『今日はありがとう!!めっちゃ楽しかった!(スタンプ)』
「俺も楽しかったよ!また行こう。」
髪が含んだ水分を真っ白なタオルで吸い取りつつ、片手でスマホを操作する。チャットの相手は津辺仁美。早速誘いを受け、高校生活2日目ながらデートを敢行したのだ。
行先は『パレット』という名のカフェ。沢山のメニューと甘いスイーツが女子に人気のようで、放課後は多くの生徒が集まっていた。
中にはカップルもいたようで、王道のデートスポットであることは間違いないだろう。Aクラスの男女の姿も見えたし、驚いたことに高円寺六助も席に着いていた。早速上級生を誑かしたようだ。あくどいヤツめ。
さて、いきなりこんなデートをしてしまえば、その後の対応次第で俺のイメージが一瞬で定着してしまう。
ひとつが、仁美と付き合ったらしい、そんな噂が流れることだ。誰も彼もが遠慮をし、視線が厳しくなる。軽々しく他の子に手を出すことが困難になるのは確実だ。このまま何もしなければ確実にその路線だろう。仁美はなかなかに強引な性格をしていた。
ふたつ、色んな子に手を出す軽い男というレッテルだ。このレッテルを貼られてしまえば、一定数の女子に嫌われて距離を置かれてしまうだろう。大半の高校生は避けたいみちだ。
しかし、俺は後者を目指す。
一人の女の子に固執するなど柄じゃない。それに、これだけ豊作なのだ。収穫しないと損だというもの。ある程度手の早い男だと噂が広まれば、それ目当ての子も自ずと近づいて来るものだ。
そして、他の子に手を出すタイミングは、そこまで時間を開けなくていいだろう。
今回のデートは、仁美のスペック調査という点もあった。色々とする上で、刺激的な要素を見つけたかったからだ。デートというタイミングなら、いつもは控えている不躾な視線もある程度向けることができる。
「微妙だな」
そして、すぐ結論が出た。新しく女子を見繕うとしよう。
時刻は22時半。そろそろスマホの電源を切ろうかと考えていると、新たにチャットの通知が来た。
『ごめん、連絡が遅くなっちゃった!今から電話できるかな?』
うさぎが隙間からこちらを伺うようなスタンプとともに、一之瀬帆波から連絡が来た。早速昨日のことを先輩に聞いたらしい。本当にコミュ力が高い。
諾の旨を伝える。数秒のうちにコール音が鳴った。
『夜遅くにごめんねー。もしかして寝る前だったかな?』
「いいや、丁度ゲームをしてた。気にする事はないさ」
その後に二言三言言葉を交わし、すぐに本題へと移る。いつも23時には寝ているのと、女子を遅くまで起こしていてはならないという配慮だ。
『そうそう、昨日美颯くんが言ってたこと、3年生の先輩に確認してみたよ』
「仕事が早いな。相手は誰だったんだ?今日の部活動説明会の先輩か?」
『うん。あのあとちょっとだけ残って質問したんだ。橘先輩っていう可愛い先輩』
「ああ、司会進行の人か」
今日の昼休み、颯たち男子数人と食堂に行った際、全校生徒に向けたアナウンスがあった。内容は、放課後に部活動説明会があるというもの。
サッカー部に入ると決めていた俺は特に迷うことなく参加し、様々な部活の説明を聞いた。
それぞれの部活に色があり、どこも実績が高く聞いていて楽しかった。
その中でも異色を放ったのは、1番最後に紹介された『生徒会』。圧倒的な覇気を醸し出す生徒会長、堀北学という男の雰囲気に百数名の生徒全員が呑み込まれた。
なるほど、この学校では生徒会もトップレベルだというわけだ。兼部が認められないとの説明に肩を落としながらも、多少の興味をもって彼の話に耳を傾けていた。
その後に、帆波は質問しに行ったらしい。
その内容と、応えを伺う。
『うーん。結論から言うとね、詳しいことは話して貰えなかったんだ』
「───何一つ教えて貰えなかったのか?」
『うん。ただ、『詳しいことは話せないけど、その疑問は正しいよ』───そんなアドバイスも貰ったよ』
「話すことに制限がかかってるのか。ペナルティがある可能性も高いな。ともあれこのまま調査継続するので良さそうだ。助かったよ帆波。ありがとう」
『うん。それと、もうひとつ気になることも教えて貰ったから、明日のお昼一緒にすることってできるかな』
「今言うのじゃダメなのか?」
