ようこそ超人が支配する教室へ   作:口の端にほっぺが!

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走り出し

5月最初の始業チャイムが鳴った。

 

友達と駄弁っていた生徒たちはすぐさま着席し、朝学活に遅れがちな担任を待つ。

 

いつも通り、遅れているらしい。

 

「ねね、美颯くん。今日振り込まれた金額見たよね?」

 

「ああ。86000円だったな。思ったより下がったようだ」

 

今日は、俺にとってもクラスにとっても重要な日となっている。4月3日の説明。その答え合わせであり、その他大勢の生徒にとっても、これからの学校生活を左右する大事なことだ。

 

まず1つ目。

 

学校から支給されるプライベートポイントが少しだけ下がっている。これは俺の推測どおりのこととなった。

 

あとは、その金額が決まる基準。これを知った後は学年全体が揺れることになるだろう。

 

「にしても星之宮先生遅いなあ」

 

「ねー。前みたいに夜呑んできたのかな?それならしょうがないけど」

 

「...生徒に二日酔いを容認されるなどあるはずのないことなんだが」

 

紗代の救いようのない解釈に、隆二は呆れたように目頭をつまむ。

 

隆二もかなりこの結果が気になっているのだ。おそらく俺たちが予想した基準で生活していくことで起きることなどを、ある程度想定していたらしい。

 

既に『まずはCクラスの動向に注視するべきだろう』との言葉を貰っている。俺もそのクラスは気になっていたため、実にありがたい駒だ。彼が頭を働かせればリソースを別にさける。

 

クラス内が段々と騒がしくなってくる。既に5分もたっているのだ。次の授業は10分後に始まる。早くしてほしい。

 

クラスを見渡せば、ある程度余裕をもったらしい生徒たちが、スマホ片手に放課後の約束や雑談をしている。その中で、帆波、颯と目が合った。

 

2人とも少しだけ緊張しているようで表情が固い。

 

さすがにうるさくなってきた教室を沈めようと立ち上がりかける。

 

教室のドアが開いた。

 

「みんなー、おはよおえ。ぐっ、学活を始める前に、君たちに見てもらいたいものがあるの...」

 

今にも死にそうなカエルのようなしゃがれ声。

 

あーあ。紗代の予想は残念ながら当たっていた。教師にとって割と重要な日のはずなのに、なんで呑んできた。

 

おえおえとえずきながらホワイトボードに1枚の紙を貼る。

 

上からAクラス 940ポイント、Bクラス 860ポイント、Cクラス 520ポイント、Dクラス0ポイントと書いてある。

 

「うー、昨日なんで先生がこんなに飲んだかって言うとね?すっごく嬉しかったからおえ」

教卓に突っ伏した。

 

「───簡単に言うね。あとは美颯っちと帆波ちゃんに聞いて。これはクラスの成績の指標、クラスポイントよ。そして、この数字が高いクラスがAに、低いクラスがDに下がるわ」

 

手元のカンペを目にしながら、おそらく相当痛むだろう頭で続ける。

 

うえーーー。あと重要なことがひとつ。この学校の特徴『進学率・就職率100%』っていうのは卒業時のAクラスだけの特権よ。それ以外のクラスは保障されないの」

 

真っ青な顔でだるそうに話すが、その内容は一切聞き逃すことができないものだ。この人が話しそびれた可能性も考慮して他クラスの先生に聞くことも考える。

 

「クラスポイントの引かれた詳細はここに置いておくわ。あと小テストの順位表。あとで見といて。赤点のことも書いてあるわ。全員素晴らしい成績よ」

 

最悪だ。この先生ついに持ってる紙を机に置くだけ置いて帰ろうとしている。なんという横暴。

 

「最後に───中間テスト3週間前だけど、入学早々にプライベートポイントの謎を暴いたあなたたちなら、必ずAクラスを打倒できる。先生はあなたたちがいつかAクラスに上がれるだけの力を持ってるのが嬉しくて───うっ

