初めての授業日。
いくら未来のリーダーを育成する高校だろうが、どの授業も最初はガイダンスが行われた。どの教師もフレンドリーで、まるで友人と話しているかのようだった。
幾人か───日本史の茶柱先生なんかは気難しい態度を崩すことはなかったが、その暖かな雰囲気にBクラスもなごみ始めていた。
ただし、授業中の私語が増えたのは、少々いただけない。いずれ注意する必要がありそうだ。
「なんだか授業楽しそうだなー」
「うん。英語苦手だけど、あの先生なら何とかなりそう」
一年生のクラスが連なる廊下を、柴田颯、安藤紗代と共に歩く。昨日のクラス会で一緒にはしゃいだ彼らは、一段と仲良くなったらしい。こうなると若干気後れをしてしまう。
「ああ。あの物腰なら初回から飛ばすことはないだろ。あの茶柱先生は別だろうけどな」
「あ、わかるかも。あの先生なんか怖い感じするもんな」
「えー?佐枝ちゃん先生可愛くない?」
一時間目が終わったあと、短い休み時間の間でほかのクラスを見に行かないか、と颯に声をかけた。いずれプライベートポイントの仕組みの詳細を調べるために、各クラスにツテを作っておこうと考えたのだ。
短い時間となると、出せる話題も話せる人数も限られる。大人数で行けば人数という面では解決策に見えるが、生徒に威圧感を与えかねない。
迷った結果、コミュ力が高い颯をお供に、サッカー部に入りそうなやつと交友関係を結んでいこう。そういう作戦となった。
そう考えて颯に声をかけたのだが、ちょうど聞いていた紗代も興味を持ったようで、同行を申し出てきたわけだ。紗代もコミュ力はかなり高く、俺自身彼女の能力や思考回路をある程度把握しておきたいと考えていたため快諾した。
まずはAクラス。
イケメンが多いと早速噂になっているそのクラスに、顔を出してみようと思う。
さて、俺の自慢の顔は彼らの鼻をポッキリおってくれるかな?
「こんにちはー!!」
紗代の元気な挨拶が、Aクラスで響き渡る。
Bクラスよりも物静かな感じのする教室では、早速教科書を開いて顔を付き合わせている生徒が多かった。
声量や休み時間の過ごし方を鑑みるに、Bクラスに比べて『真面目』なクラスだ。
そんな彼らも突然耳に突進してきた挨拶に驚きつつ、数人の女子や男子がクラス前方のドアへと近づいてきた。
「こんにちはー!Bクラスの人達だよね?昨日楽しそうにしてるのみたよ!」
「ほんと!?うちのクラス波長が合う人が多くってさ、颯くんの提案でラウ○ド・ワン行ってきたの。あ、颯くんってのはこっちの人で───」
早速女子集団と話す紗代を尻目に、近づいてきた男子に目をやる。
「よす!俺、紫田颯。Bクラスなんだ。よろしく!」
颯のこれまた元気な挨拶に楽しそうにAクラスの男子も反応する。陽気な生徒もしっかり混ざっているようで、彼らも自己紹介に乗り気のようだ。
そんな一瞬の間、俺は気づかれないように視線をめぐらす。クラスの内情、その前兆をある程度察知しておきたい。
目に付いたのは、教室の奥で椅子に腰をかける、白銀色の髪をした可愛らしい少女。机の脇にステッキがかけられているのを見る限り、足や腰に何らかの問題を持っているのかもしれない。
そんな彼女の気になるところは、目。
隆二のよりも深く、理知的な色に満ちたその瞳はこちらに向けられており───時折強い興味の色が、俺に向けられる。
こいつは、相当頭が回る。
そして、その観察眼や思考スピードも、隆二のとは比べるべくもないのだろう。
とりあえず、ウィンクをひとつ。
予想通り眉をひそめられたが、これでいい。可愛い子には媚びを売れよ、とはよく言われる格言だ。
