最近、エリカという花が犬に貪られている場面を目撃しました。面白いですね。
ちなみに主人公ママはお花屋さんを経営しています。お花っていいよね。
「それじゃあまふゆ、また明日!」
「うん、またね」
こちらに向けて手をひらひらと振る笑顔のまふゆ。とても可愛らしいが恐らく愛想笑いだ。
鞄のポケットに入っている鍵を使い、玄関ドアを開いて家に入る。
「ただいまー……って誰もいないけどな!」
完全に消灯された廊下、俺の声だけが響き渡る。なぜだろう、少し虚しい。
放課後、いつものようにまふゆと帰宅路を共にした俺は、家に帰ってきて一人だと分かっていてもこのテンションだ。やはり、先程までまふゆと一緒にいたからだろうか、彼女と帰宅したことの余韻が抜けきっていないのかもしれない。
軽い足取りで自室へと向かう俺。鼻歌でも歌いたい気分だ。
部屋に入り、鞄とネクタイをベットに放り投げる。
「ポチッとな!」
机のすぐ隣においてあるデスクトップPCの電源ボタンを押し、PCが起動するのを待つ。
「遅い!超遅い!」
俺が使っているPCはかなり年季が入っていて、あと3年もすれば化石と呼ばれるような代物。そんなガラクタPCだから起動が遅いのは当たり前。最近の悩みだ。
やっとこさ立ち上がったPC、ディスプレイに映し出されたのはホーム画面と言う名の地獄絵図。具体的に言うと、人体から咲いた無数のオレンジ色の花、たしかエリカと言う名だ。それを、火炎放射器で焼き払っている画像。我ながら素晴らしいセンスをしていると思う。
ホーム画面のショートカットからいつも利用している動画配信サービスのアプリを開き、自分が管理しているチャンネルに飛ぶ。するとそこには、再生回数5桁を上回った動画が何十本も並んでいた。
俺は一年と少し前からこのアプリを使って、シンガーソングライターとして活動を始めている。このとてつもない回転数の動画たちはすべて俺の曲だ。
チャンネルの一番上に表示されている動画を開く。昨日の夜にアップロードした最新曲だ。
「さぁ、反応は如何に!?」
鼻息荒く、画面を見つめながらゆっくりとスクロールしていく。今俺が眺めているのは楽曲に対するコメントだ。
『この人の声本当に好き。力強いのに優しい感じがする』
『この曲に救われた』
『とても暖かい気持ちになれる曲だった』
「んふふふ、よし!皆の所感はいい感じだな!」
どれも曲への称賛の声ばかり。自然と口角が上がっていく。
(この調子なら、まふゆだっていつか……)
さて、今日の晩ごはんは少し張り切ってしまおうかな?
◆
今からするのは中学生の時、詳しく言うと
◆
まふゆを救う。とは言ったものの、どうすればいいのかが分からない。そもそも、まふゆにとっての救いとはなにか。そこから考える必要がある。
当たり前のことだが、俺にまふゆの思考はわからない。それすなわち、今出された問いの答えを出すことはほぼ不可能である、ということだ。
「ハァ……」
出だしから途方に暮れる始末。思わずため息が溢れてしまう。
(超!絶!前途多難!!! 救いってなんなんだ!わからん!)
