フーシャ村①
私は多分、死んだ。
私の人生の全てを賭けた一世一代のエンドレスライブ。でも、皆はそんなこと望んでいなかった。私のやろうとしていたことはただの独りよがりで、結局皆を苦しめるだけの結果に終わったのだ。
でも、私がシャンクスの薬を拒んで自ら死を選んだのは、それだけが原因じゃない。
私は、いつか死ぬならシャンクスの側で死にたかった。それだけ。
強いて言えばルフィの奴も...いや、アイツは多分私が死んだら泣き叫んでうるさいからいいや。
...本当にそうかな?ルフィは私が死んだら、悲しんでくれるかな?
あぁ、シャンクスにも、ルフィにも会えて、私は勿体無いくらいの良い最期を迎えられたのに....。
「...どうして、泣いてるの...?シャンクス...」
「...泣かないさ。俺たちの仲間の...娘の門出だ。笑って別れるよ」
「...負け惜しみ」
「お〜い、ウタ〜!!」
...。
「あ、いた!お前おれが呼んでるんだから早く来いよ〜!」
「...ルフィ?」
「ん?なんでお前泣いてんだ?」
ここは、どこだろう。
懐かしくて、涙が出てくる。
「シャンクスがよ!次の航海に出るって言ってたぞ!お前行かなくていいのか?」
「...ここって」
そこは、小さな丘だった。見渡す限りの草原で...見下ろすと、麓には小さな村が見える。
穏やかな風が吹き抜け、海も草もたおやかに揺れる。まるで平和を象徴するような、のどかで静かな村。
私はこの村が大好きだった。
私の理想の世界は...世界中がこんな場所になることだったから。
「フーシャ村...」
私は夢を見てるんだろうか。それとも走馬灯?一つだけ言えるのは、私は今、こう思っている。
「...ずっと、ここにいたい」
「え?お前行かなくていいのか?」
「どこにも行きたくない」
「え〜!?勿体ね〜!...あ!ししし、じゃあおれが代わりに行けるか頼みに行こう!」
たたたっ、と大急ぎで丘を駆け下りるルフィの姿を見て...私はなんだか、猛烈な不安に襲われた。
「ま、待って!ルフィ!」
「わぁ〜っとと!ん?なんだ?」
「あ、の...その...」
言いたい事は山ほどあるのに、言葉が詰まって出てこない。唇が乾く。
拒絶されたら、どうしよう。
私の脳裏には...私の全てが否定されたかのような、あの一瞬の光景が蘇る。私の“新時代”が、皆に拒絶されたあの瞬間が。
こみ上げてくる吐き気と、溢れそうになる言葉を押し殺しながら、必死に言葉を紡ぐ。
「...どこにも、行かない?」
「え?」
「ルフィは...どこにも行かない?」
「...」
私は何を言ってるんだろう。
ルフィは、目を離せばどこにだって行ってしまう。それを私の我儘で引き止めることなんて出来るわけないのに。そんな資格もないのに。
なんで私はこんなにも身勝手で...独りよがりで...
「あぁ!どこにも行かねェよ!」
「!?」
「どうせシャンクス達、乗せてくれねぇしな!あとでもう一回勝負しよう!」
ルフィは今度こそ、丘を駆け下りて行ってしまった。私はルフィの姿が見えなくなるまで、息をすることができなかった。
「...ぶはぁっ!」
...死ぬかと思った。
いや、実際多分、一回死んだから冗談にならないんだけど。でもそれくらいびっくりした。あんな事言われるなんて夢にも思わなかった。
「....まぁ、どうせアイツのことだからシャンクス達がいいって言ったらホイホイ付いていくに決まってるけど...!」
ルフィは何も考えずに言ったに決まってる。そこに変な意味はない、はずだ。
「っ!あ〜!!変な意味って何〜!?」
おかしい。感情がぐちゃぐちゃだ。
ばたっ、と思い切り原っぱに倒れ込む。
「...私は、帰ってきた」
多分これは夢じゃない。私は本当にあの頃に...フーシャ村に帰ってきた。
ここにはシャンクス達も、ルフィも居る。
エレジアの悲劇も起きてない。“トット・ムジカ”は目覚めてもいない。
「...夢みたい」
あぁ、なんか、もう...。
“新時代”とかどうでも良くなってきちゃった...。