『うーん。...多分見た方が早いかなって思う。それと、美颯くんだいぶ眠そうな声してるし』
おや、見抜かれてしまった。そんなにはっきりわかるのか。
しかし、月10万支給はありえない───そう言質を貰ったも同然だ。もうひとつの情報もある程度重要な内容らしいし、今日だけで沢山の情報を得ることができた。
が、頭を回すには少々眠すぎる。おやすみと挨拶を交わして、スマホの電源を落とした。
翌日。一之瀬帆波、そして俺が声をかけた神崎隆二と共に、食堂へと向かう。3日目に今日は授業が本格的に始まり、勉強に自信の無い生徒たちが数人教室に残って互いに教えあっていた。和やかな雰囲気を尻目に、3人で大きな食堂へと入る。
昨日洋介が話していた『山菜定食』を確認しつつ、400ポイントの醤油ラーメンを頼む。2人もそれぞれ料理を頼み───。
「美颯くん、神崎くん。山菜定食を頼む人の数、彼らの様子。少し観察しようよ」
と、帆波が不思議な提案をしてくる。
確かに、山菜定食を頼む人は少なくない。5人に1人は頼んでいる。そのほぼ全員が2、3年生の風貌をしており、同時に財布の中身が非常に寂しいのだとわかる。彼らの見た目から、軽井沢のようにオシャレに振りすぎてるせいでお金がなくなってるわけでは無いことも知れた。髪型も、身につけている品々も、他の定食を食べている先輩たちに比べても見劣るものばかりだ。
つまり、彼らは根本的にお金が無い。月の支給が変わることを明確に確認できる。
だが、このためだけに時間を使うことは無いはずだ。帆波には、別に伝えたいメッセージがあると踏んだ。
「山菜定食を買う人物は、総じて身なりがみすぼらしい。彼らの支給が明らかに少ない。だから俺たち1年の支給額も変わりうる、そこまでは理解した。だが一之瀬。ここまではある程度予想がついていた事だぞ」
「うん。神崎くんの言う通りだよ。───ちょっと、気になることを確かめたいんだ」
そう言うやいなや、帆波は何人かの2、3年生にある質問をしていく。
「すみません。クラスを教えて貰ってもいいですか?」
そうか。
その瞬間俺の中であらゆるピースが繋がった。
そして、彼らが鼻の下を伸ばしつつ答えるのを聞いて、確信を得た。隆二も気づいたようで、何か考えるように顎に手をやる。
「うん。予想は当たったみたい」
結局十数人質問をし、そのうちの何人かと連絡を交換した帆波が戻ってくる。待っている間に俺と隆二で受け取っておいた料理を持ち、空いてる席へと移動した。
「昨日、橘先輩が気になることを言ってたの。コンビニによった時に、一緒に無料コーナーを確認したんだけど。その時に『あたしたちはあまり使わないんだけど』って言ってたんだよ」
「『あたしたち』、から『クラスごとに支給される額が変わる』可能性に目をつけたんだな」
「その通り!そして結果は今起きた通りだね」
帆波は満足したように。隆二は納得したように表情を変える。
「すなわち、山菜定食を買うような貧しい生徒はC、Dクラス。お金に余裕のある生徒はA、Bクラス。明らかにクラスで違いがあるな」
「そう。その通りだよ美颯くん。クラスごとに金額が変わる上に───」
「おそらくAクラスが最も多く、Dクラスが最も少なくなっているはずだ」
A、B間、C、D間でも明確な差があったしな。そう隆二は続けた。
昨日集めた情報から、最初は支給される金額に差がないことが分かる。そしてなんらかの要因があって、彼らには差ができた。
そう、謎はまだ残っている。
「けど、何が基準になって金額が変わるのかな」
「それこそ定期テストの点数、日頃の態度とかじゃないのか?俺の勝手な憶測ではあるが。美颯はどう思う」
「おそらく隆二の憶測は正しいだろう。俺も昨日少し調査した。そこからある程度導き出せる」
そこで、ひとつ情報を提示した。
1年生のA、C、Dクラスのそれぞれの特徴。そして優秀な生徒の割合。
帆波もそれを裏付けるかのように、友達から聞いた噂を口にする。今日の午前の授業から、Dクラスは3分の1が授業中に良くない態度を取っている、そんな話だ。
「なるほど。確かにAクラスとDクラスでは授業態度でも大きな差があるようだ」
「ああ。金額が変わる要素のひとつが日頃の生活態度。信頼度は劣るが定期テスト、授業中の小テストなども関わってくるだろうな」
