裏のある天使と前向きな少女 作:はちみつレモン
小学生の俺は孤独だった。
小さいころは何も楽しかった覚えがない。唯一楽しかったのは夏にある高校野球の録画を見るくらいだった。
家が金持ちであり小学生から英才教育を受け自由なんかはほとんどなく、習い事やマナー教室で小学生を過ごした。将来の子供に家を継いでもらいたいと思うのは別におかしくはないが俺の場合は少し度が過ぎていたのだと思う。毎日寝る以外は殆ど家庭教師や習い事で埋めてあり、唯一の楽しみは父親が休みの時に一緒に見る高校野球だけだった。
だからこそ野球にのめりこむのは時間の問題だった。元々身体能力は高いこともあったのですぐにスタメンに入れるほどの才能はあった。でも習い事や家庭教師はさっぱりで勉強も才能もほとんどない。クラスでは上位に入るけど全体で見れば中位あたりでうろちょろしているくらいだった。趣味も友達も習い事でいなく俺は鬱になりつつあった。
両親も仕事で忙しく俺の世話は基本的にお手伝いさんばかり。両親の手料理を食べたことは殆ど無い。だからこそ俺は両親を両親とは思ったことがないときっぱりキレたらよかったのだが……父さんだけはいつも心配してくれたのであろう。
お土産も買ってきてくれたり、野球の試合は毎試合来てくれたり、母親が学力などが正義と思う中で父さんはずっと少ない時間の中で家族として扱ってくれた方だと思う。でも俺は一人きりというのが途轍もなく嫌だった。
転機になったのは中学に上がること弟が生まれたことだった。俺にはできないことが多く将来的に母親は弟である正志が両親の跡を継ぐことになったのだろう。ただこの母親の誤算はここから始まった。
一つ目は父さんは俺に将来を継がせることを社員に明言したこと。余計な御世話であったがそれでも父さんは嫌なことや苦手なことでも逃げずに取り組んだ俺の姿勢を評価したらしい。そしてその原因になったことがもう一つある。
小学生のころとは違い俺には友達が多くはないができたのだ。習い事や家庭教師は辞めて自由になり、制限がなくなったことによる弊害がなくなったからだ。クラスメイトとゲームをしたり、キャンプに行ったり十分遊び、勉強会や休み時間にバスケをやったり部活動をやりながらも交友関係を作りあげた。一人じゃなくなくだけ嬉しかったのだ。だからいつの間にか俺はクラスだけではなく、困ったら俺に頼ることが学校内での当たり前になっていた。そんな順調な風に向けて家では俺は最悪の環境であった。食欲も減りいつしか家では塞ぎこむ時が多かった。でも学校に行ったら違い気分が晴れたように楽しい気分になる。
家での自分は学校では見せられないくらいに疲弊し疲れ切っていた。なのになぜか眠れない日が続きそして最悪の事態に陥った。
その日の俺は何やっても力が入らず。体がふわふわし体が熱かった。異常を気づいていたので学校を休もうとして手伝いさんに伝えようとした時だった。
『本当に正志はあの無能と違ってなんでもできるわね〜』
甲高い声でそんな声でバカにする声が聞こえてきたのだ。
弟が生まれてからは母親は家に戻っていた。それでも俺は会うことが少なく母親も弟の世話で忙しいようだった。
だから声を聞くのも久しぶりのことだった。でも初めてだった。
あんなにも殺意を持ったことは。
努力だってしていた。ずっと必死に食らいつき最低限度の基本はできていた。
でも母親は一度も褒めることもなくただ完璧を求め続けた。
それでも努力を続けてきた俺が何で頑張ってきたのかと思ってしまったのだ。
たった一言
『よく頑張ったね』
と褒めてほしかっただけなのに。
俺は気づいたら母親を殴っていた。実感はなかった。ただ無言で自分の怒りを発散していた。
よくよく考えたら怒ったこともなかったから限度を知らなかった。抑えるのが当たり前だったから。
熱でふらついていたのが幸いだった。それだったら多分殺していたと思う。俺が殴るのを辞めたのは熱が回り俺自身が倒れた時だった。
父親も騒ぎを聞いてすぐに会社から戻ってきたらしい。救急車や警察に取り上げられ地域どころか全国区のニュースになった。最初は俺を容疑者とする記事でインタビューでも俺を批判する人だらけだった。専門家もコメンテーターも……同級生も友達も。
