ようこそ超人が支配する教室へ   作:口の端にほっぺが!

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一歩

5月2回目の金曜日。

 

あまり根を詰めすぎてはいけないということで遅らせていた勉強会は、テスト2週間前になった今日から始まった。

 

学校側も調整を行ったようで、新しくテスト範囲も更新された。大幅に変わっており、5月1日から自主的に勉強会を始めていた生徒たちは非常にやるせない表情をしていた。

 

しかしながら、以前配布されたテスト範囲表のものとはだいぶ違う範囲が記載されている。

 

手元の用紙を一通り眺めながら、改めて疑問に思った。

 

2週間でどこまで対応することができるか、それを試すといった感じなのだろうか。いまいち掴み切る事ができない。

 

カンニングのようだが、先輩にカマをかけるしかないだろうか。ある程度プライベートポイントを出せば真実を教えてくれる可能性は高いが、それにリスクが伴うし、俺のプライドも許さない。

 

それに、毎年同じ方法で実力を図っているとも限らないだろう。

 

教育現場の遅々とした対応は、毎年決まった年間スケジュールが前年度には組まれ、新たなことを取り入れにくいところにある。国指導のこの学校なら、毎年臨機応変なイベントを実施できるようにしていてもおかしくはない。

 

あるいは、生徒会が決めていたりもするのだろうか───?

 

上手いこと結論にたどり着けない。

 

情報が断片的に集まっている感じはするのだが、決定的なひと押しが足りないのだ。

 

帆波が正面突破を考える代わりに、俺や隆二で隠された意図がないか模索する必要がある。既に違和感を感じている時点で、甘んじることは許されないのだ。

 

「ね、美颯くん。この問題の解き方もいちど教えて?」

 

「ああ。ここは───」

 

今は勉強会の時間。あまりほかに思考をさく訳にも行かない。彼らの基礎学力を効率よくあげていく必要があるのだ。1人の教師、ひとつのクラスにおいて生徒の数は10-20人がもっとも効率的である。今の8人というのは、それには及ばないものの授業に比べればはるかに教えやすいはずだ。

 

放課後の図書館。その他にもいくつかの場所に別れて勉強会を開くBクラスは、5時から6時半までの1時間半を勉強会に費やすことに決めた。

 

参加は任意で、部活に参加したい人はそれで構わないようになっている。が、テスト1週間前になってからは部活も休んでもらって全員参加を強制する予定だ。

 

勉強会を組織的に開くというのはどこも同じ考えのようで、この図書館にもAからDまで全てクラスが存在する。

 

Aクラスは基本的に学力の高い生徒が多いためか、終始無言で自分の勉強を進めている。C、DクラスはBクラスと似たような方法をとるようで、学力の高い少数の生徒が学力の低い生徒に教える形をとっていた。

 

うちのクラスは赤点候補がまずいないために、ほとんどAクラスと似たような状況となっているが、C、Dクラスはそうもいかないようだ。

 

特に酷いのはDクラス。

 

以前颯から聞いた堀北という生徒がクラスメイトの世話をしているようだが、教わる側も、教える堀北自身も酷い。

 

教わっている男子4人のうち3人は連立方程式すら理解していないようで、時々聞こえてくる声に思わずため息を着いてしまいたくなるほどだ。

 

そして、それは堀北も同じ。しかし、彼女はそれを隠すことをしない。

 

表情を見ればありありと浮かんでいる。失望の感情。

 

放たれる言葉はトゲトゲしく、一切の容赦のないものだ。

 

確かに、周りから嫌われる理由も察してあまりある。彼女はコミュニケーションが相当苦手のようだ。

 

「...美颯くん。なんだかあっちのクラス、すごい不機嫌なんだけど」

 

そして、彼女らのイライラは伝播してうちのクラスにも伝わってくる。

 

となりのこずえも気づいたようで、心配そうにDクラスの惨状を見つめていた。

 

