「まったく、一生分の脳みそを使ったわ!ぶわっはっはっは!」
会議終了後。私とガープさん...そして背の高い海兵さん、クザンさんは会議室の外で話をしていた。
「あの、ガープさん。本当に...色々とありがとうございました」
「なに、気にするでないわ!元はと言えば、わしが蒔いた種じゃからのう。お前さんとルフィには悪いことをした」
「いや〜かっこよかったなァ!サカズキへの啖呵!痺れましたよ、ガープさん。あとウタちゃんも!これからは同業だな。うかうかしてるとすぐに追い抜かれちまいますよ?ガープさん!」
「まだまだ若いモンには負けんわ!ぶわっはっはっは!」
ガープさんが笑っていると、会議室の中からパーマヘアの大きな女性が出てきた。
「ダダンさん」
「あん?まだいたのか、ガキんちょ。さっさと失せな。私は子供が嫌いなんだ...!」
「うん?」
「私は子供が大好きでね。何の用だいお嬢ちゃん?」
ガープさんに凄まれて笑顔になったダダンさんに、私は会議中感じていた疑問をぶつけた。
「私とルフィが乗ってたあの船にダダンさんも居たって...本当ですか?」
「あぁ、それか...。本当だよ。なにせ...」
「わしが投げ入れたからのぅ」
「...」
ダ、ダダンさんも同じ目に遭ったんだ...!ご愁傷様です。
「ルフィとウタを送った後、念のためにこやつも放り込んでおいたんじゃ。結果としては、それが功を奏してルフィとウタを助けたと言うもんじゃから、わしもこいつには少し優しくしてやっとる」
「どこが?」
「そうなんですか?じゃあ...」
ルフィが殺されそうになったあの時...助けてくれたのはダダンさんなのかもしれない。だとしたらダダンさんにも大きな恩が出来てしまった。
私は何も出来なかったのに。
「...ありがとうございます。ダダンさん」
「あぁ?止せよ。礼なんてガラじゃねェ。ただの気まぐれさ」
ダダンさんはそう言って、私たちの前から姿を消してしまった。
「まったく、素直に礼も受け取れんのか。常識というものが欠けとる」
私は、多分これからガープさんの部下になる...そうなると、どうしても聞いておきたいことがあった。
「あの、ガープさん...ルフィのことなんですけど」
「ん?安心せい。ちゃんと無事でおる。むしろお前さんの身の方が危険だったくらいじゃ」
「いえ、それもそうなんですけど...。その、もうルフィに会うことって...フーシャ村に帰ることって、出来ないんでしょうか」
「...ふむ」
私がそう聞くと、ガープさんは顎に手を当てて考え込む。
「すぐに、というのは難しいじゃろうな...。お前さんの注目度は、今や海軍内でも相当なもんじゃ...!ほとぼりが冷めるまでは、大人しくしておくのがええじゃろう」
「...そうですか」
私はそう聞いて、どうしても落胆を隠せなかった。
ルフィは生きている。それなら私は謝りたい。ルフィの命も考えずに魔王を解き放ったことを...会って、謝りたい。
...どうせ、気にすんな〜とか言うんだろうけど。人の気も知らないで。
「すまんのう。わしらだけで勝手に話を進めてしもうた。まだお前さんの意思も確認していないというのに...。わかっとる。お前さんはルフィと共に海に出たいんじゃろう」
「...」
「正直、わしは反対じゃがのう...!ルフィが海賊になるなど、考えただけでむかっ腹が立つわ!!赤髪め...!余計なことをしおってからに」
海兵のガープさんとしては、ルフィが海賊になろうとしているのは望まないことは知っていた。シャンクスのこともあまり良くは思ってないようだし...。
...会議中、ずっと考えていたことがあった。
「ガープさん、そのことなんですけど...」
「ん?」
「私、海兵になろうと思います」
【パンゲア城・“権力の間”】
「サカズキはしくじったらしいな」
「ガープめ...まさか奴がこれほどの情報網を有していたとは」
「外部からの情報提供があったと見るべきだ。これほどまでに仔細を把握している存在は限られている」
「ウタウタの実と魔王は、軍部の手中に収まった。これは唯一の収穫だな」
「そもそも、何故エレジアに封印されたはずの“楽譜”の内容を知っている?結局あの娘の来歴は曖昧なままだ...赤髪との関係も気になる」
世界政府“最高権力”・五老星。
彼らの話題は、異例の“軍法会議”によって注目を集めた一人の少女についてのものだった。
“軍法会議”の件は、すでに新聞によって世界に報道されている。無論、天竜人の件は伏せられたまま。
新聞の見出しはこうだ。
“異例の軍法会議 バスターコールを誘発した一人の少女”。
つまり、表向きにはバスターコールはウタ...及び彼女に宿る魔王に発令されたものとされている。これは、ウタの自由な身動きを制限する為に世界政府によって捏造された“事実”だった。彼女が仮に海軍から逃げ出せば、即座に罪人として抹殺できるように。
