君の神様になりたい。   作:村岡8bit

1 / 6
昔、祖母の家に飾ってあったアングレカムの花が忘れられません。何故でしょう?


プロローグ

僕は無力だ。君の笑顔を前にして何度そう思ったことか。

いつからだろう、君の笑顔が、本当の君のものではなくなったのは。君の心が壊れてしまったのは。

どうやら俺には、君を救うことをできないらしい。

もしこれから、君が救われるようなことがあったとしても、それはきっと、俺のおかげじゃない。

だからその時は、他人事のように「よかったな」って君に言ってやるんだ。

それが俺に出来る君への、精一杯の償いだ。

 

 

 

 

 

 花瓶に生けられたアングレカムの香りが風に運ばれ、鼻腔を刺激する。

 

……朝か。

 

 重たい瞼を無理矢理開き、身体を起こす。

執拗に鼓膜へ迫ってくる騒音、目覚ましアラームを止め、現在の時刻を確認する。

 

「……うわぁ!?遅刻する!」

 

 間抜けなことに、寝坊してしまった。

ベッドから飛び出て、急いで制服に着替える。

 

 階段を駆け下りリビングへと向かうと、エプロンを身に着けた母親が朝食の用意を済ませ、既に食事を始めていた。

 

「おはよう!」

「おはよう、時間大丈夫?あんた急がないと遅刻するんじゃないの?」

「大丈夫じゃない!ヤバい!」

 

 現在時刻は7時50分。いつも学校へ向かうために家を出る時間は8時。タイムリミットはあと十分だ。

 

「はぁ……じゃあご飯食べてさっさと行きなさい」

「分かってる!いたただきます!」

 

 急いで席に着いて朝食を食べ始める。今日の朝食は白米に味噌汁、そして納豆。圧倒的和食である。

 

「……」

「……」

 

 黙々と朝食を食べ進める。親と子、家族水入らずの食卓とは思えない程に静かだ。

特別家族仲が悪いわけではない。むしろ良好と言える。

この状況も母親への信頼があって成り立っているのだろう。

 

 

 

 

「ごちそうさまでした!美味かった!」

「はいお粗末さん」

「歯磨きしてくる!」

 

 大袈裟な動きで席を立ち上がり、洗面所へと足を向ける。

 

 洗顔を済ませ、歯を磨く。口の中がミントの臭いで包まれる。気持ちが悪い。この感覚が好きな人も世には存在しているらしいが、俺には到底理解できそうにない。

 

「まふゆちゃんもう来てるわよ。早くしなさい」

「ふぁーい」

 

 待たせているのか、申し訳ないな。そんなことを思いつつ、うがいをして洗面所を出る。そしてそのまま急いで玄関へと向かう。

 

「7時58分!セーフ!」

 

 現在時刻は7時58分、なんとか間に合った。

既に玄関にスタンバイされている通学カバンを肩に掛け、靴べらを使い踵を靴に押し込む。

 

「行って来ます!」

「行ってらっしゃい」

 

 母にしっかりと挨拶をしてから、玄関ドアを開ける。すると、春の季節特有の暖かみを帯びた心地の良い風が俺の身体中を逆撫でた。実に気持ちが良い。

外に出ると、見慣れた景色が視界に広がる。いつもの住宅街にいつもの公園。そして、いつもの少女がそこに居た。

 

「おはよう!まふゆ!今日はいい天気だな!」

 

「おはよう。ふふ、きみは何時も通り元気だね」

 

 濃い紫色の髪を後ろでまとめてポニーテールにしている少女。愛想よく笑う彼女の名前は朝比奈まふゆ。女宮益坂女子学園に通う高校2年生で、俺の幼なじみだ。

 

「おう!俺の唯一の取り柄だからな!」

 

「そうだね。でも、君の取り柄は元気がいいってことだけじゃないと思うよ。私は君の幼なじみだからね。皆が知らない君のいいところ、いっぱい知ってるんだから」

 

 そう言って微笑むまふゆ。本来ならば褒められて嬉しいと感じるのだろうが、素直に喜ぶことができない。

はたして、今の彼女の言葉は本心から来たものなのだろうか?今の彼女の笑顔は本物なのだろうか?どうしても考えてしまう。

 

「……そうだな」

 

そのせいか、自然と表情に影が差し、返事の声色が暗くなってしまう。

 

「? 大丈夫?どうかした?」

「ん、ああいや、なんでもないぞ!」

 

 

首を傾げるまふゆに対し、変に焦って返事をしてしまった。怪しまれていないといいのだが。

 

「そっか、それならよかったよ」

 

全然大丈夫そうだった。興味がないのだろう。俺のことなんて。

 

「それじゃ、行こっか」

「あ、ああ!そろそろ動き出さないと遅刻しそうだ!」

 

 俺とまふゆが初めて出会ったのは物心がつく前のことだ。家が近くて歳が同じということもあり、小さい頃の俺達はいつも一緒に居た。常に側に居た俺とまふゆの仲はとても良かった。どれくらいかというと、幼稚園生の頃に、よくある「大きくなったら結婚しようね」的な約束を交わす程だ。まぁ、まふゆはもうこんなこと覚えていないだろうが。

その仲の良い関係は高校生になった今も続いている。別々の学校に通っているにも関わらず、こうして道が同じところまでは登下校を共にしていることがその証拠になるだろう。

 

「それにしても、本当に今日はいい天気だね」

「そうだな!こういうふうに晴れていると気分も晴れるな!なんだか今日はとても調子がいい!気がする!」

「ふふ、そうだね」

 