「ちょっと声うるさくね?注意した方がいいんじゃねーの?」

 

机の端で勉強する男子も多少迷惑そうに顔をしかめる。同じように、俺を囲むように座る女子も何度も頷く。

 

「...まあ、あまりほかのクラスの事情に顔を突っ込んでもいいことは無いさ。それに、どうせすぐに解散するだろ」

 

そうして、10分が経過する。

 

須藤と呼ばれたガラの悪い男がブチ切れた。

 

さっきから彼へと罵倒を浴びせかけていた堀北の胸ぐらを掴んでいる。

 

「あなたは愚か者よ」

 

「てめえ...!!」

 

一触即発だ。おそらくバランサーの役目をになっていた櫛田は、止めようにも須藤の腕っ節近づけないようだ。教えられている他の4人も止められないだろうし、止める様子すらない。

 

唯一須藤を止められそうなモブ男子も、どこか傍観するようにことを眺めている。一応咄嗟に割って入れるようにはしているのは、何となく気配で伝わった。

 

「...不味くね?伊王野、止めた方がいいんじゃないか?」

 

「いや、俺が割り込むとより面倒なことになる。それに向こうにも止められる人材はいるさ。万が一にも怪我をすることはないだろう」

 

入学から2日目に見た、Dクラスモブ男子。名前すらまだ知らないが、近くでみれば相当腕が経つことがわかる。ガタイのいい須藤にも対抗しうるだろう。見た目以上の情報を引き出すことはできないが、見た目通りであれば相当武道に精通している。

 

しかし彼自身争いごとを好まないのか、動くような気を一切堀北たちに見せない。その上彼女たちからも腕っ節を期待されているわけでも無さそうだ。用心棒という訳ではないのか。どうにも自分の実力を隠している可能性がある。

 

まあ、あまり俺には関係の無いことだ。頭脳のレベル知ることが出来れば、彼の暗躍の可能性もはっきり見えてくるのだろうが。

 

結局、その場は教わる側男子4人が去ることで収まり、残った3人もすぐにその場を後にした。

 

「なんてゆーか、不良品がDクラスに集まるって話。あれみるとまじなんだなーっ思っちゃうわ」

 

「だよねー。あそこに桔梗ちゃんが混ざってるの、可哀想でしょうがないんだけど」

 

「ねー。櫛田ちゃんうちのクラス来ればいいのに。絶対ピッタリだよ」

 

小声で思い思いに話す。

 

まあ、あれは擁護できない。

 

この前洋介に伺った話だが、5月1日のクラスの状況は惨憺たるものだったらしい。

 

茶柱先生が呆れたように真実を話し、何とか体制を立て直そうと放課後の話し合いに参加してもらおうと生徒に声をかけても、高円寺、須藤、そして堀北には一切取り合ってもらえなかったという。

 

高円寺は問題ないのだろうが、須藤と堀北。今日の様子を見るに相当扱いづらいはずだ。

 

しかし不思議なのは、堀北が先生役で勉強会を開いていることだ。

 

平田からは何も聞いていないが、あの様子を見る限りクラスのために手伝ったという感じは感じられない。

 

おそらく個人としてAクラスに上がりたい思いから、とりあえずという気持ちで開いたのだろう。

 

他人の俺が言うことではないが、実に考えが浅いし覚悟ができていない。

 

洋介は本当に大変なクラスに入ってしまったものだ。

 

まあ、そんなことはさておきうちのクラスの勉強だ。

 

彼らDクラスが落ちてくれることで相対的にBクラスのクラスポイントは上がる。

 

6時半まで勉強会を続け、その後寮へと帰宅した。せっかくこずえと遅い時間まで残ったこともあり、部屋に招く。

 

彼女が自分の部屋に戻ったのは、次の日の放課後だった。

 

 

 

 

「幸せ」

 

甘い声で囁かれる。

 

誰に目もない俺の部屋。

 

1時間をかけた別の個人授業が終わり、今はゆっくりピロートークタイムだ。

 

まだ寝るには早い時間だが、お互いに抱きしめあってベッドに寝っ転がっている。

 

こずえの体をなんとはなしにまさぐりながら、俺は自分の審美眼に感謝する。

 

やっぱり女バスは最高だった...!

