“世界の歌姫”のやり直し   作:ぷに凝

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ローグタウン②

「あんたはアタシのものになるのよ。ルフィ♡」

「は?」

 

私はその一瞬で、自分の心がドス黒い感情に埋め尽くされたのを感じた。

 

それはきっと、この女の人の...いや、“この女”の狂気の沙汰としか思えない言動が原因だ。

 

「うるせェ。いやだ。お前誰だ」

「...まだわかんないのかいっ!?」

 

しかし、その女の狂気的な発言を、ルフィは当然のように拒絶した。

 

そうだよね、当たり前だよね。この女の一方的な勘違いだよね。何言ってるんだろう。ルフィを独占しようとしてるのかな?だとしたらそのおめでたい脳を開いて中を覗きたいくらいだ。きっと空っぽなんだろうね。ルフィ、こんな馬鹿女の言うことなんて聞くことないよ。っていうか見ちゃダメ。ルフィの目に入らないで。汚らわしい。

 

...さっさとルフィの視界から排除しないと。

 

「“加速(アレグロ)”...!」

 

私は腰を低く落とし、その場に飛び込もうと手に持つ“槍”を構えた。

 

「待て。バカ野郎」

「えっ」

 

私が飛び出して行こうと瞬間、ガッと肩を誰かに掴まれた。

 

「ス...スモーカーさん!?」

 

私を制止したのは、スモーカーさんだった。

 

“バギー海賊団”の船員を捕まえに行ったはずじゃ...。

 

「いいか、ウタ。お前とあの“麦わら”にどんな関係があろうとな...世間はそれを認めちゃくれねェぞ」

「え...?」

「この大衆の目の前で“海賊”に会いに行くつもりか?」

「!」

 

スモーカーさんにそう諭され、私はハッとする。

 

ここで私が出ていけば...必ず、ルフィと再会することになる。

 

そして、それはこの場にいる多くの人に見られることになるだろう。

 

自惚れじゃなく、海兵としてそれなりの知名度が付いてきた私とルフィが親しげに接していたら...それを見た人達は一体何を思うのか。想像に難くない。

 

「...でも」

「“でも”じゃねェ。お前は誰だ?」

「...海兵です」

「そうだ。それも“中佐”だ。立場ってもんを考えろ。“正義”背負ってんならな」

 

...そう。

 

私は海兵。海賊と仲良しなんて許されない。

 

「...ルフィ」

 

せっかく、目の前にいるのに...!

 

私が歯を噛み締めて静観している間にも、状況は進んでいく。

 

「ハデに死ねェーっ!!!」

「うわあああっ!!!」

 

広場にあった噴水が、恐らくは爆弾によって吹き飛びその瓦礫があの女に直撃する。

 

しかし、それは女の肌に触れた瞬間“スリップ”し、ダメージを負わせることはなかった。

 

「危ないじゃないかあんた!」

「ハデにすまん。だが まァそのスベスベの肌は当然無傷なんだ。気にするな」

 

その場にはいつの間にかマントにくるまった男が現れ、ルフィと女との会話に入り込んでいた。

 

その背後には、同じような格好をした者達が大勢。格好からしてきっと彼らは仲間なのだろう。

 

「麗しきレディー・アルビダよ!!」

「アルビダ?アルビダがどこにいんだよ」

「アタシがそうだっつってんだよ!!この鈍感っ!!」

 

「...アルビダ」

 

あの女の名前はアルビダというらしい。多分海賊だ。

 

覚えたよ、その名前...!

 

...っていうか露出度高すぎ!!お腹とか丸出しで...!あぁもうっルフィが見てる...!!どうせ見るなら私のを見れば良くない!?い、いやそれはちょっと恥ずかしいけど...!!

 

「...ふぅ〜」

 

落ち着こう。冷静になれ私。

 

大丈夫。ルフィはあんな女に誑かされたりしないから。

 

 

「おれはお前みてェな美女知らねェぞ」

 

 

ダンダンダンダン!!!!

 

私は思いっきり地団駄を踏んだ。

 

「...おい。急に暴れんな」

「...へぇ...“美人”って言った...?ルフィが...?」

 

そっかそっか、女の人におべっかなんて使えるようになったんだね。ルフィ...?

