ようこそ超人が支配する教室へ   作:口の端にほっぺが!

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中盤に示唆するような箇所があります。そういった内容が好きじゃない方はご注意ください。


前触れ

4月も終盤。この時期になると既にクラスの大まかなグループは決まっており、それぞれのクラスでの発言力も定まっている。

 

津辺仁美や小林芽衣率いるギャル系女子軍団。いつだって声の大きい彼女たちは常に我をとおそうとするため、その発言の圧力は強い。毎度彼女らの声が聞こえる度に震えてしまうようなか弱い生徒もいるくらいだ。

 

ちなみに、仁美とはその後も何度かデートをしているが、向こうも俺が興味を持っていないことに気づいたようで、最近はもっぱらAクラスの里中に夢中だ。

 

2つ目は、一之瀬帆波、安藤紗代率いる元気印女子チーム。男女分け隔てなく仲良く話す彼女たちはまさにこのクラスの象徴といった感じで、帆波と紗代がいることからクラスでの発言力も強い。まあ、彼女らはいつだって協調を一に考えた提案しかしないため、誰も反対する人など出ようが無いのだが。

 

3つ目は、俺や隆二、颯と愉快な仲間たちのグループだ。男子の中では発言力が最も高く、クラスの中でも強い力を持っている。それに帆波のグループともよく絡むため、俺が発言した時なんかはクラスの実力者5名が味方につくわけだ。これは心強い。

 

そして、男子オタクグループと、数名の一匹狼。彼らはそこまで語る必要は無い。コミュニケーション能力が不足している生徒が多いため、専門的な分野でしか光らないという扱いにくい駒だ。しかし、その専門分野において右に出るものはなかなかいないという曲者っぷりは重宝できるところではあるが。

 

今日も今日とて決まった相手とくだらない話をして過ごす。穏やかな日常というのは総じてつまらないものではあるが、俺にとっては非常に心休まる時間だった。

 

しかし、不穏に前兆は訪れる。

 

「シャーペンあるいは鉛筆、消しゴム以外のものを仕舞え。今日は小テストを行う。時間は40分。チャイムがなるまでだ」

 

4時間目の英語の授業。Aクラス担任の真島先生は、いつもより固い口調で小テストの実施を伝えた。

 

唐突の事態に多少ザワつくが、以前の注意喚起が効いているのか動揺の具合は小さい。問題なくテストは始まった。

 

そういえば、もうすぐで答え合わせの日が来るのか。

 

予め契約を立てられたのはDクラスのみ。Aクラスはすぐに真相に気づき、Cクラスは話し合いの場すら設けることは出来なかった。

 

Aクラスは坂柳と葛城がリーダー争いをしているようで不安定。しかし坂柳がいち早くこの真実に気づいたようで、呼び掛けを行っていたようだ。対してCクラスは龍園の独裁政治が始まったが、始まったばかり故に不安定らしい。彼の独断で他クラスとの交流も制限されているようだ。

 

Dクラスも相当荒れていたようで、少ない金額でしか契約を結ぶことは出来なかった。あまりふっかけて関係を拗らせたくはない上、渡した情報をどう使ってもDクラスの残酷な結果は回避し得ないような気がしたのだ。

 

結局、洋介個人との契約となったが、その契約を別の内容と交換するのが一番いい使い方の気がする。まあ、それも五月に入ってプライベートポイントの答え合わせをし、足並みを合わせた各クラスがどこに向かうのか様子を見てからだ。

 

しかし、話は変わるが中々に不思議なテストだ。

 

目の前の20問の問題を見つめながら、ふと考える。

 

1問5点のこの問題たちのほとんどは驚くほど簡単だ。普段勉強をしないようなやつでも60点は軽く取れるようになっている。

 

しかし、最後の3問は難易度が格段に上がっている。どれも高校三年生で解けるレベルだろう。俺ならば難なく解くことはできるが、このクラスで満点を取れるのは一体いるのだろうか。

 

そして、こんなに問題が偏るテストなど見たことがない。不思議だ。実に不思議だ。

 

折角20分ほど時間が余ったんだ。ゆっくり考えてみるとしよう。

 

カツカツと鳴り響くペンの音をBGMに頭を回転させる。

 

結局、この小テストに何かしらの意味がある、ということ以外憶測の域を飛び出ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

伊王野美颯という男を最初に見た時。とんでもないイケメンがいる。まず、そのイケメン度に驚いた。

 

外国のモデルと言われてもわかる。

 

高い鼻。彫りの深い顔はシュッと整っていて、白い肌は綺麗で、薄い水色をした瞳も宝石のようだ───。とクラスの女の子たちが話していた。

 