 

抱き心地が今までのものと一線を画している。まだ片手で数える程しかしていないが、まだまだ味わい尽くせるな。

 

2人でいる時はベッタリと甘えてくるようになったこずえの唇を啄み、もう一度抱きしめる。

 

「ね、ね。カップルランキングって知ってる?」

 

「...聞いたことないな」

 

「女子たちで勝手に作ってるランキングのひとつだよ。他にもイケメンランキングとかモテ男ランキングとかもある。どっちも美颯くんが1位だよ?」

 

「へえ、そりゃ興味深いな」

 

面白いことを聞いた。男子のカップオッズ表には嫌な顔をするくせに、自分たちでは男子のランキングを作ってるという。まあ男子のは完全に下ネタだし、俺は満足してるから何も問題はないけどね。

 

他にも性格ランキング、賢いランキングなんてのもあれば、根暗ランキング、キモイランキングもあるらしい。ああ、なんて恐ろしい。

 

ちなみに性格ランキングでは3位。賢いランキングでも1位に輝いている。Aクラスの里中聡やDクラスの平田洋介も当たり前のようにいくつもランクインしている。

 

要は、付き合えた時にどれだけ自分の株が上がるか、そのわかりやすい表なのだろう。そう考えると、俺は間違いなくドラフト1位。高額取引されるのだ。大きな牌や肉感的なぼでいで取引されれば、さしもの俺も釣られるしかない。

 

カップルランキングとは、それらとは少し違った趣向のものだろう。

 

いわば『この男はあたしのもんだから!』と大々的に公表できる場所であり、『うんうん。あたしたちはあんたらを応援するよ!』と一気に株の上がった女の子取り入ろうとする場所であるわけだ。

 

なんて言うか、ここまで考えると男子のオッズ表とは訳が違うな。子供がミニカーを自慢している間に、大人が外車で見栄を張って交渉の手段にしているのを見ている気分だ。

 

男女の精神年齢さここに極まれり。

 

「ああ。俺たちは間違いなく1位だな」

 

「うん!わたし、今一番幸せな気分」

 

とろけるような笑みで、今度は向こうから求めてくる。

 

そういえば。

 

第2ラウンドに入る前に、少しだけ事務的な話を済ませておこう。そう考えた。

 

「ひとつ聞きたいんだけど、いいか?ま、事務的な話だけど気楽に答えて欲しいな」

 

「うん。どんなこと?」

 

「ああ。こずえならテストで良い点をとるためならどういうことをする?自由に考えてくれないか?」

 

敢えてこんな時に聞くことでもないが、疲れている今なら頭を働かせることなく自由な発想が浮かぶはずだ。

 

最近はどんどん成績が上がっているとはいえ、こずえは頭が悪い方に入る。

 

そんな彼女がテストを乗り越えるためには、どういうことを思い浮かぶのかを知りたかったのだ。

 

星之宮先生は、『プライベートポイントの謎に早くから気づいた俺たちなら』中間テストも難なく乗り越えられると言っていた。

 

つまるところ、隠された仕組み、正攻法以外の方法があるはずで、今回も俺たちはそれを突破できる───星之宮先生はそう言いたいのだろう。

 

それがなんなのかいくら考えても、上手く行動に昇華できるものが出てこない。

 

故に、一旦思考停止して他の考えを拾いたい。

 

俺とは違った視点をもつ生徒───例えば、勉強ができない生徒ならどんな考えが浮かぶのか。

 

それを調べるために、こずえに話をふった。

 

