「ス、スモーカー中将!!緊急事態です!!」
「あァ!?今忙しい!!」
“中将”スモーカーは、目の前に悠然と佇む男、ゴードンと対峙しながら部下に叫んだ。
「ひ、広場に“ドフラミンゴ”と“クロコダイル”が現れました!!現在、ウタ中佐が交戦しています!!」
「…なに!?」
しかし、その一報は確かに緊急事態と呼べるだけの内容だった。
「ドフラミンゴ…クロコダイル…?えっ、なんでここに…」
「確かなのか!?その情報は!!」
「現場から“電々虫”で通信が!!事態は一刻を争うと!!」
「…チィッ!!」
スモーカーは、未だ“無傷”のゴードンから距離を取る。
「…これもテメェの差金か。ゴードン…!!」
ドフラミンゴ、クロコダイル。その両名は問題児だらけの“七武海”の中でも頭脳派で知られる名前だ。少なくとも、何の考えもなしに政府に楯突くようなマネをする男ではない。
…“この男”の関与がなければ。
10年前、ゴードンが海賊として復帰してからドフラミンゴとクロコダイルは今までにも増して不審な行動を取るようになった。まるで何かの意思に動かされるかのように。
もし、この二人を動かせるほどの男がいるとしたら…。
「ま、まずいな…黙って出てきたのがバレたか…」
目の前にいるこの男でしかあり得ない。
それだけじゃない。この男は10年前にエレジアを滅ぼしている。もしこの男の狙いが“ウタ”なのだとしたら。
このタイミングでの“麦わら”の上陸。バギー海賊団という隠れ蓑。そしてこの“時間稼ぎ”。全て説明がつく。この状況が…全て、ゴードンの思い通りに動かされていたとしたら。
「…いいか。この勝負は預かりだ。次会った時は、必ずお前を監獄にぶち込んでやる…!!」
スモーカーは、ゴードンという男の危険度を“極高”に引き上げた。
何を考えているのかわからない輩が、最も恐ろしいものだ。
「“広場”へ戻るぞ!!反逆者共を決して逃すな!!」
「はっ!!」
スモーカーは自身専用の“ビローアバイク”に跨り、踵を返して広場へと急行した。
「…とりあえず隠れよう」
その場に残されたゴードンは、そそくさと近くにあったゴミ箱の中に隠れた。
「はぁ…っ!!くっ!」
「おい!もういいだろ!!通してくれ!!」
広場前通路。
ルフィとたしぎは、荒れた通路の只中で相対していた。
しかし、勝負はすでについていると言っていい。たしぎは疲労困憊のあまり愛刀を杖代わりにしてなんとか立っている状態で、対するルフィは少々息が上がっている程度だ。
「ふざけないで、ください…!!情けをかけてるんですか!?通りたいなら殺してでも押し通ればいい!!」
たしぎは決して、戦いに対して妥協はない。海賊と戦う以上命を落とすことも、大切な人を失うこともある。全てを受け入れた上で、この戦場に立っているのだ。
それなのに、あろうことか目の前に立つ男は、自分に対して明らかに情けをかけている。
屈辱だ。敵に情けをかけられて生き延びるくらいだったら、死んだ方がマシだ。たしぎはそう考えている。
しかし。
「でもお前、ウタの友達なんだろ?」
「なっ…!」
“麦わらのルフィ”は、決して情けをかけているわけではない。
恐らく目の前の彼女が幼馴染と知己の仲にあることに、ルフィは直感的に気づいていた。
「お前がいなくなったらよ!多分おれの“仲間”が悲しむんだよ!!だからもうお前、そこどけ!!」
彼の脳裏に浮かぶのは、10年会っていない幼馴染の明るい笑顔だ。その笑顔が曇る可能性をルフィが選択することはない。
ただ、それだけのことだった。
「なにが、仲間…!」
だが、そんな態度すらも今のたしぎにとって矜持を踏み躙られる侮辱だ。
たしぎはフラフラと立ち上がり、再び愛刀“時雨”を構えた。
「おい!もういいだろ!!」