その辺の細かいことは分からない。けど、とてもイケメンだというのはいやでもわかる。

 

身長は185cmだという。俺よりも10センチほど高い。ガタイもよく、足も長い。およそ高校一年生とは思えない雰囲気も醸し出していた。

 

そんな美颯は、クラスに入るや否や俺の方に寄ってきた。朗らかに笑い、気さくに話す。

 

気が合う。すぐわかった。

 

それに入る部活も一緒だという。美颯の名前をこの学校に入る前から知っていたのは、そこにも関係がある。

 

俺たちが入ろうと思ったのは、サッカー部。俺も中学生の頃はフォワードで、都大会で何点も得点を決めた。全国には及ばないが、都の強いところになら適うはずだ。

 

だけど、美颯はそんな俺よりも上だ。

 

美颯は、中学生の全国大会で『優秀選手』に選ばれているのだ。

 

それに、数年前まで弱小校だった学校を全国に引き連れる。そのおまけ付きで。

 

すごいことだ。誇らしいことだ。

 

褒められるのが当たり前で、期待に応えるのも当たり前。

 

一緒の部活に入れることはとてもありがたいことで、一緒に強くなれることに感激もする。俺の心の中の熱は、ぐんぐんと上がっていく。

 

───それに反抗するかのように、小さな、黒い火も広がっていく。

 

羨ましい。悔しい。妬ましい。

 

顔には出さない。出せないほどには小さな感情。けれど、ものすごく嫌な感じがした。このままこの感情を持ち続ければ、俺は美颯が嫌いになってしまう。直感した。

 

そんな嫌な感覚を持って。けど、どうすればいいか分からず、初部活その日を迎える。

 

ちっぽけな感情はぶっ壊された。

 

俺がのろい亀に見えるほどのキレのあるドリブル。俺の数千倍正確なシュート。まさに全国レベル。南雲先輩がいたのだ。

 

その時最初に

 

そして、それは外見だけでないとすぐにわかった。

 

入学式から2日後。美颯、そして一之瀬帆波と神崎隆二はプライベートポイントの謎を解き明かし、最もいい対策を俺たちに提示した。美颯は隆二が一番最初に疑問を持ったと言っていたが、あとで隆二に聞いたら、『俺が疑問を形にした段階で八割以上進んでいた。帆波に声をかけたのもその後だ』と返された。

 

彼ら2人にとっても、美颯の頭の良さや発想力というのは桁違いらしい。

 

そして、美颯は運動もできる。

 

一目見て全国レベルだと感じた南雲先輩をゴール数勝負で下しての入部。フィジカルもセンスも圧倒的で、おそらく6月の予選ではスタメンに選ばれるだろう。

 

何よりも頭に残ったのは、水泳の授業。間違いない。俺や隆二の残った決勝リーグで、50m22秒という圧倒的な記録をたたき出したのだ。

 

運動において、どの分野でも超高校級だと認めざるを得ない。

 

話を自分から振ることはあまり多くないが、受け答えや話心地も実にいい。ずっと話し続けたいと思えるし、実際女子はそう感じるのだろう。いつだって美颯の周りには女子がいる。

 

おそらく、これが完璧超人というやつなんだろう。ウルトラスーパーの形容詞は、美颯にふさわしい。

 

そんな彼を、俺は尊敬し、頼もしくも追いつきたい背中だと意識している。

 

まだ始まって1ヶ月だ。

 

クラスとしての団結力も高まり、おそらく五月に体育祭が来ても学年一のクラスになれると自信を持って断言出来る。

 

これから何が起きるのかは分からないが、美颯がいれば面白くなるような気がするのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前に、俺はこずえを引き連れて夜の街を散策した。

 

予めルートを設定しておき、監視カメラの位置も把握済み。あまり動き回ることはできなかったが、時には布を被ったりしてやり過ごし、だいぶ背徳感溢れる展開となった。

 

「こないだの、楽しかったよね」

 

「ああ。次の日は呼び出されないかヒヤヒヤしたよ」

 

そして、現在俺の部屋のベッドで2人並んで座り、雑談にふけっている。

 

午後2時から2時間ほどかけて行われた勉強会の休憩がてら、ゆっくり話す時間を設けている。土曜日というのは、実にゆったりとした曜日だ。

 

一週間の他愛のない話をしたり、いくつかの過去話をしたり。

 

付き合う前のこの瞬間が楽しい、そんな気持ちが痛いほどわかる。

 