 

「知恵ちゃんせんせー!?」

 

ピシャリ。

 

最後のセリフで吐き気を催した星之宮先生は、口を押えて教室から飛び出していった。

 

唖然としつつ、帆波とともに教卓にぐしゃっと置かれた紙を整理してホワイトボードに貼る。どうやら二日酔いで話せなくなるのを見越してか、紙にまとめていたらしい。

 

───いや、明らかに星之宮先生の字では無い。この几帳面な字を見る限り、見かねたほかの教師がファインプレーをしたのだろう。同僚に恵まれてるな。

 

ホワイトボードに貼られた紙は合計合計4枚。

 

クラスポイントの得点表、小テストの順位表、細々した注意書き、中間テストの範囲表だ。

 

見たところクラスポイントの100倍の数値がプライベートポイントとして毎月支給されるようだ。

 

そして付け足されている『遅刻3回、授業中の私語・居眠り22回』。おそらくこれが減らされた140点の内訳なのだろう。遅刻1回で10点減少。授業中の私語・居眠りで5点減少と言ったところか。

 

しかし、クラスポイントがあがる事柄は書かれていない。下がり続けるから上級生はあれだけ極貧の生活をしているのだろうか。

 

しかし、そうすると現在0ポイントのDクラスは絶対にAクラスに上がれないことになる。そんな初見殺しはありえないはず。何かしら挽回の手口はあるはずだ。

 

探していると、細々とした注意が書かれている紙に一部書いてあった。

 

『中間テストのクラス平均点の順位によって、各クラスクラスポイントを得ることができる』

 

これだ。やはり何かしらイベントがある度にポイントが増える仕組みなのだろう。

 

他にも何が書かれているのかをサラッと確認しておく。

 

ちなみに小テストの1位は俺だ。しっかり満点を取れている。2位に隆二の90点。さすがだ。

 

クラスの最低点は二宮唯の55点で、クラス平均は80手前と言ったところか。なかなか注意喚起の成果が出ている気がする。

 

「ね、帆波ちゃん。その紙にはなんて書いてあるの?」

 

1人の女子生徒の質問に、ちらりと俺を見てから応える。

 

「そうだね、とりあえず2時間目までにこっちの紙は人数分印刷しておくよ。今はあまり時間がないから───」

 

「放課後にクラス会議だな。この内容の他に中間テストついても話すことが沢山ありそうだ」

 

「と、いうことで今日の放課後、みんな少しだけ残ってくれないかな?30分までに抑えるつもりだよ」

 

帆波の声掛けに、生徒は特に異論はないようで、全員が頷いて同意の意を示した。

 

残り3分で次の授業が始まる。全く、はた迷惑な担任を持ってしまったものだ。教室移動じゃなくて良かったな。

 

しかしながら、Dクラスの0ポイントは正直驚いた。洋介の絶望した顔が目に浮かぶようだ。

 

彼の、そして櫛田のこれからの身を削った奔走に合掌をひとつ送っておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前たちは本当に愚かな生徒たちだな」

 

茶柱先生の呆れた、不気味な言葉がクラスに響く。

 

5月1日。その朝学活の時間。

 

生徒たちはいつになっても振り込まれないプライベートポイントに疑問をもち、同時に恐れていた。

 

平田が以前話していたことが真実だったのでは無いのか。

 

振り込まれていないのではなく、0ポイントが振り込まれたのではないのか───。

 

その疑問はすぐに解消する。

 

本堂が茶柱先生に疑問を投げると、彼女はこの罵倒から始め、真実を語っていった。

 

日々の授業態度などで決まるクラスポイント。それを100倍した数字がプライベートポイントとして毎月の頭に入る。

 

もともと1000ポイントあったそれを、俺たちDクラスは1ヶ月で少しも残らず削りきったこと。

 

そして、クラスポイントの多さでAから順にクラスが決まり、一番下のDクラスは落ちこぼれのクラスだということ。Aクラス以外の生徒には、進学も就職も保障しないこと。

 