そしてもう1人。クラス後方からこちらに近づく禿頭の男。身長こそ俺に及ばないが、そこそこがたいがいい彼は真面目筆頭と言った匂いがする。
特に惹き付けられる要素はない。見た目通りなら、杓子定規な考え方をしそうだし、そうであればつまらない人間だと一蹴してしまいそうになる。
しかし、おそらく彼はAクラスのリーダー的存在。
堂々とした態度。目の前で自己紹介している男の1人が、ふと振り返って彼の様子を伺うところ。数人が彼の後ろに引っ付いているところなどを見れば、簡単に見当は付いた。
目下のところ、この青年との関係性がこのクラスで現在最も大切だと判断した。
「俺は伊王野美颯。颯と同じBクラスだ。隣のクラスだし、仲良くしようぜ」
「うん!俺は───」
穏やかに笑顔を浮かべて自己紹介をする彼らを記憶にとどめつつ、後ろの男の介入を待つ。というかAクラス男子がイケメンだと言うのは間違いない。爽やかだがそれなりに彫りの深い顔で微笑みを浮かべる里中という男は、女性の大半に持てるような優しい顔をしている。
まあ、視線を集めるのは今回も俺なんだけどね。
自分の立ち居振る舞いに改めて自信を持ちつつ、正面の男の目を見据える。
その男も気づいたようで、多少距離のあいたところから、割れた顎を引いて言葉をかけてきた。
「葛城康平だ。Bクラスとは隣のクラス。助け合いが必要になる時がいずれ来るだろう。その時を含め、これから有効な関係を築いていこう。よろしく頼む」
だいぶ固い挨拶だった。しかし、その男らしい笑みはたしかに覇気の感じられるものだった。
後ろの小物がそうしているように、ついて行きたくなるような男だと理解した。
その後、里中など3人ほどの生徒がサッカー部に入ると知ることができ、その時間の他クラス交流は終わりを告げた。
紗代と話していた女子の何人かが、サッカー部のマネージャーになろうかな、なんて話していたのを小耳に挟んでいるため、どのくらいの規模になるのか実に楽しみである。
またひとつ授業が終わる。
今度はCクラスだ。
中々ガタイのいい生徒が多いと聞く彼のクラスは、果たしてどんな特色を持っているのやら。隣のクラスではあるが、あまりCクラスの生徒の目立った噂は耳にしない。
「あ、あの...」
「うん?」
そして、Cクラスの締め切られた扉の前に立っていると、オドオドと小柄な少女が声をかけてきた。度の強いメガネをかけ、いかにも根暗女子といった風貌だったが、目線を合わせて優しく質問を返した。
「どうしたんだい?」
「はうううっ!あ、えと...。その...」
「うん。ゆっくりでいいからね」
中々話せないようで、埒が明かない。ゆっくりでいいとも言ったが、時間はいつだって有限。精々あと10秒ほどがこの少女にかけられる情けだ。
「う、あ...あ、あの...」
「...!あ、もしかしてCクラスの子?今は入っちゃダメな時間なのかな。会議をやってるとか」
見かねたように、紗代も助け舟を出す。同性の優しい問いかけに少しは安心したようで、少女はガックガックとヘドバンした。
「うん。...うん。会議じゃない、けど今は入っちゃダメ...」
「そうなのか。ありがとう、教えてくれて」
これ以上聞いても情報は落ちそうにないため、もう一度視線を合わせて微笑んでから周りを見やる。壊れたように、はわわわなんて言っている彼女の他に、廊下で突っ立ったままの生徒が何人か見える。
「美颯。中で何やってるんだろー」
「なんだろうな。ひとまずここの生徒に聞くしかないだろ」
そう言ってドアから離れた瞬間───。
ドンっ!!
