“世界の歌姫”のやり直し   作:ぷに凝

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シャーロット・プリン

生まれてきたことの意味がわからなかった。

 

私はシャーロット・プリン。“三ツ目”の醜い怪物だ。

 

だけど私はいつからか、この忌々しくてしょうがない第三の目を、人目に出すようになっていた。

 

それは、いつからだろうか。

 

『ふむ、報告ご苦労様。よくやった、プリン少佐。君の昇格は間違いないだろう』

「そ。好きにすれば?肩書きなんて興味ないわ」

 

私は電々虫で、物陰に隠れて会話をしていた。

 

電々虫の向こうにいるのは、世界政府の上層部。私は相手の名前も顔も知らない。

 

「そんなことより…約束は守りなさいよ?言う通りに動いたのだから」

『ふむ、成果は上々。だが、万全を期すならもっと取れる方法があったのではないかね』

「…何のこと?」

 

私は片眉を上げて、次の言葉を待った。

 

『“ウタ中佐”の方の記憶も不必要なのではないかと、そう言っているのだ』

 

「…」

『あぁ、別に不服があるわけではない。ただの提案だ。彼女の身柄は保証するとも』

「…そう」

『また有事の際には連絡しよう。では…』

 

ガチャリ。

 

「…クソジジイ」

 

私は、誰にも聞こえぬように悪態をついた。

 

 

 

…8年前。

 

マリンフォード。独房室。

 

(我が子ながら気味が悪いね。前髪をのばしな、プリン)

 

(怪物よー!!気持ち悪い!!)

 

(見ろこいつ!三つ目なんだ!!)

 

(キャー!!近寄るな化け物!!)

 

(おぞましい…!きっと呪われてるのよ!!)

 

(ママはなんで三つ目族なんかと子供を…)

 

(やめ“でよぉ〜〜!!)

 

…だまって、笑われてやるか。

 

怪物なら怪物らしく振る舞って、醜く生きてやる…!!

 

 

「かわいい!!」

 

 

「…は?」

 

…なんだ、こいつは。

 

「かわいいじゃん!“三ツ目”!!」

「…誰だよ、お前」

「あっ、そうだった!ごめんね、つい!」

 

そいつは…私が今まで会ったことがないタイプの人間だった。

 

「私はウタ!新時代を作る女だよ!!よろしくね!!」

 

…有り体に言えば、イカれてるのだ。

 

そのウタという少女は。

 

 

 

私は2年前の“マリンフォード侵攻事件”によりビッグマム海賊団と別れ、海軍に囚われていた。

 

一日に一度、10分間の尋問。それ以外の時間は全て独房の中だ。

 

手には常に“海楼石の手錠”が付けられ、電々虫によって行動を常に監視されている。

 

ママの秘密なんて何も持ってないのに、ご苦労なことだ。

 

そう、私はこの海軍内においても厄介者扱い。海軍にとっての情報源となることもなく、かといって解放することもできず、有用性を考えて殺すことも憚られる。

 

私はどこに行っても必要のない存在だ。

 

「…で、結局あなたは何がしたいの?」

「お話!ずっと話したかったんだけど、ガープさんにダメって言われてたんだ〜。でも今日は許可が下りたの!」

「あっそ。良かったわね」

「うん!良かった!あとはね〜…えへへ、友達になれるかなって思ったんだ〜。同い年くらいの女の子、海軍にいないからさ〜」

「…あのさあ」

 

私は、ガシャン!と音を立てて檻を掴んだ。

 

「そんなに私のことを見下したいなら、そう言えばいいでしょ?」

「…見下す?」

 

この女の考えていることくらい、全部わかる。

 

「知ってるわよ?あなたウタでしょ?“魔王”を宿してるそうじゃない?そんなあなたが独房の外にいて、私はこんな狭い檻の中なの?ねぇ、出してよ」

「ごめんね。それは出来ないんだ」

「そう言うと思った」

 