「本当に彼女の仲間だと言うなら…彼女の“幸せ”を考えたらどうですか!!海賊として生きる道と、海兵として生きる道!!どっちが幸せか考えるまでもないでしょう!?」
たしぎの戦意が未だ挫けていないのは、ある種の意地のようなものだ。
自分が尊敬する人を、海賊に奪われたくはない。そういう意地だ。
「そんなのアイツが決める事だろ!!なんでお前が…!」
「そうね。だから…」
「え?」
その時、その場に“第三者”の声が響いた。
「そう“選択せざるを得ない状況”を…作ればいいのよ」
「うっ!?…あ…!」
声はルフィの後ろから、聞こえている。そして、その声の主がルフィの側頭部を指先でトンと触れた。
たったそれだけのことで、ルフィは気絶してしまう。
「…プ、プリン少佐!?」
彼女の名はシャーロット・プリン。海軍本部“少佐”。
「よく気を引いてくれたわ。たしぎ。お陰でこの距離まで近づけた…さぁ、ご覧なさい。これが“麦わら”のフィルムよ」
プリンはルフィの頭から“フィルム”を取り出し、それをまじまじと眺めた。
「…ふぅん」
彼女の反応は、実に淡白なものだった。
「あ、ありがとうございます。プリン少佐!お陰で麦わらを拘束できました」
「拘束ね…それだけでいいの?」
「え?」
たしぎはプリンの言葉に首を傾げる。
「この男を捕まえただけじゃ、彼女を取り戻したことにはならないわよ?」
「…それは、どういう…?」
ますます疑念を深めるたしぎに、プリンはクスリと笑って言った。
「だって…思うでしょ?もし、10年間自分の帰りを待ってくれていたはずの船長が…大切な幼馴染が…」
プリンは、懐から“ハサミ”を取り出した。
「自分のことを“すっきり忘れていたら”?そんな酷い男…二度と関わりたくなくなるでしょ?」
「…え、プリン少佐?まさか…!」
彼女はずっと、“機”を待っていた。いつかこんなチャンスが来るはずだと。
「その鬱陶しい“思い出”ごと、彼女との繋がりを絶ってあげる」
全ては想定通りに。
「“
…。
ローグタウン。中央広場。
「テメェは…」
サー・クロコダイルは、突如として目の前に現れた“その男”に、冷や汗を掻いていた。
「…フフフフ!!随分な大物が、このチンケな町に集まるじゃねェか…!!」
ドフラミンゴは、伸ばした“炎の鞭”を手元に戻した。
その鞭は、半ばで綺麗な断面を見せて“断たれていた”。
「うっ…!!痛ったぁ…!!」
私は、呻き声を漏らしながらむくりと起き上がった。
「あれ、大丈夫だ…」
私は糸に拘束され、ドフラミンゴの攻撃をまともに受けたはずだ。
しかし、ずきずきと痛みを訴えてくる背中以外には、特に目立った外傷はなかった。
「…え!?」
そこまで確認して、ようやく私は気付いた。
目の前に、“ローブ姿”の大男が立っていることに。
ピシャリ!!と雷が轟き、一瞬顔半分にタトゥーを入れた鋭い面相が浮かび上がる。
「あまり事を荒立ててくれるな、海賊。ここでぶつかり合うことは、お互いにとってリスクが大きいはずだ」
その人は、私を背にしてドフラミンゴ、クロコダイルと話し始めた。
「フッフッフ…!!“革命軍”も力は欲しいらしい…!なるほど、力で体制を壊し、その力でまた再び民衆を支配するわけか…!こりゃ傑作だなァ!」
「同志を募っているだけだ。これ以上戦うなら…俺も介入させて貰おう」
ドフラミンゴは相変わらず笑みを顔に貼り付けけているが、その人を前に攻撃を仕掛けることはしなかった。
“王下七武海”にとっても、簡単に勝てる相手ではないのだろう。
「…いいだろう。ここは退いておく」
状況を動かしたのはクロコダイルだ。彼はその人に対して矛を収め、くるりと踵を返した。
「行くぞ。“アイツ”を連れ戻して撤収する」
