「...ガープさん、大丈夫?」
「ほう...!らいひょうぶば...!」
翌日。私は、フーシャ村の港で軍艦から降りてきたガープさんを出迎えた。
昨晩は夜遅くまで、マキノさんと、村長と、ダダンさんと...ルフィと。皆で大騒ぎしてしまった。気づいたら私達は眠ってしまって、最後まで起きていたマキノさんたちによって酒場で寝かせてもらっていた。
...なんか前にもこんなことあったなぁ。
そして私はガープさんとの約束通り、港で軍艦に乗る準備を進めていた。
ただ...ガープさんの顔は、もはや原型を留めてないほどにボコボコだ。
「やっぱり、怒られたんですか?この“帰省”って...」
「だいひょうぶば...!なにも...!ながっだ...!」
「それは無理があるかと」
...こんなになってまで私をこの村に帰してくれたガープさんには、やっぱり頭が上がらない。流石、ルフィのお祖父さんだ。
「ぼまえはん...へっひょふ、はいぐんにもどぶのが...」
「はい。私のやったことに“ケジメ”をつけなきゃ、私は胸を張って海賊になれませんから!」
「なるな」
私は、やっぱり海兵になることにした。
色んなことが中途半端なままだし、これ以上皆に迷惑をかけられない。
それに、私が逃げ出したら...流石にガープさんの立場がマズいことになると思った。命の恩人に対して、不義理はできない。
「行っちゃうのね、ウタちゃん...。寂しくなるわ」
「マキノさん...」
「...風邪を引かないように、暖かくしていきなさい。この時期の海は冷えるぞ」
「...はい、村長」
「...」
「ルフィ〜?ウタちゃん行っちゃうわよ〜?」
見送りの場に、ルフィの姿はなかった。
いや、正確にはある。港から離れた場所で、私に背を向けて座っている小さな影がルフィだ。
「知らねェ!!ウタなんか!!」
「もう...!!困った子ね」
「大丈夫、マキノさん。...ガープさん、ちょっとルフィと話してきますね」
「おう。しばらく会えんぞ。言いたいことは吐き出しておけ」
「はい!...って、顔が戻ってる...!?」
一瞬目を離した隙に、ガープさんの顔の腫れは引いてすっかり元通りになっていた。
どういう原理?...人体ってそうだっけ。
「...」
「ルフィ〜?なんで見送ってくれないのかな〜?」
「だって...!結局“海兵”になるんじゃねェか!!行っちまうんだろ!?」
「...もう」
ルフィは本当、こういうとこはどこまでもガキだ。
...昨日はあんなにカッコよかったのに。
「“離れてても仲間は繋がってる”。でしょ?ルフィ」
「...そうだけどさァ〜...!」
「寂しいの〜?」
「さ、寂しくなんかねェ!!」
「出た!負け惜しみィ〜♪」
ルフィが振り向き、若干泣き腫らした跡がある赤い目が露わになった。本人の名誉のために、これは黙っておいてあげよう。
「だから寂しくねェよ!!だって...また帰って来るんだろ!?」
ルフィは、私に詰め寄ってそう聞いてくる。私はそれに対して、こくんと頷き返した。
「...うん。帰って来るよ。私はルフィの“仲間”だからね」
「...約束だぞ!!」
「うん、約束!」
私は...海兵として色んなことに決着を付ける。海賊となるその日のために。
「私は、ちゃんと海兵として活躍して...!強くなって...!堂々とアンタの所に戻ってくるから!」
「...!」
「その時まで、私の席は空けといてよね!!」
どれだけ時間がかかっても...私はルフィの元に戻ってくるのだから。
「...ししし!おう!わかった!!」
ルフィも、私の決意に対して最高にカッコいい笑顔を見せてくれた。
私の好きな笑顔を。
「ルフィ、おめェ本当にわかっとるのか。ウタもすぐに戻ってこれるわけじゃないぞ。海賊になるっちゅうことは...海兵になるウタとは“敵同士”になる...!」
そうこうしていると、ガープさんが私の後ろから身を乗り出してくる。
用件があるのはルフィらしい。
「大丈夫だ!ウタは“敵”になっても“仲間”だからな!!」
ルフィは、ガープさんからの質問に対して笑顔で答えてくれた。
生憎、その問答は散々した後だったのだ。
「...そうか。お前さん達がそれでいいなら、わしからは何も言うまい」
「これでいいんです!ルフィは」
めちゃくちゃで、常識が通じない未来の“海賊王”。それが私の船長だ。
「お前達の考えはよ〜くわかった。つまり...!ルフィ、お前さんはどんなに強い敵に阻まれようともウタを連れてくっちゅうわけだな...!よし、ダダン!ちょっとこっち来い!頼みがある!」
ガープさんは、遠くの方で縮こまっててたダダンさんを呼び寄せた。呼ばれた瞬間ダダンさんの肩がビクッ!と震える。
...なんか嫌な予感。
「な、なんです?ガープさん...あ、あの...。命が危なくない方向の無茶でお願いできませんかね...」
そんなダダンさんの切実な願いが届いたのか、ガープさんの“頼み”というのは、別段命に関わるものではなかった。
「ルフィをお前さんたちの“家”で育てろ!!“エース”と共にな!!」
「え〜〜〜〜!!?」
...“無茶振り”ではあったけど。っていうか、“エース”って誰だろう...?
