポーランドなんて人もいた。

 

その中でも一際目に付いたのが、この4人。

 

一之瀬帆波、柴田颯、神崎隆二、そして安藤紗代。

 

おそらく基礎スペックは非常に高く、3人はコミュ力も高い。クラスを率いていく上で、重要な人物になるはずだ。

 

ニコニコと、時たま歓声をあげつつ、俺は彼らを観察したのだった。

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