「…まァここが潮時か。手土産を持って帰ろうと思ったんだがなァ…!」
ドフラミンゴもそれに続き、空へと浮上していく。
「フッフッフ!楽しかったぜ、海兵!!また会えるといいなァ!」
「…もう来ないでねー!!」
私にも会いたくない人くらいいる。たしぎちゃんを襲ってはいなかったようで…それは良かったけど。
「あの…ありがとうございました」
二人が消えた広場で、私は助けてくれた人に頭を下げる。
結局、この人は誰なんだろう。
「為すべきことをしただけだ。君と話したいことがあったからな」
「…私のこと、知ってるんですか?」
「あぁ、君の存在はウチの“参謀総長”から聞いている。又聞きだがな…」
その人は私に向き直り、何でもないことのように言った。
「俺はドラゴン。革命家であり、ルフィの父だ」
「え」
「えぇ〜〜〜〜!!?」
…西の港。“ゴーイングメリー号”船上。
「…おいおい、ルフィはまだか!?」
麦わらの一味“狙撃手”ウソップは、未だ姿が見えない“船長”の姿に眉を顰めている。
「海賊共を捕らえろ〜〜!!」
「そろそろ港も限界だぞ…!!」
港にはすでに大挙して海兵が押し寄せている。ゾロとサンジが率先して相手をしているが、時間が経てば経つほど敵は増える。多勢に無勢だ。
「ナミさん!出航の準備をしといてくれ!5分経っても俺とルフィが戻らなかったら、そのまま“
「えぇ!?ちょ、ちょっとサンジ君!?無理よ!船長無しで出航なんて!」
「だが、もしルフィが捕まったならこのまま待っても状況は好転しねェ!!」
一味の中でも意見が割れ、サンジは自らルフィを迎えに行くことを提案した。
その時。
「…あ!!おい、来たぞ!!」
「何!?本当か!?」
「お〜〜〜い!!お前ら〜〜〜!!」
港の向こうから、ルフィが現れた。
「ルフィ〜!!こっちだ〜!!」
「…もう!心配させないでよね!!」
「“ゴムゴムの”〜〜〜!!」
「現れたぞ!!“麦わら”だァ!!ここで止め…!」
「“ロケット”〜〜!!!」
「「「ぎゃああぁ!!」」」
ルフィの“伸びる腕”が船のマストを掴み、その勢いで一気にルフィはゴーイングメリー号の船上へと舞い戻った
「よっし!野郎共!!出航だ!!」
「言われなくてもそうするよ!どこ行ってたんだお前!?」
「いや、それが聞いてくれよ!!ゾロとサンジの奴、おれのこと置いてったんだ!!船長なのに〜〜!!別にいいけどさァ!!」
「…あ?」
しかしゾロとサンジは、ルフィから返ってきた言葉に違和感を抱いた。
「オイオイ、何言ってんだルフィ。お前が言い出したんだろ。“用ができた”って…!!」
「え?」
「あぁ、確かに聞いたぞ。ルフィお前…ちゃんと用事は済ませたんだろうな?」
ゾロは訝しげにルフィの目を見た。
あの時、別れた時にルフィの目に宿っていた“覚悟”が…今はさっぱり消え去っていることに気づいた。
「…そうだったか?」
ゾロとサンジの問いに、ルフィは「う〜ん」と呻く。
だが、思い当たることはなかった。
「とにかく出るわよ!!もう時間ないんだから!!」
「おう!そうだな!」
「…」
ゾロは胸中の違和感を拭いきれずにいたが、それを表に出すことはなかった。
「出航〜〜〜!!」
ゴーイングメリー号が港を離れ、海へと漕ぎ出す。
「…ん!?お、オイ!ちょっと待て!!」
しかしそこで、港を望遠鏡で除いていたウソップが叫んだ。
「なんか…こっちの方に飛んでくるぞ!?あ、ありゃあ…!!人か!?」
「えぇ!?人が飛ぶわけないでしょ!?」
航海士のナミはウソップの言葉を否定した。
しかし、その影は近づけば近づくほど…やはり人の姿に変わっていく。
「わああああぁぁぁ!!」
やがてその影は、一人の“少女”の姿になった。
「か…!“海兵”が飛んできたァ!!」
「えぇ〜〜〜!!?」