でも、俺が倒れた理由が精神性のストレスの疲労ということで警察の捜査が明らかに変わった。お手伝いさんが取材に対し家庭状況の酷さを、ストレスが溜まる原因を密告したのだ。そのお手伝いさんは60歳を超えていて退院後は既に家にはいなかった。定年退職が近かったのでやっと言いたいことが言えると他のお手伝いさんが言っていた。ずっと見ていてくれたお手伝いさんはテレビから見ても最初からずっと俺をかばっていてくれた。
そしてでて来る家庭環境と母親の態度に批判は俺ではなく母親と父さんに集まった。父さんは悪くないのに、父さんの優しさにはわかってきたつもりなのに。本当に悪いのは俺と母さんなのに。
でも父さんは批判を受け入れた。元々は父さん自身は子育てを放任し過ぎたと反省しており、たった数ヶ月であるが俺と高校に上がるまで会社を部下に任せ普通の親子と同じ生活を送ることになっていた。夏休みに毎日のように甲子園に行ったりしたそんな生活が俺にとってとても幸せだった。
そんな簡単なことだったのだ。俺が欲しかった幸せは。
だけども母親は俺が悪いと言い続けた。元々メンヘラがいき過ぎておりプライドが高い性格だ。だからこそ自分が正しいと思うことは母親にとって当然のことだっただろう。だからこそ余計に炎上し、世間に俺がどれだけ可愛そうな子供だったのかということが報道されることになる。
当然のことながら両親は離婚。離婚調停で弟も父親に残ることになった。結局母親は全てを失った。
俺も罰はなかったわけではない。停学3週間。夏休みに入っているので実質お咎めなかったんだが。
学校では野球部は騒動により停部になってしまい、その後は謝罪に追われることになったが、長い間野球部の仲間だった人や顧問は最後の大会であったが苦労していたことを悟り笑って許してくれた。でも中学生でできた友達は俺から突き放してしまった。
やっぱりマスコミで俺に向けての悪口を向けていたのが原因だった。最初は我慢しようとしていたがあの時からあまり我慢することが苦手になり、疎遠になっていたのだ。
あれから感情も有無も激しくなったように思う。いいことなのか悪いことなのか分からないが嘘が苦手になった。
そして父親が会社に戻らないといけない俺が高校受験を考えた時、先生から高度育成高校を進められたのだ。地元に居づらいだろうからと理由で全国から人が集まる高度育成高校に推薦で行ってみたらどうかと。野球でも2年に全国大会に出場していたから推薦でも可能ということだった。
でも、嘘が苦手になった俺にとってこのクラスは苦痛だった。それが言葉に出てしまうから。
人に品定めされることは嫌いになった。プライドが高い人間が苦手なこととか。高校生に入ってからは気づくことが多かった。でもやはり一番俺にとって大きかったのは櫛田桔梗と佐藤麻耶の出会いだろう。
あの時なんで面白いと思ったのか未だに理解はできない。でもあの時危険性を感じながら俺と同類であることはわかっていた。
ストレスを溜めすぎると人は壊れる。特に感情のコントロールが効かなくなるのだ。嘘にも対応ができなくなる。
櫛田は特に感情の差が大きい。だからこそストレス発散が最重視されるのだ。
だからストレス発散だけさせれば機能すると。運が良かったら友達になれるかと思っていた。
でも櫛田は思った以上に普通の女の子だった。ちゃんと照れるしどちらかといえばちやほやされるのが目的でそのためであれば恋愛や青春は諦めている。でも実際は憧れもあったのだ。普通の女の子と同じくらいに青春に。
俺も櫛田も方向性は違うが承認欲求が激しい。だからこそお互いに惹かれてしまったのだろう。
お互いに自分のことを後回しにしてしまう性格だから。
誰かがいないとダメになってしまう弱い人間だから。
俺に関してはもう依存してしまっている。
俺が帰った時に毎日のようにご飯や『おかえり』と声が自分の部屋から聞こえてくる日常。
それが俺にとっては何よりも嬉しかった。幸せを感じる瞬間だったのだ。
どんな高級な料理だろうが。お腹が減った時の温かい料理には叶わない。
たった一言の挨拶だけでも頑張ろうと元気が出る。
流石に泊まることはもう少し先だと思っていたけどそれでも俺にとって櫛田と出会ってからは笑顔が増えた。
天才じゃないからこそ気づけることがある。凡人だからこそ寄り添えることができる。理解することができる。
そして佐藤もそうだ。告白まがいのことをされてからは俺は幾度となく勇気をもらっている。
