「先日の“ビッグ・マム海賊団”によるマリンフォード襲撃事件...!突然の事態にも関わらず、諸君らは勇敢に戦ってくれた。お陰で、“正義の大砦”は今もここに健在である!!」
数日後。
復興作業が進むマリンフォードでは、“表彰式”が執り行われていた。
「差し当たって、先の襲撃事件で目覚ましい活躍をした者たちに“勲章”を授与する!勇敢なる“正義”の徒たちよ。前へ」
壇上にて、“元帥”センゴクは功績を残した海兵たちに勲章を授与していく。その中には“大将”を始めとして“スモーカー”、さらに“フルボディ”の姿までもあった。
「すまんのう。うっかり電々虫を無くしてしもうて、間に合わなんだな...!!」
その“観衆席”で、海軍本部“中将”ガープは隣に座るスモーカーに声をかけた。
スモーカーは頭部や胴体に包帯を巻いた痛々しい姿だが、ドクターストップをかけられた今も相変わらず葉巻を蒸している。
「気にしないでください。むしろ頭を下げるべきは俺の方です。ウタを危険な目に遭わせました...!!」
「“四皇“勢力が大挙して押し寄せたという状況を考えれば、出来過ぎなくらいの“戦果”じゃ...!お前さんは充分に働いたわい」
「そうそう、気楽に行きなよ。スモやん」
「...」
ガープとクザン、両名の励ましはスモーカーにとって非常にありがたいものではあったが...スモーカーは自身の“力不足”を痛感し、言葉を押し殺す。
ついでに内心に抱くクザンの愛称への不満も押し殺した。
「...で、そのウタはどうしたんです。“功労者”って言ったらアイツの顔が浮かびますが」
この場には、四皇の“大幹部”を相手に大立ち回りを演じた少女の姿がなかった。スモーカーですら“勲章”を授与されている状況で、彼女が呼ばれていないというのはありえない。
「ふむ。それなんじゃが...」
ガープはどこか、深刻な表情をした。
「...まさか」
それを受けて、スモーカーは一抹の不安を憶える。
だが...
「痛いよ〜...!」
「この有様じゃ」
「...なるほど」
結果としては、その不安は杞憂に終わった。
私は、医療用ベッドの上で半ベソをかいていた。
「ぶわっはっはっは!!おかき食うか?」
「食べます〜...」
「食うのか」
「...美味しい」
ベッドの上で動けない私に、ガープさんとスモーカーさんがお見舞いに来てくれていた。クザンさんは表彰式後に用事ができたらしく、ここにはいない。
おかきをもそもそ食べる。塩味の効いた味が、今の私にとってはありがたい。
病院食はちょっとだけ味気ないから...。
「“アーマーナイト”の反動か...まァ、そりゃあんだけ派手に動けば副作用の一つや二つくらいあるだろうな」
「わしが使った時は大したモンじゃないと思ったが...わからぬものよ。“発明”とは...!!」
私がここまでの大怪我を負っている原因は“アーマーナイト”だ。あの後装備を外した途端、私は“気絶”してしまったらしい。
目覚めたのは3日後で、そこからは全身の筋肉痛で一晩中うなされる日々が続いた。
正直、今までの人生で一番辛かった数日間だ。
「こりゃあ、再び“鎧”を使えるようになるのは先の話じゃのう...」
「もう二度と使いません...!」
あの“鎧”は、確かにすごい力を使えるようにはなるみたいけど...使ってるたびにこんな状態になるんじゃダメだ。私が死んじゃう。
「そうなのか。結構ノリよく戦ってたと聞いたがな」
「ゔっ...!」
「おぉ、それならわしも聞いたぞ。なんでも戦いながら歌っていたとかなんとか...!」
「...歌いながら?」
私は、自分の顔が沸騰するように真っ赤になっていくのを感じた。
スモーカーさんの何かを言いたげな視線が突き刺さり、ばっ!と思い切り布団を頭まで被る。
「...見ないでください」
「何を隠す必要がある。それで活躍したんだろ?“私は最強”だったか?」
「それ言わないでぇ!!」
何もかも、最悪だった...!!