「テストでいい点か...。私は、このままずーっと美颯くんに教えて貰えたらそれ以外何もいらない。でも、そういうことじゃないんでしょ?」

 

こずえの言葉に頷くと、少し考えるようにして───。

 

「職員室に侵入してテストをかっさらう。答えを先にゲットする。こんなとこかな」

 

うん。実にいい応えだ。まさに勉強の苦手な生徒の考えることだな。

 

しかし、それは俺も浮かんでいたことだ。

 

予め問題を知っておくことや答えを知っておくこと。どちらも先生と交渉出来れば手に入れられるものだが、まさかそれで入手できるほど甘くは無いはずだ。

 

『この学校で、プライベートポイントで買えないものはない』。どの辺まで適用されるか試したことはないが、さすがに厳しいはず。

 

しかし、予め問題を手に入れるという線くらいしか、今のところ具体的な対策は浮かんでいない。

 

何かネットで入手出来るような問題を参考にしているのか。それとも大学入試から引っ張ったりする可能性も───。

 

そうか。数年分過去問を手に入れられれば、その傾向やあわよくば答えまでたどり着けるかもしれない。逆算の寸法だ。

 

「こんな答えでいい?」

 

「ああ。ありがとう。ひとつ考えが先に進んだよ。───さて、ありがとうの2回戦だ」

 

夜は長い。

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言えば、大当たりを引いた。

 

「間違いなく、去年もその前の年のテストも全く同じ問題が出題されている」

 

「ちなみに帆波が貰ってきてくれた小テストも去年と問題が変わっていないな」

 

昼休み。

 

俺と隆二は時間が惜しいとばかりに教室でコンビニ弁当をつつきながら、数枚の紙を見比べていた。そして、そのどれもがテストがテスト関連の用紙だ。去年、一昨年の一学期中間テストの問題用紙に解答用紙。そして去年のと、この前の小テストだ。

 

今朝、プライベートポイントとデート1回を使って取引した過去問を手に入れ、まさかと思って帆波に去年の小テストの取得を頼み込んだ。

 

生徒会と繋がりを持ち始めている帆波は、どうやら連絡してすぐに南雲先輩からテストを手に入れたらしく、今日の昼休みには渡してくれたのだ。

 

そして、それを隆二と共有し、わかることを推理していこう。そんな話となっているのだ。

 

「すると、今年の中間テストもこの問題がそのまま出る可能性が非常に高い」

 

「そうだろうな。星之宮先生の言葉、小テストの違和感にもこれで決着が着く」

 

出題の傾向を探ろう。

 

そんな考えから導かれたのは、とんでもないものだった。

 

去年と一昨年のテストの問題はまるっきり同じで、小テストも去年と今年で一言一句違わない。

 

「この問題の答えを配っちまえば、全員が100点取れる試験じゃないか」

 

そんな、テストというかたちすら放棄したような、生徒へのなぞかけだったのだ。

 

「ああ。だが、今日ポンと出す訳にはいかない」

 

「わかってるさ。今のやる気、勉強会をキープさせる。テスト3日、もしくは2日前に過去問として配る。───あるいは、答えの丸暗記を強制する」

 

どちらを選んでも、その先へのメリット、デメリットが存在する。

 

少しの差で丸暗記だろうか。

 

せっかくのクラスポイント上昇の機会。みすみすAクラスに渡すわけにはいかない。

 

向こうも同じ作戦をとると考えても、理論上負けのない試合となるのだ。次回以降同じようにクラスポイントが上がるとも限らないため、取れるところで確実にとっていくべきだ。

 

「丸暗記だ。クラスポイントが次回以降も同じように上がるとも限らない。確実な手を選ぶ」

 

「俺も同じ考えだ。その辺の説明は任していいな?」

 

「ああ。テスト2日前だ。万全を期す。それまで勉強会は続行だ」

 

「それがいい」

 