そしてプライベートポイントの支給される金額は、クラスごとに違うということ。
3人全員が同じ結論を共有する。
「すると、早いうちにクラス内で注意喚起をする方がいいな」
「うん。今日の終学活が終わってすぐはどうかな」
「ああ。それがいい。だが、説明はどうする。一之瀬か美颯が説明した方がクラスメイトの納得は得やすいだろう」
1時間の昼休みを、3人で会議で消費する。結局いい具合にまとまって、その後他愛ない会話をしつつ教室へと帰還した。
「みんな、この後五分ほど時間を貰ってもいいかな」
終学活が終わり、星之宮先生が教室を後にしてすぐ。
帆波が立ち上がり、生徒全員に呼びかけた。
「私と美颯くんで少し説明したいことがあるの」
「ああ。『俺らが毎月もらう金額が減る可能性がある』。これが主な題材だ」
単刀直入に述べる。俺の追加の説明を聞き逃すことはできないようで、全員が席へと着いた。いつもならまっさきに寮へと帰る姫野たち一匹狼も、こればかりは無視できないようだった。
「お小遣いが減るの?それマジ?」
「美颯と帆波ちゃんが言うんなら間違いないでしょ。それにこれからその説明すんだろー?」
「うん。そのつもりだよ」
信じられないといったように仁美たちが声をあげる。少しだけざわついたクラスメイトたちに、落ち着くよう颯が声をかけた。頼もしい限りだ。
「ああ。だが今の段階では迂闊に他クラスには伝えない方がいい。矢吹と時任、ドアを閉めてもらっていいか?」
念の為鍵まで閉めてもらって、話を始める準備を整える。
こうまでする理由がいまいち分からない様子の生徒たち。そして理解したが若干納得の言ってない様子の帆波には悪いが、これはクラス間交渉の手札にさせて貰おう。
Aクラスは高い可能性で気づくだろうが、いつ発表されるか分からないプライベートポイントの真相を知れるのは、かなり嬉しいことだ。来月のお小遣いの減少は、すなわちクラス内での資産の減少。他クラスに比べて不利に陥る。
しかし、なぜほかのクラスと比較するのか。
それは、クラスごとにお小遣いの金額が変わる制度と、上級生の格差を見ればわかる。
初期の10万円。2、3年のC、Dクラスはここからゼロ近くまで減っているのだ。
さすがにシステムを真に知れば授業態度は改善し、お金欲しさにテストも頑張るだろう。
そう考えると、ここまで上と下で差ができるのはおかしい。さすがに金額が上がる制度はあるはず。そう考えると、自クラスの金額を上げ、代わりに他クラスの金額を落とす。そんなイベントがあったとしても不思議ではない。
まあ、憶測に過ぎない話である。
しかし、可能性がある以上、先に手を打っておくのは勝負の基本。
この学校のルール上、交渉の末のプライベートポイントの譲渡は可能だ。おそらく何も知らなければ甚大な被害を被るであろうDクラスなんかに話をフッかければ、少なくないプライベートポイントを手にできるはずだ。長期的な契約というのも手のひとつ。
だから、この情報はできるだけ手元で抑える。クラスメイトに出す情報も、最低限だ。
「単刀直入に言おう。プライベートポイントの毎月の支給金額はクラスごとに設定され、それは日々の授業態度、定期テストの結果などで上下する可能性が高い」
時間を開ける。飲み込むまでの一瞬だ。
「つまり、授業中の私語、居眠り、遅刻。そういった行動が来月のお小遣いを減らす。───これをしっかり理解して欲しい」
「それ、マジかよ...」
「どのくらい減るのかはわかるの?」
「そこまでは掴めない。どうやら学校側が緘口令を敷いているらしい。何人かの先輩に確認をとってみたが、彼らはプライベートポイントの仕組みについて話そうとはしなかった」
「わたしが聞いたのは、生徒会書記の橘さん。昨日の説明会の司会進行の人って言ったらわかるかな?橘さんははっきり『詳しくは話せない』って言ってたの。つまり、プライベートポイントに何か隠された仕組みがあるっていうのは明らかなの」
「それが、クラスごとに毎月のポイントが決まってて、授業態度で減るってやつか...」
「けどさ、なんでそれがわかったんだ?クラスごとっていうのはどっから来たんだ?」
概要を理解したようで、浜口哲也が疑問を投げかける。