「きゃっ!」
「おわっ」
なにかがドアを叩くような重たい音がした。そして、ドアを叩いた気配は、すぐさまドアから離れていく。
「───中で喧嘩でもしてんのか?」
倒れた少女を助けつつ、眉を顰める。耳をすませば何度か殴るような音が聞こえる。悲鳴も罵声も聞こえない。
「止めるべき、でしょ。突入しよう美颯」
今にも颯が飛び出しそうだ。
紗代も不安げな顔をしている。Cクラスの生徒と思しき奴らの表情など言わずもがなだ。
あんまり他人の事情に口を突っ込みたくはないが、未知のままにするには物騒すぎる。幸い、絡まれても対抗できるだけの能力はあるため、今から中に突入しても問題はない。
念の為スマホの音声レコーダーをオンにしつつ、ドアに手をかける。
「やめて置いて方が、賢明だと思います」
ぽやっとした声が後ろからかけられた。振り返れば涼し気な色の髪をした少女が、じっと俺を見つめている。
「クラスのドアが締め切られ、中で危険なことが起こっている可能性が高い。なにか納得出来る理由を聞かせてくれるのか?」
ほかの生徒より理知的で、おっとりと頬に手を当てる彼女にその場の収拾を放置していいのかと問う。落ち着き具合から、俺たちが怪我をするために声をかけたのではないとわかった。今も尚俺の奥を見透かすように見つめるその目は、不気味な程に浅く見えてしまう。
「まずひとつに、龍園くんが邪魔だてした人をよく思いません。彼は非常に残忍な性格です。無理に関わるのは今後の学校生活を思うと良くないと思います。2つ目はクラス内での出来事だから、です。あまり表沙汰になることを私たちは望んでいません。最後に3つ目は時間です。先程と同じような展開であれば、もうすぐ終わりを迎えます」
つらつらと言葉を並べる彼女に、どう動くか迷っていると、ちょうど中の乱闘が終わったらしい。
鍵が開けられ、乱暴にドアが開かれる。
「Goddamn!」
出てきたのは身長190cmを超えるような黒人の大男。185cmで体もかなり鍛えている俺よりさらに一回り大きい。そんな大男が暴言を吐きながら教室を後にする。
「でっか...!」
「彼は山田アルベルトくんです。見たところ、今回も彼の勝利らしいですね」
どこか我関せずの発言に、遠くへ去る彼の背中を目で追う。衣服は乱れ、顔にも殴られたあとがあった。
あれだけの巨体に攻撃を通すには、中々スキルが必要になるはずだ。
開け放されたCクラスの奥を見やる。
「ぺっ。───くっ、ふふふ。ふはははははは!」
倒れた男は、笑っている。
「2回でこれか。あめえ。あめえ、あめえなあ、おい!」
ゆっくりと立ち上がり、ギロリとこちらを睨みつける。真っ黒な瞳と目が合う。冷たい炎が見えた。
「見せもんじゃねえ。ひより、生徒を中に入れ次第ドアを閉めろ」
そう吐き捨てて、教室の後ろへ。
「では、そういうことですので。Bクラスの皆さん。ごきげんよう」
とぼとぼと教室に流れるCクラスの生徒たちが全員入ったことを確認し、ひよりはドアを閉めた。
後に残ったのは、遠くの喧騒と困惑した雰囲気のみ。
「意味がわかんねー。なんだって2日目から喧嘩してんだよ」
「うん。まともに友達を作るのはしばらく無理そうかな」
2人の質問に、同感だと頷く。
「Aクラスが『真面目』だとしたら、Cクラスは『不良』かな」
「同じ学年でもこんなにクラス違うんだね」
「うちのクラスにまで喧嘩しかけて来ないといいけどなー」
結局、Cクラスとの交流はまた今度ということでその時間を終える。
龍園と言ったか。あのクラスで注意が必要なのはあの男かもしれない。
ドロドロと負の感情が蠢く中で、真っ黒な炎が燃えていた彼の瞳を思い出しつつ、俺はその場を後にした。
☆
休み時間にほかのクラスまで行って友達の輪を広げる、というのは別に俺たちだけがやってることでもない。Cクラスを除いた3クラスから、コミュニケーション能力の高い奴らが1年の廊下をひたすら泳いでいる。
そのうちの1人がBクラスに来たようで、一部の男子の中で話題になっていた。
授業が終わると同時に、Cクラスに行ってて見ることがなかった訪問客の話題が飛び交う。その内容は実に思春期の男子らしく、顔、そして胸がもっぱらの話題だ。
「櫛田桔梗?」
「ああ!美颯は見なかったのか。めっちゃ可愛い生徒が来たんだよ。ショートカットで胸もデカい───ああ。間違いなく学年トップレベルの可愛さだ...」
どこか夢うつつな生徒。弘と言ったか。話を聞くに教室を出る直前に呼び止められ、Bクラスの掛け橋の一員に任命されたらしい。
お触りもされたとかで、夢見心地だ。
「おいバッカヒロ!美颯に言ったら全部持ってかれんじゃねえかよ!」
「あ、やべ。...な、美颯。このクラスにだって可愛い子はわんさかいんだ。後生だよ。あの子は残してくれ...!!俺らの希望だ...!」
慌てたように数人の男子が弘を取り押さえる。なるほど。だいぶ骨抜きにされたらしい。あざとかったり、ぶりっ子だったりすると1歩間違えば男女構わず冷たい視線を浴びせられることとなるが、その櫛田とやらは相当やり手らしい。
女子は少し嫌な顔を弘達に向けど、櫛田とはしっかり友達判定を通したらしい。特に負の感情は見受けられなかった。
「Dクラスだっけ?その櫛田ちゃんって子」
颯も興味を持ったようで、弘たちに質問していた。そうなのか。なら丁度いい。
「ああそうだ。───まさかお前ら直々に行くんじゃねえだろうな!?さっきAクラス行ったとかでAの女子が結構押しかけて来てたんだからな!?」
学年でもトップレベルのコミュニケーション能力と見ていいだろう。その外見も含め、少しは関わりを持っておきたいところだ。
「こんちはー!」
「こんにちは!」
「こんにちはー」
さっきと同じメンツでDクラスに顔を出す。弘たちも着いてくるか少し議論していたが、結局諦めたらしい。
彼らは所謂オタクだ。コミュニケーションを不得手とする彼らには厳しい旅のはず。英断をしたと言っておこう。安心しろ。桔梗、なんて呼べるくらいにはなってやるからよ!
