“世界の歌姫”のやり直し   作:ぷに凝

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麦わらの一味“音楽家”・ウタ②

「...海兵?」

「そうよ」

 

私の言葉を聞いたルフィは、呆然とその場に立ち尽くしていた。

 

当然の反応だ。私は...ルフィを裏切ったんだから。

 

罵倒されるかな。それとも絶交?殴られるかもしれない。

 

どうなったとしても、もう決めたことだ。

 

「へェ〜...!じゃあさ!」

「?」

「ウタは海兵が終わった後に海賊になるんだな!!」

「...はぁ?」

 

私は、ルフィのキラキラとした目を見てただひたすら困惑した。

 

...ホントにバカだなぁ。ルフィって。

 

「はぁ〜...違うわよ。もう海賊にはならないの」

「えェ〜〜〜〜!!?」

「普通そういう話になるでしょ...?」

「なんでだよ!!一緒に海に出るって言ったじゃねェか!!」

「言ったけど...やめたの。悪かったわね」

「シャンクスは“一緒に来い”って言ってたぞ!?」

「...っ」

 

それを言われると、弱い。

 

この選択は、ルフィだけじゃなく...シャンクスまでも裏切ってしまうことになるから。

 

私はいつも、シャンクスを裏切ってばかりだ。

 

「...それでも、もう決めたの!今更アンタに何を言われても意見は変えない!」

「なんでだ!“新時代を作る”って言ってたじゃねェか!!」

「っ!!そんなの...出来るわけないでしょ!!」

 

私は、思わず絶叫していた。”新時代“。それは私が今一番聞きたくない言葉だった。

 

過去の間違いだらけの私を象徴する言葉だ。

 

「なんで出来ないって決めつけんだ!!やってみなきゃわからねェ!!」

「やったよ!!だから言ってるの!!!」

「...え?」

 

お互いに、息を切らしながら叫ぶ。こんなに大声を出したのはいつぶりだろう。

 

私は、呆然としたルフィの顔を見ていたら、なんだかとても懐かしい気分になって、こんな提案をした。

 

「...ルフィ、勝負しようよ...!前みたいに...!私が勝ったらもう泣き言言わないこと。わかった?」

 

その提案に対し、ルフィは一瞬驚いた顔をして...すぐに好戦的な笑みを浮かべた。こういうことをすればルフィは乗ってくると、私はわかってた。

 

「...ししし!いいぞ。じゃあおれが勝ったら海賊になれ!!ウタ!!」

 

そうくると思った。

 

「望むところよ。言っておくけど、手加減はしないから」

「当たり前だ!!」

「じゃあ、かけっこ勝負ね。ここから丘の麓まで...!どっちが先に着くか勝負よ!」

「おう!負けね「はいスタート!」ェ...あー!?ずりーぞ!!」

 

私とルフィは、勢いよく走り出した。

 

「はああああぁぁぁっっ!!!」

「あああああァァァッッ!!!」

 

全力で体を動かして、絶対にこいつには負けたくないって、お互いに思いながら。

 

私たちは、ただただ走った。

 

 

 

「...ひ、引き分けね...!!」

「ゼェ〜...!ゼェ〜...!!」

 

私とルフィは同じ場所で同時に倒れ込んだ。

 

...実は勝つことも出来たんだけど、あえてちょっと手加減してルフィを待ったのは内緒だ。

 

「...ウタ、お前本当に海兵になんのか?」

「さっきから...そう言ってるでしょ...」

 

息を整え、一緒の空を見上げながら、私たちは語らう。

 

「...なんでだ?」

 

私は、頭の中でルフィを納得させる“理屈”を探した。

 

会議で決まったことだから。逃げられないから。将来の安定性。

 

私は、その中で一番ルフィを説得できる答えを出す。

 

 

 

「私、未来から来たの」

 

 

 

...あれ?

