“世界の歌姫”のやり直し   作:ぷに凝

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山賊ヒグマ①

「...ぅん」

「む。目覚めおったか」

「...ここは」

 

目を覚ますと、私は見たこともない島にいた。

 

...何も思い出せない。

 

私は確か、シャンクス達の出航を見送って...。

 

「まったく、赤髪め。とんでもない娘を置いていきおって」

 

寝込んでいたらしい私の隣には、なんだかすごく強そうなおじさんが座っていた。確かこの人は...ルフィのお祖父さん。ガープさんだっけ。

 

「あ、あの...ここは、どこですか...?ルフィは...」

「話は後じゃ。来よったぞ」

「え?...!?」

 

ガープさんが目を向ける方向には....海軍の大艦隊が並んでいた。

 

少なくとも10隻以上。世間知らずな私でも、ちょっとやそっとじゃこんな艦隊は組まれないことはわかる。

 

「“バスターコール”じゃ。正確にはもう攻撃は終わって、恐らく本部の中将共がここに来る。ええか、今からワシの言うことをよく聞け」

 

ガープさんは強面な人だった。それに、ルフィをよく叱りつけてるイメージがあったから怒りっぽい印象もあった。

 

だけど、今のガープさんは、まるで何かに追い詰められているかのようで、すごく怖い顔をしていた。

 

「ワシがこれからお前さんに、いくつかの質問をする。お前はその全てに“いいえ”と答えるんじゃ。そして...絶対にワシの側を離れるな」

「...は、はい」

 

私はすごい気迫に押されて、ただ首をカクカクと振ることしかできなかった。

 

そして、ガープさんの言った通り、軍艦から何人かの海兵さんが降りてきて、私達の方に歩いてきた。

 

....その中には、白いスーツを着た人達もいた。

 

「CP-0...!」

「海軍本部中将ガープだな」

 

ガープさんはその姿を見ると、ますます顔を険しくした。もうほとんど鬼みたいな顔だ。私の精神が大人じゃなかったら多分泣き出してたと思う。

 

「率直に言おう。そこにいる娘を我々に引き渡してもらおうか。その娘には...」

 

そして、白スーツの人は私に向けて指を指し、無機質な声で言った。

 

「国家転覆を企てた疑いがかかっている」

 

「...え?」

 

 

...数時間前。

 

 

「なぁウタ〜。こんなんで強くなれんのか〜?」

「なれるなれる。はい、ルフィ!さっきみたいに!」

「ん〜?じゃあもう一回...!“ゴムゴムの”〜!」

 

私とルフィは、マキノさんの酒場でいつものように勝負をしていた。

 

今日はおもしろさ勝負。

 

「“変顔”〜!」

「ぶっ!あっははははは!ちょ...!超伸びてる!あはははははは!お腹痛い!」

「やっぱ笑ってんじゃねェか!!」

 

ただ、不本意なことに今日の勝負は完敗だ。

 

ルフィの面白さには流石の私も敵わない。

 

「は〜。笑った笑った。マキノさ〜ん、オレンジジュースちょーだい!」

「はい、どうぞ」

「あっ!ずりぃぞ!マキノおれにも!」

「はいはい」

 

私とルフィは、シャンクスと別れた後も勝負したり遊んだり、喧嘩したりとそんなに変わらない日々を過ごしていた。

 

ルフィと一緒にいると、なぜか私も子供みたいにはしゃぎたくなってしまう。実際は何十歳もお姉さんなのにこれはいけない。

 

「ふふ、良かったわねルフィ。仲のいい女の子が居なくならなくて」

「おれとウタは仲良くなんかない!いっつも意地悪してくるんだ!」

「あら、そうなの?仲良くしないとダメよ?」

「ルフィはガキだからね。これくらいで丁度いいのよ」

 

...やっぱりもうしばらくは子供のままでいいかな。

 

そんな風に過ごしている時、事件は起こった。

 

「邪魔するぜェ」

 

「「...」」

「ん?なんだあいつら」

 

和やかな空気を切り裂くような、粗暴な声と仕草。小汚い身なりをした数十人の男達が、酒場に入ってくる。

 

それなりに海賊をやってたから、私にはすぐにわかった。彼らは不成者だ。

 

「シケた店だなぁ。ちゃんと酒はあるんだろうな?おい、そこの女!」

「は、はい!」

「おれ達は山賊だ。が、別に店を荒らしに来たわけじゃない。酒を売ってくれ。樽で10個ほど」

「...わかりました」

 

マキノさんも、こういった客の対応には慣れてるのだろう。テキパキとお酒を用意し始めた。

 

「お頭〜。こんな店の酒なんて、きっと不味くて飲めやしませんぜ!」

「あぁ、違いねェ。それよりあの美人店主さんを持って帰ろうぜ〜!」

 

「...イヤな感じ」

「なんだあいつら!この店の酒が不味いとか、飲んでもねェくせに!」

「やめなよ、ルフィ。かまう価値もない」

 

シャンクス達は海賊でも、一緒にいて楽しいと思えた立派な人達だ。

 

だけど、世の中にいるほとんどの“賊”っていうのは、こういう風に人に迷惑ばかりかける悪い人達のこと。“前世”も含めて、私はそのことをよく知っていた。

 

「お待たせしました。お酒10樽分ですね。どうぞ」

 

そうこうしている内に、マキノさんが商品を用意し終わった。カウンターの上にドンと重い樽が乗っけられる。

 

...マキノさんも、意外に力持ちなんだよね。

 

「ご苦労、お嬢さん。で、悪いんだが今手持ちが少なくてね。代金は後で必ず用意する。今は...これっぽっちしか払えない。どうだい?」

「...えぇ、それで大丈夫ですよ」

「そうかそうか!悪いなァ!いやいや、君は“分かってる”な!また来るよ」

「はい。またのご来店をお待ちしてます」

 

...胸糞悪い。けど、マキノさんも我慢してるんだ。一番悔しいのはマキノさんなんだから。

 

「...」

「ルフィ?」

「なんだよ...」

「ダメだからね」

「...フン!」

 

そして、今にも飛び出していきそうなバカがここに一人。マキノさんのためにも、こいつは絶対引き止めなきゃいけない。

 

本当なら私が出て行ってやりたいくらいだけど。

 

「...ふむ、せっかくだから少し味見してみようか。お嬢さん、酒を注いでくれないか?あぁ勿論、試し飲みだからな。料金はいらない」

「ぷっ!ぎゃはははは!そりゃ店側が言うことでしょお頭!」

「...わかりました」

 

ぎゅうっと音が鳴るほど、拳を握り締める。

 

「ダメだからね」

「な、なんも言ってねェだろ」

「自分に言ってるの」

「え?」

 

ホント、くだらない。

 

「どうぞ」

「あぁ、ありがとう」

 

さっさと飲んで、さっさと帰ってほしい。

 

「...ん〜」

 

 

ガシャアン!

 

 

「あうっ!!」

「おいおい、店主さんよ...何の冗談だ?この酒は」

「うほぉっ!流石お頭ァ !容赦ねェ!」

 

...。

 

「お、お口に合いませんでしたか...?」

「合わねェも何も、こんな不味い酒今まで飲んだことが...ん?」

 

そっか、こんな気分だったんだ。

 

「...!?だめ!ウタ!」

「なんだ?このガ、ぎいぃっ!!?」

 

「お、お頭ァ〜!!?」

 

多分、私は”前世“も含めて、その時初めて人を殴った。でも後悔はしてない。

 

「おじさん、悪い人だから。ウタがやっつけてあげる」




赤髪海賊団の出航が早まったため、時系列が若干変動しています。
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