裏のある天使と前向きな少女 作:はちみつレモン
「ねぇ。本当に付き合ってないのよね?」
「付き合ってたらこうやって櫛田さんと飯を食べることはないって。俺は誰とも付き合うことはないって。」
「本当かな?どうせみんなにそう言っているんでしょ?」
「お前な。てかなんで浮気がバレた彼氏みたいなやりとりしてんだよ。途中から櫛田さんも面白がってるだろ?」
「えへ。バレた?」
「全く…」
俺は今日の献立である「うどんと野菜のかき揚げ」を食べながら、櫛田と夫婦みたいなやりとりをいつもの様にしている。
「思ったよりもいいやつだったけどな、佐藤。まぁしばらく様子見かなぁ。恋人作る気はないし。」
「ふ~ん。作る気ないの?」
「今は好きな人いないしな。好きでもない相手と付き合うってなんかなぁ。正直もう少し付き合ってみて好きになったらかな。まぁ好意に積極的だし時間が経てば告白はされるだろうけど。」
「気づいてたの?てかそれ私に言ってもいいの?」
「本音を言い合うことができるのが俺と櫛田さんの関係だろ?悪いけど俺だって今日は結構イラついているんだよ。今日学校でよかったことといえば佐藤と縁ができたことだ。それ以外は最悪だっただろ。」
佐藤は正直思った以上に告白に近いものであったが、かなり嬉しいものだった。思っていた以上によく見ているし、女の子らしい。
さすがに勉強会で言いたい愚痴はたくさんある。俺も少しばかりキレているのもあるのだが。
「やっぱり失敗したな。」
「勉強会のこと?当然でしょ。堀北が態度変えない限りはあんな調子でずっと続くでしょ。」
「お前本当に容赦ないな。事実だけど。」
「でも堀北さんと須藤くんにあんだけ言い返せるってあんた凄いわね。」
「ん?まぁあれは本当のことだからな。純粋にイラついただけ。……須藤はプロっていうことがなんなのか分かってなかったし、堀北は夢をバカにするのは、例えどんな奴でもあれを笑ったらいけない。至極当たり前の事だろ?夢を持ってるのはすげぇことだよ。勉強もそうだけどAクラスに上がりたい。その大きな夢を持っている部分に関しては堀北の凄いとこだ。俺は正直今後どうするか決めてないし、今日が楽しければいいって考えだからな。でも堀北以上の夢を持ってる須藤があの中で一番子供で、一番大人だった。実際プロになれる可能性があるからこそプロを目指せる。ほとんどが夢を持たずただ呆然と学校生活を送っているだけなんだから。別にそれがおかしいってことじゃない。それが普通なんだ。でも明確に将来のことを決めているのはあいつくらいだろ。須藤のことは嫌いだけどそこは本当に凄いと思う。」
実際プロになれる素材ではあるのだろう。身体能力的には得意分野ではまず負けない。苦手分野では多分厳しいだろうけど、バスケや水泳、バレーなど勝てなさそうな競技は多くあるだろう。
「須藤に関しては堀北が言っている通りだしなぁ。余計な一言があるだけで。池も山内もかなりイライラしてたからなぁ。」
「プライド高いから、あいつ。そういえば明日ってどうするの?沖谷くんと佐藤さんだけまた勉強会するの?」
「いや、部活行こうかなって思ってる。二週間は部活自由期間なだけだから一時間くらいだけ運動しようと思って。そのあと部活の仲間と勉強会する予定もあるし。それに、俺はもう必要ないさ。綾小路がなんとかするだろ。」
「綾小路くん?あの地味な奴が?」
「反対にいえば今一番堀北を理解できるのはあいつだ。堀北は嫌がるだろうけど。でも綾小路以外に堀北を言い包められる奴はいない。それが厄介なんだよ。今の交友関係は綾小路だけであり堀北にわざわざ話しかけるのは櫛田と綾小路くらいで堀北自身が話そうとするのは俺と綾小路。すなわちよくも悪くも綾小路くらいしか説得できるやつはいないからな。まぁ赤点回避方法は俺が持ってるから最悪それを使うけど。」
「……は?」
俺の言葉に櫛田はキョトンとする。元々赤点回避自体ならかなり簡単なことだった。本当に偶然だったけどな。
「…どういうこと?」
