「...ぅん」
「む。目覚めおったか」
「...ここは」
目を覚ますと、私は見たこともない島にいた。
...何も思い出せない。
私は確か、シャンクス達の出航を見送って...。
「まったく、赤髪め。とんでもない娘を置いていきおって」
寝込んでいたらしい私の隣には、なんだかすごく強そうなおじさんが座っていた。確かこの人は...ルフィのお祖父さん。ガープさんだっけ。
「あ、あの...ここは、どこですか...?ルフィは...」
「話は後じゃ。来よったぞ」
「え?...!?」
ガープさんが目を向ける方向には....海軍の大艦隊が並んでいた。
少なくとも10隻以上。世間知らずな私でも、ちょっとやそっとじゃこんな艦隊は組まれないことはわかる。
「“バスターコール”じゃ。正確にはもう攻撃は終わって、恐らく本部の中将共がここに来る。ええか、今からワシの言うことをよく聞け」
ガープさんは強面な人だった。それに、ルフィをよく叱りつけてるイメージがあったから怒りっぽい印象もあった。
だけど、今のガープさんは、まるで何かに追い詰められているかのようで、すごく怖い顔をしていた。
「ワシがこれからお前さんに、いくつかの質問をする。お前はその全てに“いいえ”と答えるんじゃ。そして...絶対にワシの側を離れるな」
「...は、はい」
私はすごい気迫に押されて、ただ首をカクカクと振ることしかできなかった。
そして、ガープさんの言った通り、軍艦から何人かの海兵さんが降りてきて、私達の方に歩いてきた。
....その中には、白いスーツを着た人達もいた。
「CP-0...!」
「海軍本部中将ガープだな」
ガープさんはその姿を見ると、ますます顔を険しくした。もうほとんど鬼みたいな顔だ。私の精神が大人じゃなかったら多分泣き出してたと思う。
「率直に言おう。そこにいる娘を我々に引き渡してもらおうか。その娘には...」
そして、白スーツの人は私に向けて指を指し、無機質な声で言った。
「国家転覆を企てた疑いがかかっている」
「...え?」
...数時間前。
「なぁウタ〜。こんなんで強くなれんのか〜?」
「なれるなれる。はい、ルフィ!さっきみたいに!」
「ん〜?じゃあもう一回...!“ゴムゴムの”〜!」
私とルフィは、マキノさんの酒場でいつものように勝負をしていた。
今日はおもしろさ勝負。
「“変顔”〜!」
「ぶっ!あっははははは!ちょ...!超伸びてる!あはははははは!お腹痛い!」
「やっぱ笑ってんじゃねェか!!」
ただ、不本意なことに今日の勝負は完敗だ。
ルフィの面白さには流石の私も敵わない。
「は〜。笑った笑った。マキノさ〜ん、オレンジジュースちょーだい!」
「はい、どうぞ」
「あっ!ずりぃぞ!マキノおれにも!」
「はいはい」
私とルフィは、シャンクスと別れた後も勝負したり遊んだり、喧嘩したりとそんなに変わらない日々を過ごしていた。
ルフィと一緒にいると、なぜか私も子供みたいにはしゃぎたくなってしまう。実際は何十歳もお姉さんなのにこれはいけない。
「ふふ、良かったわねルフィ。仲のいい女の子が居なくならなくて」
「おれとウタは仲良くなんかない!いっつも意地悪してくるんだ!」
「あら、そうなの?仲良くしないとダメよ?」
「ルフィはガキだからね。これくらいで丁度いいのよ」
...やっぱりもうしばらくは子供のままでいいかな。
そんな風に過ごしている時、事件は起こった。
「邪魔するぜェ」
「「...」」
「ん?なんだあいつら」
和やかな空気を切り裂くような、粗暴な声と仕草。小汚い身なりをした数十人の男達が、酒場に入ってくる。
それなりに海賊をやってたから、私にはすぐにわかった。彼らは不成者だ。
「シケた店だなぁ。ちゃんと酒はあるんだろうな?おい、そこの女!」
「は、はい!」
「おれ達は山賊だ。が、別に店を荒らしに来たわけじゃない。酒を売ってくれ。樽で10個ほど」
「...わかりました」
マキノさんも、こういった客の対応には慣れてるのだろう。テキパキとお酒を用意し始めた。
「お頭〜。こんな店の酒なんて、きっと不味くて飲めやしませんぜ!」
「あぁ、違いねェ。それよりあの美人店主さんを持って帰ろうぜ〜!」
「...イヤな感じ」
「なんだあいつら!この店の酒が不味いとか、飲んでもねェくせに!」
「やめなよ、ルフィ。かまう価値もない」
シャンクス達は海賊でも、一緒にいて楽しいと思えた立派な人達だ。
だけど、世の中にいるほとんどの“賊”っていうのは、こういう風に人に迷惑ばかりかける悪い人達のこと。“前世”も含めて、私はそのことをよく知っていた。
「お待たせしました。お酒10樽分ですね。どうぞ」
そうこうしている内に、マキノさんが商品を用意し終わった。カウンターの上にドンと重い樽が乗っけられる。
...マキノさんも、意外に力持ちなんだよね。
「ご苦労、お嬢さん。で、悪いんだが今手持ちが少なくてね。代金は後で必ず用意する。今は...これっぽっちしか払えない。どうだい?」
「...えぇ、それで大丈夫ですよ」
「そうかそうか!悪いなァ!いやいや、君は“分かってる”な!また来るよ」
「はい。またのご来店をお待ちしてます」
...胸糞悪い。けど、マキノさんも我慢してるんだ。一番悔しいのはマキノさんなんだから。
「...」
「ルフィ?」
「なんだよ...」
「ダメだからね」
「...フン!」
そして、今にも飛び出していきそうなバカがここに一人。マキノさんのためにも、こいつは絶対引き止めなきゃいけない。
本当なら私が出て行ってやりたいくらいだけど。
「...ふむ、せっかくだから少し味見してみようか。お嬢さん、酒を注いでくれないか?あぁ勿論、試し飲みだからな。料金はいらない」
「ぷっ!ぎゃはははは!そりゃ店側が言うことでしょお頭!」
「...わかりました」
ぎゅうっと音が鳴るほど、拳を握り締める。
「ダメだからね」
「な、なんも言ってねェだろ」
「自分に言ってるの」
「え?」
ホント、くだらない。
「どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
さっさと飲んで、さっさと帰ってほしい。
「...ん〜」
ガシャアン!
「あうっ!!」
「おいおい、店主さんよ...何の冗談だ?この酒は」
「うほぉっ!流石お頭ァ !容赦ねェ!」
...。
「お、お口に合いませんでしたか...?」
「合わねェも何も、こんな不味い酒今まで飲んだことが...ん?」
そっか、こんな気分だったんだ。
「...!?だめ!ウタ!」
「なんだ?このガ、ぎいぃっ!!?」
「お、お頭ァ〜!!?」
多分、私は”前世“も含めて、その時初めて人を殴った。でも後悔はしてない。
「おじさん、悪い人だから。ウタがやっつけてあげる」
赤髪海賊団の出航が早まったため、時系列が若干変動しています。