“世界の歌姫”のやり直し   作:ぷに凝

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ローグタウン①

ローグタウンは、通称「始まりと終わりの町」。

 

“海賊王”ゴールド・ロジャーが生まれ、そして処刑されたこの町は、“東の海”から“偉大なる航路”に入るなら必ず通ることになる。

 

つまり、この街には必ずルフィが来る。

 

...ちょっと冷静さを失っちゃってたけど、実際はルフィがずっとフーシャ村で私のことを待ってくれてるとは思ってない。むしろ10年間ルフィが海に出るのを我慢できた方が驚きだ。

 

ルフィは私が戻る前に必ず出航する...そう考えてたからこそ、私はこの町にいるんだから。

 

必ずルフィが通るこの町に。

 

とは言っても、今すぐルフィと合流することは出来ない。私が海軍を抜けたら、やっぱりガープさんを始めとした色んな人に迷惑をかけることになっちゃうし...何より私は“海兵”として、まだやり残したことがある。

 

海軍に何も未練が無くなって、胸を張って海賊に戻れるようになるまでは...まだ我慢だ。

 

 

...で、でも会うくらいならいいよね?うん、ルフィの方から来てくれたんだもん。私が“偶然”会っちゃっても何もおかしくないよね...!うんうん、何もおかしくない...っていうか私、ルフィの仲間だし!船長に挨拶に行くのを誰かに咎められる筋合いはないわけで!

 

「...おい」

 

っていうか...ま、まずい!いつルフィが来るのかわからない!いつ来てもいいように身だしなみはしっかりしないと...!私、かわいい服ってどれくらい持ってたっけ...?そうだ、それに再会の挨拶はどうしよう!?普通に気さくな感じで行っていいのかな!?ルフィの仲間達に馴れ馴れしいって思われない!?第一印象は大事だよね!予行練習しとかないと...!あぁ〜っ!?そういえばお土産とか何も持ってきてない!礼儀のなってない娘だと思われる!!まずは菓子折りを買って、当たり障りのない話題の振り方、礼儀作法とかも勉強しないと...!!

 

「おい!ウタ!」

「ひゃいぃっ!!?」

「さっきから同じ所をぐるぐるぐるぐる歩き回りやがって...!目障りだ。俺の見えねェ所でやってろ」

「あ...ご、ごめんなさい...!スモーカーさん!」

「...ったく」

 

...ダメだ。周りが見えなくなってる。

 

落ち着け、私...!私はルフィよりずっとお姉さんなんだから余裕を持たないと。大人の余裕。それが大事。

 

私は、両頬を掌でパチンと叩いた。

 

よし!私は冷静!!

 

「スモーカー中将!!“海賊”が現れました!!」

「え〜〜〜〜っ!!?」

 

まだ何も準備できてないんですけど!!?

 

 

 

ローグタウン・“船着場”

 

「...久しいな、“ローグタウン”....!」

 

“その男”は、ローグタウンの入り口にて数名の部下を引き連れて現れた。“海賊”であるその男は、町の喧騒を睨み付けてニヤリと笑う。

 

男の名は“道化のバギー”。

 

「この“町”にゃ、なんでも町に入った海賊を一人も逃がさねェって“化け物海兵”がいるらしいが...!!ハッ!せいぜい“東の海”に配属されるような海兵だ。大したことはねェだろう...!」

「あっ、その海兵ちなみに“中将”らしいです」

「え〜〜〜〜っ!!?」

 

バギーは部下である“猛獣使いのモージ”の報告に目を丸くした。

 

「“中将”!!?バカ言え!!ここは“最弱の海”だぞ!!ンなヤツ他の海で仕事してろ!!」

「はい。ですので一度も海賊を逃したことがないのかと」

「あっ、なるほど納得〜」

 

バギーはポンと手を打ち、続いてクルリとローグタウンに背を向けた。

 

「なんかおれ...この町に来た目的忘れちまったなァ〜...!よし、帰るぞお前ら!何も用が無くなったことだしなァ!!さぁ全速後進...」

「しゃきっとしなァ!!ドアホ!!」

「ぶげぇ〜っ!!?」

 