なんて優越感に浸りながらDクラスを見回す。ほぼ全員がこちらを注目しており、彼らの手元にはコスメ道具やゲームなどがゴロゴロと転がっていた。
これまたわかりやすくクラスの特徴が出ている。悪いが『不真面目』と勝手に呼称するとしようか。
「こんにちは。僕は平田洋介。よろしくね。君たちは?」
そしてクラスの前方で女子たちと会話していた優男が微笑みを浮かべながら近づいてくる。間違いなくこのクラスのリーダー的存在だろう。物腰1つとっても、社会人と言って過言ではないほどに完成されている。
およそその顔面と性格でクラスの女子の心を掴んだのだろう。だが残念だったな。俺がこのクラスに入ってすぐ、心配そうに平田を伺ってた彼女達の視線が俺に釘付けになったぞ!ああ快感。こりゃ気持ちいいや。
まあそんな意地汚いマウントは捨ておき。
「俺は紫田颯。3人ともBクラスの生徒だぜ」
「あたしは安藤紗代。Dクラスのみんなと友達になりたくて来たの」
「俺は伊王野美颯。よろしくな」
「うん。3人ともよろしくね。もちろん大歓迎だよ」
女子の小さな黄色い悲鳴を耳に、クラスを見やる。
おや。懐かしい顔が見えた。
「ふんふふんふふーん」
洒落た鼻歌をかなでながら、手鏡で眉毛を整える男。
高円寺六助。
相変わらずワイルドに金髪オールバックにした髪型は、そのキリッとしたビジュアルにマッチし、まだ鍛え続けているだろう体は俺と同じくらい豪快だ。
唯我独尊状態は彼の生まれながらのもので、それは何一つとして変わってはいない。この学校で俺のことを測れる定規というのは、今のところ彼だけだろう。過去の関わりという点を除いても、彼のステータスはずば抜けている。
「ふっふふふーんふっふーん」
面識があるどころか相当幼い頃からの馴染みではある。が、互いに相容れない価値観を持っていたり、あるいはわざわざ話しかけるような仲でもないために、高円寺は俺に目を向けず、俺もまた視線を通り過ぎさせる。
まあ、このクラスで煙たがられるようなのは一目瞭然なので、少しの呆れも感じてはいるが。
そんな彼の他には、さして興味を引く存在は居ない。
割と論理的な俺に対し、神がかった勘をもつ高円寺なら面白い生徒も見えているのかもしれないが、このクラスは他に比べて平均値が低いように感じる。
唯一目に映ったのは、窓際奥の2人。
方や自分の他に何もいないかのように本を読み続ける美少女。方や表情を胎内に忘れ去ったかのようなほうけた表情を浮かべるモブ男子。
おそらくどちらも運動はできるのだろう。姿勢、体格、首。見える要素は少ないが、間違いは無いはずだ。
しかし、それ以外に興味を引く点はない。ほかの生徒も同様だ。オタクの比率が高いようにも感じる。さっきから意気投合し始めた洋介と颯、そして俺たちに僻みの含まれた視線を向けている。
「なあ、美颯!」
「───うん?」
「洋介もサッカー部入るって!ミッドフィルダーだってさ」
「驚いたよ。美颯くんは全国大会で優秀選手に選ばれた、あの美颯くんなんだよね?」
「ああ。よろしくな、洋介。3年間サッカー楽しもうぜ」
「うん。君とサッカーするときを楽しみにしてる」
軽く握手を交わすと、平田の後ろからきゃあきゃあ聞こえる。うん。いい気分だ。
紗代の方はというと、話題の櫛田桔梗と話しているらしい。随分話が盛り上がっている。紗代はきゃぴきゃぴ系女子とは少し距離を置いているため、ああいった雰囲気の方が好きなのだろう。
もっぱらのところ、Dクラスのオタクたちは半分こっちを睨み、半分櫛田と紗代、その体に目が釘付けになっている。どちらもBBであるため、仕方ないことではある。
