ようこそ超人が支配する教室へ   作:口の端にほっぺが!

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ささくれ

4月も初週を過ぎれば、もっぱら友達作りばかりではなくなる。

 

桜も散り、徐々に気温が上がっていく。女の子の水着を見れる期間も近づいてくるわけだ。

 

その手の男子にはひどく賛成されるであろうが、俺は裸体より水着や制服姿が好きだ。

 

見えそうで見えないという、そこはかとなさ、焦れったさ。そこにエロスの無限を感じるのだ。

 

裸体の絵画に反応を示さず、スク水に反応してしまうのは、そういった要素が多分に含まれているはずだ。

 

これも、和製エロのひとつなのだろう。

 

「俺は一之瀬ちゃんだ。間違いねえ。Gはあるぞ、Gは」

 

「は?安藤に決まってんだろ。あれはやべえ。───おい、啓介はどうだ?決まったか?」

 

「俺は───」

 

そして、精神的に幼い男子は、三大欲求の一つである、エロの探求を止めることはできない。本能なのだ。

 

教室の後方でコソコソと話し合う一部の変態達の声を聴きながら、心の中でため息をついた。

 

ついさっき、Dクラスの男子たちがオッズ表を作っていることを耳にしたばかりだ。そして、それを聞いた女子の反応も見るべくもない。ため息も吐きたくなる。

 

「...どうかしたの?美颯くん」

 

「ううん。なんでもないさ。どうだい?その問題。解けそう?」

 

そんな俺は、彼らと全くおなじ動機で南方こずえと話している。少し前に勉強を教えて欲しいと頼まれ、休み時間や放課後に付き合っているわけだ。

 

無論仁美やほかの一度デートした相手からこずえへと向けられる視線に少し険はあるが、彼女の場合割と正当性があった。

 

こずえは、かなり学力が低い。

 

バスケ部に所属する彼女は運動が大好き、といったようで、暇さえあれば体を鍛え、ひたすらにシュートを決めている。背はそこまで高くないが、運動神経は抜群だ。

 

代わりに、彼女は勉強が苦手、いや嫌いである。

 

もともと、どうして?が先行してしまう性質のようで、どうしても学習に時間がかかってしまう。時間がかかれば嫌になり、嫌になれば費やす時間が減る。そうして徐々に徐々に学力が落ちてきたらしい。

 

授業中もさっぱり、といった様子で教師からの質問に答えられないことも多々ある。

 

そんな中、テストの結果次第で来月の小遣いが決まることを知らされ、彼女は相当焦った。仲間を大事にするこずえはどうにかして自分の学力を改善しようと目論んだ。

 

そして、俺に目をつけたというのが経緯だ。

 

先日の話し合いから頭がいいと感じたこと、そして休み時間も割と忙しそうな帆波と違って、隙あらば女子と喋ってる俺の方が暇に見えたらしい。嬉しいやらなんやらの気持ちはあるが、この子は俺がどんな思いをもって女子に話しかけてるかを分からないのだろうか。まあ、ちゃんと隠してはいるのだが。

 

ともあれ、小顔で少しだけぷっくりしている彼女の顔は実に好みだ。ややアヒル口なのもポイントが高いし、パッチリした目元もイイ。───何より、運動する女の子というのは抱き心地が全く違うのだ。華奢な美女ほどもったいない存在はいない。

 

以上のことから、俺は快く彼女の依頼を引き受けている。あわよくば、彼女の貫通も引き受けよう。

 

下ネタはさておき。

 

「そういえば、今日の体育はプールだったか...」

 

「そうだったね。美颯くんは泳ぐの好き?」

 

ああそう、彼女の声も好きだ。落ち着いたトーンが跳ね上がる瞬間こそ───失礼。

 

「例に漏れず、って感じだな。親父の社員旅行で海に行くことが結構あったんだ。俺もよくついて行って素潜りしてた。水の中にいると地上よりも自由な感じがするな」

 

