“世界の歌姫”のやり直し   作:ぷに凝

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ローグタウン④

「ハァ…ハァ…!!」

「くそ、なんだこいつの体…!!攻撃をすり抜ける」

 

“麦わらの一味”、ゾロとサンジは周囲を煙に包まれ、苦戦を強いられていた。

 

「当然だろ。おれァ“モクモクの実”の煙人間…!この体は自在に煙になる!!」

 

海軍本部“中将”スモーカーは、なす術がない二人を上空から見下ろしている。

 

「だが…お前達相手なら、“能力”を全力で使う必要もねェ。役者不足だ」

「ンだと…!!」

「“覇気”も知らねェんじゃな。勝負にもならねェ」

 

スモーカーとの実力差は圧倒的だった。こちらの攻撃は通じず、相手は視界の塞がれた煙の中から飛び出して来る。

 

打つ手なしとはこのことだった。

 

「殺そうと思えばいつでも殺せるが…!お前らにゃ聞かなきゃいけねェことがある」

 

そんな二人に対してスモーカーはすぐに決着をつけることはせず、嬲り殺しににするようにじわじわと追い詰めていた。

 

しかし、それは決して情けから来る行動ではない。

 

「“麦わら”の居場所を吐け…!おれはアイツに用があるんだ」

 

姿が見えない彼らの“船長”。麦わらのルフィの居場所を知るためだ。

 

「…ハッ、死んでもごめんだ」

 

しかし、回答は変わらない。ゾロはニヤリと笑って上空のスモーカーをにらみつけた。

 

「そうか。じゃあ死ね」

 

“こいつらは喋らない”。そう判断したスモーカーは、十手の棒身を二人に向けた。

 

一見殺傷力がないように思えるこの“武器”も…圧倒的な膂力から繰り出されればそのまま打ち据えた相手の肋骨を突き砕き、その下にある“心臓”を捉える。

 

「“ホワイトブロー”!!」

「くっ…!!」

 

ゾロは刀を交差させ、その一撃に備える。

 

「…ルフィ君なら、広場にいるよ」

「…ッ!?」

 

その時、スモーカーはあり得ないことに、“背後”に人の気配を感じた。

 

「あいたっ」

 

振り向きざまに繰り出した“蹴り”は、背後にいた男の脇腹を捉えた。しかし手応えはない。まるで、鉄を蹴ったかのようだ。

 

「いたた…。ゴドドド…!“白猟のスモーカー”で、間違いないかな」

「あァ!?誰だテメェは…!!」

「お前、さっきの…!?」

 

そこにいた男の名は、ゴードン。

 

いつの間にかゾロとサンジに存在を忘れられ、道の真ん中に置いて行かれていたゴードンだった。

 

「私の“雇い主”からの命令でね。君を足止めしなくちゃいけないんだ」

 

ゴードンは脇腹をさすりながら、ゾロとサンジに視線を向けた。

 

「行きなさい、“麦わらの一味”。君たちには借りがあるからね。覚えてはいないだろうが…個人的に、私には君たちを助ける理由がある」

「…」

 

ゴードンに対し、ゾロは疑いの目を向ける。

 

面識がない自分達のことを“探していた”と言うその男を。

 

「…恩に着る。ありがとう。ここは任せた」

「あ!?おい、いいのか?」

「どの道、今の俺たちじゃなす術がねェよ…!」

「大丈夫だ、任せてほしい」

 

ゾロは苦い思いを抱えながらも、その場を突然現れたその男に託すことにした。

 

「…くそっ」

 

ゾロとサンジがその場を離れ、“西の港”へ向かう。

 

「...お前か!“本物のゴードン”ってのは…!!」

「…その呼び方、やめてほしいんだが」

 

その場に残されたゴードンとスモーカーは、お互いに向き合っている。

 

「お前、言ったよな…!!“麦わらは”広場にいる“と。その言葉が真実なら、ここでバカ真面目にお前とやり合う必要はねェわけだが…?」

 

ゴードンはそれを聞くと、一瞬硬直し…そして、肩を上下させて“笑い始めた”。

 

「ゴドドド…!!」

「はっ、おれを嗤うか」

 

スモーカーは、笑うゴードンの様子を見てこう判断した。

 

海賊を目の前にして背を向けようとしている自分を笑っている。と

 

合理的に考えれば、ここでスモーカーとゴードンが戦うことにはなんの意味もない。無駄な戦闘だ。だが、ゴードンはあえてスモーカーが求めている情報を提示したことで、スモーカーがこの場を離れるための口実を作ったのだ。

 

客観的に見れば、海軍本部“中将”が海賊に恐れをなして逃げ出したと。そう見えるように。

 

海軍本部の“威信”を貶めるために。

 

「ナメんじゃねェよ…!!」

 

麦わらのルフィが広場に戻ったのなら…その先にはたしぎと、プリンが待っている。ウタは役に立つか少々微妙な所だが…目の前の男を片付ければ、本来の作戦通り“挟み撃ち”の形だ。