「あれもそうだったけど、割と寮監の人って8時過ぎてからも見回らないよね」

 

「そうだな。さすがに男子が女子寮にいる、とか連絡が入れば駆けつけるんだろうが、そういった深い内容には我関せずなんだろうな」

 

「あははっ。ありがたいや、けど寮監さんがそれをしてていいのかな」

 

「まあ俺らも学生さ、そういう配慮があるって考えちゃおうぜ。実際俺たちからすれば本当にありがたいな」

 

段々と暗くなっていく。

 

電気をつけず、昼の太陽光で灯りを保って勉強していたのだ。そのまま雑談に入り、部屋の中も薄暗くなっている。

 

まだ隣のこずえの姿は見える。が、しばらくすれば完全に真っ暗になってしまうだろう。

 

まあ、そうならないように小さなあかりは確保しているのだけど。

 

「───あ」

 

時は満ちた。

 

とはいえ、焦ることはない。

 

こずえの手の下に自らの手を差し出し、握らせる。俗に言う恋人繋ぎをしてしまえば、いやがおうにも距離を詰めなければ肩が痛い。

 

そうして、ピッタリと密着した。

 

「美颯くんてさ、モテるよね」

 

「そうかもな。割と視線を向けられてるのは気づいてるな」

 

「あはは。ちゃんと自覚はしてるんだ」

 

他愛ない、しかしいつもより穏やかな会話が続く。こずえの柔らかい肩が押し付けられる。応えるように手を握る力を強めた。

 

女子のいい香りが鼻腔をくすぐる。甘い匂いだ。

 

段々と気分が高まり、こずえは俺の髪に顔を埋める。俺も体勢を変え、こずえを引き寄せてもう片方の手で抱きしめる。

 

ベッドの上で、俺の上にこずえが座る。一度体を離せば、どちらも陶然とした顔をしているのが丸わかりだろう。

 

目を合わせる。

 

視線を誘導して、互いに相手の唇を意識させる。

 

幸せな時間が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

高度育成高等学校の敷地には、カラオケの店舗がいくつかある。パーティ用に部屋もあれば、1人でこもって歌う用も用意されている。D○MもJoysou○dも完備してあり、カラオケ好きにはたまらないほどの最新設備となっている。

 

生徒にとって、その場所は放課後のお供であり、学校生活で外せないものの一つだ。

 

昨日も今日も明日も賑わい、小さな部屋の中では大音量で歌声が響くのだろう。

 

「洋介歌声めっちゃ綺麗じゃん!」

 

「うん。すごく心にくるね」

 

そして、ちょうど澄み渡るような歌声が終わり、演奏が中止された。歌い終わった本人は恥ずかしそうに頭をかく。

 

「最近よく行くことになってさ、だいぶ慣れてきちゃったかな」

 

「いやいや、その高音は才能だよ。聴いてて気持ちいいもん」

 

「ああ。また洋介の才能が垣間見えた」

 

「そういう美颯こそ、半端なく上手いよね」

 

安くて広い。生徒の1番人気のカラオケ店の一室に、男4人が集まっている。平田洋介、柴田颯、里中聡。そして俺こと伊王野美颯。

 

サッカー部で仲良くなった1年のメンバーで仲良く交流会をしているのだ。

 

他にもCクラスやAクラスの他の男子、あるいはマネージャーが何人もいたのだが、1番最初は特別仲のいいこの4人で集まることにした。

 

ミッドフィールダーで常に落ち着いた精密なパスを得意とし、部活内のバランサーとなりつつある洋介。足が速く、カウンターの際は必ず入用となる、ムードメーカーでフォワードの颯。体格はそこまで目立たないものの、タックルやポジショニングなどのスキルが高く、判断力も長けているためにチームの司令塔の役割も引き受け始めたディフェンダーの聡。そして、圧倒的な突破力、決定力でゴールを量産するフォワードの俺。

 

あまりポジションが被らないために一緒のチームになることが多く、放課後は一緒に遊んだりする仲となっていた。

 

今日は、カラオケに来ることとなった。

 

女子を引き連れてワーキャーの選択肢もあった。しかし、洋介や俺は常に女子に囲まれていることや、たまには男だけでいいだろうという考えから、女人禁制の談合を開くこととなったのだ。

 

あからさまに洋介のテンションは高いし、聡も似たようなもので、学校での張り詰めたものは見当たらない。

 

たまにはこういう息抜きも大事だ。

 

まあ、颯は上手くバランスをとってるためにいつもと何ら変わりはないが。

 

全員で十数曲歌い回し、最後に洋介がyest○rdayを歌い終わる。実に綺麗な裏声だった。

 