「わかるかも。動くのは難しくなるはずなのに、なんだか体が開放されたような気になるよね」

 

「ああ。ただスキューバダイビングまで行くと好みじゃないかな。浜辺でキャッキャするのが一番だ」

 

「ビーチバレーとかだね。バレーボールってどのポジションが好き?私は絶対にスパイカー」

 

「ああ、俺は───」

 

スポーツ好きのこずえは、どんな話をしていようと必ずスポーツの話題に着地させる。ある意味才能だ。が、短い休み時間を無駄にする訳にはいかない。

 

涙を呑んで手元の教科書を示した。

 

 

 

「マジですごいや...。美颯を見てると肉体美っていう言葉の意味がはっきりわかるなー」

 

颯の感嘆に頷きをひとつ。ストレッチを続行する。

 

「颯も良い鍛え方してるじゃんか。無駄のない筋肉って言うんじゃないか?」

 

「美颯の前じゃ見劣りするだろー?」

 

待ちに待った水泳の時間。実際は女子が視線に対してさらに敏感になる時間でもあるので、迂闊に見ることはできない。

 

だが、生まれてこの方様々なスキルを身につけた俺だ。現れた女子を視界の隅に捕らえしだい、脳内カメラが激写するぜ。

 

そんな煩悩を片手に、男子と会話を続ける。かなり早く着替えたために女子はまだ来ていない。数人体育着姿の女子が端っこに座っていたが、背後の弱腰男子たちの話を聞けば、魅力値の高い女子は参加のようだ。

 

しばらくすれば女子も着替え終えたようで合流し、少しのウォーミングアップの時間をとって先生に集合をかけられた。

 

どうやらこれから男女に別れて競争を行うらしい。一等には5000ポイントが与えられるとか。

 

嫌がる生徒もいたが、どうも『後で絶対に役に立つ』ようで、先生から無理やり参加させられていた。確かに泳げることはいくつかの危機的状況においては必須スキルとなるが、どうも言い方が引っかかる。

 

まあ、頭の片隅に入れておくだけでいいだろう。

 

「美颯くん、頑張って~!」

 

「美颯くんかっこいいー!」

 

「頑張れ~!」

 

1レース目。既に組み合わせは決められているようで、俺は初っ端からスタート位置につくことになった。実力のある生徒が決勝レースにたどり着けるよう、颯や隆二といったスポーツマンは分けられている。

 

「けーっ!おい、美颯!中学水泳部の誇りだ。ぜってえ負けねえからな!」

 

「おう、妨害だ妨害!」

 

「頭が回るからって、運動ができるとは限らねーしよー!」

 

「お前ら!正々堂々だからな!」

 

僻みの籠った恨み節───もちろん彼らも本気ではないが、その数々に先生は注意する。

 

時間がきたようで、合図がとられる。一斉に飛び込んだ。

 

長さ50m。決勝レースも控えているために、普通なら体力を温存するところではあるが、無尽蔵に体力をもつ俺にとってみれば、手を抜く必要すら感じない。

 

去年の夏ぶりの感覚を思い出しながら、気持ちゆっくりと泳いだ。

 

50mとは短いもので、すぐにゴールする。

 

「記録は───23秒42!?」

 

「すげえ!めっちゃはええじゃんか!」

 

「美颯くんすごい!」

 

クラス中の生徒から歓声が届く。水の中よりもこの状況がいちばん気持ちいい。軽く頭を振ってからサイドに上がった。

 

「しかし素晴らしいな、今年の1年は。23秒台が2人もか───」

 

おや、俺の他に23秒台がいるようだ。間違いなく高円寺だろう。あいつは水泳が、というか水着姿が好きだった。自分の水着姿が。多少興奮したのだろう。

 

そうすると、ちょっとだけ競争心が湧くな。

 

「お前やべーって!こんな記録見たことないよ!」

 

「その通りだな、伊王野美颯。どうだ、水泳部に入らないか?」

 

先生の熱烈な勧誘を聞き流しつつ、他のレースを見やる。

 