 

スモーカーは、あえてゴードンの“作戦”に乗ることにした。

 

…事実としては、ゴードンは自分の凡ミスに気づいて笑って誤魔化しただけである。

 

しかし、どういうワケかスモーカーはしっかり足止めされてくれるようで、ゴードンは密かに安心していた。

 

「私の雇い主である“バギー”君…彼には食べ物を恵んでもらった恩がある。恩は返さなければね」

「…バギー海賊団なら、すでに壊滅したぞ」

「えっ」

 

こうして、両者共に戦う理由がない不毛な戦いが始まった。

 

 

 

「“ゴムゴムの”〜〜!!」

 

正しく“ゴム”のようにしなる足が、その絵面の間抜けさとは裏腹に強烈な威力を伴って、“海兵”に襲いかかる

 

「“鞭”〜〜〜!!!」

「うわあァ!!」

 

振り抜かれた足が、数十人の海兵を丸ごと薙ぎ倒していく。

 

「む、“麦わら”が戻ってきたぞ!!何故だ!?」

「なのに強くて止められねェ!!くそっ、このままじゃ…!!」

 

「落ち着いてください!私が相手をします!!」

 

破竹の進撃を続ける麦わらのルフィの前に立ちはだかるのは、海軍本部“中尉”のたしぎだ。

 

彼女は上司たるスモーカーから、“麦わらの一味”の挟撃を指示されていた。

 

しかし、肝心の“麦わら”はどういうわけか踵を返して広場への道を舞い戻っている。

 

「…大丈夫。落ち着け」

 

不足の事態に対し、たしぎはフゥ〜…と深く息を吐いた。

 

頭に思い浮かべるのは、自身が敬愛する“彼女”の勇ましくも軽やかな動きだ。海軍に所属した時から、あの鮮烈な美しさが目標だった。

 

「ウタはどこだ〜〜〜!!」

「…その名を気安く呼ぶな!海賊!!」

 

どういうわけか、ウタ中佐と麦わらは旧知の仲にある。鈍いと言われることの多いたしぎも、ウタの挙動不審な様子からそれくらいのことは察せられていた。

 

その関係を本人に直接確認しなかったのは、スモーカーからの忠言だ。

 

曰く「今はまだ待て」と。

 

スモーカーは、ウタと麦わらとの関係について以前から承知しているようだった。知っていて尚、放置している。

 

その真意はわからない。たしぎは不器用だった。この歳になるまでずっと、愚直に刀を振り続けて育ってきた。

 

(女だから?そんなの無いよ〜!女の子でもすっごく強くなれるんだから!!)

 

脳裏に、初めて彼女と出会った時の会話が思い起こされる。

 

今まで自分を縛り付けていた、固定観念にも似た“常識”を覆す強さ。たしぎは彼女を尊敬していた。

 

そんな彼女の真意を、追求することもできないもどかしさ。

 

「“麦わら”!この先には進ませない!!」

 

たしぎはそんなフラストレーションの全てを、目の前の男にぶつけた。

 

 

 

 

「“五色糸(ゴシキート)”!!」

「“加速(アレグロ)”!」

 

ローグタウン、中央広場。

 

私はドフラミンゴ、クロコダイルの二人を相手取って戦っていた。だけど…正直に言って防戦一方だ。

 

「フフフフ!ただの平和主義者かと思えば…意外に()れるじゃねェか。オイ、俺の命も大事にしてくれよ!?“海の天使”!!」

「平和のために戦えなきゃ、海兵は務まらないでしょ!!」

「違いねェな。“三日月型砂丘(バルハン)”!!」

「あう…!!」

 

ドフラミンゴの糸による攻撃を避けたと思ったら、今度はクロコダイルの奇襲が背後から迫る。なんとか身を捩って直撃を避けるけど、大きく背中を切られてどくどくと血が流れる。

 

致命傷こそ負ってないけど、私の体には無数の傷が走っていた。この調子で徐々に体力を削られて、動けなくなったところで私を生け捕りにする算段なんだろう。

 

「オイオイ、いいのか?そんな反抗的な態度で…!仲間のことを考えるなら無抵抗が一番のはずだが…!?」

 

…とにかく、たしぎちゃんを何とかして安全な場所に連れて行かないと話にならない。

未だたしぎちゃんはドフラミンゴの手中だ。私に見せつけるようにプラプラと揺らしている。何度も奪い返そうとはしてるけど、現状はあの二人に弄ばれてるだけだ。

 

…冷静さを失っちゃダメ。それは相手の思う壺なんだから。

 

「…しょうがないか」

 

状況は悪い。このままじゃ押し切られて負けちゃう。

元より“七武海”が二人いるんだ。最初から全力で挑まないといけなかった。

 

“コレ”をやると、私はちょっと好戦的になっちゃうっていうか…周りが見えなくなっちゃうから、たしぎちゃんを傷つける可能性を考えて温存していた。

 