 

誰の入れ知恵かな?この10年間で、女の子との付き合いでも増えたのかな...?それともそこのアルビダと結構仲良しだったりするのかな?

 

うんうん、女の子の扱いを心得るようになったのはいいことだと思うよ?

 

けどルフィは海賊でしょ?海賊に女の子を口説くスキルなんて、私はいらないと思うんだけどなぁ...?

 

...まぁ、ベックマンとかは結構モテてたけどさ。

 

「なんだか知らねェが...自分から視野を狭めるんじゃねェよ。見ろ、あの“マント男達”。ありゃ恐らくおれ達の標的だ...!」

「...標的?」

 

一方のスモーカーさんは、冷静に状況を分析している。

確かに標的というならアルビダは私の標的ではあるけど、スモーカーさんが言ってるのはその背後に控えるマントを被った集団のことだ。

 

私には彼らが全員“ルフィと会ったことがある”という事くらいしかわからないけど...。

 

ルフィの匂いがするし。

 

「吹き飛ばされたあの日からおれはずっと!てめェを殺すことを望み執念で仲間達のもとへ帰りついた!!」

「え...」

 

バギーのその言葉を聞いて、私は凍りついた。

 

今、あの男はなんて言った?

 

「ど!!ど...“道化のバギー”だァ!!」

 

マントの男達は一斉に姿を現す。そこにいたのは...海賊“道化のバギー”。

 

そうか、マント男のスモーカーさんは正体を見破ってたんだ。

 

「やっぱりか。あいつらの狙いは“麦わら”だ...!!おいウタ、お前は周りの雑魚どもを片付けろ。俺が船長を抑える」

「...わかりました」

 

スモーカーさんはそう言って、全身を“煙”に変化させてバギーに突撃していった。

 

正直、それ以外に気になることが多すぎるけど...!今の私は海兵だ。務めは果たさなきゃいけない。

 

スモーカーさんが動くなら、きっとバギー一味は捕まるはずだ。私は周囲に被害が広がらないように市民を守っていればいい...そう、いつもなら。

 

だけど私は...どうにも不安を拭いきれなかった。

 

だって彼は、“道化のバギー”は間違いなく言ったんだから。

 

...“ルフィを殺す”って。

 

「...あっ!?」

 

その不安が的中するように、空から人影が降ってきて、あっという間にルフィが捕まってしまった。

 

「うっ!!?えっ」

「久しぶりだなゴム人間。ロロノア・ゾロも元気かい...」

 

...もう!ルフィってこういう抜けてる所があるから...!!

 

その人はどうやらバギーの仲間で、ルフィとの因縁があるみたいだ。

 

...嫌な予感がする。ルフィが捕まった場所は“処刑台”だ。私には、今から起きることがありありと脳裏に浮かんでしまった。

 

 

「よォしよくやったカバジ!! これからてめェの“公開処刑”を始める!!」

 

 

...そっか。やっぱり、そういうことするつもりなんだね。

 

「やっぱり...力がないと、守りたいものは守れないよね」

 

海兵として、私がルフィを助けることは許されない。

 

でもそれ以前に...やっぱり私は、ルフィの仲間だから。

 

「ごめんなさい、スモーカーさん」

 

大丈夫だよ、ルフィ。

 

今助けるからね。

 

 

「きゃああああ〜〜!!」

 

「えっ...?」

 

ルフィの元へ一直線に飛び込もうとした私の耳に、幼い少女のものと思われる悲鳴が聞こえた。

 

「へへへ...処刑台に注意が向いてる今は、誘拐し放題だなァ」

 

咄嗟に目を向けると、広場からは死角になった場所で、男が少女を担いで路地裏に消えていくのが見えた。

 

身なりからして、男は海賊だ。

 

「嫌ぁ!!助けて!ママぁ!!!」

「あ...!」

 

少女の声は、広場の混乱と喧騒にかき消されて多くの人の耳には届かない。

 

「どなたか!!どなたかうちの子を知りませんか!!赤い服を着た女の子です!!どなたか...!!お願いします!!!」

 

そして、その広場の隅で...涙を流して周りの人に縋り付く女性がいた。

 

恐らく...彼女があの女の子の母親だ。

 