私はフンと鼻を鳴らして壁にもたれかかった。

 

「大体の奴は、私の“三ツ目”を気持ち悪がって近寄らない。その中の一部は私のことを殴ったり蹴ったりするわ。そして一部の人は…同情でもしたのかしら?私の“これ”を褒めてくるのよ」

 

額の上の“三ツ目”を指して、私は笑う。

 

「だけどね?そんな人と一緒にいると…そのうち何故か離れたがるようになるの。なんででしょうね?私のことを褒めてくれるのに、一緒にいたくはないみたい」

 

昔…多分好きだった子がいた。私の“これ”を褒めてくれたから。

 

私と一緒に皆に虐められるようになってから、どこかへ消えてしまったけど。

 

「貴方もおんなじ。口ではなんとでも言えるわ。私は一番嫌いよ。貴方みたいな人間が…!」

「…そっかぁ」

「出てって」

 

私はそれだけ言って、独房の奥に座り込んだ。

 

…カツ、カツ、カツ。という靴の音が遠ざかっていく。

 

「…ほら見なさい」

 

私の味方なんて、この世のどこにもいないんだ。

 

私は手で顔を押さえて、くすくすと笑った。

 

 

 

「プリンちゃ〜ん!!来たよ!!」

「…」

 

翌日。

 

「プリンちゃん!メイクしよう!すっごく可愛くなるから!!」

「は?」

 

イカれた女がメイクセットを持ってきた。

 

 

 

「う〜ん、プリンちゃんは睫毛長いから、ナチュラルメイクでいいよね〜」

 

ガラガラと音を立てて、ウタがリップやアイシャドー、チークなどのメイク用品を取り出していく。

 

…何の用途があるのかも不明な巨大ビューラーまで出てきた。

 

「帰れ」

「ダメ!まだ何も出来てないよ!」

「そんなのやりたくないって言ってるの」

 

…こんな薄暗い独房で、何が悲しくて化粧なんかしなければいけないのか。

 

「メイクなんかしても、私の目が隠れるわけじゃない」

「隠さないよ!かわいいんだから!むしろ際立たせるメイクをするの!!」

「…際立たせる?」

「そっ!かわいい“三つ目”メイク!」

 

…不本意ながら、私は一瞬だけその“メイク”とやらに興味が湧いた。

 

「…好きにしなさい」

「やったぁ!」

 

だから私は…ほんの暇つぶし程度の感覚で、了承した。

 

…してしまった。

 

「よし!出来たぜ!!」

 

パチン、と音を立ててケースが閉じられた。

 

「手鏡サイズなら、持ち込み可って言われたんだ〜」

 

目を開けると、小さな手鏡がそこにはあった。わざわざライト付きで、暗いところでも見えるようにしたものだ。

 

…ほんのちょっぴりだけ、話の通じる人物ではあったらしい。

 

「はい!かわいい!!」

「…なにこれ」

「かわいいでしょ?」

「ダサすぎでしょ」

「えぇ〜〜〜!!?」

 

しかし、ウタは美的センスが壊滅していた。

 

どうすればここまで酷くなるのかというくらいのメイクだ。鏡に写った自分の顔は、少女というよりバケモノの類のそれに近い。

 

「こんなにかわいいのに〜〜!?」

 

…だけど、まぁ。

 

確かに、三つ目は馴染んでる。バケモノメイクのおかげで違和感なく。

 

「…ふふっ」

 

私は、ちょっとだけ。

 

こんな時間が、楽しく思えた。

 

 

…数週間後。

 

「だから、なんでこれが可愛いのよ。これ明らかにモンスターとしてデザインされてるじゃない」

「いや!この不細工な感じがむしろかわいいの!鋭いキバとか!チャームポイントだよ!!」

「…まぁ、いい武器にはなりそうね。きっと人間を噛み砕くには適当なサイズよ」

「なんでプリンちゃんはそんなに怖いの〜〜〜!?」

 