教室の机に突っ伏し、頭をグリグリと擦り付ける。今の時間は昼休み。生徒たちは各々弁当を食べたり勉強をしたり校庭に出て遊んだりと自由に過ごしている。
「おや?どうしたんだい? ため息をつくなんて、君らしくないじゃないか」
そんな様子の俺を見かねてか、普段から仲良くしている同級生の神代類が声を掛けてきた。
落ち込む俺がよほど珍しいのか、少し心配そうな顔でこちらを見つめてくる。関係のない話だが、類はまだ中学生だというのにも関わらず身長170超えの高身長男子だ。別に羨ましいとは思わない。だって身長が高いとなにかと不便なことが多いじゃないか。だから、羨ましくなんてない。絶対に、羨ましくなんて、ない。
「んあ? あぁ、類か。そりゃあ俺にだって、悩み事のひとつやふたつくらいあるぞ」
ハァ、と今しがた起こったことの再放送だと言わんばかりにため息をひとつ。
「ふむ、随分と落ち込んでいるみたいだね。もしよかったら君の悩み、ボクに聞かせてくれないかな?君の力になりたい」
真剣な眼差しをこちらに向けてくる類。彼がこんなに真面目に話を聞いてくるとは思わなかったから少し驚いた。
「類ってそんなキャラだったか?」
「友達が悩み事を抱えているんだ。助けになりたいと思うのは当然だろう? それに、君には普段から色々と危険なことに付き合せてしまっているからね」
「危ないことさせてる自覚あったのかよ」
類は機械いじりが趣味で、かなり高い頻度でロボット等の発明品を作る。俺はそれの試運転を毎回やらされているのだが、これが危ないったらありゃしない。例えば、空を飛んだり宙を舞ったり、天翔けるペガサスにされかけたこともある。記憶に鮮烈に残っているのは今挙げたものだが、これ以外にも試運転で臨死体験をした発明品はごまんとある。しかしこれ以上話すとキリがないのでやめておこう。
「そんなことより、僕は君の悩みを聞かせてほしいな」
「誤魔化すな!……まぁでも、話を聞いてもらえるのはありがたい。サンキューな、類」
「なに、気にすることはないさ。困った時はお互い様だろう?」
◆
「なるほど、つまり、君は感情が分からなくなってしまった幼なじみを助けたい。しかし、どのようなことが幼なじみの救いになるのかが分からない、ってことだね?」
「あぁ!大体そんな感じだな!」
感情がわからなくなってしまったまふゆのこと。俺がまふゆを救いたいこと。まふゆにとって救いになることを模索中だが、何も思い付かないこと。大体の事情を類に話した。勿論名前等のプライベートな情報は伏せている。
「それにしても、失感情症ねえ。随分と珍しい障害に罹患してしまっているようだ」
「り、りかん……?」
「病気にかかる。という意味だよ」
「そんな言葉あるんだな!知らなかった!」
類は中学生とは思えない程に語彙が豊富で、難しい言葉をよく使う。その度、俺が言葉の意味を尋ねているのだが、恐らく類はそれを楽しんでいる。わざと難解な単語を使い、質問させる。なんてたちの悪い人間だ。おのれ神代類、俺はお前を許さない。……もちろん冗談だぞ?
「フフフ、調子が戻ってきたみたいでなによりだ」
「ん?そうか?……いや、そうだな!悩み事を打ち明けたからか、少し心が軽くなった気がする!」
「うんうん、やっぱり君はこうでなくちゃね」
類に胸の内を明かすだけでも気分が晴れた。一人で悩むのはかなり辛い。けれど、二人で悩み事を共有して考えるのは不思議と苦ではない。やはり持つべきは友だと、改めて思った。
「おう! それでだ!まふゆを助ける為にはどうするべきか、何かいい案は無いか?」
「へえ、君の幼なじみの名前はまふゆさんと言うんだね」
「あっ!」
しまった!と言わんばかりに口をパクパクさせ大慌てする俺の様子はさぞ面白かっただろう。教室で俺と類のやり取りを見ていた同級生の内数名は呼吸困難へと陥っていた。*1
「ま、まずい!うっかり口走ってしまった! どどどどうしようこれ情報漏洩で訴えられたりしないよな!?」
「名前を教えるくらいなら大丈夫なんじゃないかな? 君の話聞いた限りだと、その君の幼なじみ―――まふゆさんはとても優しい人だ。きっとそれくらいのことなら許してくれるさ」
「ほ、本当か?」
「ああ、本当さ」
「じゃあ本当だ! まふゆは優しいからきっと許してくれる!」
どこぞのトンタ○タ族を連想させる程のチョロさだが、類は間違ったことを言っていない。俺の知るまふゆはとても優しくて、本当に大和撫子という言葉が似合う人物だった。
「って、話がそれてしまったな! もう一度聞くが類、俺がまふゆを助ける為には、何をすればいいと思う?」
「ふむ、そうだね……君とまふゆさんとは幼なじみなんだよね? それならば、かなり長い時間を君とまふゆさんは共にしているはずだ。その長い時間の記憶を辿ってみるというのはどうだい?」