「ああ。その疑問は当然だな。今からその説明をしよう。みんなは食堂の『山菜定食』は知ってるか?」
「あ、あのまずそーなやつでしょ?あれがどうしたの?」
「気づいてる人もいるかもしれないが、2、3年生の何割かがあれを注文している。そして、彼らに尋ねてみたところ、彼らのほぼ全てがC、Dクラスの生徒で、ポイントを払って飯を食ってる生徒はA、Bクラスの生徒だけだった」
ここまで言って、もう一度休息をとる。浜口哲也のような頭の回転が早い生徒はすぐに理解出来ただろうが、そうでない人にとっては今の話は難解すぎる。
実際、俺は浜口のような頭のキレる生徒に向けて話していた。彼らが納得してから、他の生徒だ。
様子を見る限り、賢そうな浜口、紗代あたりはしっかり理解しているようだ。他の生徒にまで理解させる必要はない。理解させれば、情報が漏れる。
そこで、それまで座っていた隆二が挙手しながら言葉を放つ。
「つまりだ。俺たちが考えるのは、『生活態度を見直し改善すること』そして『定期テストに向けて日々の努力を怠らないこと』。このふたつでいい。そういうことだよな?」
「その通りだね。みんなで頑張れば来月も変わらず10万ポイントが貰えるし、いつか増えるかもしれない。だから、一緒に学校生活を頑張ろう、ってことだよ!」
隆二のわかりやすい質問、そして帆波の噛み砕いたまとめに、ようやくクラスメイト全員が理解した顔をする。
「そっか...。うん。全然注意されないから、俺たち授業中スマホいじって真面目に受けてなかったもんな...」
「俺たちっていうか、主に君たちのせいだと思うんだけどー」
「わ、悪かったな!」
「でもさ、まだ3日目だぜ。これから頑張れば減らずに済むんじゃないの?」
「うん。颯くんの言う通りだと思う。とりあえず授業中の態度から直していこうよ」
弘に突っかかる仁美に、颯と紗代が優しくまとめる。やはり2人の存在はムードメーカーとしてよく働いている。ありがたい。
「そういうことだ。ただ、先輩方の様子を見るに、あまり話しまわるとペナルティを食らうかもしれない。ほかのクラスには俺たちが伝えておくから、今の話はここで留めておいてくれないか?」
締めの言葉に、颯たちはまかせろ、と声をあげる。質問はないようだ。生徒を解放し、俺たちも席に戻る。
「すごいよ、美颯くん。それに帆波ちゃんも!2日目でプライベートポイントの謎を解き明かすなんて」
着くなり紗代が手放しに褒め称える。颯も同じようで、背中を叩きながらお礼を言ってきた。
「だが、正解がわかるのは次のプライベートポイント支給日───あと1ヶ月後だろう。そこで違ったら、俺は相当恥ずかしい思いをするだろうな」
「大丈夫だろー?成績も良くなるし、テストの点も上がるって、いい事づくめじゃんか」
「うんうん!ていうか帆波ちゃんもだけど、美颯くんめっちゃ頭いいよね。普通こんなこと思いつかないよ」
ふふ...。もっと褒めてくれ褒めてくれ。ドーパミンドッパドッパだ。
そして、2人に挟まれて窮屈そうなもう1人の功労者も見る。巻き込んでやろう。
「はは、ありがとう。だけど俺と帆波だけじゃないさ。隆二が最初に聞いてきたからな。そのあとの会議も隆二ありきだ」
「おい。それは少し話が───」
「やっぱり!?隆二くん絶対賢いて思ってたんだよ。見た時にかしこセンサーがびびびって」
「あははなんだそれ!でもすごいな隆二も。Bクラスの影の功労者。いや、大参謀ってやつだ!」
お、隆二が面白い顔をしている。方向性は違うが眼福と言ったところだな。
その後帆波も混ざって、さらにクラスメイトが入って、みんなで楽しく盛り上がった。
☆
「やっべー。完全に忘れてた」
隣で颯が嘆く。
春先の太陽は真っ赤に燃え、おそらく1時間もすれば地平線に沈むだろう。そんな時間に、俺は颯と校舎近くのグラウンドへと急いでいた。
「ああ。おそらくウォーミングアップが終わったらすぐに練習試合だろうな」
あれからひとしきり騒ぎあったあと。完全に部活を忘れていたことを、ギリギリになって思い出した。
別の日でもサッカー部は逃げないのだが、何しろ颯は坂東先輩に行く旨を伝えていて、洋介にも一緒に行こうと約束していた。
いきなり約束をすっぽかすのは、俺も颯もプライドが許さない。
「あ、もう始まってるー!」