「え〜〜!!ダダンの家で〜!!?嫌だ〜〜!!」
「嫌なのはあたしだよ!!クソガキ!!...ガ、ガープさん勘弁しておくれよ...!エースだけでも手ェ焼いてるってのに、こいつまで付いて来たら...!」
「わしゃあしばらく勝手な動きは取れん。この村に帰ってくる頻度も減るじゃろう。じゃからお前さん達がルフィを育てるんじゃ!!ええな、ルフィ!!」
「嫌だ〜〜〜〜〜!!」
ルフィは徹底抗戦の構えだ。だけど、ガープさんを前にしていつまで保つかはわからない。
頑張れ、ルフィ...!
「行くぞ、ウタ!荷物は持ったな?」
「はい!ガープさん!いつでも出れます!」
「ウタ〜〜!!行くなよ〜〜〜!!」
軍艦に乗り込もうとしたら、ルフィの情けない声が聞こえてきた。
「....あ、そうだ...♪」
その時、私の脳裏に“いいアイディア”が浮かんだ。ぐずるルフィを確実に“説得”することができる妙案だ。
「ルフィ、耳貸して?」
「...ん?」
私はルフィに近づくと、チョイチョイと手を動かしてキョトンとした顔をしているルフィを近くに寄せる。
そして。素早くその耳に唇を近づけ、囁くように言った。
「我慢できなくなったら、一緒に海に逃げようね♡」
「うわァっ!?」
ルフィは一瞬で飛び退くと、そのままゴロゴロと地面を転がって、建物の壁に頭をぶつけて大の字に寝っ転がった。私はそんなルフィの顔を、唇を弧の形に歪めながら覗き込んだ。
「ふふ...そうならないように、ちゃんとダダンさんの言うこと聞くんだよ?じゃないと...捕まえに来ちゃうから♪」
「...!」
ルフィは、私の顔に信じられない物を見たような...見開いた目を向けて固まってしまった。
ドッキリ大成功♪
「行きましょう!ガープさん!」
「おう。皆〜!達者でなァ!!」
私は軍艦にピョンっと飛び乗り、フーシャ村の皆と笑顔で別れる。
「じゃあね〜!ウタちゃ〜ん!!“海兵”がんばって〜!!」
「ガープ!お前、ウタを危ない目に遭わせたら承知せんぞ!!」
「...はぁ。なんであたしがこんな目に...」
「じゃあね!皆〜!!...あと」
私は船から身を乗り出して。
「ルフィ!!」
未だに固まったままのルフィに大声で呼びかけた。
「...ありがとう!またね!!」
「...お、おぉ〜!!」
ルフィの戸惑い気味の返事を聞いて、私はにっこりと笑う。
波風が、私の体を右へ左へ...リズムに乗せて揺らしていく。
「〜♪」
揺れに合わせ、私は歌う。
いつの日か、ルフィが“歌”を私に求めた時、存分に答えられるように。
「...ガープさん、言ってましたよね?“信念のない海兵はダメ”だって」
フーシャ村が見えなくなった頃、私はガープさんに質問を投げかけた。
「む?ああ、確かにそんなことも言ったな...。なんじゃ、お前さんにも海兵としての“信念”があるのか?」
「はい!私、海兵になってやりたいことができたんです!」
「そうか...。そりゃええことじゃ。目的があるってのァ、なんにせよ良い...!どんなことがやりたい?」
「ふふ、それはですね...!」
「...帰って来よったか」
海軍本部。マリンフォード。
海軍本部大将・“赤犬”サカズキと“黄猿”ボルサリーノは、中将ガープと、その部下ウタが多くの海兵に詰め寄られて、質問責めにされている現場を眺めていた。
「このまま尻尾巻いて逃げ出しとった方が、いくらかマシだったかもしれんのう...!!そうすりゃ遠慮なく“始末”できた」
「首の皮一枚繋がったって所だねェ〜〜〜〜。ガープさんも、今回は随分大きく動いた...。“追われる身”になる覚悟があったのかねェ〜〜〜〜...!!」
「...あの“小娘”に、それ程の価値があるとは思えんがのう...!ん?」
気づけば、海兵達に囲まれていたウタは高台に登り...“歌”を歌っているようだった。
どういうわけか、周囲の海兵はそんなウタを囃し立てるように盛り上がっている。
「...何さらしとんじゃ、あの阿呆共...!!」
「オォ〜...楽しそうだねェ〜〜〜...わっしも混ぜてもらおうか...?」
「下らん...!!“正義”の恥晒しじゃ!!」