ほぼ全ての生徒が、その言葉に納得し、そして悔しそうに歯を食いしばっている。

 

それはなぜか。───10日ほど前の、平田の言葉を振り返ればわかる。

 

 

 

クラスで確固たる発言権を確保した平田、そして櫛田は4月ある日の終学活で生徒に呼びかけた。

 

「すまない。みんな、この後少しだけ残ってくれないかな?大事な話があるんだ」

 

その柔らかな物腰、高いルックスで女子には人気だ。加えて男子の多くは草舟のごとくただ流されるだけだったために、クラスのほとんどの生徒は残ることを認めた。

 

「は?知らねーよ。俺は部活があんだ。テメーらで勝手にやってろ」

 

しかし、一部の生徒、日頃から素行の悪い須藤や、1人一匹狼を貫く堀北などは聞く耳すら持たずに帰ろうとする。

 

「ごめんね、須藤くん。でもね、来月のプライベートポイントが減っちゃうかもしれない大切な話なの。5分だけでいいから残ってくれないかな?」

 

と、そこで櫛田から放課後話す内容、爆弾が投下された。その言葉は須藤よりも他の生徒たちを大きく動揺させ、一瞬でクラスが騒がしくなる。

 

「え、どういうことだよ櫛田ちゃん。毎月10万ポイント支給されるんだろ?」

 

「そうだよ。じゃなきゃ学校は嘘ついたってことになるぜ」

 

「ねー平田くん、どういうことなの?本当なの?」

 

収集がつかなくなってしまった。平田と櫛田は慌てて彼らを宥める。まだ話し合いを初めてすらいないのだ。それなのにこうまで揺れてしまうのは彼らとしても不本意だろう。

 

しかし須藤、それに堀北は考え直したようで席に着く。

 

「ありがとう。それじゃ、今から話すんだけど───高円寺くん?」

 

再び問題が起こる。座った2人の代わりに高円寺が立ち上がりそのまま去っていこうとしたのだ。入学から変わらないその唯我独尊ぶりに、平田含め多くの生徒が困惑し、呆れる。

 

「ふふ。何を話し合うか理解したし、それが私に関係の無いことだともわかった。故に、私が無為に時間を浪費することもないだろう?」

 

「あー、えっと高円寺くん?」

 

「高円寺お前俺たちのプライベートポイントの話だぞ?こういう時くらい空気読めよ」

 

「てゆーかお前のせいでプライベートポイント減る可能性だってあるんじゃないのか?何を理解したのか知らないが話は聞いてけよ」

 

高円寺の口調にイラッとした男子たちが口撃する。

 

しかし、露ほども届いていないようで、むしろ面白そうに生徒たちを見下ろす。

 

「実にくだらない。無垢でいることは確かに美徳になりうる。しかし君たちのは無知。実に醜い」

 

呆れてものもいえない。そういうように首を振る。

 

「それに、ポイントを減らしているのは君たちのような生徒さ、山内ボーイ。せいぜい無い頭を必死に回したまえ」

 

「てめえ高円寺!」

 

笑いながら教室を去っていく。

 

憤りの収まらない男子だが、平田はこれ以上時間を無駄にできないと話を始めた。

 

内容は『生活態度を改めないと、毎月支給されるプライベートポイントが下がる』。という話だった。信頼出来る筋からの話らしい。

 

「今のままでは確実に来月のポイントは下がる。少しずつでいいから授業中の態度を改善していけないかな?」

 

優しく、誰もが納得できるように譲歩する形で平田は話を続けた。

 

おそらく今出された情報の他にも伏せられたものがあるだろうし、賢い平田が納得するだけの理由があるのだろう。

 

しかし、それを話してしまえば混乱する。平田は情報を制限し、彼ら生徒が納得するよう櫛田に懐柔させる。その方法をとったようだ。

 

───しかし、それは悪手としか言えない。

 