第2レースは予想通り神崎隆二が登ってきた。あいつも体を鍛えているのか、しっかりシックスパックで胸筋もくっきりしていた。記録は27秒。さすがと言ったところだ。

 

他には順当に颯が上がる。26秒65。部活を通してよく知ることになったが、足がかなり速い。瞬発力はピカイチだろう。

 

女子は紗代、そしてこずえたちが上がってきていた。帆波は惜しくも敗れたらしい。負けた理由は、後ろの男子たちが卑猥なことを話しているためそっちを聞けばわかるだろう。

 

どちらも28秒と、男子のトップ層とも遜色ないほどに早かった。

 

そして、決勝レース。

 

これに勝てば5000ポイント。あればマシという程度のはしたポイントだが、俺はそれよりも記録の方を気にしている。

 

「美颯。負けないからな!俺も23秒出してやるぜ!」

 

「一気に3秒も縮めるのは困難だろう」

 

「現実的なツッコミやめて隆二!!」

 

やはり競争というのは心が踊る。正直言えば記録との勝負ではあるが、彼らとの青春の1ページ。乗ってやろうじゃないか。

 

「2人とも頑張りたまへ。───俺はさらに先へゆく」

 

「言ったなー!」

 

「美颯くん、頑張ってー!」

 

「颯くんも神崎くんもがんばれー!」

 

黄色く染った応援を背中に、かくしてレースは始まった。

 

水泳は、フォームを完成させ、余計な力を抜くだけでスピードは上がる。

 

しかし、俺が幼い頃からやってきたのは、さらに上のステップ。

 

隣で高円寺が泳いでいたのを幻視しながら、無心に泳いだ。

 

この瞬間が、いちばん気持ちいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あった。22.65だ。日本の高校生記録まであと0.3秒だったね。めちゃくちゃすごいじゃん!」

 

放課後。久々に集中したせいで、若干瞼が下がる夕方。水泳の結果に興奮したこずえに連れられ、カフェにやってきた。

 

外側のテラスから海が見える隠れスポット。そこで興奮したようにこずえはスマホを俺に見せながら、楽しそうに笑みを浮かべていた。

 

ちなみに俺の結果は22秒92。ギリギリ22秒台に乗ったらしい。これ以上の結果は、数ヶ月の特訓を必要とするだろう。久しぶりに本気を出してみた訳だが、やはり日本記録の壁は厚い。

 

こずえも紗代との一騎打ちを制し、見事5000ポイントを受け取っていた。背後の男子いわくFとEの抵抗の差だとか。

 

「ていうか、プールから上がった美颯くんにみんな見とれてたよ。水も滴るいい男って言ってた。私もそう思うよ」

 

手元にはカフェラテ。まだなれないもので、少し仰々しい名前のカフェラテ亜種には手を出せそうにない。まだ心の準備のフェーズだ。

 

「ふふ。長い髪って言うのはこういう時に活きてくるもんだな」

 

「うん。髪サラサラでいいよね。女の子みたい」

 

正直、眠過ぎてこずえの言葉が頭に入ってこない。久しぶりに本気で集中したのだ。どうも軽く頭の奥が痺れるような感覚が心地いい。

 

 

 

俺の才能は、無数に存在する。

 

おそらくできないことはないだろう。

 

考えられる最適の進学を果たした父は、アメリカの大学で母と出会った。一目惚れだったという。

 

ドイツ出身の母は100人いれば動画で拡散されて100万人がいいねするような美女だ。当然頭もよく、誰よりもその魅力を利用していた。大学時代は多くの男を虜にし、沢山あくどいこともしていたらしい。

 

しかし、大学を卒業した母は唐突に生き方を変えた。

 

大して顔の良くない父に向き合い、そのまま2年の交際を経て結婚したのだ。

 

日本へと帰り、祖父から受け継いだ会社を抜本的に改革した父はあっという間に業界のトップに躍り出た。

 