ウタは私の独房の前に入り浸るようになっていた。

 

放置しておくと騒いで五月蝿いので、仕方なく相手をしてやっている。

 

「あなたくらいよ。本気で私の“三ツ目”のことかわいいと思ってるの」

「え〜、だってかわいいじゃん。ギョロギョロしてて」

「擬音がかわいくない」

 

ここ数週間ウタと接しててわかったことは、彼女が筋金入りの変人だということだ。

 

海兵という身でありながら捕虜の私を毎日のように訪ねてきて、当たり前のように居座る。

 

…この呑気な娘が“魔王”だなんて。とても信じられない。

 

「…そういえばあなた、首のソレ、どうしたの?」

「うん?…ああ、これ?」

 

そんなウタは今日、首におかしな機械をつけていた。

 

…まさかアクセサリーとか言うつもりじゃないでしょうね。

 

「なんかねー、逃げられないようにするんだって。逃げようとするとピピピーって鳴って、爆発しちゃうの」

「…それって」

 

…聞いたことがあった。

 

“奴隷”に付ける首輪には、そのような効果があると。

 

「…」

「ただねー、これ首が痒くても掻けないんだよねー…んー、よいしょ…!」

 

ピピピピピピピ。

 

「うわあ!?な、鳴ってる!?」

「ちょ、ちょっと!手を離しなさい!」

「あ、あわわわ…!!」

「このっ、鈍いんだから…!!」

 

ウタが首輪と喉の間に挟んで、パニックのあまり抜けなくなっていた掌を、私が牢屋越しに手を伸ばして無理やり引き抜く。

 

…。

 

「あ、危なかった〜…!」

「ハァ、ハァ…!なんで人にやってもらう方が早いのよ…!」

「えへへ〜、ありがとうプリンちゃん。助けてくれて」

「…別に」

 

…助けた?私が?

 

ウタのことを?

 

「…そっか」

 

…私でも、役に立てることってあるのね。

 

 

…数ヶ月後。

 

「出ろ。シャーロット・プリン」

「…え?」

「特例だが…貴様の“海軍”での起用が決定した。今後、貴様には海兵として働いてもらう」

 

それは、突然の宣告だった。

 

このまま狭い独房の中で一生を終えるんだと信じ切っていた私に…どういうわけか。

 

「やった〜〜!!プリンちゃ〜〜ん!!」

「ちょっ、ウ、ウタ…!?」

 

光が差し込んだ。

 

 

「…要するに」

 

私は“解放された腕”を組んで、正座するウタを見下ろしていた。

 

「今までの私との行動は、全部私を解放するためのポイント稼ぎだったと?」

「…はい」

「私に害がないのを証明するために、わざと近づいてきて、仲良くしたと?」

「…はい」

「本心では私のことを見下していたのに、演技をしていたと?」

「それは違うよっ!?」

 

ハァ〜、と私は溜息を吐いた。

 

「最低ね。すっかり騙されたわ。あなたには」

「うっ…!!」

「友達だと思ってたのに…失望したわ」

「わああああああ!!ごめんなさいごめんなさい!!」

 

地面に頭を擦り付けて平謝りするウタを見て…私は嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「…“責任”、取ってくれるなら考えてもいいわよ?」

「…何をすればいいでしょうか」

「んー、そうね」

 

私はしばし考え…ニッコリと笑って言った。

 

「私の奴隷になりなさい。ウタ」

 

 

「あ、あの〜…プリンちゃん?」

「なぁに?」

「…なんで私は化粧をされてるんでしょうか」

「あら、覚えてないの?」

 

数時間後。

 

私は、ウタにメイクを施していた。

 

「最初の頃、私に酷いメイクをしたじゃない。その意趣返しよ。バケモノにしてあげる」

「うぅ…お手柔らかにお願いします…」

「こうして…はい出来た。完成。ほら、鏡よ」

「…見たいような見たくないような…!」

 

