「シャンクス、私...この村に残る」
私はその日、決断をした。
「そうか」
シャンクスは。静かにそれだけ言って、頷いてくれた。
海賊団の皆も、私に何も言わなかった。多分シャンクスがそういう風に計らってくれたんだと思う。
ただ、その日の宴は...皆いつも以上にお酒を呑んで、大騒ぎして、涙を流していた。
私もたくさん泣いて、たくさん笑った。
「ねぇ、シャンクス」
「うん?」
「えへへ...大好き」
「...俺もだよ」
寂しい気持ちを紛らわそうと、私もいつも以上に大はしゃぎしちゃって。気づいた時には、疲れて眠ってしまった。
それを見て、皆も安心してしまったらしい。いつの間にか宴の会場だった騒がしい酒場は、その場で寝込んだ私たちのせいでいつもより静かになってしまった。
「おーい!シャンクスー!宴してるって本当か〜!?なんでおれのこと呼んでくれ...」
「しーっ」
「なか...った...。あれ?マキノ、皆寝てんのか?」
「えぇ。皆はしゃぎすぎちゃったみたいね。もう在庫もすっからかんだわ。ふふ」
「えー!なんだよー。おれも宴参加したかったのにー」
「残念だったわね。宴はまた今度にしましょう?今日はこのまま船長さん達ウチに泊まらせちゃうわ。ルフィもお片付け、手伝ってくれる?」
「えー!?おれは片付けかよー!」
「手伝ってくれたら、ジュース奢ってあげるわよ?」
「ホントかー!?やるー!」
「ふふっ」
これは余談だけど、本来なら赤髪海賊団はもう少しこの村に停泊する予定だったらしい。ただ...
「...ん?なんだこの宝箱」
“ある事”がきっかけで、シャンクス達は予定を早めた。
「...果物?」
私がその理由を知るのは、ずっとずっと先の話だった。
「ば、バカヤローっ!!」
翌日。私はシャンクスの怒鳴り声で目を覚ました。
「な、ないっ!!敵船から奪った“ゴムゴムの実”が!!」
「お前、本当に食ったのか!?あの実を!?」
「う、うん...デザートに...まずかったけど...」
寝惚け眼を擦りながら起き上がると、どうやらルフィがシャンクス達に詰め寄られているようだった。
「“ゴムゴムの実”はな!!“悪魔の実”とも呼ばれる海の秘宝なんだ!!食えば全身“ゴム人間”!!そして一生泳げない体になっちまうんだ!!」
「えーーーっ!?うそーーーー!!」
「バカ野郎ォーーーーっ!!!」
「う、うるさい...」
なにか大変な事が起きたのはわかるけど...。
朝から大声は...やめてほしい...。
「えー!?もうこの町へ帰ってこねェのか!?」
「ああ。随分長い拠点だった。ついにお別れだな」
数日後。シャンクス達の船出の日がやってきた。
私は、港でシャンクスとルフィの会話を遠い所から見ていた。
あんまり近いと、言いたくない言葉が出そうになっちゃうから。
「悲しいだろ」
「か、悲しくなんかねーよ!シャンクス達こそ、ウタがいなくなって悲しくねーのか!?」
「悲しい?バカ言え。海賊の別れってのは、笑って見送るモンなんだよ...そんなことも知らねェのか?」
「なんだよ!バカにしてんのか!?おれだって海賊のことくらい知ってる!連れてって貰えなくたって、自分でなることにしたんだ!海賊には!」
「べー。どうせ連れてってやんねーよー。お前なんかが海賊になれるか!!」
「...子供に張りあってる」
別れの挨拶なのに、全然悲しそうじゃない。どっちも意地を張って、悲しくなんかないように振る舞ってる。どうして男の人って皆こうなんだろう...?
まあ、そういうところが可愛かったりするんだけどね。
「なる!!おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!!世界一の財宝を見つけて!!!」
「海賊王になってやる!!!」
「ほう....!!!おれ達を越えるのか」
その一瞬、シャンクスは私に目を向けてニヤリと笑った。
「...なによ」
「...」
...私は、もう赤髪海賊団じゃない。
シャンクス達がルフィに抜かされようと、知ったこっちゃない。
「じゃあ...」
「あ...」
「この帽子をお前に預ける」
「!」
「俺の大切な帽子だ。いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな」
「......!」
「そしてその時は...アイツも連れてこい」
「......」
「錨を上げろォ!!帆を張れ!!出発だ!!」
「シャンクスーーー!!!」
いつの間にか、私は駆け出していた。
「いつか、私も大人になったら海に出て...また追い付くから!!」
「ウタ...」
「ルフィと一緒に会いに行くから!!」
どんどんと遠ざかっていく船に、私は必死に、喉が張り裂けても叫ぶ。
「そうしたら...また、私の歌を聴いて!!」
「...」
「約束だよ!!!」
その時、私は遠くに見える船の向こうに。
「....!」
大きく振り上げられた左腕を見た。
「...行っちゃったぞ。シャンクス」
「...そうね」
「お前、本当に良かったのか?」
私は、腫れ上がった目を隠すように、前を向いたままにっこりと笑った。
「なーに?心配してんの?ルフィのくせにー?」
「ち、ちげェ!シャンクスが寂しいんじゃねェかって思ったんだ!」
「シャンクスはアンタみたいに泣き虫じゃないから平気よ。それより、シャンクスを越える海賊になるんでしょ?なら特訓しなきゃね」
「む!たしかに!よっし、ウタ!勝負だ!」
「結局そうなるのねー」
私は...未来の麦わらの一味“音楽家”・ウタ。
いつの日か、海賊王の相棒となる女だ。