「...おい、いいのかよ」

「...見ただろ。海賊に連れ去られたんだぞ...?取り戻すなんて、できっこないだろ...」

「まぁ、そうだけどさ...」

「お願いします!どなたか見かけませんでしたか!?」

 

「っ...!!」

 

だけど彼女は、周囲の人間に相手にされていないようだった。

力を持っていない一般市民は、海賊に楯突いたところで逆に殺されるだけだ。決して、彼らの判断を責めることはできない。

 

責められるべき人間がいるとしたら、それは力を持っていながらこの状況で何もしないような者だ。

 

私は、処刑台の上に縛り付けられたルフィを絶望の眼差しで見上げた。

 

「これよりハデ死刑を公開執行する!!!!」

 

ルフィは、必死の形相で拘束から逃れようとしている。

 

二度、三度とルフィと女の子が消えていった路地裏の間で視線を彷徨わせて...私は決断した。

 

「...ごめんっ!」

 

私は、処刑台上のルフィに背を向けた。

 

「“加速(アレグロ)”!!」

 

強く地面を蹴り上げ、私は一瞬で地上から高さ15mほどの上空に浮き上がった。“六式”の一つ、“剃”の応用だ。

 

そのまま、少女を拐った海賊が消えていった路地裏を空から確認する。

 

「...いた!!」

 

そして、少女を麻袋に詰めてその場を立ち去ろうとする男の後ろ姿を捉えた。

 

「“飛空(オクターブ)“!!」

 

私は“空中を蹴って”、男と少女の元に急降下した。

 

「こんな時に...!!」

「...えっ?」

 

空中で体勢をくるりと変え、右足を伸ばして男の顔面を捉える。

 

「手間取らせないで!!!」

「ごほぉっ!!?」

 

結果、私の爪先は男の右頬を強かに穿ち、その勢いのまま男を数十m吹っ飛ばした。

 

「よっ、と...!大丈夫?怪我はない?」

「え...う、うん...!」

「良かった。じゃあ私と一緒に母さんの所に戻ろうね?」

 

私は、しゅたっと地面に降り立ち、袋に詰めかけだった女の子を救出して脇に抱える。

 

本当はもっと丁寧に送り届けるべきなんだろうけど仕方ない。スピード重視だ。

 

「“加速(アレグロ)”!」

「わっ!?わ、わぁ...!!」

 

私は再び宙に飛び上がり、そのままふわりふわりと広場に戻っていく。

 

「...ウタちゃん!」

「うん?」

「...ありがとうっ!!」

「...ふふっ、どういたしまして」

 

私は、にっこりと女の子に微笑みかけた。

 

 

「あぁ...あぁ...!!」

「ママ!ママ〜〜!!」

「あぁ...っ!本当に、無事で良かった...!!」

「お子さんにお怪我はありません。人混みの中では目を離さないようにしてくださいね」

 

すたっ、と私は広場に降り立ち、女の子を親御さんの元へ送り届ける。

 

「はい....!本当にありがとうございます...!!なんとお礼を言ったらいいか...!!」

「ママ〜!ウタちゃんすごいんだよ!!お空をぴゅーんって飛んで、助けてくれたの!!すっごく強かったの!!」

「そっか、そっかぁ...。良かったねぇ。あの、ウタ中佐?実はこの子以前からあなたの大ファンで...!!ライブにだって毎回連れ回されたくらいなんです」

「へ、へぇ〜!それは、はい、嬉しいんですけど...!」

「もしよろしければ、今度何かお礼をさせてもらえませんか?今はまだ忙しいようですから日を改めて...」

「あ、あはは...大丈夫ですから。気にしないでください。本当に...!それじゃ私はこれで...」

「そうですか?ですがそういうワケにも...」

「ウタちゃん...行っちゃうの...?」

「う...」

 

私はすぐさまその場を離れようとしたが、女の子とそのお母さんの寂しげな目線を受けて離れるタイミングを見失ってしまった。

 

「流石ウタ中佐だ!!俺たちの天使!!」

「うお〜!!英雄の凱旋だ〜!!!」

「ちょ、ちょっと...!?」

 

そして、事の一部始終を見ていたらしい周囲の観衆たちも私の視界を塞いでしまう。

 

ル、ルフィがどうなったか見えない...!!

