「ん?ウタ、何描いてるんだ」
「ロードマップ」
「??」
私は赤髪海賊団の旗艦...『レッド・フォース号』の一室で、紙の上に図面を書いている。
シャンクスは私が何をやってるのか、さっぱりわからないみたいだけど...それでいい。これは私だけが理解できればいいことだ。
未来を知ってる私だけが。
多分今は、私がエレジアでライブをした“あの日”から数えて、少なくとも12年以上前。シャンクス達の会話を盗み聞きして、まだエレジアに行く計画は立ててないことがわかった。
私が...“あの未来”に到達しないために必要な条件を書き出す。
一つ、エレジアに行かないこと。
一つ、“トット・ムジカ”を目覚めさせないこと。
一つ、ウタウタの力を使わないこと。
...一つ、私が“歌姫”にならないこと。
これらの条件は、私がエレジアにさえ行かなければ全て解決できる。だから、赤髪海賊団がもしエレジアに向かおうとしたその時、私はなんとしてもそれを阻止しなければならない。
「よぉ〜ウタ!なんか最近ずっと恐い顔してんなぁ!」
「...ヤソップさん」
私がロードマップを作成していると、多分呑んだくれてたのだろう。酒臭い息を吐きながらヤソップさんがふらふらと近寄ってきた。
「なんか悩みでもあんのか?遠慮なんかすんなよ!」
「...ううん、大丈夫。これは私が解決しなきゃいけない問題だから」
「ふ〜む、そうかそりゃ残念...じゃあよ!せめて歌えば気分も晴れるんじゃねぇか!?いつもの頼むぜ!我らが天才音楽家!」
「っ...。ごめん、歌はもうやめたの」
「えぇ〜!?う、嘘だろ!?お前、あんなに歌が好きだったのに!」
胸がチクチクと痛む。確かに私は、歌が好きだった。ううん、今でも好きだ。歌は私の全てだから。
でも...私の歌声は、皆を幸せにすることはできなかった。それどころか、破滅を呼び込むことになる悪魔の歌声だったんだ。
だから私はもう歌わない。
「ごめんなさい」
もう私は悪いことはしない。歌うのもやめる。
だから、独りぼっちにはしないでください。
「...なァ、ベック」
「あぁ。思い詰めてるな。一体何があったのか...」
「...ルフィの奴なら、何か知ってるかな」
「くっそ〜!おい、卑怯じゃねぇか、ウタ!」
「はいはい、負け惜しみ負け惜しみ。...っていうかルフィ、気づいてないの?前もこの手に引っ掛かってたわよ」
「えェ!?全然気づかなかった!」
ルフィとの勝負は継続中だ。元々私の連戦連勝だったけど、私はもう頭脳は大人だ。単細胞のルフィとの差は広がるばかり。正直どんな勝負をしても負ける気はしない。
...12年経っても、ルフィは全然変わってなかった。あの時、私とルフィはもう子供じゃなかったのに、ルフィは今みたいな子供の頃のまんま。バカで正直で、真っ直ぐな奴だった。
正直、羨ましい。
「もう一回!もう一回だ!今度はズルさせねぇぞ!」
「え〜、またぁ?負けを重ねるだけだと思うけどな〜?」
「おれは負けてね〜!よし、じゃあ今度は歌勝負だ!」
「えっ、う、歌勝負?」
「おう!おれも歌練習したんだ!今はお前より上手く歌えるぞ!」
...ど、どうしよう。バカなのは知ってたけど、これほどだったか。
負ける気はしない。だけど歌は...。
「...いいわ。受けてあげる」
「よっしゃ!ギチョンギチョンにしてやる!じゃあ最初はおれからだ」
...なんでOKしたんだろ、私。
まぁいっか。ルフィだし。
「びンクス〜のさけを〜とどケにいくヨォ〜」
「へた」
「なんだとォ!」
まぁわかってたけど、下手すぎてびっくりした。
「これはまた私の楽勝っぽいわね」
「まだわかんねェだろ!次はお前の番だ!」
「...う、うん」
...あれ?
歌って、どうやってやるんだっけ。
「...び、びンクス〜のさけを〜...とどケにいくヨォ〜...」
「え〜!?ウタの歌が下手だ〜!?」
「う、うるさい!わかってる!も、もう一回!」
私は焦って、こほんと咳払いをする。
今のは何かの間違いだ。
「...ビんくすの〜さケを〜...?」
「...変わってねェぞ」
「...うぅ」
どうしよう。
私、歌い方わからなくなっちゃった。
...私って、歌が歌えなくなったら.、何の価値があるんだろう。
「ん〜、なんか今の歌って、あんま楽しそうじゃねェな〜」
「え?楽しそうって?」
「だってお前よ!今までずっと楽しそうに歌ってたじゃねェか!」
...楽しそうに歌ってた?
「...そうだっけ」
「おう!シャンクス達も楽しそうに聞いてた!」
楽しそうに、か。
たしかに前の私は...私の歌を聴いて、楽しそうにしてくれるのが嬉しくて...歌うのが楽しかったっけ。
でも、もう私の歌を楽しそうに聴いてくれる人なんて...。
「な!ああいう風に歌ってみろよ!」
...。
「...ビンクスの酒を〜届けにゆくよ〜海風 気任せ 波まかせ〜」
「うわぁ!?急にうめェ!」
「...う、歌えた」
「なんだよ〜!わざとやってたのか〜!?」
...違う、わざとじゃない。これは多分...。
「...ふふ、出た、負け惜しみ」
まぁいっか...。ルフィだし。
「...なァ、ベック」
「あぁ。“そういうコト”らしいな。一体何があったのか」
「...ルフィの奴、何しやがったんだ」