いや、このクラスには既に取れる手などなかったのかもしれない。

 

「あ?俺が悪いって言いてえのかよ。まだ平田の言うことが事実かわからねえじゃねえかよ」

 

「でも授業態度が悪いのは事実でしょ?ていうかそれが原因であたしたちにまで影響が出るのは嫌なんですけど」

 

「うっせーよ糞アマ」

 

「は?ていうか平田くんが言うことなんだから素直に信じなさいよ。あんた頭悪いんだし」

 

「そうよ、それに男子たちも。ずーっと授業中喋っててうるさいったらないわ」

 

「は?お前らだって喋ってたじゃねーかよ」

 

「あんたたちの方がよっぽど迷惑って言ってんの」

 

向けられた責めるような視線に須藤がキレる。確かに須藤は1番問題行動がおおい。それは事実だ。

 

しかし、それをはっきりさせてしまえばクラスのヘイトは彼に集中し、須藤は衝動的に反抗してしまう。

 

そして、一度人を攻めた女子たちはヒートアップし止まらない。次は池や山内たちを槍玉にあげ、既に話し合いの形をなさなくなってしまった。

 

櫛田も平田も事態の収集に務めるが回復するはずがない。このクラスでは男女間で溝の深い。ちょっとしたきっかけがだったのだ。

 

そして、ダメ押しに事態が動く。

 

「───はあ。くだらないわ。本当にくだらない。わかりきっていたことだけど、このクラスでまともに話し合いができるはずがなかったのよ」

 

「は?あんた何言ってんのよ。勝手に上から目線で物言わないでくんない?」

 

「あなたたちに言われる筋合いのない話ね。それにクラスに迷惑をかけているのは、一体どちらなのかしら?」

 

そこで堀北は一言区切り、平田を睨めつけた。

 

「それにこうまで至った理由が聞けてないわ。信頼出来る筋というのもせいぜいあなたの主観。まあ、聞いたところでこの様子じゃ何も改善しないでしょうけど」

 

「は?平田くんはクラスを思って言ってるんじゃん。信用だとか───」

 

「本当にくだらないわ。...さっきの高円寺くんの言葉を使うようだけど、無い頭を少しでも回しなさい。私は抜けさせて貰うわ」

 

そう言い捨てて、堀北は帰路に着く。

 

ピシャリと閉められた扉は拒絶の意味を示し、誰も追いかけるほどの気力をもてなかった。

 

「勝手にやってろ」

 

そう言い捨てて須藤もその場を去る。

 

そして、クラスに残った生徒たちは口々に彼らの悪口を言い始めた。どんどんヒートアップし、ついには頑張っていた平田も崩れるように席につく。

 

話し合いは完全に形をなさなくなった。生徒は流れるように教室から離れていく。

 

ついに、教室には俺と平田だけが残った。

 

───実に気まずい。

 

これが櫛田とかも残ってくれたなら、多少話はできた。しかし、彼女はクラスメイトのケアのために既に去ってしまっていた。

 

このまま去ってもいいが、平和な日常を願う俺としてみれば見過ごせない案件だ。崩壊したクラスで普段通り生活できるほど、俺は能天気じゃ無い。どうにかして平田を立ち直らせたいのだが、それも自己紹介なんかよりはるかにハードルが高いな。

 

「平田。大丈夫か?」

 

とりあえず無難。無難に行こう。

 

「───ああ。綾小路くんか」

 

「まだ始まって1ヶ月だろ?そんなに気負うものじゃないさ。それにみんなも来月の始めに身に染みて理解するだろう」

 

「うん。うん、その通りだ。その通りなんだよ」

 

酷く憔悴している。

 

平田には食堂に誘いかけてもらった恩がある。多少膿を吐き出してあげられればいいが。

 

「僕には上手くできない。櫛田さんのようにみんなを落ち着けることなんかできないし、美颯くんのように上手くみんなを納得させることはできない」

 