一体どこから漏れたのか、私が“ビッグマム海賊団”と戦った時の様子を見ていた海兵さんがいたらしく、あの時の言動が海軍中に伝わってしまったのだ。
そのせいで私は“騎士王”だの“天使”だの“王様”だのと見舞いにきた海兵さん達に散々にイジられ尽くした。しかもそれを本気で褒め言葉のように言うもんだからタチが悪い。
だけど私自身、なんか初めての戦闘ですっごいハイテンションになってしまった自覚がある...!!
「なんで私はあんな...!恥ずかしいことを...!!うああぁぁぁ〜...!!」
あの時の言動を思い出すと、意味もなく暴れ出したくなってしまう衝動がある。
「別に良いじゃねェか。力を手に入れたら気が大きくなっちまうことくらい、子供なら誰でもある」
「〜〜〜〜〜!!!」
バタバタバタと足が暴れ、布団が浮き上がった。
子供じゃなくて...ごめんなさい...っ!!
「はぁ...はぁ...っ!もうイヤぁ...!」
「命を守ったんじゃ、何も恥じることなどないぞ。むしろわしァ、お前さんがそれほど自信に満ち溢れるようになってくれて嬉しく思う!」
「...ガープさん、そのへんで。そろそろウタが自殺しそうだ」
「おぉ、そうか。今のナシ!」
...今だけはガープさんが嫌いになりそうだ。
「そうじゃ、そういえばウタ!式には出れずとも、お前さんにも“勲章”が授与されとる。海兵としては認められたということよ。体調が回復したらお前さんも正式に“海兵”じゃなァ」
「...“海兵”?」
布団からひょこっと顔を出す。そういえば、私ってまだ正式には“海兵”じゃなかったんだっけ。
「今までは海軍に身を置いてるだけの...“捕虜”に近い扱いじゃった。今回の功績が認められたんじゃろう。本来なら大幅な昇級まで約束されとるような大戦果じゃが...お前さんの立場は特殊。通常の新兵と同じく“三等兵”からじゃ。悪いのう」
「あ、いえ、大丈夫です。気にしてません」
私はとりあえず、“アーマーナイト”を勝手に使ったことや、“ビッグマム海賊団”と勝手に交戦したことを咎められるわけじゃなくて一安心していた。緊急時とはいえ、そのせいでガープさんがクビなんてことになったら私は一生後悔することになる。
それに、あんまり階級には興味がない...という言い方も変だけど、実際私はあんまり強くないし、階級が低いのは当たり前だと思う。そもそも私はいつか“海賊”になるんだ。あんまり偉くなりすぎると、海軍を抜けづらくなってしまうかもしれない。
だから本当に気にしていなかった。
「...ウタ。それとお前にひとつ、俺から謝らなきゃいけねェことがある」
「? なんですか?」
私はかしこまった様子のスモーカーさんに首を傾げる。
感謝することはあれど、謝られるようなことをされた覚えはない。
「俺の“力不足”で...お前を危険な目に遭わせたことだ。“将星”を俺が足止め出来てりゃ、お前がベッドの上から起き上がれなくなることもなかった。すまねェ」
「...」
スモーカーさんは、カタクリに負けてしまったことを気にしている様子だった。
正直、あれは相手が悪いというか...仕方ないと思う。私も逃げることしか出来なかったし。
「あと...お前が俺を安全な場所に運ぶよう、フルボディの奴に指示してくれたって話も聞いた」
「それは...」
「ありがとな。助かった」
「...いいんです、スモーカーさん。いつもお世話になってるので」
「そうか」
あの後、フルボディさんは無事にスモーカーさんを“医療班”の人に届けてくれたようだった。
彼にも感謝しなくちゃいけない。
私は今回、色んな人に助けられた。私も助けてくれた人を助け返せるような人でありたいと思う。
「ウタ、わしもお前さんの“天使の歌声”ってのを聞いてみたい。今歌ってくれんか?」
...あと、無神経な人にはなりたくないとも思う。
「いやァ!ウタが倒れたと聞いた時はヒヤリとしたもんじゃがのう!ちゃんと元気でおるようで、安心したわ!」
「...“そうなる”前に元気なのはわかりそうなもんですが」
病室から出たガープの左頬には、平手打ちの痕が痛々しく残っていた。
嫌がるウタにガープがしつこく歌をリクエストし続けるという不毛な押し問答の結果だ。ウタは手が出た直後にガープに平謝りしていたが、スモーカーにはガープの自業自得だとしか思えない。