世界政府は、ウタを飼い殺しにすることを選択した。
「...しかし、やはりトット・ムジカは危険だ。現場の報告によれば、軍艦10隻の一斉砲撃をもってしても...“魔王は傷一つ付かなかった”という...!こんな存在を許していいのか?下手をすれば“古代兵器”にも匹敵する戦力だぞ。後世の憂いを断つなら消すのが最善だ」
「逆に考えてみろ。それだけの力を持った存在が、現実には無傷のまま消えたのだ」
「その上、魔王は現れこそしたが、自身に危害を加える存在に対して興味を示さなかった。ただ、足元の“何か”を守るように佇んでいただけと報告にある」
「...つまり、あの娘はトット・ムジカを“制御”していると?」
その場は一瞬、静寂に包まれる。
「可能性の話だ...。だが、彼女が軍部に対して従順であり続けるなら、我々は“兵器”を手に入れたも同然...!ただ殺すには惜しい」
「じっくりと、見定めるのだ。あの娘が我らの“駒”となるのか。それとも摘み取るべき“灯”なのか...!」
齢9歳にして世界の注目を集めた少女の存在は、すでに人々の語り草となっていた。
【東の海・ドーン島】
「村長!村長〜!!」
「マキノ?どうした。血相を変えて...!まだ傷も癒えておらんじゃろう」
フーシャ村村長のウープ・スラップは、酒場から飛び出してきたマキノを見て目を丸くした。つい先日村に戻ってきて、目を覚ましたかと思えば「ルフィが」「ウタが」と大騒ぎの彼女を宥める為に村総出でかかったことは記憶に新しい。
「これ!これ見てください!」
「うん?...な!こ、これは...!ウタ!?」
「ど、どうしましょう...!ルフィに知らせた方がいいでしょうか...!?」
その手に持っていたのは、本日発行されたばかりの“世界経済新聞”。
そこには、一面にウタの顔写真と、彼女が一国を滅ぼしたという内容が綴られていた。彼女を知る村長やマキノにしてみれば、信じがたいという他ない。
「...むぅ。ただでさえ今のあやつは不安体な状態じゃ。そこにこんな爆弾を投げ込めば、何が起きるのか想像したくも...」
「あ〜〜〜〜!!!ウタ〜〜〜〜〜!!!」
「わっ!?ル、ルフィ!?」
「な!ルフィ!?お前いつから...!」
いつの間にかそこにいたのか、話し込んでいた二人の合間から頭に大きな包帯をした少年が飛び出て来る。
少年の名は“モンキー・D・ルフィ”。
「おい!なんだこれ!なんでウタの写真が載ってんだァ〜〜〜!!?」
「こ、これはだな...。あ、そ、そうだ!お前さん喉が渇いたんじゃないか!?ほれ、酒場でジュースを奢ってやる!」
「そ、そうね!ルフィ、まずは喉を潤してから...!」
「ジュースなんか飲みたくねェ!!村長!マキノ!!ウタはどこにいんだよ〜〜〜!!!」
「む、むぅ...!」
「...困ったわ」
それから数日間...。
無謀にも酒樽とオールという組み合わせで海に出るや、そのまま溺れて大人達に連れ戻されるということを繰り返し続ける一人の少年の話題で、村は持ちきりになった。
【東の海・とある海域】
「...」
「あら、随分長い外出だったじゃない。用事はもう済んだの?」
「あぁ。目的は達した」
「ン〜フフフ、最初は“山賊”なんて相手にし出して、どうしたのかと思ッチャブルだったけど...!この結果はヴァナータには見えてたってワケ?“ドラゴン”...!」
「...ただ“風”に従っただけだ」
「んもぅ!!ヴァナータのそういう言葉を濁しがちな所...!!本っ当〜〜〜に...!!」
「...」
「“大好き”〜〜!!“嫌い”じゃねーのかよーっ!!一本取られたよーっ!!セルフツッコミッ!!」
「そうか。イワ、俺はもう少しあの娘の動向を探る。これは直感だが...」
「彼女は、“革命軍”に入るべき逸材なのかもしれん...!!」
【
「...」
「お頭、紙を見つめてたって、ウタに会えるワケじゃねェぞ。行動を起こすなら早い方がいい...!」
「そうだ、お頭!俺たちの仲間の危機だ!助けに行こう!」
「へっ、海軍本部に乗り込むか...!俺の狙撃の腕がどこまで通用するか楽しみだ!」
「いや、俺たちはこの件に関しては何も動かない」
「えェ〜〜〜!?なんでだよっ、お頭ァ!」
「この薄情モンが!見損なったぜ!!」
「“赤っ恥のシャンクス”〜〜〜〜!!!」
「ベック、俺たちは確かに聞いただろ?」
「...あァ、聞いたな。“ルフィと二人で会いに行く”って」
「それなら...俺たちは待つだけだ。あいつらが来るまでな。そうだろ?」
「...フッ、違いねェ」
「ウタ、お前は俺の娘だ。どんな困難があろうとも...お前なら乗り越えられる。俺はずっと待ってるぞ、いつまでもな...」
ガープに情報提供を行ったのは、じつはドラゴンだったりします。