 

何言ってんだろ。

 

 

「...未来?」

 

ほら、ルフィが食いついた。早く言い直さないと。訂正しないと...

 

「...そう。私は、12年後の未来を知ってるの」

 

もう...戻れなくなるのに。

 

 

...私は、ぽつぽつとルフィに語った。

 

赤髪海賊団との別れ。エレジアでの“歌姫”活動。新時代を作るライブ。そこでの失敗。ルフィとシャンクスとの再会。私の死。

 

全部、全部。

 

私は...喋ってしまった。

 

 

「...」

「...」

 

全てを語り終えて、私たちはしばらく無言だった。

 

「...ん〜」

 

ルフィは、しばらくうーんと唸る。

 

必死に平気を装おうとするが、心臓がバクバクと鳴って、変な汗が出てくる。まるで、裁きの時を待つ罪人の気持ちだ。

 

「...よくわかんねェ!!」

 

...そう聞いて、私は思いっきり脱力してしまった。

 

「...そんなことだろうと思った」

 

詰まっていた息を大きく吐き出す。

 

「なんでそれで、お前が海賊にならないって話になんだ?別にシャンクス達のことは嫌いじゃねェんだろ?」

「うん。“海賊嫌い”は、ただの私の勘違い。海賊にならない理由は...私には、そんな資格もないからってだけ」

「はぁ〜?」

「今聞いたでしょ。私は危うく魔王を蘇らせて、世界中の人達を殺しちゃうところだったの。ルフィとシャンクスのお陰で、そうはならなかったけど...私のやったことは、許されないことなんだよ」

「別に殺そうと思ってやったわけじゃねェんだろ?」

「結果的にはそうなったでしょ。私の考え方じゃ、皆は幸せになれなかったの」

「ふ〜ん。おれはお前の作る世界って、嫌いじゃねェぞ!!楽しそうだしな!!ししし!!!」

「...そっか。初めて言われた」

 

...。

 

「ねぇルフィ...海賊になるのやめなよ」

 

「え?」

「私と海に出てさ、誰もいない島に住んで...一緒に暮らさない?きっと楽しいよ。お家を作って、果物を取ったりして、歌を歌っ...て...」

 

そこまで言って、私は正気に戻った。

 

「ごめん。やっぱり今のナシ」

 

私は、どこまで自己中心的なんだろう。

 

...死んじゃえばいいのに。

 

「...」

「...ルフィ。私と海に出ても、良いことなんて何もないよ。迷惑ばっかりかけるだろうし、海軍だってたくさん追ってくるだろうし。それに...ルフィを助けてあげられないよ」

 

私は、せいぜい歌を歌うことしかできない。それも、私の能力があればまだ役に立てただろうけど...もう今は使えないし。

 

私はルフィの役に立てない。

 

「んー、そうか?おれはウタに助けられたぞ?」

「...はぁ?いつの話それ?」

 

返ってきたルフィの言葉に、私は思わず気の抜けた返事をしてしまった。

私がいつルフィのことを助けたと言うんだろう。

 

「この前だ!マキノを助けに船に乗ったろ?おれそん時気絶しちまったんだけどよ!目ェ覚めたら、ウタがおれのこと守ってくれてたじゃねェか!」

「...なに、それ」

 

私は、そんなこと知らない。

 

...なにかの勘違いだ。

 

「覚えてねェのか?言ってたじゃねェか!“目が覚めたら、一緒に海に出よう”って!!ししし!!」

 

...。

 

「そっか...あなたが私に“やり直し”の機会をくれたんだね」

 

「お願い、力を貸して」

 

「大丈夫だよ、ルフィ。私が守ってあげるから」

 

「目が覚めたら...一緒に海に出ようね」

 

...。

 

 

その瞬間、私の脳裏に“記憶“が蘇った。断片的な...“あの日”の記憶。

 

「...嘘だよ」

「嘘じゃねェって!“未来”知ってんならわかるんじゃねェのか?」

「私は、何も知らないよ」

 

未来を知っているのに、何も変えることができない。それが私だったはずだ。

 

私が...ルフィを助けた?あり得ない。

 

それどころか私はあの日、ルフィを...