意気揚々と足を踏み出したバギーの側頭部に、“金棒”が打ち据えられる。

 

下手人は体にマントを纏った女海賊、“金棒のアルビダ”。

 

「男が情けないこと言ってんじゃないよ!!ここにはルフィの奴が来る...!それだけで留まる理由は十分だろ?」

「ぐ、ぐむむむ...!」

 

バギーはしぶとく立ち上がると、歯ぎしりしてアルビダを睨んだ。

 

たしかに、憎き“麦わら”の男をバギーはこの手で殺してやりたいと考えている。しかし...それを自分の身を危険に晒してまで実行したいとまでは考えていなかった。

 

「おい!てめェ!!」

 

かといって、このおっかない女海賊に逆らうのも考え物だ。バギーは妥協案として、集団の最後方で事の成り行きを見守る...一人の“男”に声をかけた。

 

「お前、本当に戦えんだろうな...!?」

「...そこそこは」

 

男はバギー海賊団の所属ではない。つい最近、バギーたちが宴を開いていた島に流れ着いた漂流者だ。しかしカタギではない。男は自分を“海賊”だと名乗った。

 

そしてバギーは部下に調査させ、その男が

偉大なる航路(グランドライン)”にも通じる大物海賊だという情報を掴んでいた。

 

実力は未知数...しかし、確かに“只者ではない”気配はする。

 

バギーはその男に賭けた。

 

「頼むぜ!?“ゴードン”...!“白猟のスモーカー”をぶっ潰せェ!!」

「...承知した」

 

男は、静かに頷いた。

 

 

 

ローグタウン・“中央広場 処刑台”

 

「うっっっっっは〜〜〜っ!!!」

 

かつて、この世の全てを手に入れた“海賊王”ゴールド・ロジャー。

 

彼が人生の最後を迎えた“処刑台”で、今歓声を挙げている男がいる。

 

「これが海賊王の見た景色っ!!!そして死んだのか〜っ!!!」

『コラ君っ!!!今すぐ そこから降りなさい!!!』

 

男は静止の声も聞かずに、遥か高みから“始まりと終わりの町”を見下ろしている。

 

「この町のどっかに...居んのかなァ〜〜〜!!」

 

特徴的な“快活な笑み”を浮かべ、男は脳裏に一人の少女の姿を思い浮かべた。

 

「早く会いてェ!!」

 

男の名は“モンキー・D・ルフィ”。

 

現在3000万ベリーの懸賞金が付けられた、“麦わらの一味”の船長である。

 

 

 

「良かった〜...!」

「言っとくが、何も良かねェぞ」

「あ、あはは...海賊ですからね」

 

私はスモーカーさんの後ろを走りながら、安堵の息を吐いていた。

 

ローグタウンに現れた“海賊”というのは、ルフィとは関係のない者達だった。“バギー海賊団”といって、“道化のバギー”を船長とした海賊団。“東の海”ではそこそこ名の通った海賊だ。

 

...ん?バギー?そういえばその名前、どこかで聞いた気が...?

 

 

「3段アイスだーっ!!」

「おいおい、走ると落っことしちゃうぞ」

 

「あ、女の子が...」

 

そんな風に考え込んでいると、曲がり角から女の子が走ってきているのが見えた。女の子は父親と思われる男の人に後ろから見守られている。

 

問題なのは、その子が走る先にスモーカーさんがいること。あの様子だと女の子はスモーカーさんにぶつかっちゃう。

 

でもスモーカーさんは“自然系(ロギア)”だ。物理的な干渉は受けない。

 

むしろ、あの女の子が体勢を崩して転びそうになったら支えてあげないと...。

 

「あっ」

 

「...え?」

「...あ...アイス...」

 

しかし私の予想に反して、スモーカーさんの体は女の子を受け止めた。手に持ったアイスが、べちゃりとスモーカーさんのズボンに付く。

 

「ス...スモーカー中将...!!ど!!どど...どうもすみませんっ!!!ウチの子がっ...!!!」

「...スモーカーさん」

 