私は、恐る恐る目を開けるウタの前に手鏡を掲げた。

 

「…わああぁ〜…!?」

 

そこに写っていたのは、綺麗な…とても綺麗な女の子。

 

「すごい!!」

「これが“普通”よ。なんでメイクを教わってる私の方があなたより上手くなるのかしら…」

「プロじゃん!プリンちゃんプロじゃんこれ!!」

「あぁもう、うっさいわね!!」

 

私はじゃれついてくるウタを手で押し返して、デコピンを喰らわせた。

 

「あだっ」

「汚い奴隷はいらないのよ。これからはちゃんとお洒落を学んでくるように」

「…は〜い。えへへ〜」

 

額を赤くしながた、にへらと笑う彼女に釣られ…私もくすりと笑ってしまった。

 

 

「…ちょっと、どうしたの?ウタ」

「あ、これ〜?訓練でこうなっちゃった〜」

 

また数日後。治療室。

 

そこでは、ベッドに横たわり全身に包帯を巻いたウタがいた。

 

「訓練でここまでの傷を負うの?なにしたのよ…」

「“アーマーナイト”って言ってね。使った後は動けなくなるんだけど、使ってる最中はすごく体を動かすから、こうやって訓練しながら使えばどんどん強くなれるんだって〜」

「…それ、ガープさんに言われたの?」

「最初はね?でも途中からもうやめろって言われて…でもたまにやっちゃうんだよね〜。マリンフォードから出られない時とか」

「…ウタ。命令よ。それはもうやめなさい」

 

私はベッドのすぐ隣に座り、ウタの頬を撫でた。

 

「なんで?」

「そうまでして強くなってどうするの?戦争にでも行くつもり?」

「…ん〜、そうなっても生き残れるように、強くならなきゃいけないんだ」

「…どうして」

「約束があるから」

 

…ウタは、たまに病的なまでに自分を追い込むことがある。

 

他人にはどこまでも甘いくせに、自分にはどこまでも過酷な試練を与えることがある。

 

…そしてそんなウタの気質を、“世界政府”の上層部は利用している。

 

ウタが海軍を離れられないのを良いことに…彼らはウタに、過酷な任務を強いた。

 

その修羅場の中で尚…ウタは平和を願い、人々を守り、歌を歌い、やがて“海の天使”と呼ばれるようになっても…戦いが終わる頃、彼女はボロボロになっている。

 

…私は、ウタが戦っている時何もできない。

 

全てが終わった後で、病床に伏す彼女側にいて言葉をかけることしかできない。

 

…せめて私にも、力があれば。

 

そんな日々を送っていたある時。

 

『“ウタ中佐”に不穏な動きが見られている。以前から彼女には海軍を抜け出し、海賊になろうという趣旨の問題発言が散見されていた』

「…ウタが、海賊に…」

 

突如として、私に“極秘命令”が課された。内容は…ある海賊の記憶の操作。

 

『本心だとすれば問題だ。未だ彼女は特殊な環境下にある。海軍を離れようなどと考えるのであれば…始末せざるを得ない』

「っ…!」

 

私は知っていた。

 

ウタと麦わらとの関係を。

 

直接聞いたわけじゃないが、何度も何度も故郷の“幼馴染”の話をしてくるのだ。それを聞いていれば、ウタがいずれかは、その幼馴染と共に海に出るつもりなのは簡単に予想がついた。

 

『方法は一つだ。ウタ中佐と、海賊との関わりを断つ。この任務は君にしか出来ない。やってくれるな?“プリン少佐”…』

「…私に、しか」

 

そう、記憶を消せる私だけが、ウタを守れる。

 

“海賊”との繋がりを断つことが出来る。

 

出来なければ、ウタは死ぬ。

 

「…やるわ」

 

何者も、誰だろうと。

 

彼女を害することは、この私が許さない。

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