 

「ふーん?とにかく、おれはウタと海に出てェ!!海賊は唄うんだろ?船には“音楽家”が必要だ!お前はおれの船に...」

 

 

「...アンタは私のせいで死にかけたんだよ!?」

 

 

私は、我慢が出来なくなって思い切り立ち上がり、ルフィを見下ろした。

 

 

ルフィの呑気な笑顔を、私は凄い目で睨みつけていたと思う。

 

「覚えてない!?アンタは私のせいで死にかけたでしょ!?なのに、なんでまだ私に構おうとするの!?」

「...おれがお前に助けられたからだ」

「なんで...!私は、もうこれ以上...!!未来を変えたくないの!!」

「...なんでだよ。知らねェ未来が恐ェのか」

「恐いよ!!」

 

ルフィも立ち上がって、私とルフィは真正面から向き合った。

 

「私が未来を変えたら...本当なら、もっと未来まで生きられたはずのアンタが...!死ぬかもしれない!!」

「...!」

 

「そんなの...!!耐えられるわけないでしょ...!!?」

 

気づけば、私は涙を流していた。

 

滅んだ島で目覚めたあの日。ルフィが私のせいで死んだかもしれない...そう思った時、私は絶望のどん底に叩き落とされた。

 

“本当の未来”なら、ルフィは必ず...少なくとも12年後までは生きられる。なのにルフィが“その前”に死ぬとしたら、それは未来を知ってる私が原因でしかあり得ない。

 

私のせいでルフィが死んだら...その考えが頭に浮かんだ時点で、私の中から“ルフィと離れる”という以外の選択肢は消えてしまった。

 

私がいなければ、少なくともルフィがすぐに死ぬことはないのだから。

 

「私は...!ルフィが死ぬのが...!こわい...!!」

 

それが、私が海兵になった理由。

 

ルフィから離れる事を決めた理由だった。

 

 

 

「お前のせいで死ぬなら!!おれは別に良い!!」

 

 

...。

 

何を言われたのか、わからなかった。

 

「な...!!何言ってんの...!?良いワケないでしょ!!?」

 

一瞬の思考の空白。その後に、ようやく私はルフィの言った事を理解して、怒りと共に叫んだ。

 

「いや、良い!!おれはどうせ死ぬなら仲間に殺されてェ!ウタに殺されるんなら、おれは後悔しねェ!!」

「ふ、ふざけないで!!仲間に殺されることが...!良いワケないでしょ!?」

「良いっつってんだろ!!おれの気持ちの問題だ!!」

「この...ッ!」

 

私は、咄嗟にルフィに掴みかかって地面に押し倒した。

 

「ワガママ言うなッ!!“モンキー・D・ルフィ”!!」

 

コイツは何もわかってない。私がどれだけルフィのことを考えて悩んだのか、まるでわかってないんだ!

 

「私は海兵になるの!!もう“敵”なの!!仲間じゃない!アンタとは一生会わなくなるのよ!!」

 

だから私は、ルフィを突き放す言葉を叫んだ。

 

「そんなの...!!関係ねェ!!!」

 

だけど...わかってないのは、もしかしたら私だったのかもしれない。

 

コイツは...このバカは、人の気持ちなんて一切汲み取ってくれない大馬鹿野郎だって、わかっていたはずなのに。

 

「ウタ!!お前はァ!!おれの〜〜!!!」

 

「“仲間”だァ!!!」

「...ッ!?」

 

...