お父さんが顔を青くして震えている。スモーカーさんは女の子の目線に屈んで、頭をガッと掴んだ。それに反応した女の子の体がビクッと竦む。

 

「...悪ィな。俺のズボンがアイス食っちまった。次ァ5段を買うといい」

 

スモーカーさんはそう言って、女の子の手に小銭を渡してあげた。

 

「わぁっ!おじちゃんありがとーっ!!」

「あ...どうも、本当にすいませんでした...!」

 

まぁ、スモーカーさんが実は優しいのは知ってる...けど...。

 

「...え、アレ。自然系(ロギア)...えっ」

 

き、気のせい...?

 

...いや、そっか。普通に考えてずっと“煙”の体じゃ困るもんね。戦う時だけ煙になる...みたいな感じなのかな?うん、きっとそうだ。

 

「ウタ!トロトロすんな!行くぞ!」

「は...はいっ!」

 

私は一人、勝手に納得してその場を後にした。

 

...スモーカーさんのズボンから、いつの間にか跡形もなく消えていた“アイス”には気づかずに。

 

...

 

......。

 

 

「...おい、ちゃんと“仕事”はこなしたんだろうな」

「当たり前でしょ。私を誰だと思ってるの?」

 

“海兵”が去ったのを確認した“親子”は...まるで仮面を取ったかのようにその表情を変化させていた。

 

少女は、“父親役”の男に向かってくすりと笑った。

 

「“ゴードン海賊団”随一の覇気使いを舐めないでくれる?」

 

 

 

私はスモーカーさんと別れ、“バギー海賊団”の捕縛に向かう。

 

すでに“バギー海賊団”は町の中に潜んでいるらしく、探そうと思ったら結構な手間になりそうだ。

 

「行けェ!“リッチー”!!」

「ガウゥッ!!」

「え?わわっ!!」

 

と思ったらいきなり仕掛けてきた!

 

通りの向かい側から、突然大きな猛獣に乗った男が襲いかかってくる。

 

「お初にお目にかかる。俺は“バギー海賊団”の...“猛獣使いのモージ”!!海兵!!貴様をここで足止めする任を承った!!」

「もーっ!!いきなり何す...っ!?」

 

その時、私の脳裏に衝撃が走った。

頭の上にかわいい“耳”が生えていることに...じゃない。

 

私は“直感”した。

 

 

この人...“ルフィに会ったことがある”!!!

 

 

私は10年間、ルフィが身につけていた色々な物を入手して、そこにルフィの残り香を感じることを一番の楽しみにしてきた。

 

だから私にはわかる。ルフィが触れた物、ルフィが居た場所、ルフィに会った人。

 

この人からは、“ルフィの匂い”がする。

 

「ふふ、ふ...ふふ...」

「え、なんで笑って...」

 

つまり...ルフィが、近くにいる。

 

「喋ってもらうよ」

 

私の目には、もうすでに“敵”はいない。

 

“情報源”がわざわざ向こうから来てくれたのだ。

 

「ルフィの居場所!!」

「...えぇ」

 

モージは、“野生の勘”で直感的に感じ取った。

 

“この女はヤバい”と。

 

 

「ガ、ガウ....?」

「お、おい!ビビるなリッチー!いや、怖いのはわかるが...!くそっ、噛みつけェ!!」

「私は、ただ“歌う”だけの海兵じゃないよ...!!」

 

私だってこの10年間、海兵として鍛えられ続けたんだ。

 

...地獄みたいな“特訓”だったけど!そのお陰で私は強くなった。

 

背中から、機械仕掛けの“槍”を私は取り出した。

 

「“スタンドマイク”」

「...あぁ!?なんだそりゃ?武器か!?」

 

この槍は...穂先が“マイク”になっている。

 

当然、殺傷力は“0”だ。

 

「そんなもんで人を殺せるかよ!!ハッ、拍子抜けだ!!やれ!!」

「ガウゥッ!!」

「“人を殺さない”から良いの!」

 