聞いたことのある名前が出てきた。おそらく美颯というのが信頼出来る情報源だったというわけか。

 

「だが、その美颯から情報を得れたのは平田がいたからだろ?」

 

「だけど、それを活かせなかった」

 

「ああ。だが、彼らは理解したはずだ。須藤だって他の生徒だって、授業中に私語をしたりスマホをいじる時、どうしてもプライベートポイントのことが頭をよぎるはずだ。次の授業からは確実に問題行動は減るさ」

 

「そう、なのかな...」

 

「ああ、だから───上手くは言えないが、平田は頑張ってる。俺も応援するよ」

 

ようやく顔をあげた平田の目は、なんとか生き返ったような色をしていた。その表情にとりあえずの処置が終わったことを確認し、安堵する。これで明日からも静かな日常が遅れるはずだ。少なくとも授業中はもう少し静かになるだろう。

 

「ありがとう、綾小路くん。君のような友達がいてくれて、僕は本当に嬉しいよ」

 

え。

 

「俺は、平田の友達なのか?友達でいていいのか?」

 

「不思議なことを言うね。少なくとも僕は綾小路くんと友達でいたいと思ってる。それは嫌かい?」

 

「いや、俺もそうありたい。ありがとう、平田」

 

「ううん。礼をいうのは僕の方だよ」

 

しまった。初めての事だったから思わず変なことを聞いてしまった。人とのコミュニケーションは本当に難しい。デカルトやカントにはそっち方面でも研究を進めて欲しかった。

 

その後、部活に向かった平田を見送り、俺も帰路に着く。

 

 

 

4月2日目の学校を思い出した。

 

伊王野美颯という生徒を見たのはあの日が最初だ。

 

最初目にした時は、この世に神がいないことを確信した。

 

平田以上にイケメンで、平田以上に女子に絡む。Dクラス男子の視線をもろにくらっても動じない強靭なメンタルには脱帽ものだ。

 

向こうはこのクラスを観察しに来たようで、俺もバレない程度に彼を観察した。

 

185cmはありそうな身長は須藤や高円寺と比べても一回り大きく、体の部位どれひとつとっても高校1年とは思えないほどに完成された肉体だった。

 

ようは、高円寺級が学年にもう1人いたのだ。

 

当時の俺は───いや、今もだが、伊王野のコミュニケーション能力と顔面を羨ましく思うので精一杯だった。まるで外国人のような精悍な顔つきに、虫のように女子たちが集まっていくのだ。...そうすると虫すら寄り付かない俺はなんだっていう話になる。いや、あまりいい例えではないな。

 

ともあれ、伊王野美颯という存在を認知したのはあれが最初だ。

 

それ以降も度々話が出てきた。

 

曰く、女の子を取っかえ引っ変え部屋に呼んで楽しんでいる。一度に彼女を3人持つクズだ。俺はあいつが櫛田ちゃんを舐めるようにガン見しているのを見た。

 

全て三バカの言葉だ。

 

おそらくそれは噂でしかなく、僻みによる妄言の類なんだろう。...本当に3人も彼女がいるのであれば、今度こそ俺は神を恨む。

 

しかし、その他から聞こえてくる内容は本当に聞こえのいいものばかりだ。

 

曰く、中学生の頃にサッカー全国大会で優秀選手に選ばれた。曰く、Bクラスで一番頭がいい。曰く、女好きだがとても紳士だ。

 

ここまで完璧な人間がいることに驚いてすらいる。羨ましい。

 

あまり喋りすぎるという訳でもなく喋ればどこか不思議な感覚で、ずっと話していたくなる。そんな話もクラスの女子から聞いた。お茶目な部分も、Sっ気な部分もあるらしい。まあ仕入れた情報としてはもっとも俺から遠い位置の情報だ。

 

───しかし、俺は彼に裏の顔があるような気がしてならない。

 

どうにもこの流れを見る限り、早い段階から伊王野の影響力が高まりすぎている気がするのだ。

 

