“襲来”
「はああぁぁっ!!」
「...」
「あうっ!」
私は、稽古場でゴロゴロと地面を転がって大の字になった。
「またダメかぁ〜」
「...ウタ、お前はそもそも腰が引けすぎた」
私は、いつもの様に竹刀を使った稽古を付けてもらっていた。
お相手は、スモーカーさんだ。
「ハッキリ言うが、お前は戦いに向いてねェ。お前の体は、そもそも相手を傷付けないことを前提に動いている。竹刀でそうなんだ。例えば真剣でやり合えば、立ちすくんで動くこともできやしねェだろう」
「...同じこと、ガープさんに言われた」
「だろうな」
最近はガープさんもクザンさんも忙しいので、私の相手をしてくれるのは消去法的にスモーカーさんになった。徐々に改善しつつはあるけど、私はまだ海軍内で孤立していると言っていい立場だ。
何度かマリンフォードでゲリラライブを行ったりして、仲良くなった海兵さんも何人かはいる。だけど、依然として先入観というか、そういうものは無くならない。
まぁ、そこは地道にやっていくしかないだろう。
「でも...私は強くならなきゃ!もう一回、お願いします!」
「...いいだろう。満足するまで付き合ってやる」
「たぁーっ!」
まだまだ課題は多いけど...!でも、これくらいの困難は乗り越えられるくらいじゃないと、“海賊王の音楽家”にはなれない。
私は陽が沈むまで、何度でも立ち上がり続けた。
「...あれ、なんだろう?」
スモーカーさんに滅多打ちにされ、全身痣だらけとなったその帰り。
私は海兵さん達が集まって何やらワイワイと騒いでいる現場に遭遇した。
よく見てみると、海兵さん達は...何やら腕と足に大きな“鉄の塊”を付けた海兵さんを囲んで囃し立てているようだ。
「あァ、あれか。まだやってたんだな...」
その様子を見たスモーカーさんは、くだらなさそうに葉巻を蒸す。
「なんだろう?あれ」
「なんでも、“ベガパンク”が開発した新型の兵器らしい...。“アーマーナイト”っつったか。人間が装着することでその能力を底上げする」
「へぇ...じゃあ、あの海兵さんはすごく強くなってるのかな?」
「そう簡単なモンでもないらしいな」
スモーカーさんがそう言うと、“アーマーナイト”を着けた海兵さんが、ボテッと前に倒れてしまった。
「うぐっ...!ダメだ、立てねェ!!重くて使えたもんじゃねェぞ!この“鎧”!!」
「あー、またダメだったか。これで65人目...。どこまで記録が延びるかなァ」
「ベガパンクの野郎、ガラクタ寄越しやがった!!」
“Dr.ベガパンク”。それは海軍“科学班”のリーダーであり、世界最大の頭脳を持つと言われている人の名前だ。なんでも、その人の頭脳は人類が500年かけて辿り着く領域にあるのだとか。すごい話だ。...ちなみに私の頭脳は“12年後”くらいまで先なら見通せるよ。
開発してきた発明品は、どれも革新的なものだったみたいだけど...今回は少し事情が異なるらしい。
「...なんか、上手く使えてないみたいだね?」
「着用者の内部に存在する“エネルギー”の総量によって性能が変化するらしい...。大した実力のねェ奴が着けても、ただの重りにしかならねェって理屈だ」
「...詳しいね?スモーカーさん」
「試したからな。“10人目”だ」
「試したんだ...」
スモーカーさん、意外と“こういうの”に興味があったらしい。かわいい。
「じゃあ、ガープさんとかが使えば強いのかな?」
「誰もがそう思って真っ先にあの人が使ったが...“ダメ”だった」
「え?そうなの?」
「確かに能力は向上したが、それ以上に“消耗”が激しすぎてすぐにガス欠だ。まァ、使うなら短期決戦型としての用途が主になるだろうな。あの人はそんな面倒なことするなら生身で突撃しそうなモンだが」
「...確かに」
となると、あの“アーマーナイト”君はあまり使われずに倉庫の埃を被ることになりそうだ。
ちょっと可哀想。
「過ぎた力は身を滅ぼすってことだ。お前も肝に命じとけ」
「はい...」
...反省してるよ!“トット・ムジカ”のことは!覚えてないけど!