私は、たんっと地面を蹴って宙に“浮いた”。

 

「うおっ!?なんだ、その身軽さ...!?」

 

猛獣くんの攻撃を躱した私は、続けて懐から袋の中に入った“ある物”を取り出す。

 

「本当はお土産に買ってきたんだけど...!」

 

その袋の中からは...“香ばしい匂い”。

 

例えばお腹を空かせた動物は、この袋を無視できない。

 

「あげるっ!!“骨つき肉”!!」

「ッ!?ガウゥ!!」

「えっ!あぁ!?リッチー!?」

 

私が袋を遠くに投げると、猛獣君は背中の上に乗っていたモージを振り下ろして走って行った。

 

「あだっ!!い、痛ェ〜〜!!あのバカライオン...!はっ!!」

「気をつけてね?“音”も立派な武器だから」

 

私は、地面に倒れたモージの“頭”に、槍の穂先をトンと置いた。

 

「私の歌は、“脳の奥まで”響くよ!!」

 

例えば音は...大気を伝う“衝撃”となって、人の意識を刈り取ることもある。

 

こんな風に。

 

「ま、待て!!わかった、言う!!“麦わら”なら広場の処刑台に...!」

 

「“音響(リバーブ)”!!」

「ほぎゃああ〜っ!!」

 

音の衝撃。

 

爆音と共に...モージは意識を失った。

 

「きゅうぅ〜...」

「おやすみなさい」

 

私は動かなくなったモージの腕に“手錠”をハメると、振り返って背を向ける猛獣くんに走り寄った。

 

「ガウゥ...♪」

「よしよし、可愛いね〜♡」

 

猛獣くんの方は、私が持ってきたお肉に夢中だ。

 

「...あっ!そうだ、ルフィが“処刑台”にいるって...!」

 

さすさすと猛獣くんを撫でていた私は、モージが今際の際に捲し立てた言葉を思い出した。

 

ルフィは、“広場”にいる!

 

「よ〜し、“トラ丸”!!全速力で広場まで!!」

「ガウッ...ゥ?」

「? 早く早く〜!」

「ガ、ガウゥ!!」

 

“ライオン”のトラ丸は、広場に向かって走り出した。

 

 

「...着いたっ!!」

 

広場に着いた私は、トラ丸から降りて辺りを見回した。

 

ルフィが本当にこの場にいるなら、大人しくしてられるはずがない。すぐに見つかるはず...!

 

「...がしたよルフィ...!!久しぶ...」

 

「...えっ!?」

 

そんな私の耳に、微かに“ルフィ”という言葉が入り込んできた。

 

私は、極限の集中力でその言葉が発せられた場所を特定する。声質は女性。20代。過去に肥満体型だった痕跡あり。執着心が強いタイプ。そしてこの人は“ルフィと会ったことがある”!!

 

音の大きさと距離、方向から逆算して...この声が聞こえたのは...!

 

「...あ」

 

...なんで気づかなかったんだろう。

 

処刑台の上、見上げればすぐに分かるところに...いた。

 

「...ルフィ」

 

ずっと、会いたかった人の姿が。

 

ルフィは、私が声を特定した女の人と話していた。

 

 

「ルフィ〜〜〜!!!」

 

 

「〜〜〜?〜〜」

「〜〜...〜〜〜」

 

ダメだ、聞こえてない!

 

「ごめんなさい!ちょっと通して!」

 

私は、人ごみを掻き分けてルフィに近づく。

 

「この世界にアタシにひざまずかない男はいないんだ。そしてアタシは強い男が好き」

 

やがて、ルフィと女の人との会話が聞こえる距離まで近づいてきた。

 

「誰だろう、あの人...?ルフィの知り合い...?」

 

その人は...かなり綺麗な人だった。同性ながら、スベスベの肌とその美貌は羨ましく感じてしまうほどだ。

 

でも重要なのは、なんでこんな人とルフィが話しているのかってことだ。

 

もしかして、ルフィの仲間...。

 

 

「あんたはアタシのものになるのよ。ルフィ♡」

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

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