「フフフフ!!なにか企んでやがるなァ…いいのか?大事なお友達がおれの手の中にいるわけだが…!?」

「…それを取り戻す方法を使うの」

 

私は、懐から小さな“箱”を取り出した。

 

「“騎士形態(ヨロイくんモード)”!!」

 

それを“腰”に装着すると、私の体は強い光に包まれた。

 

確かこういうのを…“変身”っていうんだっけ。

 

「…随分派手に姿を変えたな。図体はデカくなったが…それで何が変わる?」

 

気づけば私の姿は、大きな槍と盾を携え、全身を黄金の鎧で武装した“騎士”の姿に変わっていた。

 

アーマーナイト“UTA=Custom”。

 

「…かっこよくなる!!あと強くなる」

「そいつは結構だ。“降無頼糸(フルブライト)”!」

「よいしょっ」

「…あァ!?」

 

背後から迫るドフラミンゴの攻撃を、私はひょいっと“バク転”して躱す。

 

「本当は“コレ”使うの、イヤなんだけど…!」

 

そして上空で“浮遊”した状態から、槍の“照準”をドフラミンゴに合わせ…穂先に眩い光が収束していく。

 

「“どっかんビーム”!!」

「!?」

 

放たれたのは、明滅する“レーザー”。

 

光はドフラミンゴを包み込み、その姿をかき消した。

 

「見せてあげる!“最強”な私を!!」

 

…ところでたしぎちゃん、今のは無事だろうか。

 

 

「おあァ!!な、なんちゅうレベルの戦いだよ!?」

「“王下七武海”が二人…!!それだけでも異常だってのに…それにタメ張ってるあの女は一体なんだい!?」

 

“海楼石”製の網に捕われ、身動きが取れないバギー一味は、そのすぐ近くで始まった“七武海”の戦いの余波を受けていた。

 

相対するのは、信じられないことにたった一人の“海兵”だ。それも階級は“中佐”と来ている。

 

「“海の天使”がバケモンだってのは、本当だったか…!!」

 

普通、“七武海”レベルの海賊は本部の“中将”が数人がかりで、ようやく相手になるかどうかという力関係だ。

 

たった一人で七武海二人と渡り合えるなら…それはもはや海軍本部“大将”に匹敵する戦力だ。

 

「それにしてもなんですかね。あの姿…!“ああなって”から、一気に攻勢に出たように見えましたが」

 

そんな彼女、ウタの姿は、ついさっきまでとまるで変わっている。

 

腕と足に黄金の装甲を身につけ、手に巨大な“槍”と“盾”を携えたその姿は…まるでお伽噺の英雄をそのまま実現させたかのような姿だ。

 

それでいて重量を感じさせない軽やかでトリッキーな動き。戦場を縦横無尽に動き回るウタを相手に、クロコダイルとドフラミンゴをして決定打に欠けているように見える。

 

…何より。

 

「…ちょっと眼福ですね」

「言ってる場合かい!!」

 

大きく出た腰のラインを見て鼻の下を伸ばすカバジの頭を、アルビダは蹴り飛ばした。

 

「…そんな簡単に行くわけないだろ。腐っても“七武海”だよ。あの二人は…!!」

 

 

「“砂漠の宝刀(デザートスパーダ)”!!」

「“飛行(オクターブ)”♪」

 

鎧を着た私のスピードは、むしろだんだん強く、速くなっていく。

 

時間が経つほど私の有利状況だ。

 

「“ウタキック”!!」

「ぐっ…!!」

「どうしたの?“雨”の中じゃ、力は出せないかな♪」

「…チッ!」

 

スナスナの能力は水で固まる。クロコダイルの能力はリサーチ済みだ。

 

「…あっ、たしぎちゃん!」

 

クロコダイルと立ち会っていると、視界の隅でドフラミンゴを墜落させた場所から人影が立ち上がるのが見えた。

 

レーザーによって舞い上がった土煙が、風によって晴れると…そこからフラフラとした足取りで出てきたのは、たしぎちゃんだ。

 

「よしっ、チャンス!!」

 

私はすぐさまたしぎちゃんの元に駆け寄り、抱きすくめる形で回収した。

 

「大丈夫?たしぎちゃん!」

 

私は、蒼白となったたしぎちゃんの顔を覗き込んだ。

 

「あァ、言い忘れてたが」

 

その瞬間、たしぎちゃんの体が“ほつれて”糸になり、それが私の体を拘束した。

 

「“影騎糸(ブラックナイト)”」

「…え!?」

 

気づけば背後には、ドフラミンゴが立っていた。

 

「別にそいつが“本物の人間”だなんて…一言も言ってないよな?」

 

身動きの取れない私の背中を。

 

「“超過鞭糸(オーバーヒート)”」

 

「…あっ、がっ…!?」

 

灼熱の鞭が貫いた。




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