“世界の歌姫”のやり直し   作:ぷに凝

6 / 32
山賊ヒグマ②

「...ししし!なんだよウタ、ホントはイヤだったんじゃねェか!」

「イヤに決まってるでしょ。我慢してただけ。だけど...」

「...やりやがったなァ〜!?このガキィ〜!!」

 

「我慢するのもバカらしくなったから」

 

山賊の人は頬を抑えながら立ち上がった。結構痛かったのかもしれない。同情する気は無いけど。

 

「いいかガキ共!こいつを見ろ!!」

 

そう言って山賊の人が取り出したのは手配所だった。そこには”ヒグマ“という名前が載っている。

 

「俺の名はヒグマ!800万ベリーの賞金首!第一線級のお尋ね者だ!お前らみてェな生意気な奴らを、過去56人殺してきた!」

「ふぅん」

「この意味がわかるか?お前らはたった今“死”が決定したんだよ!!俺に逆らった奴は、誰一人生かして返さねェ!!」

「よっしゃー!おれも戦うぞ!よくもマキノを殴りやがったな!山ざる!!」

「アンタは引っ込んでなさい。弱っちいんだから」

「なんだとー!?お前だってそんなに変わんねェだろ!」

「だめよ!二人とも!逃げて!!」

 

マキノさんが悲痛な表情で叫んでいる。せっかく穏便に収めてくれようとしてくれたのに、悪いことをしてしまった。

 

でも、私だって何の考えもなく飛び出したわけじゃない。

 

「私はいいの。私にだって“戦う力”はあるんだから。本当は使いたくないけど...今は例外」

 

そもそも、マキノさんに手を出されて黙ってる方がずっと嫌だったから。

 

「第一線級?800万ベリー?笑わせないでよ。海にはアンタみたいな犯罪者なんてゴロゴロいるんだから」

 

私は世界一偉大な船の音楽家だったんだ。これくらいの小物にいいようにやられてたら、シャンクスに笑われてしまう。

 

「海に出る覚悟もないなら、大人しく山に引き籠もってれば?」

「...どうやら、よっぽど殺されたいらしい」

「ウタ!だめだって言ってるでしょ!?」

 

私の歌は子守唄。良い子も悪い子も、皆を幸せな夢に連れて行ってあげる唄。

 

山賊でも、人殺しでも、良い夢を見る権利くらいはあるでしょ?

 

 

「ビンクスの酒を 届けにゆくよ 海風 気まかせ 波まかせ」

 

 

「...?なんだコイツ、いきなり歌い出しやがった」

「きっと頭がイカれてんですよ、お頭」

 

...。

 

あれ。

 

 

「さよなら港 つむぎの里よ ドンと一丁唄お 船出の歌」

 

 

「お頭、もういいでしょう。やっちまいましょう」

「ああ。そうだな」

「...ウタ、どうした?今から歌勝負か?」

「...」

 

あれ、あれ。

 

「随分ナメた口聞いてくれたもんだぜ。まったく...まずはそこの赤白娘からだ、があぁっ!!?」

 

「逃げて!二人とも!!」

「っ!マキノさん!?」

 

私が固まっていると、今度はマキノさんが手にスツールを持ってヒグマに殴りかかった。バキッ!という音と共に木製の脚が壊れ、衝撃でヒグマが倒れる。

 

「て、てめェこのアマ!よくもお頭を!」

「...!ルフィ、行って!」

「はぁ!?なんでおれだけ!?」

「アンタが助けを呼んでくるのよ!私がこいつらを足止めしてるから!!」

「出来るわけねェだろ!?殺されちまうよ!!」

「これは私が売った喧嘩なの!私が逃げるわけにいかない!!」

「ならおれも残る!!おれのパンチは(ピストル)みてェに強いんだ!!」

「こ、こんな時に何バカなこと言ってんの!?」

「喰らえ〜!山賊〜!!」

「待って!だめ!!」

 

止める間もなく、ルフィは山賊達に向かって走り出してしまう。

 

どうして、どうして...!私は何も上手く出来ないの...!?

 

「“ゴムゴムの”〜!(ピスト)...!ぶっ!」

「...ガキにしても、女にしてもよォ...」

「ルフィ!!」

 

ルフィの拳は攻撃にすらならなかった。立ち上がったヒグマに頭を掴まれ、じたばたとルフィの手足が暴れる。

 

「お、お前〜!!離せ〜!!」

「本当の”恐さ“ってのを知らねェらしい...よ〜く目に焼き付けておけ」

「嫌!だめ!待って!殺すなら私を...」

 

ギラリ、と照明を反射して、ヒグマが腰から下げていたサーベルを抜き放つ。

 

「これが“死”だ!!」

「うわァ〜!!」

「やめてぇ!!」

 

殺意を孕んだ煌めきが、ルフィの首に差し迫る。

 

だめ、間に合わない...!?

 

 

「なんじゃい、騒がしいと思ったら」

 

 

その時、風が吹いた。

 

風は一瞬で部屋の中を荒らし回って、気づいた時には。

 

「山猿が村に紛れ込んでおったか」

 

全部終わっていた。

 

「がっ...は...!」

「じ、じいちゃん...!!」

「情けないのう、ルフィ。ワシの孫のクセに」

「あ...あ...」

 

気づけば、その場にいた山賊達は全員泡を吹いて床に倒れていた。

 

一瞬でルフィの命を刈り取るはずだったヒグマは、いつの間にか腕があらぬ方向に捻じ曲がって蹲っている。

 

そして、そのヒグマを足蹴にして巨大な存在感を放つ大男。

 

モンキー・D・ガープ。...さん。

 

「ルフィ、ウタ、怪我はないか」

「う、うん...」

「だ、大丈夫です...」

「ならばよし。まったく、こんなハイエナを見逃すとは。ダダンのバカは何をしとるのか...」

 

ガープさんは、気絶した山賊達をどんどんと山のように積み重ねていく。生きてはいるんだろうが、一見死体の山にしか見えない。

 

「...ルフィのお祖父ちゃんって、あんなに強かったんだね」

「強ェし怖ェし、悪魔みたいなんだ...!」

「なにか言ったか?」

「い、言ってねェ!」

 

ルフィもガープさんには敵わないらしい。完全に戦意を折られていた。

 

「さて、お前さんだけは手配書が発行されとるな。ご丁寧にわざわざ持ち歩いているようじゃしのう。ワシが直々に話を聞いてやる。来い」

「ひ、ひぃぃ〜!!」

「まったく、たまたまマキノが留守で助かったわい」

 

...うん?

 

「え?あ、あれ!?」

「ん?どうした、ウタ」

 

キョロキョロと辺りを見回して、私はようやく異常に気づいた。でも気づいた時には、もう遅かった。血の気がさぁっと引いていく。

 

「マキノさんがいない...」

「えェ〜!?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。