新入部員も交えた練習試合が始まっている。滑り込みセーフだった。
「すみません。遅れましたー!」
「すみません。遅れました」
ベンチには、おそらくキャプテンかコーチだろうか。背の高いイケメンが試合を観察していた。
まあ俺の方が背高いしイケメンだけどな!なんて自信過剰はさておいて。
その後ろで水筒を用意するマネージャーたちと、その候補生たちを目に入れた。
仁美たちキャピキャピ系女子も揃ってるようで、小さく手を振られた。
しかし、今は相手にする時間はない。目の前の男性に謝罪を認められ、久しぶりのサッカーに勤しみたいのだ。
男が口を開く。
「今は仮入部期間。それに俺は部員でもない。俺からは何も言わないさ」
そして、不敵な笑みを浮かべて振り向いた。その目は、確実に俺を捉えている。
「いいタイミングだ。後半から代われ。───それに、一つ年下の“優秀選手”もいると聞いたよ」
ということは2年生だろうか。部員ではないということは、名誉キャプテンみたいな括りなのか───。
「俺が相手をしようか。後半はどっちが点を取れるか、勝負だな。伊王野美颯」
愉悦多分に含まれた視線を俺に固定したまま、その男は宣戦布告をしたのだった。
「同じチームだね。嬉しいよ。...早速南雲先輩に目をつけられたんだってね」
ハーフタイム。Bチームでミッドフィールダーを務めていた洋介が声をかけてくる。どうやらDクラスからきたマネ候補もいるようで、背後から強い視線を感じる。
「ああ。どっちが点取れるか勝負だってよ」
南雲先輩というのは、先程宣戦布告をしてきた、あのイケメンだ。さらさらの金髪に、細身ながら鍛えられた体。身長は俺に及ばないながらも、そのスペックには目を見張るものがあるらしい。
他の先輩によれば、2年生を完全に掌握しているという。生徒会の副会長で、現会長にも匹敵する実力者らしい。実に興味深い。
そして、生徒会ゆえにサッカー部は引退していながらも、ときどき来ては色々とアドバイスをしているらしい。サッカーの実力も全国レベルで、部員とは隔絶した差があるという。
「南雲先輩がどれだけ強いのかは分からないけど、頑張って。全力でカバーするよ。」
「ああ、ありがとな」
ハーフタイムは終了時間を迎えた。
ベンチから黄色い悲鳴をいくつも聞きながら、グラウンドへと歩き出した。
流石、と言ったところか。
向こうのチームにも1年生がいながら、南雲先輩は彼らを非常に上手く使う。彼らがボールを持っているうちに受け取りやすい位置に移動し、機を見てドリブルで切り込んでいく。
後半に入ってから既に0対1と相手にリードされており、その得点も彼のものだ。
「こんなもんじゃないんだろ?」
すれ違いざまに南雲先輩が声をかける。
得点を取られたために仕切り直しだ。
幸い中盤もディフェンスも両チーム同じくらいの実力だ。
あとは南雲先輩と俺の差で決まる。
ペナルティエリアの少し手前で洋介にパスを要求する。上手い具合に足元に送られ、トラップしたまま自身の前方に置く。
そのまま、勢いよく蹴りこんだ。
シュートコースにディフェンダーはいない。ゴールの端に向け、右回転が強くかかったシュートを打ち出す。キーパーの反応も良かった。見事に対応し、片手を伸ばす。
「っ!!」
スパッ!!
心地いい音が鳴る。ボールはキーパーの腕を弾き、そのままネットに突き刺さった。
「「「おおおおお!!!」」」
「「「きゃああああああ!!」」」
歓声が響き渡る。相手キーパーが悔しそうにボールを投げ、味方チームが拍手しながら寄ってくる。
「すごいよ!とんでもない威力のシュートだったね」
「やべえやつ入ってきたなあ。南雲以上のシュート力だぞ。高校級どころか超高校級じゃねえか」
洋介、それに先輩たちも手放しで喜ぶ。
「ああ。やるじゃないか」
そんな中、南雲先輩が近づいてくる。息一つ切らしてない彼は、面白そうに笑っている。
「この体のおかげですよ。シュートのパワーと正確さには自信があるんで」
「そのようだ。───はは。今年のBクラスはどこよりも早く気づいたと聞くよ。随分と期待させてくれるじゃねえか」
嬉しそうに南雲先輩は笑う。そうして、勝負へと戻って行った。
結局、勝負は4-3と辛勝し、俺は観客の熱烈な褒め言葉の弾幕を受け取るのだった。