それに、今日の話からもある程度彼の思考回路を辿ることができる。

 

まあ、目下のところ、俺が気にしているのは一つだけ。

 

学年の女子全員が伊王野のもとに集結し、俺の青春が1ミリたりとも無くなることだ。

 

これ以上の悲劇はないし、ありえなくもない。

 

いや、堀北は絶対に近づかない気がするな。あいつは自分から孤高を貫きそうだし、自分のを貫かれる真似はしないはず───こういう下ネタは厳禁だった。

 

しかし、俺の周りに残る女子が堀北だけというのは非常に宜しくない。そんなことをされれば別の方向に目覚める可能性すらある。俺が新たな分野を開削するのが先か、堀北がデレるのが先か───。

 

喫緊の問題を一生懸命考えていると、メールが来る。

 

そうだ、櫛田はどうだ。彼女が残ってくれればそれだけで天にも登る気持ちだ。どうにかして伊王野の傍に行かないように何とかしよう。方法などひとつも浮かばないのだが。

 

そして、期待して相手の名前を見ると『堀北鈴音』。そういえば櫛田とは話しただけだった。このエンドしか存在しないのだろうか。俺は絶望した。

 

冗談はさておき、メールの内容だ。

 

どうやら今日の平田の発言が気になってしょうがないらしく、明日から調べたいのだそうだ。

 

平田に直接聞けばいいのに。ツンデレめ。そう返せば死ぬことはわかっているためにそんなことはしない。

 

気になるのは最後の文。

 

『だから、あなたにも協力させてあげるわ。』

 

打ち間違いだろうか。

 

言うに事欠いて『させてあげるわ』。何をどう考えたら俺が堀北の調査に興味があると思うのだろうか。

 

メールで反論しても返事はない。

 

確定事項のようだ。

 

俺は諦めて、流れに身を任せることにした。最近読んだ小説になぞろう。俺は草舟だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

5月最初の学校が終わり、放課後の時間がやってくる。金曜日の今日は部活があるために、いつもなら数分ほど友達と喋った後にグラウンドに直行するが、今日はそうもいかない。

 

先輩に遅れることを断っておくと、すんなり許諾された。どのクラスもこの日に会議をするのは当たり前らしい。

 

「さて。まず最初に確認してない人はその紙を読んでくれ。その内容を理解してもらった後に、今日の星之宮先生の言葉の中で重要なことを話そう」

 

思えば酔っ払ってながらも、怪しい発言はいくつも落として言ってくれた。頭が痛くてまともに考えてなかった可能性もあるが、今回クラスポイントの減少を抑えられたのは初日の彼女の言葉のおかげだ。

 

おそらく今回も彼女の言葉をヒントに探っていくことになるのだろう。

 

「質問はこれだけかな?それじゃ、美颯くん、お願いします」

 

「お願いされました。さて、プライベートポイントの謎がスッキリしたところで申し訳ないが、早速厄介な状況になった。難しいことは精一杯楽しんだ方がいいけど、まずは状況を整理する必要がある」

 

生徒の顔を見る。真剣な表情だ。彼らの信頼を今日で完全に勝ち取ることができたし、彼ら自身これから起きていくことに正面から向き合っているようだ。

 

「俺たちはBクラスとして、ほかのクラスと戦わなければならない。戦うと言っても方法は穏やかなものだ。他よりも模範的に生活し、定期テストの点をあげる必要がある。まずは直近の中間テストの話をしようか」

 

そうして、帆波に話をふる。以前と同じように3人で話し合いを予めやっておいたのだ。中間テストは主に帆波がまとめることになっている。

 

「うん。それじゃあ話させてもらうね。私たちに必要なことは簡単。学力をあげてテストの対策をすること」

 

俺は1枚の紙をホワイトボードに貼った。

 

「そのために、私は勉強会が必要になると思うの。学力の高い人が数人ずつのグループに別れてみんなの勉強を手伝う。大きな底上げで平均点向上を狙おう!っていう感じかな。何か質問とか意見とかない?」