話は転がるようにまとまった。鷹のような目に炎をらんらんと宿らせだ隆二は、確認するように頷いた。

 

テストまで残り10日。

 

決戦の日は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

テストは滞りなく進行した。

 

予想通り、過去問とテスト内容が全く同じだったのだ。

 

2日前の過去問配布も功を奏し、ほぼ全員の生徒が満点の自信があるという。

 

テストが終わりこずえに聞いてみたが、丸暗記は上手くいったらしい。既に夏休みのことを話題にしていた。

 

土日を挟み、ついに結果発表の日が来る。

 

話を聞く感じほぼ全てのクラスが過去問の謎に気づいたようだった。どのクラスにもそれなりの知者がいるのは間違いないだろう。

 

いずれ他クラスと明確に戦う試験も出る可能性が否定できない以上、ある程度内情調査が必要だ。

 

今日は時間通りに現れた担任を見て、若干クラスの雰囲気が下がる。

 

「先生昨日は飲まなかったんですか...」

 

「じゃあ、負けなのかなあ...」

 

一気に弱気になった。以前の『優秀だから嬉しくて呑んだ!』発言が聞いていて、呑んでこなかった今日は敗北の可能性が高い。そんな分析だ。かつてこんな先生がいた事などあるだろうか。アホなんじゃないだろうか。

 

「違う、違うのよみんな!結果もそうだけど、先生が生徒たちの成績で呑んだり呑まれたりするわけが無いでしょ?」

 

「どうだか」

 

「てゆーか千恵ちゃんせんせー。さっさと見せてー!」

 

「無邪気な声が胸に刺さるわ...」

 

ダメージを受けたように豊満な胸を抑えてたじろぐ。

 

しかし、生徒たちの『早く結果教えてよ』という冷めた視線に耐えられなくなり、憮然とした顔で一枚の紙を取り出す。

 

「もー。結果が気になるのはわかるけど、少しは乗ってくれてもいいのに」

 

ブーたれながらホワイトボードに大きな紙を貼り付けた。

 

生徒全員の視線が集中する。まずは自分の得点が気になるのだ。

 

各教科ごとに名前に順位、そして得点が載せられている。

 

血眼になって自分の名前を探すクラスメイト。ようやく安心したように誰かがため息を着いて───。

 

「よっしゃ満点だ!!」

 

「あたしも!」

 

「こんな点数初めて取ったぜ」

 

全員が歓声をあげた。

 

ホワイトボードの紙の数字は、9割以上が100点で占められていた。無論赤点もいなければ、全員が80点以上に収まっていた。

 

かく言う俺もしっかり全ての教科で満点を撮っている。そして、そんな生徒もクラスの半分を占めているのだ。

 

策がうまくはまり、結果として最善のものを出せたはずだ。

 

しかし、一部の生徒の顔はまだ緊張している。

 

それもそのはず。5月の初めに誓い合ったように、俺たちが目指すのはあくまでAクラス。学年でクラスがどの位置にいるのか。そこが今回の最終的な結果だ。

 

「知恵ちゃんせんせー」

 

「わかってるわよ。4位から順位に発表していくわね」

 

そして、四位と三位を適当にチャチャッと書いた。あまりにも風情が無さすぎるが、俺たちがしているのはトップ争いに違いない。1番気になるのは1位2位がどっちかなのだ。

 

4位はDクラス。平均点は82点。

 

3位はCクラス。平均点は87点だった。

 

どちらもテストの謎掛けにしっかり気づいている。あとの差は基礎能力の違いだろうか。こう見ると、全体的な能力もAからDにかけて低くなるように配属されているとはっきりわかる。

 

そして、注目の上位争い。

 

1位をとって、今の流れをさらに加速させたいところだ。

 

それに、ここで負けてしまえば基礎能力の差というふうに解釈できてしまう。

 

俺たちの方が低いんだ。そう知ってしまえば今の勢いは多少なり減るだろうし、これ以降の正面対決で劣等感がまとわりつく。

 