「記憶を辿る……?」
「ああそうさ。もしかすると、そこにまふゆさんを救うヒントがあるかもれない」
記憶を辿る。恐らく、類が出したこのアドバイスは、俺の相談を受けているその立場においての最適解だったと思う。
「なるほど……すこし考えてみる! ありがとう類!本当に助かった!」
「うん、君の力になれたようでよかったよ。フフフ」
間もなくして予鈴がなった。それは、昼休みの終わりを知らせるものだ。
「おや、もう時間になってしまったか。僕は自分の教室に戻るね」
「おう!またな!」
「もしまた困ったことでもあれば、僕が相談に乗るよ。それじゃあ、またね」
類はそう言い残して教室を去っていった。
類は俺とは別のクラスなのだが、何故か昼休みになると俺のクラスの教室に居る。他クラスの教室に入るのは校則で禁止されているはずなのだが、何度言っても類がこの教室に侵入するのを止めないため諦めたんだとか。類いわく「あっちの教室に居ても暇なだけだからねえ」だそうだ。いや、だからといって校則破ってまでしてこちらに来るだろうか? まぁ類の破天荒さは今に始まったことではない。今更気にしてもしょうがないだろう。
「記憶を辿る……ねぇ……」
今さっき類に言われた言葉を思い出し、口に出す。
(辿ってみるかぁ……?)
ふっと思考を深いところまで潜らせ、俺の中に在る一番古い記憶から回想していく。
◆
『みてみて! このおはな、あんぐれかむ?っていうんだよ! かわいいね!』
『かっこいいなまえだな!』
◆
……これは3歳くらいのときか?まふゆと一緒に母が営むお花屋さんに行った記憶だ。まふゆがかわいい。
◆
『わたし、おおきくなったらきみとけっこんする!』
『けっこん? よくわからないけど、やくそくしよう!』
◆
……これは5歳くらいの時だ。幼稚園の庭のど真ん中で結婚の約束をしたんだ、確か。まふゆがかわいい。
◆
『あ! フェニーくんだ! 握手してもらいたいなぁ。あ、でもおかあさんいまお電話してる……』
『すこしくらいなら大丈夫じゃないか? それに、おれも一緒にいるからな!』
◆
これは……いつだ?小学生低学年くらいのときだろうか。まふゆとまふゆ母と一緒にフェニックスワンダーランドに遊びに行った時の記憶だ。確かこの後、しっかり迷子になってまふゆ母にめちゃくちゃ怒られたんだよな。懐かしい。今思えば、この頃からまふゆ母には毒親の片鱗があったのかも知れない。そしてまふゆがかわいい。
◆
『―――♪! ……ふぅ……どうだった?俺の歌』
『……い』
『え?』
『凄い! とっても上手だったよ!』
『ほ、本当か!?』
『うん!えっとね、うーん……言葉にするのが難しいなぁ……でもね!本当に上手で、とっても暖かい気持ちになったの!』
『無理に言語化する必要はないぞ!まふゆに良かったと思えてもらったのなら、それで十分だ!』
◆
……これだ。この記憶は小学生高学年の頃、まふゆと一緒にカラオケへ行った時のものだ。目を輝かせ、興奮冷めやらぬといった剣幕で俺の歌への感想を述べるまふゆがとてつもなくかわいかったのは言うまでもないが、この時のまふゆは多分、俺が知っているまふゆ史上最大級の笑顔を咲かせていたと思う。
俺の歌でまふゆが破顔した。たったそれだけのことだ。だが、そんなちっぽけな事実だからこそ、まふゆの救いへとなりうる。それはほぼ直感のようなものだった。直感に頼るしかなかったのだ。
まふゆを救う為には、俺の歌しかない。
覚悟を決めた。
お助けキャラ類君。
展開の都合が良すぎる気がしなくもないですが……まぁ二次創作なんてこんなもんやろ!(開き直り)
主人公は天翔けるペガサスと書き天馬とは別人です。ちなみに主人公と天翔けるペガサスと書き天馬が対面すると、超化学反応が起き光の速さで仲良しになります。
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ところで主人公に名前いる?
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アーティスト名と本名どっちもいる
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アーティスト名だけでいいでガンス
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本名だけにしておくんだな
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要らねぇよJK!バーカ!