 

「ごめんなさい!そこ通して!!」

 

私は、濁流のように押し寄せる人の波を掻き分け、その包囲網を突破する。

 

「“加速(アレグロ)”...!」

「あぁ〜!?行っちまった!!」

 

そして、ぴょんと飛び上がって元いた場所へと急行する。

 

「礼も言わせずに去ってしまうなんて...!!なんて謙虚なんだ」

「うむ、彼女こそ海兵の鑑だ。私は今、彼女がきっと世界中の海賊を懲らしめてくれると確信したね」

「ウタちゃ〜〜ん!!こっち向いてくれ〜〜!!」

 

鳴り止まない歓声だけが、その場に響き続けていた。

 

 

 

「おれは!!!!海賊王になる男だ!!!!」

 

私が再び処刑台の前まで戻った時、タイムリミットはすぐそこまで来ていた。

 

「いいたいことは...それだけだな。クソゴム!!!」

「だめ!ルフィ!!」

 

“道化のバギー”は処刑台の上でサーベルを構え、今にもそれを振り下ろそうと構えている。

 

「その死刑待て!!!!」

 

どこからか、私と同じくルフィの処刑を止めようとする声が聞こえた。

 

だけど、いくら声を響かせてもきっとアイツは止まらない。

 

「“長槍(テヌート)”...!!」

 

だけど、手を伸ばしても届かない距離を“音”は一瞬で駆け抜ける。

 

私は“スタンドマイク”の穂先をバギーに向け、長距離でも直接攻撃が可能となる“音撃”を放つ。

 

...その直前。

 

「えっ...!?」

 

そのターゲットが、わずかながら“右にズレ”、音の槍は処刑台から遠く離れた隣の建物の石屋根を穿った。

 

「な、なんで...!」

 

誰かに無理やり軌道を曲げられたわけじゃない。まるで自分から“そうした”ように、私は攻撃を外したのだった。

 

「...ルフィ!!」

 

もう、間に合わない。

 

 

「わりい おれ死んだ」

 

 

ルフィは、処刑台の上でニっと“笑った”。

 

「嫌...やめて...」

 

ルフィ、私のいない所では死なないんでしょ?私はルフィのいない所で死んじゃいけないんでしょ?

 

ルフィがいなくなった世界で、私はどうやって生きていけばいいの?

 

もう...どうなっても良いから。

 

お願い。

 

「ルフィを助けて...!」

 

“トット・ムジカ”。

 

 

「ᚷᚨᚺ ᛉᚨ...」

 

 

私が、その”歌“を口ずさんだ瞬間に。

 

天から“光”が降った。

 

「え...!?」

 

“光”は、莫大な音と共に“処刑台”を直撃し、一瞬にして炎に包まれた。

 

バギーが炎に包まれ、落下していく様子が見える。

 

「...ルフィは!?」

 

ガシャアン!!と、盛大な音を立てて処刑台が崩れた。

 

ついさっきまで快晴だった空を覆う雲から降りしきる“豪雨”によって、火はすでに収まっていた。

 

 

「なははは!やっぱ生きてた!もうけっ」

 

 

その中から、ルフィは姿を現した。

 

「...は、ぁ...!」

 

へたり、と私はその場に座り込んでしまった。

 

腰が抜けて...立てないや。

 

「なんか、こんなこと前にもあった気がする...」

 

私は、何事もなかったかのようにからからと笑うルフィに釣られて力のない笑みを浮かべた。

 

 

 

「あら、運だけはいいのね...?」

 

人混みの中、”正義“を背中に背負う白い人影がひっそりとその場を後にする。

 

「まったく、世話が焼けるわ」

 

”彼女“は、自分の手から伸びる細い“糸”を仕舞い込んだ。

 

その糸は、繋いだ者の記憶を僅かに操作する作用を持っており...ついさっきまで“麦わらのルフィ”を助けようとしていた一人の海兵に繋がれていたものである。これを持って彼女は麦わらのルフィの抹殺を企んだが...それも失敗に終わった。

 

事の顛末を確認した“三つの目”が、気怠げに細められる。

 

「認めるワケないでしょ?貴方が“海賊”になるなんて...」

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