「...ガープさん、一つ頼みがあるんですが」
「ん?なんじゃ?」
「俺を鍛えてほしいんです」
「...ふむ」
スモーカーは立ち止まり、ガープに頭を下げた。
「お願いします」
ガープにスモーカーを指南する義理はない。それは承知の上だ。
だが、道理の通らない話であってもスモーカーはこれを通さざるを得なかった。
スモーカーは急激に成長するウタを前に平常を振る舞いながら、その実かなりの焦燥感に駆られていた。
カタクリにも、ビッグ・マムにも...自分は何もできなかった。相手が悪いと言われれば、それで終わる話ではある。
だが、そんな言い訳にも満たない戯言を建前に、自身の力不足を正当化できるほどスモーカーは愚かな男ではなかった。
誰を相手にしても、一方的に蹂躙できるだけの“力”。それがあれば...あんな幼い少女に“戦闘”を強いることもなかったのだ。
ウタは変わった。この先、彼女はどんどんと成長していくだろう。自分も変わらなければならない。
少なくとも...彼女が“四皇”に狙われようとも跳ね返せるだけの実力が必要だ。
「...言っておくが」
「...」
「わしのシゴキを受けて、最後まで耐え抜いた奴は“0”じゃ!!」
「!」
「...それでも受けるか?」
ガープのその言葉を受けて、スモーカーはニヤリと笑う。
「当然です」
「...えェ“目”をするようになったわ。ぶわっはっはっは!!」
スモーカーは密かに、しかし断固とした覚悟でもって自身のさらなる躍進を決意した。
「...“海賊”共の動きが活発化している」
「あん?」
執務室にて、表彰式を終わらせた“元帥”センゴクは、今朝の新聞記事を見て眉を顰めていた。
室内には、当たり前のような顔でおかきを貪っている悪友ガープが居座っている。
「この記事を見ろ。“あの男”が動き出したぞ」
「...ふぅむ」
差し出された新聞記事を見たガープは、神妙な顔でおかきを貪る。
「“ビッグマム”にしろ、“この件”にしろ...!私にはどうも、“魔王”を巡って世界中の悪意が動き出しているようにしか思えん...ガープ、貴様あの娘の件で何か隠しちゃいないだろうな...!」
「わひびばっべばばらばいぼぼはあぶぼ」
「食うのをやめろアホ」
ごっくん、と一息に口の中のものを押し込んだガープは、不敵に笑みを浮かべる。
「言わんことまで聞いとらんわ。だが、ウタに世界をどうこうしようという悪意がないのは確かじゃ」
「悪意があるかないかは関係のないことだ...!!“力”は否応にしろ、世界中の勢力に狙われる。“この男”も惹かれた一人かもしれん」
「随分暴れているらしいな。しばらくは活動を止めていたと聞いたが、ここに来て...!!」
「今は時代の転換期。これから“こいつ”のような男は続々と出てくるぞ」
そう言って、センゴクは新聞記事の見出しの内容を指差した。
『音楽の島“エレジア”、“海賊”の手により壊滅』
「“ゴードン海賊団”か...」
センゴクは、忌々しくその海賊団の名を吐き捨てた。
「...拿捕したという“ビッグマムの娘”はどうした。大人しくしておるのか」
「“能力者”だ。海楼石で封じている。尋問には協力的だが...流石に幼すぎる。組織の内情についても殆ど知らないようだ。何を聞いても“知らない”の一点張り...!警戒されてはいるが、嘘をついている様子もない」
「わしゃあ“三ツ目族”ってのは初めて見たが...!話に聞く“開眼”とやら、警戒せんでええのか」
「情報が少なすぎる。どちらにせよ逃がすつもりはないさ...!あの部屋に“鏡”は置いていない。そもそも今はマリンフォード中の鏡が廃棄されている。同じ轍は二度も踏まん」
「むぅ。そのせいで、わしの髪型がいまいちキマらんかった...!どうにかできんのか」
「いつもと同じだぞ」
「おかき食うか?」
ここは世界の“正義”が集う場所、マリンフォード。
“四皇襲撃”の緊急事態に晒されながらも、日々勇ましく軍靴鳴らす海兵の...
「...“
「...やっぱ気に入ってんじゃねェか、ウタ」
「わぁ〜っ!!?」
鬨の声が響き渡る。
「海は見ている〜♪...っと、着いた着いた...」
「“エレジア”...!!」
次回、“間章”完結です。