大事な勝負だ。ここでその不安を払拭したい。

 

「ではではー。1位の発表です!」

 

誰も何も言わない。ただゴクリと唾を呑んで、ひたすらにそのときを待った。

 

───まあ、星之宮先生がこんなことをしている時点で、察してあまりあるものだったけど。

 

「1位はBクラス!平均点は98点!!」

 

「「「うおおおおおおお!!」」」

 

「「「やったあああああ!!!」」」

 

目標は達成した。

 

「...ふうううーーー」

 

「美颯くん、おつかれさま。隆二くんも」

 

「よかった。美颯、大きな一歩だ」

 

大きく息を吐いて椅子からずりおちる俺に、紗代と隆二は口々にねぎらいを言う。

 

「ありがとう。ああ、大きな一歩。大きな前進だ」

 

先生がみんなのテンションを遮らないように、2位の結果をこっそり書いていた。

 

Aクラス。93点。

 

大きく差ができたもんだ。ここも同じように過去問を使っただろう点数になっているから、おそらく何人かが足を引っ張ったのだろう。

 

あとで大掲示板に点数を確認しに行く必要があるだろう。

 

そして、あと片付けまで全部終わってから、勝利の美酒を存分に味わう祝勝会だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

職員室下の階。昇降口の近く、されど生徒が滅多に通らない場所に大掲示板は設置してある。

 

学年ごとに、中間テストの結果が掲示され、学年全体の平均点から個人の点数まで細やかに載せられているのだ。

 

中学校ではなかった、出来なかったシステムだが、この学校ではそうもいかない。非常に重要なひとつだ。大きなクラスを動かすには、小さな生徒一人一人を細やかに動かすのも必要になる。

 

それが、敵だろうと味方だろうとだ。

 

「他の学年は平均点が高くない」

 

「うん。こんなテストもこれっきりってことだよね」

 

「まあ、正直最後のチャンス、って言う感じがしたな。次からの定期テストは学力の独壇場に変わるし、生徒が赤点をとって退学する可能性も増える。───覚悟しとけよ、って言葉が伝わるようだ」

 

つまり、次の期末テストからは、俺たちのクラスはAクラスと正面切って戦わなければならない。純粋な学力で勝負が決まるということだ。

 

それに、今回のテストではC、Dクラスとの明確な実力差も測れていない。ひとまず夏休みまでは気を抜けないということだ。

 

───しかし、今回である程度浮き彫りになったこともある。

 

「Aクラスの数人だけが、明らかに過去問を受け取っていない」

 

隆二の言う通り、Aクラスには数人だけどの教科も満点を取れてない生徒が存在する。

 

戸塚弥彦という生徒に至っては、平均して70点未満。明らかな足でまといだ。

 

「確か、Aクラスってふたつの派閥が勢力争いしてるんじゃなかったっけ?」

 

「ああ。坂柳派閥、そして葛城派閥だったはずだ」

 

そして、全て満点の坂柳有栖に対して、一教科しか満点の取れていない葛城。二派閥の競走は、今回の結果をもって坂柳派閥に振れるだろう。

 

坂柳は過去問に気づき、葛城は正攻法で挑んだ。

 

実に見た目通りの結果になったわけだ。

 

「坂柳有栖。そのうちAクラスをまとめて動いてくるんだろう。今から注意するべき生徒だろうな」

 

隆二も帆波もそれに賛同し、その場を後にする。

 

写真を取ってあるため、あとで参考程度に確認することにした。この後はBクラスの祝勝会。30分後に銀だこに集合するため、この辺で頭を使う遊びは終わりにしておこう。

 

3人で昇降口までの道を歩いていると、向こうから似たような3人組が歩いてくるのが見えた。

 

紫色の長髪に、冷たい表情を携えた女子。

 