そうして、スモーカーさんとは別れた。ちなみにスモーカーさんは“ローグタウン”という街に駐在していて、この街は“東の海”から“偉大なる航路”に入る際に通ることとなる玄関口の様な場所らしい。
だから、“偉大なる航路”に入る様な腕に覚えのある海賊がローグタウンにはたくさん集まるんだけど、その中でスモーカーさんは一度もローグタウンに入った海賊を逃したことがないらしい。
...私の海軍での知り合い、凄い人多いな。
そうして一人で通路を歩いていると、通りの向こう側から三人組の若い海兵さん達がやってくるのが見えた。
「よぉよぉ、嬢ちゃ〜ん。今日も守ってもらってんのか?いいご身分だなァ」
「...“フルボディ”さん」
私も守ってもらってばかりではいられない。
私の前に、海兵さん達が立ち塞がる。以前も彼らにはこういう風に絡まれたことがある。
「スモーカーの奴も物好きだな。こんなガキを気に入ったのか?弱ェし生意気だし、そもそも“海兵”ですらねェ」
「おいおい!冗談言っちゃいけねェよ。こいつは“女”だぜ?それだけで上のジジイ共にとっちゃ有益だよ。強さなんか求められてねェんだ。必要なのは“愛嬌”と“器量”だ」
「ぶははは!違ェねェ!この前の“歌”聞いたか?あんなもんで周りの男どもが守ってくれるってんだから、女は気楽でいいよなァ!」
「...」
私が黙っていると、フルボディさん達は反応が薄い私に苛立ったのか、チッと舌打ちした。
「言っとくが“冗談”だからな?マジにすんじゃねェぞ。この件を誰かに話してみろ。二度と“海兵”なんか名乗れない体にしてやる」
「大丈夫。誰にも言わないから」
「...チッ。行くぞ」
「ハッ。気味の悪いガキだ」
「さっさとママんとこ帰んな?」
言いたいことが言い終わったのか、フルボディさん達は通路の向こうに消えて行ってしまった。
...流石に、毎回こんな露骨に絡まれることはない。普段は遠巻きに見られるとか、チラチラと注目されたりとか、その程度でしかない。ただ、一部の海兵さん...例えば今みたいな“フルボディ”さんみたいな、実力でのし上がってきた人達には私の存在は不愉快に映るのだと思う。
この件で本当に大変なのは、私自身というよりガープさんの方だ。
もし私が問題行動を起こした時、その皺寄せは直属の上司であるガープさんに向かう。例えば今私は無言を貫いたが、もし一言でも反論したとして...あるいは彼らが私に暴言を吐かれたと“捏造”した場合でも、即座にガープさんの責任問題ということになりかねない。
私の立場は非常に危うい。ガープさん達の会話を盗み聞いて、“サカズキ”さんを始めとした海軍の偉い人達の中にも、私の“抹殺”を主張する人がいることも知っている。
だから私はこういう場合、なんとか相手の機嫌を損ねない様に場を回避しなければならない。普段スモーカーさんといった人達と行動を共にしているのも、そもそも揉め事を起こさないようにするためだ。
出来ることなら、私自身が誰にも舐められないくらい強くなることが一番の解決策なんだけど。
“二度目の人生”でも、上手くいかないことばかりだ。
「...ルフィ」
...私は大丈夫。だって私は、未来の“海賊王”の音楽家なんだから。
「よしっ!」
心の中に生まれたモヤモヤを晴らして、私はキリッと前を向いた。
大変なのは最初からわかってたことだ。焦っても仕方ない。
「あ〜、お腹空いた〜」
とりあえず、今日はもうくたくただ。ご飯を食べて寝よう。
「...いや、ダメだ!許可できない!」
マリンフォード、物資搬入口。
そこでは、数名の海兵たちが向かい合っていた。
一人は、マリンフォードに搬入する物資の検品を担当する任に就く海兵だ。彼は二人の海兵と向かい合い、眉を顰めていた。
「こんな巨大な“鏡”!聞いていないぞ!そもそも置く場所もない...!一体だれが注文したんだ!?」
