「...ししし!なんだよウタ、ホントはイヤだったんじゃねェか!」
「イヤに決まってるでしょ。我慢してただけ。だけど...」
「...やりやがったなァ〜!?このガキィ〜!!」
「我慢するのもバカらしくなったから」
山賊の人は頬を抑えながら立ち上がった。結構痛かったのかもしれない。同情する気は無いけど。
「いいかガキ共!こいつを見ろ!!」
そう言って山賊の人が取り出したのは手配所だった。そこには”ヒグマ“という名前が載っている。
「俺の名はヒグマ!800万ベリーの賞金首!第一線級のお尋ね者だ!お前らみてェな生意気な奴らを、過去56人殺してきた!」
「ふぅん」
「この意味がわかるか?お前らはたった今“死”が決定したんだよ!!俺に逆らった奴は、誰一人生かして返さねェ!!」
「よっしゃー!おれも戦うぞ!よくもマキノを殴りやがったな!山ざる!!」
「アンタは引っ込んでなさい。弱っちいんだから」
「なんだとー!?お前だってそんなに変わんねェだろ!」
「だめよ!二人とも!逃げて!!」
マキノさんが悲痛な表情で叫んでいる。せっかく穏便に収めてくれようとしてくれたのに、悪いことをしてしまった。
でも、私だって何の考えもなく飛び出したわけじゃない。
「私はいいの。私にだって“戦う力”はあるんだから。本当は使いたくないけど...今は例外」
そもそも、マキノさんに手を出されて黙ってる方がずっと嫌だったから。
「第一線級?800万ベリー?笑わせないでよ。海にはアンタみたいな犯罪者なんてゴロゴロいるんだから」
私は世界一偉大な船の音楽家だったんだ。これくらいの小物にいいようにやられてたら、シャンクスに笑われてしまう。
「海に出る覚悟もないなら、大人しく山に引き籠もってれば?」
「...どうやら、よっぽど殺されたいらしい」
「ウタ!だめだって言ってるでしょ!?」
私の歌は子守唄。良い子も悪い子も、皆を幸せな夢に連れて行ってあげる唄。
山賊でも、人殺しでも、良い夢を見る権利くらいはあるでしょ?
「ビンクスの酒を 届けにゆくよ 海風 気まかせ 波まかせ」
「...?なんだコイツ、いきなり歌い出しやがった」
「きっと頭がイカれてんですよ、お頭」
...。
あれ。
「さよなら港 つむぎの里よ ドンと一丁唄お 船出の歌」
「お頭、もういいでしょう。やっちまいましょう」
「ああ。そうだな」
「...ウタ、どうした?今から歌勝負か?」
「...」
あれ、あれ。
「随分ナメた口聞いてくれたもんだぜ。まったく...まずはそこの赤白娘からだ、があぁっ!!?」
「逃げて!二人とも!!」
「っ!マキノさん!?」
私が固まっていると、今度はマキノさんが手にスツールを持ってヒグマに殴りかかった。バキッ!という音と共に木製の脚が壊れ、衝撃でヒグマが倒れる。
「て、てめェこのアマ!よくもお頭を!」
「...!ルフィ、行って!」
「はぁ!?なんでおれだけ!?」
「アンタが助けを呼んでくるのよ!私がこいつらを足止めしてるから!!」
「出来るわけねェだろ!?殺されちまうよ!!」
「これは私が売った喧嘩なの!私が逃げるわけにいかない!!」
「ならおれも残る!!おれのパンチは
「こ、こんな時に何バカなこと言ってんの!?」
「喰らえ〜!山賊〜!!」
「待って!だめ!!」
止める間もなく、ルフィは山賊達に向かって走り出してしまう。
どうして、どうして...!私は何も上手く出来ないの...!?
「“ゴムゴムの”〜!
「...ガキにしても、女にしてもよォ...」
「ルフィ!!」
ルフィの拳は攻撃にすらならなかった。立ち上がったヒグマに頭を掴まれ、じたばたとルフィの手足が暴れる。
「お、お前〜!!離せ〜!!」
「本当の”恐さ“ってのを知らねェらしい...よ〜く目に焼き付けておけ」
「嫌!だめ!待って!殺すなら私を...」
ギラリ、と照明を反射して、ヒグマが腰から下げていたサーベルを抜き放つ。
「これが“死”だ!!」
「うわァ〜!!」
「やめてぇ!!」
殺意を孕んだ煌めきが、ルフィの首に差し迫る。
だめ、間に合わない...!?
「なんじゃい、騒がしいと思ったら」
その時、風が吹いた。
風は一瞬で部屋の中を荒らし回って、気づいた時には。
「山猿が村に紛れ込んでおったか」
全部終わっていた。
「がっ...は...!」
「じ、じいちゃん...!!」
「情けないのう、ルフィ。ワシの孫のクセに」
「あ...あ...」
気づけば、その場にいた山賊達は全員泡を吹いて床に倒れていた。
一瞬でルフィの命を刈り取るはずだったヒグマは、いつの間にか腕があらぬ方向に捻じ曲がって蹲っている。
そして、そのヒグマを足蹴にして巨大な存在感を放つ大男。
モンキー・D・ガープ。...さん。
「ルフィ、ウタ、怪我はないか」
「う、うん...」
「だ、大丈夫です...」
「ならばよし。まったく、こんなハイエナを見逃すとは。ダダンのバカは何をしとるのか...」
ガープさんは、気絶した山賊達をどんどんと山のように積み重ねていく。生きてはいるんだろうが、一見死体の山にしか見えない。
「...ルフィのお祖父ちゃんって、あんなに強かったんだね」
「強ェし怖ェし、悪魔みたいなんだ...!」
「なにか言ったか?」
「い、言ってねェ!」
ルフィもガープさんには敵わないらしい。完全に戦意を折られていた。
「さて、お前さんだけは手配書が発行されとるな。ご丁寧にわざわざ持ち歩いているようじゃしのう。ワシが直々に話を聞いてやる。来い」
「ひ、ひぃぃ〜!!」
「まったく、たまたまマキノが留守で助かったわい」
...うん?
「え?あ、あれ!?」
「ん?どうした、ウタ」
キョロキョロと辺りを見回して、私はようやく異常に気づいた。でも気づいた時には、もう遅かった。血の気がさぁっと引いていく。
「マキノさんがいない...」
「えェ〜!?」