 

帆波が確認するように生徒にふる。みんなそれぞれが賛成の意を示すように口々に言葉を発する。

 

唯一疑問がありそうだった浜口哲也は、俺が貼った紙を見て納得したらしい。帆波はそのまま話を続ける。

 

「うん、ありがとう!それで、まずはグループの先生役なんだけど、この表を見て欲しいの」

 

そうして指さした、ホワイトボードの紙。

 

朝星之宮先生が置いていった、この間の小テストの順位表だ。

 

上から伊王野美颯、神崎隆二、一之瀬帆波、浜口哲也、安藤紗代と続いている。全員が85点以上で、授業の様子を見る限り、先生役にふさわしい5人だ。

 

「私を含めて上から5人。このメンバーでみんなの先生役をすることにしようと思うの。平均点より上の人にも多少手伝ってもらおうかなって考えてる」

 

「ああ。問題ないんじゃないかな。グループ決めはどうするんだ?」

 

「うん。いい質問だよ浜口くん。グループ決めは、とりあえず上から番号順に決めようと思うの。仲いい人たちで組んでもいいんだけど、勉強会にも緊張感が欲しいからこうしようと思うんだ。みんな、どうかな?」

 

帆波の丁寧な説明に異論はひとつも出ない。

 

そのあとはグループ決めをして、夜に先生役だけで場所や時間を考えることとなった。

 

一通り説明を終えた帆波が話の主導権を俺に戻す。

 

「ありがとう、帆波。さて、これから確認するのはクラスの向く方向、これを明確にしておこうっていう話だ」

 

教卓の上に立つ。

 

「4月だけでもわかったように、この学校は予測もつかないような方法で俺たちの実力を測る。今回は推理だったが、いずれそれ以外の要素を調べるものも出てくるだろう。実力とはひとえに学力だけを指すものでは無い。定期テストの他にも、そういった試験のようなイベントが起きる可能性もある」

 

「学力以外の能力を測る試験か...」

 

「まあ、心の準備をしておこう。そういう話だ。今日ここで話をつけたいのは、みんなとの意志の確認だ。───皆は、Aクラスに上がりたいだろ?」

 

反応は劇的だった。たった80点で差ができるのはおかしい、悔しい。俺たちならAクラスに登れる。この学校に来たからには特権をつかみたい。特権に興味はないけどお金は欲しい。

 

「そうだろう。なら、俺たちに必要なことは2つ。自分の能力を駆使して、一つ一つをしっかりこなしていく。そして、できるだけ自分の頭で理解することだ。俺も自分で理解したことをみんなに共有するけど、みんなの視界で噛み砕いたことで、みんなのできることの幅が広がる。戦略が、切れる手札が増えるんだ」

 

力強い瞳で俺を見つめる生徒たちに、言い聞かせる。彼らは俺の忠実な駒だ。彼らを活かすも殺すも俺次第。そして、彼らの努力次第で彼ら自身の価値は変わる。

 

「まずは今の状況。ほかのクラスも作戦を練り、クラスのとるルートを定めている頃だろう。日々気を引き締めろとは絶対に言わない。───違和感や疑問が芽生えた時に、そのままにしないで考えることが今取れる最前の手段だ」

 

要は、ほかのクラスの動向を見貼ろうと言うもの。受け身ではあるが、彼らのとる手段を明確に捉えるのだ。

 

そして、最後に必要なのはメンタルの調整。彼らのモチベーション管理も非常に大事。

 

「そして、刺激的な日常を、みんなで精一杯楽しもう」

 

いっせいに声が上がる。男子は掛け声を上げ、クラスは拍手に包まれた。

 

最後に、クラスに団結の火が点ったのだ。

 

その光景をニンマリと心の中で微笑んで眺める。本当に気分がいい。

 

これから本当に楽しくなるだろう。それこそこの学校に入った甲斐が有るというものだ。

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