「頼むよ。そう言わずに...苦労してここまで運んで来て、無理だと言われたからって、また持って帰るわけにもいかないだろ?」
「ダメなものはダメだ!こんな見るからに怪しい物を通せるか!」
二人組の海兵が荷台に乗せて持って来たものは、見上げるように巨大な...“鏡”。
彼らの言い争いの元凶は、まさにこの鏡にあった。予定にない納品に、予定のない品物と来れば警戒されるのは当然だった。
「そもそも貴様...本当に海兵か!?おい、“マリンコード”と名前を...!」
「ちょっと失礼♪」
そんな中で、唐突に二人組の海兵のうち、後方に待機していた男が前に歩み出る。その男の声帯は...まるで女性。それも幼い子供のものだった。
「人はみんな、頭の中に記憶のフィルムを持っている...」
「...え」
側頭部を指先で軽く小突かれた海兵は、その異常を察知する前に。
「“
「あっ...」
意識を失い、“記憶を失って”倒れた。
いつの間にかその場には、幼い少女が左手に“ハサミ”を。右手にフィルムを持って立っている。
「ふふ...今の“ブリュレ姉さん”との記憶、“カット”ね♡」
「ウィッウィッウィ...!よくやった、かわいいプリン...!!」
「お安いご用よ」
二人組の海兵の姿は、まるで水面のように一瞬揺らめき...そこにいたのは細身で長身の女性と、幼い少女。
“ビッグマム海賊団”
シャーロット家8女、“シャーロット・ブリュレ”。
同じく35女、“シャーロット・プリン”。
彼女達の“潜入”は、誰にも気づかれぬままに為された。
そして、それが意味する所は...。
「鏡よ鏡...!この世で“一番怖い者”は...!」
巨大な“鏡”の鏡面が、波打つように揺れ動く。
「だ〜れだ!!?」
「あ〜あ。あんな“小娘”にこのフルボディ様がバカにされて、気分悪いぜ」
「”海兵“を舐めてんですよ、あいつ。どうせ自分には手出しされないって思ってんだ」
「そりゃバックに“英雄”が付いてりゃ気も大きく...ん?」
「おい。本当にここは“マリンフォード”か?さっきから歯ごたえが無さすぎるぞ」
「内部から切り崩されればこんなものだろう...む」
「?どうした、カタクリ兄さん」
「あれ?なんでしょう、あいつら...ヤケにでかいぞ?」
「新入りでしょうか?フルボディさ...え?」
「...あ、あ...!!」
「フ、フルボディさん...?」
「一人、“俺たちのことを知っている男”がいるな」
「ほぉ?...じゃあそいつは可哀想なことになったなァ」
「なんで....あ、あんなヤツらが...!?」
「だ、誰なんです!?あいつらは!!フルボディさん!!」
「知らない方が良いことも...この世にはある...!!」
「“ビッグマム海賊団”の...“大幹部”だァ!!」
「え...えぇ〜〜〜〜!!?」
『緊急警報!緊急警報!!現在、マリンフォード内に複数人の侵入者が確認されています!!いずれも“ビッグマム海賊団”の幹部たち!!!』
『現在確認されているのは“将星”シャーロット・カタクリ!!“将星”シャーロット・クラッカー!!シャーロット・オーブン!シャーロットブリュ...!?な!!?』
『つ、追加情報!追加情報!!現在...この“マリンフォード”には...!!!』
「ハ〜ハハハ...!!!ママママ...!!!」
『“四皇”「ビッグ・マム」が侵入しています!!』
「...なんだろう。すごい揺れ」
私は、食堂に向かう道すがらで建物が大きく揺れていることに気付いた。
地震かな...?
「...え?」
次の瞬間。
天井が爆発のような衝撃と共に吹き飛び。
私の目の前に...“怪物”が現れた。
「お前だねェ...!!“魔王”を宿してるって娘は...!選べ!!!」
その“怪物”は、見上げるような巨躯を誇り、圧倒的な暴威を私に向けた。
「“LIFE or SLAVE”!!?」