サカズキはそう言い残して、建物の奥に消えていく。
「...こりゃ案外、面白い娘が入って来たのかもねェ〜〜〜...」
ボルサリーノは眼下の光景を眺めながら、手に持つ湯呑みを傾ける。
「...冷めたか」
「ウタちゃん!今のもっかいやってくれよ!すげ〜歌声だな!」
「おい!俺のリクエストが先だぞ!!ウタちゃ〜ん♡そうだよね?」
「先と言うなら俺が最初に話しかけたんだ!!」
「あんだとォ!?」
「ぶわっはっはっは!あっという間に一躍人気者じゃのう!ウタ!」
「ごめん、皆!気持ちは嬉しいんだけど...私、センゴクさんの所に行かなきゃいけないから...!」
私は、海兵の皆に囲まれながらセンゴクさんの執務室へ向かっていた。
色々と勝手な行動を取ってしまったので、ガープさん共々出頭のご命令だ。
「どうせ怒られに行くんだろ!?安心しろ!!ウタちゃんは俺たちが守るぞ!!」
「うお〜〜〜!!“元帥”がなんぼのモンじゃ〜〜〜!!」
「「「突撃〜〜〜〜!!!」」」
「あっ、ちょっと皆!?」
止める間も無く、皆は扉を蹴り破って執務室へ雪崩れ込む。
「...随分楽しそうだなァ」
「「「!?」」」
部屋の中には...センゴクさんがいた。
“全身黄金”になって...!
「うわァ!“人獣形態”だァ!!」
「逃げろ〜〜〜!!」
「ごめん!!ウタちゃん〜〜〜!!」
その姿を見るや否や、集まっていた海兵さんは蜘蛛の子を散らすように走り去ってしまった。
「...まったく」
「ぶわっはっはっは!“仏のセンゴク”はダテじゃないのう!!」
気づけば、センゴクさんはいつも通りの姿に戻っていた。ただ“怒り”は収まっていないらしく、大笑いするガープさんをギロリと睨みつける。
「ガープ!!貴様のせいで私は一時“無職”になりかけたぞ!!」
「...それはお前さんの勝手じゃろう?」
「あァ!?」
「すいませんでした」
ガープさんがセンゴクさんに平謝りする中、私は一歩、踏み出す。
「元帥殿!“海兵”ウタ!ただいま休暇より復帰いたしました!」
私はビシッ!という音が鳴るほどしキビキビとした動きで“敬礼”をする。ガープさん仕込みによって何百回と練習させられた成果だ。
「...許可を出した覚えはなかったがな...!逃げずに戻ってきたことは評価してやろう。ガープ、二度とこんな真似はするなよ...!!」
「わかっとるわ。もう一日中顔面に針を刺し続けられるのはゴメンじゃ」
...ガープさん、そんなことになってたんだ。
私はそんなガープさんの心意気に応えなければならない。
「ウタ。お前は何故戻ってきた?...私が言うのもなんだが、ここに居座るのはお前にとって不本意な結果のはずだが」
「...そんなことありません。私には、“海兵”になってやりたいことがあります」
「...それは?」
私は、息を吸い込んで、キリッと前を見て、こう“宣言”する。
「私は...!皆が幸せになれる“新時代”を作ります!!」
私は“やり直し”を許された。私には、一度は失敗した事をもう一度やり直すチャンスがある。
だから私は、もう一度“新時代”をやり直すんだ。
世界を歌で幸せにするために...!
“東の海”編 完ッ!!
というわけで、第1章のようなものが終わりました。最終回じゃないよ!w 終盤の展開をずっとやりたかったがために、こういったタイトルを付けました。この作品は海兵のウタと、海賊であるルフィの、時に交わったり交わらなかったりする冒険を書く物語です。ここから物語は一気に10年後の本編時空へ飛んでいきます。
ただ、その前にこれからウタ達が成長する10年間の内に起きた、ちょっとした小話をいくつか挟む間章が始まります。更新頻度に関しては新章の構想を練るために少し落とすかもしれません。何週間も空くようなことにはならないと思いますが。そして新章ではついに“あのキャラ”が登場!誰だろう...!?当ててみてください!(ヒグマじゃないです)
我ながらここまで毎日連載を続けてこれたのは、ひとえに日々の皆さんの応援のお陰です!マジで!本当にありがとうございます。
それでは、引き続き『”世界の歌姫”のやり直し』をどうぞよろしくお願いします!