前向きに頑張る姿は気づいてないかもしれないけど佐藤の才能だ。苦手なことでも取り組み愚痴をこぼしながらも努力は怠らない。自分は気づいてもらえなかったことを見逃さないようになりたい。劣等生なのは分かっている。
でも好きになってくれた女の子にはカッコよくありたいのだ。
だからこそ頑張れる。強くなくていい。
例えどんな相手でも依存してでも守りたいのだ。
今日も部活を終え自分の寮に帰る。鍵を開けドアを開けるとバタバタと足音が聞こえてくる。
目があうとエプロン姿の櫛田が嬉しそうに迎えてくれる。
「ただいま。櫛田さん。」
「おかえり!!有原くん。」
今日も櫛田が家にいる。その安心感は嬉しくて、まるで家族みたいな温もりがそこにはあった。
「そういや櫛田さんは誘われなかったのか?」
「何が?」
「赤点回避の祝勝会。確か平田グループも堀北のところも今日だっただろ。」
赤点回避の祝勝会は確か今日だったはずだ。俺は両方から誘われなかったけど。
ついでに今日の晩御飯は奮発してトンカツだった。こういう小さい贅沢が嬉しいのだ。
そうやって家事が終わり俺が漫画を読み終えると
「参加した方がよかった?」
「いや、前だったら櫛田さんが祝勝会に参加してたからな。独占しちゃっていいのかなって。」
「別にいいよ。私がこっちにいたいだけだから。それとも行った方がよかった?」
「そういうわけじゃないんだけど……」
絶対に櫛田にはいえないがなんかこんな幸せでいいのかって思ってしまう。
俺たちって過去最低って扱い。それでも俺たちだけはプライベートポイント関係なくこんな風に贅沢をしている。
それだけでもいいはずなのに櫛田を独占できているのは本当に運が良かったとしか言いようがない。
「…やっぱり少し気を使うよな。こういうのって。人気者の櫛田さんを独占しているからっていうのもそうだけど未だに慣れないんだよなぁ。」
「まぁ。気持ちはわかるけど、いつかは慣れると思うよ?私は卒業までここにいるつもりだから。」
「慣れることはないだろ。……まぁその一言が聞けて安心したけど。」
「どういうこと?」
「なんでもない。……それとさ。一つだけいいか?」
「急に何?」
「桔梗って呼んでいいか?俺も孝介でいいから。なんか同居してるのに他人行儀感強いし。」
すると目を見開き顔が真っ赤にする櫛田に俺は苦笑してしまう。
元々俺は呼び捨てにすることが多い。心の中では呼び捨てだけど基本的に尊敬している人にはさんをつける。
だからこそ他人行儀感か強いし距離が遠く感じる。
「ちょっと待って急に言われると。」
「……ん?ダメか?」
「ダメじゃないし嬉しいのだけど……。あはは。男子に名前呼び合うことって簡単だと思っていたけど好きな人から名前を呼ばれると恥ずかしいなぁって。」
名前を呼ぶ時はそんな感じなのか?
俺は名前呼びすることに慣れてるからそこまで感じないけど。
慣れている桔梗でもこうなるのなら佐藤にはやめといた方がいいか。
「…孝介くん。これでいいかな?」
上目遣いで顔を赤面させ恥ずかしそうに告げる桔梗に俺も一瞬ドキッとしてしまう。
というよりも少しだけ嬉しいというより、恥ずかしがる桔梗の整った顔に見とれてしまう。
「…桔梗に言われるのすごく照れるというよりなんかモヤモヤする。」
「孝介くん顔真っ赤だよ。」
「桔梗もだけどな。」
「……うん。やっぱり恥ずかしいや。」
俺と桔梗が目を合わせ笑ってしまう。
些細な変化に今後俺たちは巻き込まれていくことになるだろう。
この学校では弱者は蹂躙し食われていく。特にこの学校じゃ甘い考えは通用しない。自分に厳しく他人に厳しく。
それでも桔梗との関係くらいは甘くてもいいと思うのであった。
桔梗がヒロインとして強すぎてしまったなぁと後悔することになってしまいました。
これメインヒロインを桔梗だけにした方がいいのかって思ったのでアンケートとります。佐藤はサブヒロインにはなるんだけど、当分も桔梗回が多くなるのでメインを桔梗に同じくらいにするのが厳しくなったので。
アンケートは今週いっぱいです。
メインヒロイン投票
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桔梗だけに変更
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今のまま