金髪をオールバックで後ろに結ぶ、中背でなにか企んでいそうな笑みを浮かべる男。

 

そして、薄い水色に染めた髪に黒いハンチングを被り、薄く、しかし堂々とした微笑みを浮かべながらこちらを見つめる美少女。

 

杖をつきながら、後ろに2人を従えて歩くのは坂柳有栖その人だ。

 

俺達も、坂柳たちも数歩の距離で立ち止まる。

 

口火を切った。

 

「こんにちは、坂柳さん。そして橋本くんに神室さん」

 

「知ってたのかよ」

 

驚いたように金髪───橋本がつぶやく。同様に神室も、なにか見定めるように俺を見つめている。

 

「そうでしょうね。私たちを含め、他クラスのめぼしい人物をそれとなく探っているのは、すぐに気が付きました。初めまして。坂柳有栖と申します。伊王野美颯さん」

 

そうして、俺の隣のふたりにも目をやった。

 

「それに、神崎隆二くんに一之瀬帆波さん。───一之瀬さんは、数日ぶりですね」

 

「うん。元気そうでなにより、だよ」

 

2人には面識があるようで、お互いに優しく微笑み合う。ただ、帆波の微笑みが友達に向けるものであれば、坂柳が帆波に向けるそれはペットを見るようなそれだ。

 

表情に感情を投影しない分、彼女は瞳や視線に色が付きやすい。そう感じた。

 

「さて、せっかくの場です。クラス平均点の学年1位獲得、おめでとうございます。そして、非常に感謝をしていることも申し上げておきましょう」

 

「どういうことだ」

 

「簡単なことですよ、神崎くん。あなたたちのおかげで、スムーズにクラスの統一が進みそうです。私には言葉でクラスを扇動する力はありませんが、結果で従える力なら持ち合わせておりますので」

 

言葉の合間に俺をしっかと捉えている。今この瞬間も観察しているのは用意にわかった。

 

同時に、彼女がそれなりに興味を持っているのも。

 

「楽しみにしてなよ。俺も、楽しみにしてる」

 

「ええ。───あなたには期待していますよ」

 

そう言い放つと、彼女たちは振り返って去っていく。

 

なるほど、俺たち、いや、俺が各クラスの内部を探っているのを知って、ここに現れるのを予測していたわけだ。

 

なかなか食えない女だ。実に食いたくなる。

 

運動できない体と言うのが実にもったいない。

 

だが、だからこそ楽しめる。

 

純粋な思考力の勝負ができるのだ。こんな機会は滅多にないだろう。

 

来るAクラスとの全面対決に心を震わせながら、俺たちは真っ赤な空のもとに出た。

 

とりあえず、今日はパーッと騒ごう。そして、また今日から戦いを始めるのだ。




「初めまして、坂柳有栖お嬢様に執事とメイドの御二方。お会いできて光栄でございます」

「そんなキャラだっけ!?」

こんな初対面も一瞬考えて、すぐに却下しました。ワラ


どうも、口の端にほっぺが!です。気軽にほっぺとお呼びください。

よう実の二次創作に感化されて勢いで書きました。とりあえずエタらないようにスピード重視で続けるつもりです。

一応よう実は最新刊まで追っているのですが、あまり考察系の情報は深くまで調べきれていません。故に独自解釈や原作と違う箇所も出てきます。

これは無理があるやろ!って感じるところがあればどしどし送ってください。メンタルがよわよわなので、返信はできかねますが。

とりあえず一章時点での独自解釈をざっと。

Bクラスの主要メンバー以外は、名無し、名前以外の情報が少ない生徒で占められているので、ほぼ全員が私の想像です。
加えて、大掲示板なる存在を作りました。なんとか最後のシーンを作りたくて出したのですが、もし似たような仕組みのものが原作にあれば、教えて貰えると嬉しいです。

章ごとに更新しますので、引き続きよろしくお願いします。

ではでは。
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