正直に言う、俺はまふゆが好きだ。無論それは親愛ではなく、恋愛としての感情だ。俺がまふゆへの好意を自覚したのは割と昔で、まだ小学生の頃だった。

 

『見て見て!この前のテスト!100てんだったよ!きみとおそろいだね!ふふっ、うれしいなぁ、パパとママにも褒めてもらえるかなぁ?』

 

……ダメだ、可愛すぎる。思い出すだけで……なんというか、ダメだ。

 

「大丈夫?少し顔が赤いよ?もしかして体調悪いんじゃないの?」

「い、いやなんでもない!本当になんでもないぞ!」

「そう?ならいいんだけど……」

 

まふゆが俺に対して、どのような感情を抱いているのかはわからない。好意的に思ってくれているのか、嫌悪感を覚えさせてしまっているのか。はたまた、何とも思われていない、無関心なのか……それは、彼女のみぞ知る。

 

 

 

 

 朝比奈まふゆには秘密がある。誰にも言えないような秘密。俺はそれを知っている。否、知ってしまった、の方が適切であろう。

 

俺が彼女の秘密を知ってしまった経緯を話そう。

 

 

 中学生の頃、用事が長引いて帰りが遅くなり、すっかり辺りも暗くなった頃、時刻は午後の11時を回っていたと思う。

 俺は自宅の前で佇むまふゆを発見した。彼女は塾に通っているので、その帰りかと思ったのだがどうも違うらしい。証拠として彼女は鞄を持っておらず、手ぶらだったことが挙げられる。

 

 まふゆの親はとても教育熱心だ。何でも将来、まふゆのことを彼女の父親と同じ医者にしたいのだとか。そのためまふゆの家はかなり厳しく、度々自由を制限されているところも見た。正直やりすぎだと思っている。

 

 そんな家庭環境の中で生きているまふゆ、もしかすると彼女は現状が辛くなり、家を出てきてしまったのではないか?そう考えた。俺は迷わずまふゆに声を声を掛けた。

 

こんな時間に何してるんだ。親に怒られるんじゃないのか、と。

 

 今思えばこの言葉、このときの彼女には、一番掛けてはいけないものだったのかもしれない。まぁ、今更言って何になるんだ、という話なのだが。

 

 玄関の前で俯いたまま動かないまふゆ、俺が声を掛けることによって彼女は顔を上げた。

 

 俺は、俺自身の目を疑った。だが、俺の瞳は、間違いなく真実を映し出している。たちの悪いドッキリかと思った。そうであってくれと願った。だが、現実というものはとても非情で、そんな都合の良いことはないんだと、そう思い知らされた。

 

まふゆは泣いていた。

 

 その綺麗な瞳から大粒の涙が溢れた。その綺麗な輪郭をなぞった。不謹慎な話、とても美しいと思ってしまった。

 

どうしたんだ。なにがあったんだ。

 

 焦った俺はまふゆに駆け寄り、そう尋ねた。すると、まふゆは涙を流し、顔をぐしゃぐしゃに歪めながらも口を開いた。

 

『……わからないの』

 

まふゆの言葉を聞いて鳥肌が立った。これは、ヤバい。そう思った。

 

『好きも嫌いも嬉しいも悲しいもしあわせも……全部!全部全部全部!!……わからないの……わからなくなっちゃったの……!』

 

 ガツンと頭を殴られるような感覚がした。どうやら、事態は想像していたより深刻だったらしい。

 

 俺の腕に縋り付いてくるまふゆに対し、俺は何も言わずにただ、彼女の震える体を抱きしめることしかできなかった。

 

 次の日、まふゆは何事もなかったかのように俺の前に現れた。ハリボテの感情を、キレイな顔に張り付けて。

 

 

 

 まふゆが誰にも知らせることのできない秘め事。その正体は、彼女が失感情症という、後天性の障害を患ってしまっているということだ。

 

 失感情症。簡単に言うと、自分の感情が分からなくなり、言語化が困難な状態に陥ってしまう障害のことだ。

 

 聞くだけでもゾッとするおぞましい症状だ。それをまふゆは患ってしまっている。何故そのようになってしまったのかは、分からない。

 

 俺に分かることは、ふたつだけ。

ひとつ、あの日以来まふゆは、救いを求めてもがき苦しんでいるということ。

ふたつ、あの日のまふゆは、俺に救いを求めていたということ。

 

 俺は決心した。絶対にまふゆのことを助ける。その底が見えないくらいに深い絶望から救い出して見せると。

そしていつかまふゆを救うことが出来た時、その暁にはこう伝えるんだ。

 

君のことが大好きです。ってね。

 

 

 




書き溜めとかないです(半ギレ)
最後の方駆け足になったけどしーらね!プロローグなんてこんくらいの雑さでいいんだよ!ガハハ!

まふゆちゃんですが、失感情症に近い状態というだけで実際に失感情症だと明言されいるわけではありません。ですが、執筆中に色々めんどくせー!しらねー!と内なる作者が暴れ出したのでこの小説では失感情症を患っているという設定にさせていただきました。ぴょい。

あらすじの方でも書きましたが、拙作はカンザキイオリ様の【君の神様になりたい。】という楽曲作品を物語を構成するにあたっての参考にさせていただいてます。
是非聴いてみてください。

もし拙作のことを少しでも良いな、と思っていただけた方がいらっしゃったら、感想、評価、お気に入り登録の方していただけると作者の励みになります。

ところで主人公に名前いる?

  • アーティスト名と本名どっちもいる
  • アーティスト名だけでいいでガンス
  • 本名だけにしておくんだな
  • 要らねぇよJK!バーカ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。