「櫛田には話しておくけど前にやった小テスト覚えてるか?」
「小テスト?うん。最後の三問だけがかなり難しかった奴でしょ?」
「その三問の解説が見直ししたかったけど野球部の俺を含めた全員が解けなかったらしくて。先輩も去年小テストを受けた話は野球部でしてたから見せてもらったら3年と2年の問題が一言一句同じだったんだよ。それがどうやらヒントだったらしい。」
「……らしい?」
「元々は今の2年や3年の時に出た問題があれば問題傾向を知りたかったんだよ。それに櫛田さんは過去問を持っていたら、櫛田さんは勉強会に誘われることも多いはずだと思ってたし。元々はここ思っていたやつなんだけど。…まさか中間も同じ問題が出されているなんて思ってもなかった。」
元々試験勉強は過去問を譲ってもらって、その傾向から勉強するっていうのが俺の勉強のやり方だったのだけど。なお完全に予想外だったので、全く同じ問題を見た時に驚いた顔は先輩や部活仲間から爆笑された。
「まぁ、でもちょっとだけ嫌な予感がするのは明らかにテスト範囲が違うんだよなぁ。」
「は?それなら違うんじゃないの?」
「それが違うのならば、明らかに先輩の反応がおかしいんだよ。俺って結構目には自信があるからさ。嘘はついてないように感じてるからテスト範囲が変わると予想してる。それに単純にその二つを買うのに2万pt取られたから。」
「2万pt?そんなに?」
明らかに高額すぎる。それに基本的には俺に奢ってくれる田中先輩たちが唯一譲ってくれなかったものである。まぁその分昼食など奢ってくれる回数は増えたが。
「まぁ、確実とはいかないけど攻略法であると思う。だから勉強会を予備でやっているだけやって試験範囲が変わったらそれを全員に出せば万事解決だろ。ご馳走様。食器洗うからゆっくりしてていいぞ。」
「じゃあお風呂借りるから。」
「お風呂は沸かすだけにしてあるから。」
「うん。それと布団持ってきたから、今日からここで寝るね。」
「……」
さらっと言いやがったな。こいつ。つーか今日からということは今後こいつ居座るつもりかよ。それだけ佐藤と関わりを持ったことで警戒しているのだろうか?
女子に布団で寝かせるのは少しだけ気が引けるからベッドに櫛田は寝てもらって布団で俺が寝るか。一応綺麗にはしてあるはずだし、ベッドも消臭剤を買ってあるから大丈夫なはず。見られていけないものはスマホに入れてあるし、布団は櫛田が持ってきたやつを持ってこれれば大丈夫だろう。
女子が寮に泊まるってどんな確率だよ。俺は鈍感じゃない。それも櫛田自身も分かっている。分かってて踏み込んできた。
櫛田に優しくしたのも分かっている。優しくしすぎたと言われたらそうかもしれないが俺自身はなにもしていない。櫛田にはやりたいことを俺の部屋ではやらせていた。何も文句は言わず櫛田自身がやりたいと思うことをやらせていた。料理をしたければ料理を作らせ、勉強したいなら勉強をする。最初は気を使っていたこともありそんな単純なものであったが、お互いに言葉を交わす先に信頼関係ができ、そして甘える対象先になったのだろう。拗ねたり揶揄ったりすることも増えた。
悪口だって最近では気づいていないかもしれないが減ってきている。勿論悪口の方が多いけどストレスが原因の髪を掻くことは完全になくなった。
そして俺自身も変化してきている。これだけ近くに人を入らせたことなんてなかった。
櫛田は知れば知るほど面白い。コロコロ表情が変わり本当の笑顔や拗ねた顔は俺以外見られていないのかと思うと少しだけ優越感を覚える。家事もでき、交友関係も広く、見た目もいい。そして何よりも自分と合っている。櫛田の闇が全部自分に向いたとすれば。櫛田はどこまで尽くしてくれる性格だ。そしてその尽くしてくれた分だけ甘えさせてやればいい。今まで苦労してきたのだろうからそれくらいの権利を持っているだろう。俺みたいにならないように、壊れてしまわないようにしていかないと。
……もう手遅れな俺とは違って。