 

......。

 

 

「ふ〜ん...じゃあさ!ウタ、お前...」

 

「おれの仲間になれよ!」

 

これは、私がルフィに誘われた“あの日”の記憶。

 

「はぁ?」

 

私は、ルフィからの突然の勧誘に気の抜けた返事をした。

 

「お前の夢!おれは気に入ったぞ!海賊王のクルーになるんなら、それくらいじゃなきゃダメだ!」

「...“海賊王”って、アンタ...意味わかって言ってんの?シャンクスですらそう呼ばれてないのよ?」

「あぁ!おれはシャンクスを超えるからな!シャンクスよりすげー海賊になるんだ!」

「へぇ、アンタがねぇ...?言っておくけど私は安くないわよ?私は世界一偉大な船に乗ってるんだから。アンタが勧誘してるのは世界一偉大な音楽家なの」

「ししし!ならおれの船に乗れば“海賊王の音楽家”だ!!」

「...“海賊王の音楽家”ね〜」

 

私は、ふふ、っと笑ってルフィに言った。

 

「悪くないわね、それ」

 

...

 

......。

 

 

「お前はおれの船の“音楽家”だから!!おれがお前の全部を背負ってやる!!」

 

 

...気づけば、私はルフィに押し倒されていた。すぐ近くに、ルフィの見たこともない怒った顔がある。

 

「...何、言ってんの...!?」

 

「何が起きても!!おれは味方だ!!」

「...ぁ」

 

視界が滲んで...ルフィの顔が見えなくなる。

 

「いいか!おれはお前に命を預ける!!だから、お前もおれに命を預けろ!!」

「...うっ、ぁ...!」

 

私の気持ちなんか無視して、一方的に叩きつけられる言葉。それなのに...

 

「おれは絶対に!お前がいねェ所で死なねェ!!だからお前も...!!おれがいねェ所で死ぬな!!」

 

私は、どうしても...

 

「仲間はどこにいても繋がってるんだ!!だから、離れても...!海兵になっても!!」

「...ル゛フィ...っ!!」

 

ルフィを押し退けることが、出来なかった。

 

 

 

「おまえは仲間だァ!!!」

 

 

 

「...う゛っ、うぅ...!!」

 

私の中に、ずっと、泥のように溜まり続けていた。抑えつけていた感情が...

 

 

...壊れた。

 

 

 

 

「う゛あぁぁあぁぁぁぁ......!!!」

 

 

 

 

私はその日...ただただ泣いた。

 

不安が、絶望が...“二度の人生”分の負の感情が、すべて、溢れ出ていく。

 

 

「ルフィ...!ル゛フィ...っ!!!」

 

 

私の心に燻る“闇”も、“過去”も。

 

全部太陽のような温かさで、涙と共に流し去ってしまった一人の男の子。

 

ようやく思い出した。

 

私は...彼の船に乗る“音楽家”だった。

 

 

「あ゛ぁ゛あぁぁぁぁぁぁ......!!!」

 

 

...

 

......。

 

 

「あ!戻ってきましたよ、村長!ルフィ!ウタちゃ〜ん!!」

「...ふぅ。何かあったのかと思ったわい」

「ガキンチョどもめ...チッ、心配させやがって」

 

私はルフィと、二人で村に降りて来ていた。

 

もう...迷いはない。

 

「ねぇ、ルフィ」

「うん?」

 

 

「...ただいま!」

 

 

「...おう!おかえり!ししし!」

 

私は、未来の海賊王の“音楽家”なのだから。

 

 

【ドーン島・近海】

 

「あらら...なんだよ、もう男が居んじゃねェか。寂しいねェ」

 

海軍本部大将・“青雉”クザンは、ガープから仰せ使ったウタの護衛と、経過観察の任務のため村近くの海に居た。

 

...自転車に乗った状態で。

 

「追手もこなさそうだな。帰ろ」

 

クザンは海上に氷の道を作りながら、ゆっくりとペダルを漕いでいく。

 

「海は見ている〜...♪」

 

風は東。穏やかな気風が...静かな海をそっと撫でる。




次回、第一章完結です。
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