そんな両親の話を、俺はあこがれ半分、不思議な気持ち半分で何度も聞いた。

 

彼らの話は大好きだ。いつだって能力のある両親が成功する。

 

だから、俺も力を欲した。

 

幸い、アスリートである母方の祖父の遺伝か、体格に恵まれた。母の美貌も受け継いだ。英才教育と父の才能は俺を天才たらしめた。

 

何も不足することなどなかった。

 

好敵手にも恵まれ、愛情を持って育てられたことで、他人の感情の機微も手に取るようにわかるだろう。

 

小学校の頃には学校どころか地域の中学生を含めても、並ぶもののいない王となっていたのだ。

 

それを、つまらないと感じてしまった。

 

いつだろうか。当時告白された時、『なんでも出来るから好き』というセリフを聞いたことは強く頭に残っている。

 

俺1人で勝つことが、ひどくどうでも良くなったのだ。

 

そこから俺は、勝負への楽しさを追求した。

 

残虐な勝ち方も探したし、自分を犠牲にする勝ち方も見つけた。小さな一手で効率よく勝つ方法も模索したし、相手が深く傷つくようなやり方も手に入れた。

 

その中で俺が気に入ったのは、他人を使う勝ち方だ。

 

自分の手の上で人がコロコロ転がっているのは、何よりも気持ちいい。

 

当時少しやってみたポ〇モンのように、愛情を込めて育てた駒が、自分の想像を超えて動くのが面白いのだ。

 

それを見つけてからは、勝負事に対する興味が戻ってきた。

 

中学三年間を通して人を操り、そのスキルの向上に務めた。

 

恋愛という感情も正しく知ることとなり、それを利用する手も考えた。

 

とても楽しかった。

 

思えば、自分で本気を出したことなど、小学生が最後だったかもしれない。

 

今日もう一度本気を出せたことは、高円寺に感謝もするし、しばらくは快感が頭に残ると思う。

 

だが、俺の真価は人を操るところにある。己の手札を増やし、様々な勝ち方で勝負を楽しむ。

 

俺は、満たされているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

頭の上に熱を感じる。

 

押し付けるような少しの窮屈さを頬に感じて、急速に意識が覚醒した。

 

頭を規則的に撫でられている。あまりされたことの無い行為だ。故に気持ちよく感じる。

 

「あ、起きた。おはよう」

 

体を起こす。

 

いつの間にか眠ってしまったらしい。吹き付ける風は冷たくなり、太陽は既に沈んでいる。月明かりが海面に反射していた。

 

正面にはこずえが変わらず座っている。頭を撫でていたようで、彼女の手が戻って行った。

 

「───ごめんな。随分寝てしまった」

 

「いいの、いいの。今日は疲れたでしょ?あれだけ頑張ったもの。おつかれさま」

 

そう言ってこずえは無邪気に微笑む。机の上を見れば、顔に跡がつかないようにハンカチを引いてくれていたらしい。気が利くというか、なんとも温かい気持ちになった。

 

「店、しまっちゃってるな」

 

「大丈夫。私払っておいたから。気にしないでいいよ。今日の5000ポイントだし、実質タダだから」

 

「そうか...。ありがとな」

 

「いいの。私もいいもの見れたから」

 

また、楽しそうに笑った。

 

昼間不躾にEとか言っていた俺が少しだけ恥ずかしくなる。後で教室後ろの男子たちを殴っておこう。

 

パサパサした口を残りのカフェラテで潤して、ようやくテラスを後にする。

 

時刻は20時前。4時間近く眠ってしまったようだ。道にも人影はほとんどない。

 

「そういえば、明日の午後は暇か?」

 

「土曜日でしょ?午前部活だから、その後なら全然空いてるよ」

 

「それなら、俺の部屋に来なよ。授業の予習がてら少し話そうぜ」

 

「うん!楽しみにしてる」

 

今日は、いつもとは違った日になった。

 

勘はそれほど強くないが、いずれ今日という日を強く思い出す。そんな確信が心に浮かんだ。

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