「はーーー。歌った歌ったー」

 

「うん。久しぶりに思いっきり歌った気がするよ」

 

「そうだね。だいぶ体力使っちゃった」

 

颯、洋介、聡が口々に満足を口にする。それは俺も同様で、心地いい感覚に身を委ね、のべーと寝っ転がる。

 

「そういえばさ、うちのクラスで噂になってたけど、どうやらこの学年にカップルが2組成立したらしいね」

 

「あー!それ知ってる!美颯がめっちゃ責められてたやつだ」

 

「別に詰められてはない。───理由を聞かれたのが半分。どこまで進んだのか聞かれたのが半分だ」

 

「ははは。やっぱり付き合い始めはこんな反応になるよね」

 

各々だらけながらテキトーに話をふる。どうやら話題は恋愛話に入るらしい。

 

洋介は困ったような笑みを浮かべ、聡と颯は面白そうに笑っている。

 

「まあ、詳しいことまでは聞かねーよ。俺らは俺らでほかの青春を謳歌するからなー!」

 

「美颯は聞かなくてもだいたいわかるし。せいぜい後ろから刺されないように気をつけなよ?」

 

「はは、ありがとう。クラスの女の子たちに色々追及されて割と困ってたんだ」

 

「ま、そのうちほとぼりも冷めるだろ。そしたら今度は2人の番だな」

 

「聡はともかく俺はないよ。どうも異性じゃなくて友達だーって見られてるっぽいし」

 

「その話は僕もクラスで聞いたことがあるよ。───そういえば聡くんは例の女の子とはどうなのかな?」

 

「あー。あの子か」

 

珍しく洋介が意地悪そうに笑いながら聡に追及する。聡は苦虫を噛み潰したように苦笑した。

 

「顔目当てっていうのがビシバシ伝わってきちゃってさ。あれからちょっと冷めちゃったんだよね」

 

「それは、すまなかった」

 

「洋介が謝ることじゃないさ。ていうか美颯。仁美ちゃんが休み時間の度にうちに来るんだよ。手網を握っておいてくれよ」

 

「ごめんなあ。周りの子はまだしも仁美とは最近折り合いが悪いんだ...。まあ芽衣ちゃんにはそれとなく伝えとく」

 

「まじ。サンキュね」

 

カラオケは3時間コースをとっている。明日も学校があるためにあまり遅くまで残ることは出来ないが、時間いっぱいまで話を楽しんだ。

 

「てゆーかDクラス大丈夫なのか?明日で五月になるけど...美颯はあのこと伝えたんだよな?」

 

「うん。ちゃんと情報を取引させて貰ったよ───。けど、もしかしたら5月中はそんなに貰えないかもしれない。声掛けをしたんだけどあんまり良い感触がなかったんだ...」

 

「まあDクラスは一部の生徒はどうしようもないって聞くからな...」

 

「美颯くん、確かに生活態度は悪いけど───」

 

「悪かった。その生徒を悪くいうつもりは無い」

 

「洋介に協力してくれたのは櫛田ちゃんだっけ?」

 

「うん。彼女は本当に頼りになるよ。僕にできないことを彼女はできる」

 

「イケメンは恨まれるからな」

 

「けーっ。それを美颯が言うのかよ」

 

「まあ学校で一番のイケメンだから。何も言い返せないさ」

 

「それが事実なんだよなあ。神様は仕事をしてくれないのか...」

 

落ち込んだ素振りを見せた颯は、思い出したように顔をあげて、真剣な顔で洋介を見る。

 

「そういや聞いたぜ。Dクラスの堀北さん。だいぶ悪口言われてるみたいだけど。大丈夫なのか?」

 

「うーん。彼女はあまり他人と馴れ合いたくないようなんだ。どうしても言い方がきつくなっちゃってるから、どうにかして他の子達との不和を解消したいなとは思うんだけど」

 

「プライドが高い故に自分を曲げることが出来ない。そう聞いた。実際頭はいいんだろ?」

 

「うん。彼女は頭脳だけじゃなく身体能力でも非凡な能力を有してる。それだけに惜しいよ」

 

「大変だな、Dクラスは」

 

俺の慰めに、少し疲れたように洋介が頷く。明日の発表も憂鬱なのだろう。せめて少しでも多くお小遣いを手に入れて、ぜひ自分を甘やかして欲しいものだ。

 

ま、プライベートポイントを吸収する契約を立てた俺が言うのもなんだけどね。

 

そのあとも色んな話を続け、最後に一通り歌って4月は幕を閉じた。

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