そして、噂通り櫛田は顔面偏差値が非常に高い。自分作りも完璧なようで、所作の一つ一つが可愛く感じるようになっている。
まあ、要するにあざといのだ。
話しかけに言ってもいいが、脈絡が足りない上に、彼らに後ろから刺されかねない。
ここは洋介たちとの会話を、ありがたく続けさせて頂こう。
「そういえば洋介。聞きたいことがいくつかあるんだが───」
「いいとも。何を聞きたいのかな?」
「このクラスも初日に10万ポイントを貰ったのか?」
さて、丁度いい相手がいたため、ここである程度情報収集をしておくか。帆波はそのうち先輩に聞きに行くと言っていたため、そちらの方が頼りになるだろうが、別の視線からも仕入れておいた方がいい。
「うん。みんな一律で10万ポイント貰っていたよ。Bクラスは違うのかい?」
「いいや、同じさ」
「あー。『Sシステム』だったっけ。太っ腹だよなー」
「うん。卒業するまで金銭感覚がまともでいられるか不安だよ」
「そうだろうな。毎月10万ポイント貰えるなんて考えれば考えるほど恐ろしい」
「え、そう?わたしはもっと欲しいくらいなんだけど」
3人の会話に、1人の女子が混ざってくる。平田のすぐ側、つまり彼女位置に座していた女子だ。見た目に違わずギャル調の話し方をする。
「彼女は軽井沢恵だよ。───まあ、軽井沢さんのいうこともわからなく無い、かな。服とか買っているとどうしても足りなくなるからね」
「そうそう。なんなら毎月20万でもいーじゃんって思わない?」
どうにも本気で考えているようだし、平田自身疑問に感じつつもそれ以上の考えには至っていないようだ。
「なにか担任の先生の言葉とかで気になることはなかったか?うちは『Sシステム』の説明とカツアゲみたいな禁止事項を伝えられたんだけど」
「うーん。特にはなかったよ。あ、でも無料コーナーは気になったかな。コンビニで見たんだけど、『1ヶ月3品まで』っていう注意付きで入口に置かれてたんだ」
「あー。それなら俺たちも見たよ。カラオケの帰りに自販機見たんだけどさ、ミネラルウォーターが無料だったんだ」
「相当手当がしっかりしてるんだな」
「うん。これだけ優遇されてると、なんだか悪いことが起きそうで少し怖いんだ」
「平田くんも伊王野くんもそんなこと気にしないでいーのに。どうせ貰えるんだったらありがたく使っちゃおうよ」
軽井沢の考え方も、時と場合によっては悪いことではない。チャンスを疑ってかかって逃すことになるのなら、傷を負う覚悟で手を伸ばすのも選択のうち。
しかし、それは余裕がないときの考え方だ。今はまだ考える余裕がある。こういう時こそ、しっかりと手順を踏んで疑問を解消すべきだ。
何も知らずに10万を消費すれば被害が出る可能性も高いし、様々に謎が転がっているのだ。それを解決しない限りには、どうしても先の落とし穴を気にしてしまう。
目の前に舗装された道がある。しかし、目の前が霧に包まれているためにその先も、別の道も見つけられない。そんな状態だ。
それに、今日だけでも多少ヒントは得た。帆波の情報で確実な真相に迫れるはず。
「ありがとうな。変な話に付き合わせちゃって」
「ううん。構わないとも。ただ、何か分かったら知らせてくれるかな?」
「ああ。そうしよう」
「ありがとう。そうして貰えるとすごく助かるよ」
イケメンがにこりと笑う。俺もひとまずの急務はこなしたことに笑みをこぼした。
「さて、もうすぐ時間だし、急いで連絡先交換しようぜ!」
「うん。賛成だよ」
「そうだな。───せっかくだし、後ろの君たちも交換しようぜ。名前は伊王野美颯。よろしくな」
ちゃっかり獲物を捕らえるのも、忘れない。